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初めまして
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「ん~……」
メモアプリを起動する。開かれた画面にすでに入力されているのは、ミカドとニコがそれぞれ配信で行ったことのあるゲームの一覧だ。
「やっぱり全然違うなぁ……」
わかっていたことだけれど、こうして改めて比較してみるとその違いに驚く。あと、プレイしたことのあるゲームの数も全然違う。
「どうしよ」
圧倒的に、ニコにはゲームというものの経験値が足りなかった。かといって、企画をゲーム以外のものにするというのもハードルが高い。
「やるなら僕に合わせてもらうよりも、ミカドくんに合わせた方がいいよねぇ……」
ゲーム以外の企画も、考えるには考えた。
歌枠、楽器の演奏、料理配信などなど……。
(楽器の演奏、僕はどうにか出来るとして、ミカドくんはどうなんだろう? あんまりそういう話は聞いたことないな。歌……は僕があんまり得意じゃないから、じゃあミカドくんに歌ってもらって僕が演奏……料理配信は場所のこともあるし、準備も考えると現実的ではないよね。……うーん)
そうなってくると、やっぱり比較的取りかかりやすく、場所も選ばないのがゲーム配信だろう、というのが、今のところのニコの最適解だった。真新しさはないが、変に気合いを入れて滑ってしまうよりはいい。
こうしてうんうん頭を悩ませているうちに、日々は過ぎていく。一ヶ月なんてあっという間だ。早くゴールを決めて準備を進めなければ、間に合わなくなってしまう。
準備が間に合わず、グダグダの企画で卒業……なんて最悪の事態は絶対に避けたい。
「ほとんどがミカドくん目当てのリスナーさんだろうし。ん~でもでも、そうすると僕の下手さで配信がつまらなくなる可能性が……」
ライバーになるまで、ニコはほとんどゲームというものに触れたことがなかった。別に嫌いだというわけではなく、単純に機会がなかっただけで、某有名なアクションレースゲームやパーティゲームは、数えるほどではあるが友人宅で遊んだことがある。
ポコンッ
「わっ」
スマートフォンの通知が鳴って、ニコはソファの上でびくりと跳ねる。画面を確認して、すぐにメッセージアプリを開いた。
『ニコ』
『おはよ』
『いまおきた、ねむ』
メッセージの送り主は、ミカドだった。
返事を打つ間にも、ポコポコと続けざまにメッセージが送られてくる。今日まで数回やり取りをしてわかったことだけれど、ミカドは返信が早い。入力も早い。いつも、ニコがもたもたしているうちに、ミカドからは次のメッセージが送信されてくる。
「ミカドくん、おはよう……明け方まで配信お疲れさま……っと」
ミカドが、今日の明け方まで長時間配信をしていたのを知っていた。スタンプでも送ろうかと迷っているうちに、またポコとミカドから返信が来る。早い。
『ありがと。今何してんの?』
『通話できる?』
ポコポコと音が続く。ニコが返事をするよりも先に、今度は画面が受電画面に切り替わった。
「うっわわ!」
取り落としそうになったスマートフォンをキャッチして、ぶるぶると震えたままの指先で通話ボタンをタップする。
「お、おはよう、ございます……!」
「なんで敬語」
耳に押し当てたスピーカーから、少し掠れたミカドの声が聞こえた。ごそ、と衣擦れの音がする。まだベッドの中なのだろうか。寝起きの声は、いつもより少しハスキーでドキドキと心臓が跳ねる。
「え、はは。なんか緊張しちゃった」
「あーそいえば通話初めてか。ハジメマシテ」
「初めまして!」
「やば、おもろ」
ハハ、と笑った吐息が耳にくすぐったい。実際に息が触れているわけでもないのに、どうしようもなく緊張する。ニコはソファの上で正座をしたまま、ピンと背筋を伸ばした。
スマートフォンを握った手のひらにじわりと汗が滲む。わざわざ握りしめていなくても良いのだと気付いて、ニコはそっとローテーブルにそれを置くと、スピーカーフォンに切り替えた。
メモアプリを起動する。開かれた画面にすでに入力されているのは、ミカドとニコがそれぞれ配信で行ったことのあるゲームの一覧だ。
「やっぱり全然違うなぁ……」
わかっていたことだけれど、こうして改めて比較してみるとその違いに驚く。あと、プレイしたことのあるゲームの数も全然違う。
「どうしよ」
圧倒的に、ニコにはゲームというものの経験値が足りなかった。かといって、企画をゲーム以外のものにするというのもハードルが高い。
「やるなら僕に合わせてもらうよりも、ミカドくんに合わせた方がいいよねぇ……」
ゲーム以外の企画も、考えるには考えた。
歌枠、楽器の演奏、料理配信などなど……。
(楽器の演奏、僕はどうにか出来るとして、ミカドくんはどうなんだろう? あんまりそういう話は聞いたことないな。歌……は僕があんまり得意じゃないから、じゃあミカドくんに歌ってもらって僕が演奏……料理配信は場所のこともあるし、準備も考えると現実的ではないよね。……うーん)
そうなってくると、やっぱり比較的取りかかりやすく、場所も選ばないのがゲーム配信だろう、というのが、今のところのニコの最適解だった。真新しさはないが、変に気合いを入れて滑ってしまうよりはいい。
こうしてうんうん頭を悩ませているうちに、日々は過ぎていく。一ヶ月なんてあっという間だ。早くゴールを決めて準備を進めなければ、間に合わなくなってしまう。
準備が間に合わず、グダグダの企画で卒業……なんて最悪の事態は絶対に避けたい。
「ほとんどがミカドくん目当てのリスナーさんだろうし。ん~でもでも、そうすると僕の下手さで配信がつまらなくなる可能性が……」
ライバーになるまで、ニコはほとんどゲームというものに触れたことがなかった。別に嫌いだというわけではなく、単純に機会がなかっただけで、某有名なアクションレースゲームやパーティゲームは、数えるほどではあるが友人宅で遊んだことがある。
ポコンッ
「わっ」
スマートフォンの通知が鳴って、ニコはソファの上でびくりと跳ねる。画面を確認して、すぐにメッセージアプリを開いた。
『ニコ』
『おはよ』
『いまおきた、ねむ』
メッセージの送り主は、ミカドだった。
返事を打つ間にも、ポコポコと続けざまにメッセージが送られてくる。今日まで数回やり取りをしてわかったことだけれど、ミカドは返信が早い。入力も早い。いつも、ニコがもたもたしているうちに、ミカドからは次のメッセージが送信されてくる。
「ミカドくん、おはよう……明け方まで配信お疲れさま……っと」
ミカドが、今日の明け方まで長時間配信をしていたのを知っていた。スタンプでも送ろうかと迷っているうちに、またポコとミカドから返信が来る。早い。
『ありがと。今何してんの?』
『通話できる?』
ポコポコと音が続く。ニコが返事をするよりも先に、今度は画面が受電画面に切り替わった。
「うっわわ!」
取り落としそうになったスマートフォンをキャッチして、ぶるぶると震えたままの指先で通話ボタンをタップする。
「お、おはよう、ございます……!」
「なんで敬語」
耳に押し当てたスピーカーから、少し掠れたミカドの声が聞こえた。ごそ、と衣擦れの音がする。まだベッドの中なのだろうか。寝起きの声は、いつもより少しハスキーでドキドキと心臓が跳ねる。
「え、はは。なんか緊張しちゃった」
「あーそいえば通話初めてか。ハジメマシテ」
「初めまして!」
「やば、おもろ」
ハハ、と笑った吐息が耳にくすぐったい。実際に息が触れているわけでもないのに、どうしようもなく緊張する。ニコはソファの上で正座をしたまま、ピンと背筋を伸ばした。
スマートフォンを握った手のひらにじわりと汗が滲む。わざわざ握りしめていなくても良いのだと気付いて、ニコはそっとローテーブルにそれを置くと、スピーカーフォンに切り替えた。
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