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ユニットミーティング
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議題も終盤に差し掛かったミーティングルーム。廊下にまで響く大声が、目の前に座る華奢な青年から発せられたとは、ニコには信じがたかった。
「はぁ⁉ 最悪! ちょっと、どっちか変わってくれないか。イチカとなんて、絶対に嫌!」
「えーなにそれ。ロゼぴってばぁ、超悲しいこと言うじゃん」
「変な呼び方はやめろって、いつも言ってるだろう⁉ 垢バンされたら、一生恨んでやるからね……!」
それに対し、隣に座るイチカの反応は軽く、胸の前に両腕を寄せ、しなりを作る仕草にロゼの眉はつり上がる一方だ。
「ニコ」
呼ばれて、二人に圧倒されていた意識が現実へと戻ってくる。
「よろしく」
「う、うん……!」
拳を突きつけられて、ニコはそれに戸惑いつつも、こつっと自分の拳を合わせることで答えた。
「さて、順調にペアも決まったところで」
向かい合わせにした長机のひとつにロゼとイチカ、反対側にミカドとニコが座っている。
四人のやり取りが一通り落ち着いたのを確認して音頭を取ったのは、二つの長机の先、いわゆるお誕生日席と言われる部分に座った田中だ。
「田中さんにはこれが順調に見えるの? 良い眼科紹介してあげようか?」
「ありがとうございます。でも、眼鏡は新調したばかりなので問題ないですよ」
「嫌味に真面目で返さないでくれるかい」
ふんっと面白くなさそうにロゼがそっぽを向く。
慣れた田中は動じることもなく、手にした資料に目を落とした。それに倣うように、四人の視線も手元の資料へと移る。
このミーティングが始まる前、個別に話した通り『一周年記念企画』とタイトルのついたそれにニコのことは一切書かれていなかった。そのことに安堵しつつも、自分の個人的な事情にグループの祝い事を絡め、三人を巻き込んでしまうことに罪悪感を覚える。
「各ペアの配信についてですが、日程は大体一ヶ月後でスケジュールを組みたいと考えています。配信内容に関しては、基本的にはみなさんにお任せをしたいなと。難しい場合にはこちらからもサポート予定です」
「企画自体を好きに考えていいってこと? 随分と自由がきくんだね」
「マジで⁉ なんでも好きなことやっていいの⁉」
ギッとロゼに睨まれて、イチカがぴゅうっと口笛を吹く。
「残念ながら、なんでもというわけではありません。会社としての責任もありますので、事前に内容は確認させていただきます。そこで各方面OKが出れば……ということになりますが、案自体は自由に考えてもらって大丈夫です。こちらから『こういう方向で』という指定はしません。ペアごとに独立して行っていただいても良いですし、各ペアで同じことを行うのでも構いません。お任せします」
ロゼは田中の話に頷いて、手にしたタブレット端末に何かを入力した。すでに、案を思いついたみたいだ。
「それぞれやりたい企画があれば、近日中にまとめて社内のメッセージアプリに送っておいてください。それから、配信前に告知動画をあげますから、告知解禁されるまでは絶対に漏らさないようにお願いします。特にイチカくん」
よろしくお願いしますね、と田中に念を押されたイチカは、自身の顔に指先を向けてまったく心当たりがないように首を竦める。
「オレぇ? そんな馬鹿なことしないっしょ」
「そんな馬鹿なことをいつもしてるのがお前なんだよ。いいかい、ボクの活動に少しでも支障を来してみろ、二度とこの業界で仕事が出来ないようにしてやるから……」
「ああ、はいはいわかったって。機嫌直せよ、ロゼ。オレはお前がご機嫌な方が好きだぜ」
「なっ……⁉」
チュ、とロゼの頬で音が鳴って、ニコは思わず「わあっ」と声をあげる。海外的なスキンシップを平然とやってのける彼らは、やっぱり同じ養成所出身とあって仲が良いのだ。ニコにはとてもじゃないけれど、真似できない。
「はぁ⁉ 最悪! ちょっと、どっちか変わってくれないか。イチカとなんて、絶対に嫌!」
「えーなにそれ。ロゼぴってばぁ、超悲しいこと言うじゃん」
「変な呼び方はやめろって、いつも言ってるだろう⁉ 垢バンされたら、一生恨んでやるからね……!」
それに対し、隣に座るイチカの反応は軽く、胸の前に両腕を寄せ、しなりを作る仕草にロゼの眉はつり上がる一方だ。
「ニコ」
呼ばれて、二人に圧倒されていた意識が現実へと戻ってくる。
「よろしく」
「う、うん……!」
拳を突きつけられて、ニコはそれに戸惑いつつも、こつっと自分の拳を合わせることで答えた。
「さて、順調にペアも決まったところで」
向かい合わせにした長机のひとつにロゼとイチカ、反対側にミカドとニコが座っている。
四人のやり取りが一通り落ち着いたのを確認して音頭を取ったのは、二つの長机の先、いわゆるお誕生日席と言われる部分に座った田中だ。
「田中さんにはこれが順調に見えるの? 良い眼科紹介してあげようか?」
「ありがとうございます。でも、眼鏡は新調したばかりなので問題ないですよ」
「嫌味に真面目で返さないでくれるかい」
ふんっと面白くなさそうにロゼがそっぽを向く。
慣れた田中は動じることもなく、手にした資料に目を落とした。それに倣うように、四人の視線も手元の資料へと移る。
このミーティングが始まる前、個別に話した通り『一周年記念企画』とタイトルのついたそれにニコのことは一切書かれていなかった。そのことに安堵しつつも、自分の個人的な事情にグループの祝い事を絡め、三人を巻き込んでしまうことに罪悪感を覚える。
「各ペアの配信についてですが、日程は大体一ヶ月後でスケジュールを組みたいと考えています。配信内容に関しては、基本的にはみなさんにお任せをしたいなと。難しい場合にはこちらからもサポート予定です」
「企画自体を好きに考えていいってこと? 随分と自由がきくんだね」
「マジで⁉ なんでも好きなことやっていいの⁉」
ギッとロゼに睨まれて、イチカがぴゅうっと口笛を吹く。
「残念ながら、なんでもというわけではありません。会社としての責任もありますので、事前に内容は確認させていただきます。そこで各方面OKが出れば……ということになりますが、案自体は自由に考えてもらって大丈夫です。こちらから『こういう方向で』という指定はしません。ペアごとに独立して行っていただいても良いですし、各ペアで同じことを行うのでも構いません。お任せします」
ロゼは田中の話に頷いて、手にしたタブレット端末に何かを入力した。すでに、案を思いついたみたいだ。
「それぞれやりたい企画があれば、近日中にまとめて社内のメッセージアプリに送っておいてください。それから、配信前に告知動画をあげますから、告知解禁されるまでは絶対に漏らさないようにお願いします。特にイチカくん」
よろしくお願いしますね、と田中に念を押されたイチカは、自身の顔に指先を向けてまったく心当たりがないように首を竦める。
「オレぇ? そんな馬鹿なことしないっしょ」
「そんな馬鹿なことをいつもしてるのがお前なんだよ。いいかい、ボクの活動に少しでも支障を来してみろ、二度とこの業界で仕事が出来ないようにしてやるから……」
「ああ、はいはいわかったって。機嫌直せよ、ロゼ。オレはお前がご機嫌な方が好きだぜ」
「なっ……⁉」
チュ、とロゼの頬で音が鳴って、ニコは思わず「わあっ」と声をあげる。海外的なスキンシップを平然とやってのける彼らは、やっぱり同じ養成所出身とあって仲が良いのだ。ニコにはとてもじゃないけれど、真似できない。
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