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第06章 竜界編

08 蓮太、神竜へと至る

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 いよいよ三神の大迷宮の攻略も大詰めだ。残す階層は一階のみ。最下層で待つ天竜の下に行き、竜の宝玉を得ると神竜になれる。

「……竜の宝玉って何なんだろうな。どうしてそれをもらうだけで神竜になれるんだ? まさか危ない系じゃないだろうな」

 蓮太は一抹の不安を抱えながらも、三百一階層へと螺旋状に続く階段をひたすら下り続けていく。

「いや、なげぇな!? まだ全然底が見えねぇじゃねぇか!」

 下れど下れど階段は延々続いていた。すでに数時間近く歩いているが景色は一向に変わる気配すらない。

「怪しいな。まさか無限ループに入ったか?」

 そう思い、蓮太は壁に印をつけさらに下ってみた。すると案の定印のつけた場所が現れた。

「マジか。めっちゃ時間を無駄にした気分だわ……。階段はフェイクかよ全く……」

 今度は印をつけた場所から壁を注視しながら進んでいく。するとわずかに風の流れを感じた。

「ここだな。オラッ!!」

 蓮太は壁に蹴りを放ち怪しい部分を破壊した。通常ダンジョンの壁は破壊不能のため、ここは明らかにカモフラージュされた場所だとわかる。

「まぁだ試されてんのかね。やれやれだ」

 壁を破壊した先には狭い階段があり、同じく下りになっていた。それを下りきると荘厳なフロアが現れ、いかにもといった装飾が施された扉が見えた。その隙間からは光が漏れている。

「や、やっと着いたか。さあ、最後のフロアだ。サクッと終わらて帰ろう」

 蓮太は三神の大迷宮最後の扉を開いた。

「真っ白な空間……。ん? あれは……」

 扉を開けると全て真っ白な空間が果てしなく広がっており、はるか先にどこかで見た姿があった。

《なぁなぁ、俺と良いコトしよ?》
《……うるさい。私はそんな安い女じゃないわ。さっさと諦めて自分の世界に帰りなさい》
《良いじゃ~ん。ちょっとだけ……先っちょだけで良いか──あいたぁぁぁぁぁぁぁっ!? な、なん──あ》
「なにをしてんだ貴様は」
《あ……も、もしかして……蓮太サン!?》
《誰?》

 どこかで見た姿。それは蓮太に力を与えた神だった。その神が真っ白な竜にセクハラをはたらいていた。蓮太は見るに見かねて神の頭をはたき、睨み付けてやった。

「貴様はまた性懲りもなくこんな所までやってきてナンパか? 良い身分だなぁ、オイ?」
《ち、違うんっすよ! 決して仕事をサボってたわけではなく! ち、ちゃんと反省して部下に見張らせてますから!》
「テメェがやれよ! そんで相手嫌がってんじゃねぇか! ダセェナンパしてんじゃねぇゾ!?」
《す、すすすすすんませんっしたぁぁぁっ! も、もう帰りますので許してぇぇぇぇぇぇぇっ!》

 そう言い、神は時空の扉を開き、逃げるように姿を消した。そして残された白い竜は呆然と一部始終を眺め固まっていた。

《あ、あなたは……あのクズと何か関係が?》
「ん? ああ。奴がやらかしたせいで一度死んでっからさ。それより……あんたが天竜で合ってるか?」
《は……っ!? こ、こほんっ!》

 白い竜は居住まいを正し名乗った。

《私は天竜。全ての竜の頂点に立つ者。挑戦者よ、三神の試練を乗り越えよくぞ参られました》
「お、おお」

 あの神のせいでどこか締まらない挨拶となっていた。

《うっうっ……。あのクズのせいで私の威厳が微塵もないわっ!》
「ま、まぁまぁ。それより……俺はどうすれば良いんだ? ここで竜の宝玉とやらをもらえば神竜になれんの?」

 天竜は溜め息を吐きながら蓮太を見た。

《……一度竜の姿に戻ってもらえる?》
「ああ、わかった」 

 蓮太は竜化を使い竜の姿へと戻った。

《ず、ずいぶん黒いですね。それに逞しい……》
《身体の話だよな!?》

 天竜は蓮太の姿を見て頬を赤く染めていた。

《も、ももももちろんです! で、では私の前に》
《お、おお》

 蓮太は言われた通り天竜の前に立った。そして。

《ぐはっ!? な、なに……を……っ!》
《しばらく眠っていて下さい。起きたら全て終わっていますので》
《お……前っ……がふっ!》

 天竜の腕が赤く染まっている。薄れゆく景色の中、蓮太が最後に見たものは天竜の手に握られた自分の心臓だった。

《……はっ!?》
《起きましたか?》
《っ! お前っ!!》

 蓮太は飛びはねて天竜から離れ、自分の胸部を見る。だがそこに傷はなかった。

《……確か俺……お前に心臓を取られたよな?》
《はい。ここにありますよ?》
《なっ!? か、返せっ!》
《はい? これはもう必要ありませんよ。胸に手を当ててごらんなさい?》
《は?》

 蓮太は天竜に言われるがまま胸に手を当ててみた。

《……こ、鼓動がちゃんとある? いや、でも心臓は……あ!?》
《んぐんぐ……こくん。御馳走様でした》
《な、なに食ってんだ!?》

 天竜は蓮太の心臓を口に放り込み咀嚼してから飲み込んだ。

《まぁ……、凄い魔力……! 漲るわぁっ!》
《何がどうなってる!?》

 天竜は混乱する蓮太に向けこう告げた。

《今、あなたの体内で鼓動は刻んでいるのが竜の宝玉です》
《な、なんだと!?》
《竜の宝玉は強すぎる竜の力に耐えうるもの。普通の心臓では五割の力も発揮できないのです。竜の宝玉を核にし、初めて全力を出せ、力の制御も可能になります》
《そうか! 竜の宝玉ってのは魔物でいう核、つまり心臓だったのか!》 
《そうです》

 ようやく理解した蓮太は少し落ち着いた。

《まったく、ちゃんと説明してからやってもらえないかな?》
《あら、失礼。でも……前回神竜になった竜は説明した途端に怖がってしまいまして》
《俺はそんなビビりじゃねぇよ。いきなり心臓抉られる方が万倍恐怖だわ》
《それは失礼いたしました。ああ、それと……。今私が食べたあなたの心臓は時間をかけ、次なる竜の宝玉へと変わりますので。食べたかったから食べたわけではありませんよ?》
《俺の心臓が次の……》
《はい。こうして強き者の力を継承していくのです》
《なるほどねぇ》

 蓮太は改めて自分の強さを確認した。神竜となった蓮太の能力値は全竜だった頃に比べ、全てが十倍に跳ね上がっており、元々強かった蓮太がさらに強くなっていた。そしてスキルが新たに追加されていた。

《なんか見慣れないスキルがあるんだけど》
《それらは前回の挑戦者が所持していたスキルですね。あなたのスキルも次の挑戦者に引き継がれ……これは……少し不味いですね》
《だろうな》

 蓮太の所持しているスキルはどれも破格の性能を誇っている。これが次の竜に引き継がれてしまえば大変な事になりかねない。そこで蓮太は天竜にこう提案した。

《天竜、もし次にその宝玉を与える奴が現れたら俺に知らせてくれないかな?》
《あなたに……ですか?》
《ああ。そのスキルはあのクズ神をボゴ……いや、全うな道に戻す教育をした時にぶんど……いや、与えられたスキルでな。次にその力を得る奴は俺が決めたいんだ》

 天竜は蓮太の提案を受け入れた。

《そうですね。先ほどあなたに与えた宝玉程度ならなんとでもなりますが、あなたの心臓は少し扱いに困ります。あなたが真に引き継いでも構わないと判断した者にのみこの宝玉を与えるとしましょう》
《悪いな、俺が強すぎたばかりに》
《いえ。ではこれからしばらくの間よろしくお願いしますね》
《は?》

 蓮太は呆気にとられ天竜の問い返した。

《なにが……よろしくなんだ?》
《あなたは今神竜へと至ったばかりのヒヨッ子です。ですのでこれから神竜としての心構え、力の使い方などを学んでいただきます》
《……それってどのくらいかかるんだ?》
《それはあなたの能力次第ですね。さあ、まずは座学から始めましょうか》
《ざ、座学……だと……マジか……》

 蓮太は天竜の促され、神竜とは何かと、延々叩き込まれていくのだった。 
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