ミントなキスは配信外で

あまい遼

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ミカドの嘘

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「嘘……ついちゃったな。ミカドくんとのこと」
 自宅マンションのエントランスを抜け、貸し切り状態のエレベーターに乗りこんでから、ニコは独り言ちた。
『ミカドくんの電車の時間もあるし、そこまで遅い時間にはならないので』
 配信時間が、彼の終電よりも伸びることがないのは本当。
 でも、ミカドの電車の時間を気にして終了しているかと問われれば、答えはNOだった。
 だって――。
「ただいま~……って、寝てる」
 部屋の中は、シンと静まりかえっている。
「ミカドくんは、いま僕の家のソファで寝てるぜ……なんちゃって」
 彼と練習配信をするようになって、最初の頃は終電で解散をしていたけれど、一度泊まることを覚えてからは、ミカドが自分の家に帰ることの方が少なくなった。
 練習配信の翌日がオフともなれば、そのままニコの家で過ごすことがほとんどだし、仕事のある日でもニコの家から出勤して、ニコの家に戻ってくる。個人配信も、ニコのパソコンを通して行うのが最早当たり前のようになっていて、彼と顔を合わせない日の方が珍しい。
 リビングのソファに横になり、ミカドは小さく寝息を立てていた。クッションを胸に抱き、丸くなって眠る姿は何度見ても微笑ましく口元が緩んでしまう。
 配信を終えてすぐに落ちてしまったのか、防音室の扉は開いたまま、パソコンもつけっぱなしになっていた。
「……せっかくだし、僕も少しだけ配信しようかな」
 寝室から持ってきたブランケットで柔らかくミカドの体を包み、防音室に向かう。
『突然でごめんね。ピアノを弾きながら、少しだけ夜雑談をします』
 待機所を作りSNSにポストする。サムネイルを多めにストックしておくと、こういうときに役に立つ。
 リスナーの目に留まるまでに、慎重に配信の準備を整える。うっかりミカド仕様で配信してしまったら、それこそ大事故だ。
「ドアは……開けたままで平気かな」
 リビングの空調の調子が悪く、防音室の空調を頼りにドアをあけて風を流している。閉めてしまっては、不快感でミカドが起きてしまうかもしれない。せっかくぐっすり眠っているのだから、それは避けたかった。ピアノ雑談のときはいつもよりもゆったりと時間が流れるので、静かに配信すれば彼の睡眠の邪魔にもならないだろう。
 そうして一通りの準備を終える頃には、流したポストに四桁を超えるハートマークがついていた。この時間帯は、やはりSNS上にいる人が多いみたいだ。配信を開始し、演奏をしていると徐々にリスナーが増えてくる。
『癒やされる~寝ちゃいそう」
「あはは、そうだよね。寝落ちても全然いいよ。睡眠導入配信にしよっか。落ち着いた感じのやつ選曲するね」
『生演奏聴きながら寝落ちとか贅沢でしかない』
『ニコくんピアノうま~! 初めてリアタイできる! 嬉しい!』
「来てくれてありがとう~! 僕も嬉しい」
 スタンプの合間に流れるコメントを拾っていく。明らかにおかしなコメントは見ない振り。それ以外のコメントには、できるだけ反応するように心がけている。自分がリスナーの立場だったら、返してもらえたら嬉しいから。
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