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第27話 救出!

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 いよいよリンカネット帝国との最後の戦いが始まった。これまでに二回相手を下していたが、今砦の前には一切の隙間も残さぬような人の海が出来上がっていた。

「り、りりりりリクト様! 大丈夫でしょうか!?」

 バロン王国側はあまりの数に動揺し士気を下げた状態だった。それに対しリクトは、いや、リクトと横に並ぶ少女だけは涼しげな表情を浮かべていた。

「余裕」
「ん!」
「は、はは……。お、お願いしますっ!!」
「「おうっ!」」 

 リクトとミハルは砦から人海を眺めていた。

「ミハル、チグサって奴の居場所はわかるか?」
「ん! あそこ、ど真ん中!」
「……あれか。お? 地味子とか言ってたわりには中々可愛……いたたたたたっ!? あにすんだよっ!」
「む~! む~!」

 ミハルは唸りながらリクトの背中を蹴っていた。

「チグサ姉に欲情したらだめっ! リクトのは……私の!」
「……アホ。皆のだよっ! さっさと終わらせて怠惰に暮らそうぜっ!」
「……ヘンタイ。でも……チグサ姉を……お願いっ!」
「おうっ! じゃあ準備しようか」
「ん!」

 二人はリンカネット帝国が全ての兵を投入してくるだろうとは予想していた。二つあった牙を一本失った帝国は必ずこう出てくるだろうと。
 リクトは準備を始めていた。そしてミハルはミハルで砦の上に立ち、リンカネット帝国兵に向かって叫んでいた。

「この戦っ! 私達が勝つ!!」
「ふざけんな裏切りモンがぁぁぁぁっ!」
「そうだそうだっ! 寝返りやがって!!」

 酷い言われようだ。顔は覚えた。後でキッチリ復讐してやろう。

「無理矢理操ってたにすぎないっ! お前達は敵だっ!!」
「「「「なっ!!」」」」

 ミハルは砦の門から地面に向かって飛んだ。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「し、神盾っ!! 絶対防御っ!!」
「……っ!」

 隷族の首輪が怪しく光った。それと同時に神盾からスキル【絶対防御】が発動される。まだミハルは空中にいた。

「やらせねぇよ。【洗脳状態解除】っと」
「え?」
「お、お前何をしているかっ!!」
「掴まれっ! チグサ!!」
「え? あなたは?」
「ミハルの友達! いいから早くっ!」
「は、はいっ!」

 神盾はミハルの友達と聞き、迷いなくリクトの差し出した腕を掴む。そして次の瞬間には砦の上にいた。

「神盾! 解除だっ!! そんでミハルに【絶対防御】っ!!」
「あ……は、はいっ!! はっ!!」

 今まさに地面に降り立ったミハルにチグサの【絶対防御】が付与された。

「チグサ姉! 見ててっ!! はぁぁぁぁぁっ!」
「援護してやるっ! 【フルブースト】!!」
「ヘンタイお兄さんナイス!!」
「うっさいわボケ! さっさと蹴散らせやっ!」
「んっ! 【デスサイズ】!!」

 チグサは驚いていた。ここまでたったの数秒。それだけで立場が逆転してしまっていた事を。そして全ては隣に立つ男がこの状況を生み出したと言う事を。

「あ、あなたは……いったい……」
「俺はリクトってんだ。話は後でたっぷりとな? 【絶対防御】……切らすんじゃねぇぞ? ミハルはちっこいからな……。切れたら死んじまわぁ」
「ふ……ふふふっ、はいっ!! 防御なら任せて下さいっ!」
「……いい返事だ。可愛いじゃねぇの」
「え?」

 そう言い、リクトは壁の上に飛んだ。

「ここからは全部俺らのターンだっ! 守りのない寄せ集めの兵なんざ相手にならねぇんだよっ! 【インフェルノ】! 【アブソリュートゼロ】! まだまだ行くぞオラァァァァァァァッ!!」
「す、凄いっ! 極大魔法をあんな無詠唱で連発するなんて……!」

 もはやチグサの瞳にはリクトの背中しか見えていなかった。

「な、なんだあの魔導師っ!? ば、バケモンだっ! ぐはっ……! し、死神ぃぃぃっ……!」
「死神じゃない。ミハル! よくも今まで……絶対に許さないっ!」
「「「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」

 ミハルに絶対防御を付与したのは帝国兵からの攻撃から身を守るものではない。全てはリクトの魔法から身を守るものだった。

「はっはっは! 固まってるから狙いやすいぜ! 大軍が仇になったなっ!! ここがお前らの墓場よっ!」
「か……格好……良い……。はぁぁ……」

 チグサの瞳はハートになっていた。自分とミハルを救い、尚且つ容赦のない魔法の連発。チグサの瞳にはリクトは王子様のように見えていた。

「あ……。でも……こんな私じゃ……」

 リクトはそれが聞こえたのかどうかはわからないが、チラリとチグサを見てこう言った。

「気にすんな。後で抱いてやる。お前は汚れてなんかねぇからよ、な?」
「うぅぅぅっ、は、はいっ! ぐすっ……!」

 勝敗はあっという間にリンカネット帝国側の全滅で終わった。

「うし、完勝っ! 兵長っ!」
「あ、はいっ!!」
「今すぐ全軍引き連れてリンカネット帝国へ向かえっ! あっちにはもう戦力はねぇっ! 占領しちまいなっ!」
「……あ。は、はいっ!!」

 バロン王国側の全ての兵力がリンカネット帝国へと向かった。

「ヘンタイお兄さん!」
「おかえり、ミハル。スッキリしたか?」
「ん! リベンジ完了!」

 二人は砦の上でハイタッチをして喜んでいた。そして俺はしっかり見ていた。ミハルが最初に叫んだ兵士を細切れにしているのを。うん、あいつヤバい。

「チグサ姉、待たせた」
「ううん、ミハルなら……。戻らないって聞かされてからずっと来てくれるって……思ってた!」
「チグサ姉っ! 私のせいでチグサ姉が……っ!」

 ミハルは子供のようにチグサに抱きつき涙を流していた。いくら勇者と呼ばれようと二人はまだ子供だ。地球にいたら義務教育中の精神しか持ち合わせていない。

「ううん、大丈夫……。私さ、汚れてなんかないって……リクト様が言ってくれたから……」
「ん……ん? リクト……様?」
「そうっ! リクト様よっ! 私……リクト様のお嫁さんになるっ!」
「なっ! い、いくらチグサ姉でもそれは……!」
「はいはい、ストップ」

 リクトは二人の頭を撫でてやった。

「ここは日本じゃねぇんだ。嫁は何人いても良いんだよ。さ、戦も終わったし……チグサ」
「は、はいっ!」
「これからが本当の戦だ。ミハル、バロン兵がリンカネット帝国を占領するまで夜の戦を始めるぞ?」
「……お兄さんはやっぱりヘンタイだ……」
「は、はははははいっ! 喜んでっ!」
「よ~し、行くぞ~!」

 こうして戦は終わり、リクトは二人を両肩を抱き、新たな戦場へと向かうのであった。
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