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ライバーの多くは、夜に配信をして明け方に眠る。不健康なライフスタイルになりがちだけれど、そんな中で珍しく、ニコはどちらかというと朝に強かった。というよりも、夜起きていられないので、必然的に朝が来ると目が覚めてしまうというか……外が明るくなり始めると、すっきりと瞼が開く。
規則正しい生活は褒められるべき素晴らしいことであるけれど、残念ながら、この職業にはまったく向いていないと言っても過言ではない。
事実、この朝型の生活が、今回ニコが卒業の危機に瀕している要因の一つでもある……とニコ自身は思っている。
「ん~~」
ソファのうえ、抱えた膝に乗せたタブレット端末には、インフィニティライブで指定されたビジネス用アプリが開かれている。Wizardsのメンバー同士のやり取りや、スケジュールの確認は、基本的にはここで行うことになっていて、毎朝このアプリを確認するのがニコの日課だった。
人気のあるライバーは、個人でも仕事がもらえる。ユニット内で個人案件の経験がないのは、ニコだけだった。
そもそも、新人で個人案件を獲得できるほうが珍しいのだけれど、養成所出身者は養成所時代から配信活動を行っているため、そこでの経験が仕事に繋がっているケースも珍しくはない。
スケジュールによると、ロゼとイチカは一日外案件のようだった。ミカドの欄は空白になっているので、今日は一日オフなのだろう。
「あ。今日まだポストしてなかった」
そういえばSNSを更新していない、と「おはよう」の挨拶を入力した。ポストのお気に入りを示すハートはすぐに増えていったが、その勢いは他の三人には到底及ばない。
SNSを開いたついでに、メンバーのポストも確認する。ロゼとイチカは仕事前に更新したのだろう。最新の投稿からまだそんなに時間は経っていなかった。
ロゼは「お仕事、行ってきます」といつものように丁寧に綴られ、イチカはといえば「寝坊した!!!!!」と、画面から飛び出してきそうなほど勢いのある投稿が残されている。イチカの『寝坊した』はほぼ毎回の話なので、彼のコミュニティでは、もうそれが挨拶のようになっていた。リスナーも慣れたもので、心配するよりもおはようやいってらっしゃいで返している。『寝坊した』と言いつつも、彼が現場に遅刻したことはないので、それをわかった上での信頼のあらわれだろう。
ミカドのポストを確認すると、明け方までゲーム配信をしていたみたいだった。配信時間は八時間。ちょうど、ニコの睡眠時間と同じである。
ミカドが配信していたアワークラフトは、フィールドの中で自由に建築をおこなったり、冒険をすることができる全世界で人気のあるゲームだ。
インフィニティライブのライバー間でも人気があり、配信している人を良くみかける。Wizardsも例外ではなく、ロゼやイチカもたびたびこのゲームで配信をしていた。
というのも、ミカドが、Wizardsメンバーが自由に出入りできるよう、ユニット専用のサーバを作って招待をしてくれたのだ。たまたま三人の配信時間が重なったときに見られる掛け合いが人気らしい、と知ったのは、流れてくる切り抜き動画からだった。
(メンバーに関係する情報を、切り抜きから得るっていうのもどうなんだろう……)
同じユニットメンバーなのに、ニコが知る三人の情報は、直接知り得たものよりも、第三者から間接的に摂取したものの方が圧倒的に多い。
実は、ニコもアワークラフトに一度だけログインしたことがあるのだけれど、何をどうしたら良いか遊び方がわからず、すぐにログアウトしてしまっていた。入室のログは残ってしまったと思うが、誰もいないような時間帯を見計らっていったので、リアルタイムで見つからなかったのだけが幸いかもしれない。その後、誰かがニコにログインの話題を振ってくることもなかった。
そもそもの大前提として、ニコは三人とゲームの趣味が合わなかった。配信映えするゲームとか、配信するのにやりやすいものがおそらくあるんだと思う。前述のアワークラフトだったり、ホラーゲームやアクションRPGも、人気のライバーのアーカイブには良くあるラインナップだ。
けれど、ニコはそのどれもが苦手……というか、下手くそだった。
ゲーム配信自体あまり多くはしないけれど、その中でもニコが好んでプレイしているのが、自身の好きな道具や材料を用いて魔法薬を調合するシュミレーターゲームだ。魔法使いというWizardsの世界観があるがゆえに、なんとか再生数を保ててはいるが、それでも三人の配信に比べると格段に地味という他ない。
規則正しい生活は褒められるべき素晴らしいことであるけれど、残念ながら、この職業にはまったく向いていないと言っても過言ではない。
事実、この朝型の生活が、今回ニコが卒業の危機に瀕している要因の一つでもある……とニコ自身は思っている。
「ん~~」
ソファのうえ、抱えた膝に乗せたタブレット端末には、インフィニティライブで指定されたビジネス用アプリが開かれている。Wizardsのメンバー同士のやり取りや、スケジュールの確認は、基本的にはここで行うことになっていて、毎朝このアプリを確認するのがニコの日課だった。
人気のあるライバーは、個人でも仕事がもらえる。ユニット内で個人案件の経験がないのは、ニコだけだった。
そもそも、新人で個人案件を獲得できるほうが珍しいのだけれど、養成所出身者は養成所時代から配信活動を行っているため、そこでの経験が仕事に繋がっているケースも珍しくはない。
スケジュールによると、ロゼとイチカは一日外案件のようだった。ミカドの欄は空白になっているので、今日は一日オフなのだろう。
「あ。今日まだポストしてなかった」
そういえばSNSを更新していない、と「おはよう」の挨拶を入力した。ポストのお気に入りを示すハートはすぐに増えていったが、その勢いは他の三人には到底及ばない。
SNSを開いたついでに、メンバーのポストも確認する。ロゼとイチカは仕事前に更新したのだろう。最新の投稿からまだそんなに時間は経っていなかった。
ロゼは「お仕事、行ってきます」といつものように丁寧に綴られ、イチカはといえば「寝坊した!!!!!」と、画面から飛び出してきそうなほど勢いのある投稿が残されている。イチカの『寝坊した』はほぼ毎回の話なので、彼のコミュニティでは、もうそれが挨拶のようになっていた。リスナーも慣れたもので、心配するよりもおはようやいってらっしゃいで返している。『寝坊した』と言いつつも、彼が現場に遅刻したことはないので、それをわかった上での信頼のあらわれだろう。
ミカドのポストを確認すると、明け方までゲーム配信をしていたみたいだった。配信時間は八時間。ちょうど、ニコの睡眠時間と同じである。
ミカドが配信していたアワークラフトは、フィールドの中で自由に建築をおこなったり、冒険をすることができる全世界で人気のあるゲームだ。
インフィニティライブのライバー間でも人気があり、配信している人を良くみかける。Wizardsも例外ではなく、ロゼやイチカもたびたびこのゲームで配信をしていた。
というのも、ミカドが、Wizardsメンバーが自由に出入りできるよう、ユニット専用のサーバを作って招待をしてくれたのだ。たまたま三人の配信時間が重なったときに見られる掛け合いが人気らしい、と知ったのは、流れてくる切り抜き動画からだった。
(メンバーに関係する情報を、切り抜きから得るっていうのもどうなんだろう……)
同じユニットメンバーなのに、ニコが知る三人の情報は、直接知り得たものよりも、第三者から間接的に摂取したものの方が圧倒的に多い。
実は、ニコもアワークラフトに一度だけログインしたことがあるのだけれど、何をどうしたら良いか遊び方がわからず、すぐにログアウトしてしまっていた。入室のログは残ってしまったと思うが、誰もいないような時間帯を見計らっていったので、リアルタイムで見つからなかったのだけが幸いかもしれない。その後、誰かがニコにログインの話題を振ってくることもなかった。
そもそもの大前提として、ニコは三人とゲームの趣味が合わなかった。配信映えするゲームとか、配信するのにやりやすいものがおそらくあるんだと思う。前述のアワークラフトだったり、ホラーゲームやアクションRPGも、人気のライバーのアーカイブには良くあるラインナップだ。
けれど、ニコはそのどれもが苦手……というか、下手くそだった。
ゲーム配信自体あまり多くはしないけれど、その中でもニコが好んでプレイしているのが、自身の好きな道具や材料を用いて魔法薬を調合するシュミレーターゲームだ。魔法使いというWizardsの世界観があるがゆえに、なんとか再生数を保ててはいるが、それでも三人の配信に比べると格段に地味という他ない。
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