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オフコラボ配信
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「おい、ちょっと! ミカドくん笑いすぎだってば!」
「あーっはっは……やべぇ、腹ちぎれる」
ニコの家。リビングのソファに座ったニコの隣では、ミカドが、笑いながら、げほ、ごほ、と咳き込んでいた。
「あー……ここんとこ笑いすぎでめっちゃ筋肉鍛えられてるわ。腹も頬もいてぇ」
ぐにぐに、と頬を揉みほぐす彼の眦には、涙まで滲んでいる。
オフコラボ配信は、いつもミカドの爆笑で締めくくられていた。デバイスの接続を解除したあとも、しばらくは部屋の中にミカドの笑いが残っているのが常である。
Wizardsの一周年記念配信企画は、無事に(?)ミカドとニコが提案した『二人三脚カートレース』に決定した。指定のコースを五レース走り、最終的にランキング上位だったペアの勝ちだ。告知動画によりリスナーに向けても発表され、反応は上々だと聞いている。
ロゼは猛反対だったようだけれど、それよりもニコの現状を打開することが急務とされた結果だった。
それに、ロゼとイチカの不仲な様子(というよりも、ロゼが一方的にイチカを毛嫌いしているような気がするけれど)は、リスナーにはむしろ好意的に受け取られているので、そういった部分でも利益が見込めると判断されたのだと思う。ロゼには、非常に申し訳ないけれども。
企画当日まであと三週間。それまでは、ひたすら特訓あるのみである。
ニコはこのゲームに触れること自体、前回ミカドとオフで会ったときが初めてだった。他の三人は配信でやっているのをたまに見る。経験値が足りない分、ニコは圧倒的に不利な状態だ。
センスも多少は関係してくると思うものの、とりあえずはひたすら練習をして経験を積む必要がある。そう気合いを入れるニコにミカドが提案してくれたのが、練習風景を配信することだった。
ただ、下手くそなニコが一人でもたもた配信をしても、再生数は稼げないだろう。もともとのファン数もそう多くはないし、どうにかして見てもらわなければ、ニコという存在を知ってもらえなければ意味がない。
そこで、ミカドがさらに提案をしてくれたのが、当日までオフコラボと称して二人で練習配信をすることだった。
初心者のニコにミカドがあれこれレクチャーする様や、若葉マークのニコのたどたどしいプレイにミカドが突拍子もなく振り回される様子は、案の定すぐに話題になった。
それに加え、配信中にミカドが冗談で愛を囁いてくれたり、ニコの方も意識してちょっとスキンシップを多くしてみると、狙い通り再生数は急増。配信をニコのチャンネルで行うことにより、チャンネル登録者数もみるみるうちに増えていった。
自分の力でないことは明らかで、正直悔しい気持ちの方が強いけれど、事務所から言われていたボーダーラインはなんとか超えることができたので安心する。これから急激に減ることはないだろうから、今すぐに卒業を迫られることはない。全部ミカドのおかげだ。
(ゲーム自体にも、だいぶ慣れてきたと思うけど……)
とりあえず慣れることが目標と、最初の一週間は基本操作を叩き込んでもらった。今ではオートアシスト――いわゆる補助輪機能的なもの――を使わなくても、なんとか脱線せずに一人でコースを完走することができる。
そうして一週間の個別レッスンを経て、先日からようやく二人三脚での練習が開始されたところだった。
基本、配信は夜~深夜にかけて行っている。この時間帯が一番再生数を稼げるからだ。
ミカドの配信環境の問題もあって、配信はニコの家から行っている。配信開始時間よりも二、三時間前に集合して、雑談や一通りの流れを確認してから配信を開始する。解散はミカドの終電時間に合わせるスタイルだ。
ニコと違い、ミカドは他にも企業コラボ等の仕事がある。それに、いくら注目度の高い配信といっても、毎日同じような練習配信ばかりをしていては新鮮味にかけるだろう。その他の配信も交えながら裏で個人練習をすすめ、なんとか形になってきた。ゲーム中、ミカドに掛ける迷惑も少しずつ減ってきたんじゃないだろうか、なんて思っていたのだが――。
「あーっはっは……やべぇ、腹ちぎれる」
ニコの家。リビングのソファに座ったニコの隣では、ミカドが、笑いながら、げほ、ごほ、と咳き込んでいた。
「あー……ここんとこ笑いすぎでめっちゃ筋肉鍛えられてるわ。腹も頬もいてぇ」
ぐにぐに、と頬を揉みほぐす彼の眦には、涙まで滲んでいる。
オフコラボ配信は、いつもミカドの爆笑で締めくくられていた。デバイスの接続を解除したあとも、しばらくは部屋の中にミカドの笑いが残っているのが常である。
Wizardsの一周年記念配信企画は、無事に(?)ミカドとニコが提案した『二人三脚カートレース』に決定した。指定のコースを五レース走り、最終的にランキング上位だったペアの勝ちだ。告知動画によりリスナーに向けても発表され、反応は上々だと聞いている。
ロゼは猛反対だったようだけれど、それよりもニコの現状を打開することが急務とされた結果だった。
それに、ロゼとイチカの不仲な様子(というよりも、ロゼが一方的にイチカを毛嫌いしているような気がするけれど)は、リスナーにはむしろ好意的に受け取られているので、そういった部分でも利益が見込めると判断されたのだと思う。ロゼには、非常に申し訳ないけれども。
企画当日まであと三週間。それまでは、ひたすら特訓あるのみである。
ニコはこのゲームに触れること自体、前回ミカドとオフで会ったときが初めてだった。他の三人は配信でやっているのをたまに見る。経験値が足りない分、ニコは圧倒的に不利な状態だ。
センスも多少は関係してくると思うものの、とりあえずはひたすら練習をして経験を積む必要がある。そう気合いを入れるニコにミカドが提案してくれたのが、練習風景を配信することだった。
ただ、下手くそなニコが一人でもたもた配信をしても、再生数は稼げないだろう。もともとのファン数もそう多くはないし、どうにかして見てもらわなければ、ニコという存在を知ってもらえなければ意味がない。
そこで、ミカドがさらに提案をしてくれたのが、当日までオフコラボと称して二人で練習配信をすることだった。
初心者のニコにミカドがあれこれレクチャーする様や、若葉マークのニコのたどたどしいプレイにミカドが突拍子もなく振り回される様子は、案の定すぐに話題になった。
それに加え、配信中にミカドが冗談で愛を囁いてくれたり、ニコの方も意識してちょっとスキンシップを多くしてみると、狙い通り再生数は急増。配信をニコのチャンネルで行うことにより、チャンネル登録者数もみるみるうちに増えていった。
自分の力でないことは明らかで、正直悔しい気持ちの方が強いけれど、事務所から言われていたボーダーラインはなんとか超えることができたので安心する。これから急激に減ることはないだろうから、今すぐに卒業を迫られることはない。全部ミカドのおかげだ。
(ゲーム自体にも、だいぶ慣れてきたと思うけど……)
とりあえず慣れることが目標と、最初の一週間は基本操作を叩き込んでもらった。今ではオートアシスト――いわゆる補助輪機能的なもの――を使わなくても、なんとか脱線せずに一人でコースを完走することができる。
そうして一週間の個別レッスンを経て、先日からようやく二人三脚での練習が開始されたところだった。
基本、配信は夜~深夜にかけて行っている。この時間帯が一番再生数を稼げるからだ。
ミカドの配信環境の問題もあって、配信はニコの家から行っている。配信開始時間よりも二、三時間前に集合して、雑談や一通りの流れを確認してから配信を開始する。解散はミカドの終電時間に合わせるスタイルだ。
ニコと違い、ミカドは他にも企業コラボ等の仕事がある。それに、いくら注目度の高い配信といっても、毎日同じような練習配信ばかりをしていては新鮮味にかけるだろう。その他の配信も交えながら裏で個人練習をすすめ、なんとか形になってきた。ゲーム中、ミカドに掛ける迷惑も少しずつ減ってきたんじゃないだろうか、なんて思っていたのだが――。
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