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第34話 神に

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 リクトは聖女に神の声は聞こえるか、そう問い掛けた。すると聖女は意外な言葉を口にする。

「はい、聞こえておりますよ?」
「……え?」

 リクトは驚いていた。そしてこう考える。先ほどのは夢。神は相変わらず健在なのだと。

「そうか、なら良いんだ。ちなみにその神の名は?」
「はい、グレマンティス様です」
「ちょっと待て……。そいつは前の神とは違う奴じゃないか?」

 聖女は首を傾げながらリクトに言った。

「よくご存知ですね、さすがリクト様ですっ! まさかリクト様も神の声が?」
「……ああ。聞こえるというか、会っている」
「神様に!? リクト様は聖人様!?」

 そんな事はどうでも良い。今はあの魔神について話しておかなければならない。

「よく聞いてくれ。ジャンヌ。聞いた声の主は魔神グレマンティス。魔界の神だ」
「えっ!?」
「そいつが今まで神だった爺さんを消し、今神界を支配しているんだ。そいつは次に人間界を狙っている。六年後、奴は魔族を率いてこの人間界を支配しにくると俺に言ったんだ」
「そ、そんな……! いや、けど……魔界と人間界の間には次元の壁が……。神ならいざ知らず、魔族は越えては来られないはず……」
「そこはわからん。だが、グレマンティスは神を消せるほどの力を持った奴だ。魔界から神界とやらに移動出来ている時点で、次元を渡る方法を持っていると考えた方が良いだろう……」
「ど、どうするのですか……。このままでは六年後私達人間は……」

 その時だった。

《田中……陸人……っ!》
「へ? じ、爺さん!?」
「え? っ!!」

 リクトの前に神が姿を見せる。その姿は半分消えかかっており、今にも消えそうだった。聖女はその神聖な気を感じ、すぐさま平伏していた。

《じ、時間……がない。リクトよ、お主にワシの力を全て託す……》
「は?」
《グレマンティスの奴を倒して……くれいっ! 魔族がもたらす悲劇は人間同士の争いから生まれる悲劇を遥かに凌駕するっ……! このままでは世界が悲しみに包まれてしまうのじゃっ……! 田中 陸人よ……。ワシの代わりに世界を頼む……!【神力融合】!!》
「おわっ!?」

 神は球体に変化し、リクトの内に消えていく。

「な、なん……ぐぅぅぅぅぅぅぅっ!! あ、頭が割れそうだっ!! なんだっ……これっ……!!」
「あぁぁ……、リクト様っ!!」

 リクトの頭を無数の知識が駆け巡る。

「んぎぎぎぎっ……! なんってことしやがるっ……! があぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 リクトの瞳が茶から黄金へと変わっていく。そして魔力もまた神力へと変化していった。リクトは悶え苦しみつつ痛みを消す手段を模索する。

「ぐぅぅっ! 【スキル作成】!! スキル【並列思考】っ!!」

 リクトは思考能力を並列化した。これにより処理能力が向上、分散され、リクトから頭痛が消え去った。

「っはぁぁぁ……っ! あ、あの野郎っ!! 頭が割れるかと思ったぞっ!!」
「あぁぁ……! リクト様が神に……!?」
「は?」

 聖女は床に平伏している。

「ジャンヌ、神ってなんの事だ?」
「はいっ! リクト様の気が神様から感じるそれと同様になっているのですっ!」
「……は? はぁぁぁぁっ!? 神? 俺がっ!?」
「はいっ! その気はまさに神……! 私は衝撃の場面に立ち合ってしまいましたっ……!」

 リクトはがっくりと崩れ落ちた。

「そんな……っ! それじゃ……俺の怠惰な生活……は?」

 神は消え、魔神が現れ魔族が攻めてくる。最早リクトに怠惰な生活が訪れる事はないだろう。

「り、リクト様っ! 神の因子を是非私に……!」
「は?」

 聖女は足を開きリクトを迎えようとしている。

「……あのなぁ、ジャンヌ……。今はそれどころじゃ……」
「理由はあります。魔族が現れるのは今から六年後、それまでにこちらも力を蓄えていきましょう!」
「……力を蓄える?」
「そうですわ。もし私達が魔族に負けても……私達の子が世界を救ってくれるかもしれません」
「子が?」
「はいっ! リクト様の子を沢山作っておけばもしもの時必ず希望は紡がれます。さあ、今すぐ子作りしましょう!」

 めちゃくちゃな言い分だがリクトは聖女を抱いた。そして神となったリクトの最初の子が聖女の腹に宿る。

「あぁぁ……! 私は歴代の聖女の中で最高の経験をしていますわっ! 神の子を産めるなど……! あぁぁ……幸せ過ぎますっ!」

 聖女は軽くトリップしていた。

「……こいつ、目的違くなってね? 」

 リクトは喜びにくれる聖女を放置し、チグサとミハルを呼ぶ。

「リクト、感じ変わった?」
「カラコンですか? この世界にもあったのですか?」
「……自前だ。それより重大な話がある」

 リクトは勇者二人にこれまでの経緯を説明する。

「魔族が攻めてくる?」
「今から六年後……ですか」
「そうだ。どうすれば良いと思う?」

 二人はリクトの問いに答える。

「魔族が来ても私達が倒す。けど……魔神は無理。人は神には勝てない」
「ですわね。魔族がどの様な力を有しているかはわかりませんが……、私とミハルがいればここは守り通せるでしょう」
「……逆に言えばここ以外は全滅するかもしれないと言う事か」
「いくら私達でも世界全てを守る事は不可能です。魔族がどこからやってくるかもわかりませんし……。もし世界全土に同時多発的に現れたら撃退のしようもありません」

 確かに。魔族の出現方法がわからない事には対策のしようもない。チグサが言ったように、世界中に出現されたら終わりだ。

「……どうすんべ。無理ゲーじゃね、これ」
「詰んでる」
「う~ん……」

 そこに聖女が割り込んでくる。

「お任せ下さいリクト様!」
「え?」
「この様な時のために教会は世界中に設置されているのです!」
「お、おぉぉぉ! 解決案があるのかジャンヌ!」
「はいっ! そこのお二方は勇者なのでしょう? 聞いた話だと世界にはまだ他にも勇者と呼ばれる方がいたはず。それに……力を有する冒険者の方々も」
「そ、そうか! S級冒険者なら確かに勝てるかもしれないな!」
「はいっ! 世界に事実を伝えましょう。リクト様は神となられましたので世界中の神官に神託を授ける事が出来るようになっているはず……。リクト様、今こそ世界が一つになる時! 全ての力を合わせこの困難を乗りきりましょうっ!」

 さすが聖女だ。神に仕えているだけの事はあった。あっと言う間に解決案を提示してきた。

「よしっ、神託だな? ……頼む、聞こえてくれよっ!」

 リクトはスキル【神託】を使い、世界中に散らばる神官に御告げを呟くのであった。 
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