上 下
27 / 41

第27話 救出!

しおりを挟む
 いよいよリンカネット帝国との最後の戦いが始まった。これまでに二回相手を下していたが、今砦の前には一切の隙間も残さぬような人の海が出来上がっていた。

「り、りりりりリクト様! 大丈夫でしょうか!?」

 バロン王国側はあまりの数に動揺し士気を下げた状態だった。それに対しリクトは、いや、リクトと横に並ぶ少女だけは涼しげな表情を浮かべていた。

「余裕」
「ん!」
「は、はは……。お、お願いしますっ!!」
「「おうっ!」」 

 リクトとミハルは砦から人海を眺めていた。

「ミハル、チグサって奴の居場所はわかるか?」
「ん! あそこ、ど真ん中!」
「……あれか。お? 地味子とか言ってたわりには中々可愛……いたたたたたっ!? あにすんだよっ!」
「む~! む~!」

 ミハルは唸りながらリクトの背中を蹴っていた。

「チグサ姉に欲情したらだめっ! リクトのは……私の!」
「……アホ。皆のだよっ! さっさと終わらせて怠惰に暮らそうぜっ!」
「……ヘンタイ。でも……チグサ姉を……お願いっ!」
「おうっ! じゃあ準備しようか」
「ん!」

 二人はリンカネット帝国が全ての兵を投入してくるだろうとは予想していた。二つあった牙を一本失った帝国は必ずこう出てくるだろうと。
 リクトは準備を始めていた。そしてミハルはミハルで砦の上に立ち、リンカネット帝国兵に向かって叫んでいた。

「この戦っ! 私達が勝つ!!」
「ふざけんな裏切りモンがぁぁぁぁっ!」
「そうだそうだっ! 寝返りやがって!!」

 酷い言われようだ。顔は覚えた。後でキッチリ復讐してやろう。

「無理矢理操ってたにすぎないっ! お前達は敵だっ!!」
「「「「なっ!!」」」」

 ミハルは砦の門から地面に向かって飛んだ。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「し、神盾っ!! 絶対防御っ!!」
「……っ!」

 隷族の首輪が怪しく光った。それと同時に神盾からスキル【絶対防御】が発動される。まだミハルは空中にいた。

「やらせねぇよ。【洗脳状態解除】っと」
「え?」
「お、お前何をしているかっ!!」
「掴まれっ! チグサ!!」
「え? あなたは?」
「ミハルの友達! いいから早くっ!」
「は、はいっ!」

 神盾はミハルの友達と聞き、迷いなくリクトの差し出した腕を掴む。そして次の瞬間には砦の上にいた。

「神盾! 解除だっ!! そんでミハルに【絶対防御】っ!!」
「あ……は、はいっ!! はっ!!」

 今まさに地面に降り立ったミハルにチグサの【絶対防御】が付与された。

「チグサ姉! 見ててっ!! はぁぁぁぁぁっ!」
「援護してやるっ! 【フルブースト】!!」
「ヘンタイお兄さんナイス!!」
「うっさいわボケ! さっさと蹴散らせやっ!」
「んっ! 【デスサイズ】!!」

 チグサは驚いていた。ここまでたったの数秒。それだけで立場が逆転してしまっていた事を。そして全ては隣に立つ男がこの状況を生み出したと言う事を。

「あ、あなたは……いったい……」
「俺はリクトってんだ。話は後でたっぷりとな? 【絶対防御】……切らすんじゃねぇぞ? ミハルはちっこいからな……。切れたら死んじまわぁ」
「ふ……ふふふっ、はいっ!! 防御なら任せて下さいっ!」
「……いい返事だ。可愛いじゃねぇの」
「え?」

 そう言い、リクトは壁の上に飛んだ。

「ここからは全部俺らのターンだっ! 守りのない寄せ集めの兵なんざ相手にならねぇんだよっ! 【インフェルノ】! 【アブソリュートゼロ】! まだまだ行くぞオラァァァァァァァッ!!」
「す、凄いっ! 極大魔法をあんな無詠唱で連発するなんて……!」

 もはやチグサの瞳にはリクトの背中しか見えていなかった。

「な、なんだあの魔導師っ!? ば、バケモンだっ! ぐはっ……! し、死神ぃぃぃっ……!」
「死神じゃない。ミハル! よくも今まで……絶対に許さないっ!」
「「「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」

 ミハルに絶対防御を付与したのは帝国兵からの攻撃から身を守るものではない。全てはリクトの魔法から身を守るものだった。

「はっはっは! 固まってるから狙いやすいぜ! 大軍が仇になったなっ!! ここがお前らの墓場よっ!」
「か……格好……良い……。はぁぁ……」

 チグサの瞳はハートになっていた。自分とミハルを救い、尚且つ容赦のない魔法の連発。チグサの瞳にはリクトは王子様のように見えていた。

「あ……。でも……こんな私じゃ……」

 リクトはそれが聞こえたのかどうかはわからないが、チラリとチグサを見てこう言った。

「気にすんな。後で抱いてやる。お前は汚れてなんかねぇからよ、な?」
「うぅぅぅっ、は、はいっ! ぐすっ……!」

 勝敗はあっという間にリンカネット帝国側の全滅で終わった。

「うし、完勝っ! 兵長っ!」
「あ、はいっ!!」
「今すぐ全軍引き連れてリンカネット帝国へ向かえっ! あっちにはもう戦力はねぇっ! 占領しちまいなっ!」
「……あ。は、はいっ!!」

 バロン王国側の全ての兵力がリンカネット帝国へと向かった。

「ヘンタイお兄さん!」
「おかえり、ミハル。スッキリしたか?」
「ん! リベンジ完了!」

 二人は砦の上でハイタッチをして喜んでいた。そして俺はしっかり見ていた。ミハルが最初に叫んだ兵士を細切れにしているのを。うん、あいつヤバい。

「チグサ姉、待たせた」
「ううん、ミハルなら……。戻らないって聞かされてからずっと来てくれるって……思ってた!」
「チグサ姉っ! 私のせいでチグサ姉が……っ!」

 ミハルは子供のようにチグサに抱きつき涙を流していた。いくら勇者と呼ばれようと二人はまだ子供だ。地球にいたら義務教育中の精神しか持ち合わせていない。

「ううん、大丈夫……。私さ、汚れてなんかないって……リクト様が言ってくれたから……」
「ん……ん? リクト……様?」
「そうっ! リクト様よっ! 私……リクト様のお嫁さんになるっ!」
「なっ! い、いくらチグサ姉でもそれは……!」
「はいはい、ストップ」

 リクトは二人の頭を撫でてやった。

「ここは日本じゃねぇんだ。嫁は何人いても良いんだよ。さ、戦も終わったし……チグサ」
「は、はいっ!」
「これからが本当の戦だ。ミハル、バロン兵がリンカネット帝国を占領するまで夜の戦を始めるぞ?」
「……お兄さんはやっぱりヘンタイだ……」
「は、はははははいっ! 喜んでっ!」
「よ~し、行くぞ~!」

 こうして戦は終わり、リクトは二人を両肩を抱き、新たな戦場へと向かうのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います

八神 凪
ファンタジー
 平凡な商人の息子として生まれたレオスは、無限収納できるカバンを持つという理由で、悪逆非道な大魔王を倒すべく旅をしている勇者パーティに半ば拉致されるように同行させられてしまう。  いよいよ大魔王との決戦。しかし大魔王の力は脅威で、勇者も苦戦しあわや全滅かというその時、レオスは前世が悪神であったことを思い出す――  そしてめでたく大魔王を倒したものの「商人が大魔王を倒したというのはちょっと……」という理由で、功績を与えられず、お金と骨董品をいくつか貰うことで決着する。だが、そのお金は勇者装備を押し付けられ巻き上げられる始末に……  「はあ……とりあえず家に帰ろう……この力がバレたらどうなるか分からないし、なるべく目立たず、ひっそりしないとね……」  悪神の力を取り戻した彼は無事、実家へ帰ることができるのか?  八神 凪、作家人生二周年記念作、始動!  ※表紙絵は「茜328」様からいただいたファンアートを使用させていただきました! 素敵なイラストをありがとうございます!

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!

こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。 ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。 最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。 だが、俺は知っていた。 魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。 外れスキル【超重量】の真の力を。 俺は思う。 【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか? 俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

異世界をスキルブックと共に生きていく

大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...