無双転生~チートスキルで自由気ままに異世界を生きる~

夜夢

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第06章 竜界編

06 雷神の試練

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 風神の試練【体】は全竜を殺した事で突破となってしまった。全く意図した結果ではなく、偶然そのものだ。そしてその結果、蓮太の左腕に過去入れていた黒歴史の風神が甦り、これをどうにか消すためにさらに地下深くへと潜っていく。

 魔物もこれまでに比べて多少強くはなっているのだろうが、風神の力を得た蓮太の相手になるはずもなく、正に疾風の如き速さで階層を下っていった。 

「地下百階から先は大型の魔物が多いな」
《それでもお主の敵ではないようだな》
「だからいきなり話し掛けてくんなって言ってんだろ!
?」
《そう邪険にせんでも良いではないか》

 独り言を呟くたびに左腕にある風神から相槌が入ってくる。この常態が続くとなると、蓮太は無口になってしまいそうだった。

《しかし……お主なかなか強いではないか。わざわざ神竜にならずとも良いのではないか?》
「色々あるんだよ。少し黙っててくれませんかね?」
《そうか。だが断る! 我はお喋りなのだ!》
「頭いてぇな……」

 そうして進む事数日、蓮太の前に再び巨大な扉が現れた。

《ほう、もう着いたのか。雷神はこの中だ。行け》
「言われんでも行くわっ!」

 蓮太の目の下には隈が刻まれていた。理由はもちろん風神だ。眠った後、どういうわけか夢の中にまで現れたのだ。風神はとにかく夢の中でも喋りまくってきた。おかげで蓮太はゆっくり眠る事もできず、短時間睡眠を繰り返し、何とか地下二百階層へと辿り着いた。コンディションは最悪に近い。

「開けたら雷撃飛んでこねぇだろうな。よし、行くか」

 蓮太は扉を開いた。

《きたか。久しぶりの挑戦者だな》
「お……おぉぉぉ……、なんだこれっ!?」

 室内にはステージがあり、雷神は巨大なドラムセットの椅子に座りスティックをくるくると回していた。

《さて、早速だがワシからの試練を与える。出でよ》
「おわっ!?」

 雷神がスネアを一発叩くと蓮太の前に雷神の使っているドラムセットと同じ物が出現した。

「まさか試練って……」
《ワシの試練は【技術】だ。それを使いワシと同じビートを刻む事ができたら試練突破だ》
「おいおい……マジかよ! 雷様とドラムバトルか! めちゃくちゃ不利じゃねぇか!」
《そんな事はない。ワシは雷の力を使わぬ。ドラムはただ速く叩ければ良いというものではないからな。大事なことは正確性だ。さあ、座れ》
「……わかったよ。ドラムは専門外だがやったらぁっ!」

 蓮太は用意されたドラムセットに座り位置の微調整を始めた。

「あ~雷神?」
《なんだ?》
「できたらバスドラもう一個欲しいんだけど」
《なに? 貴様、ツーバス派か?》
「まぁな」
《ふむ。ならばワシもツーバスにしよう。自らハードルを上げるとは思わなかったぞ》
「メタラーなんでな」
《……そうか。久しぶりにワクワクしてきたぞ。前回の挑戦者とはギターで対決したからな。ワシの本業はこれだ》

 試練は挑戦者によって内容が変わる。どうやら前回の挑戦者はギターで雷神を突破したらしい。

「……俺もギターが良かったなぁ」
《ならん。ワシはそこまでギターが上手くないからな。貴様は元ギタリストだろうが》
「なぜわかった」
《我が記憶を読んで雷神に伝えた》
「なんって事しやがる貴様っ!?」

 元凶はまたしても風神だった。

「っと、いかんいかん。集中しなければ。雷神、ちょっと練習する時間をくれ。久しぶりだから勘を取り戻したい」
《構わぬよ。好きに叩け》
「おう」

 ここで蓮太は絶対に負けない手段を構築していく。蓮太は密かにスキル【並列思考】を使い、両手両足に各個意思をもたせた。これにより全ての部位が別の生き物のように自在に動かせる。

《なん……だと!? 貴様、どこが専門外なのだ!》
「ん~……まだ慣れないな。音が一定じゃねぇ。こうか?」

 蓮太は練習と称し雷神を圧倒しようとしていた。ドラミングは人によって癖があるため、全く同じように叩く事は困難だ。テクニックで上回るならともかく、コピーは簡単にできる事ではない。

 雷神はそんな蓮太を見て武者震いしていた。そしてまだ試練が始まってすらいないにも関わらず、自分もドラムを叩き始めていた。

「あんたも練習かい?」
《……試練は止めだ。合格で良い。貴様の動きを見ればわかる。貴様は専門外と言っていたが、その動きは素人のそれではない。ワシも貴様を見て血が騒いでしまった。セッションといこうではないか》
「まぁ……構わないが」
《ふっ、ならワシからいくぞ》

 事は蓮太の思惑通りに進んでいった。雷神は心底ドラムが好きなのだろう。そうして二人でセッションを楽しんでいると突然風神が実体化し、ベースを抱え割り込んできた。

《我も交ぜろ。二人で盛り上がっているなどズルいぞ》
《好きにせい。だが邪魔はするなよ》
「なんなんだこいつら……」

 やがて三人は力尽き、酒を片手に感想を交える。

《なかなかやるではないか! 惜しまれるのはギターがいなかった事よな》
「もしかしてギターって龍神じゃね?」
《うむ。龍神のギターは身震いし、何者をも魅了してしまうのだ。だが、試練ではやらぬから安心すると良い》
「俺も某ヤンキー漫画でギターにハマったからなぁ……。龍神のギターは本当に龍を召喚してたし」
《ほう? 貴様の世界にも龍神の伝説が伝わっていたとは知らなんだ》
「漫画の話だけどな。懐かしい思い出だ」

 そうして話し込み、雷神は蓮太を認めた。

《貴様の技術、知識を認めるとしよう。ワシの力も持っていくが良い。だが龍神は強いぞ?》
「楽しみだ。ほら」

 そう言い、蓮太は右腕を前に出した。雷神はニヤリと笑い、蓮太の右腕に自らの力を刻み込んだ。

「左側に風神、右腕に雷神か……。あとは背中に龍神を背負えば昔の俺に逆戻り……か」
《ふむふむ……なるほど。これが貴様の言っていた漫画とやらか》
「面白いだろ?」
《うむ。しばらく集中する。貴様は龍神の所に向かえ。できればゆっくり頼む》
「もうハマってんじゃねぇか」

 雷神は風神に比べて無口なキャラのようだ。今は蓮太の記憶から漫画を見つけ出し、黙ったままその記憶を楽しんでいるようだった。

《なら我も雷神に倣うとするかな。だが……主の記憶は二つあるようだが》
「それは俺が転生者だからだ」
《なに? なるほど、このロックがかかっている部分は神の仕業か。まあ興味はないが》

 熱いセッションをしたせいか、いつしか蓮太の中で風神に対する印象が変わってきていた。最初は邪魔でしかなかったが、今ではそこまで邪魔とは思わなくなっていた。これも音楽で通じあったからかもしれない。

「……よし、次は龍神だな。そいつを乗り越えたら最後に天竜か。あと少しだ、頑張ってみっか!」

 右腕に雷神を刻んだ蓮太は次の階層へと進んだ。

「オラァッ、疾風迅雷!!」


 もはやこの大迷宮に風と雷の加護を得た蓮太の歩みを止められる魔物など存在しない。蓮太は風のように駆け、雷のように力強く暴れ回りながら地下深くへと疾走していく。

 そんな蓮太の意識の奥深くで風神と雷神が蓮太に悟られないように話をしていた。

《雷神、この者をどう思う?》
《ふむ。全てにおいて過去最高のポテンシャルを持っているな。もし戦っていたらいくらワシらが神といえど勝てなかっただろうな》
《うむ。我はこの者と絶対に戦いたくないと思い、試練を誤魔化した》
《風神は小心者だからなぁ……》
《主こそ戦わなかったではないか。恐れたのだろう?》
《……ああ。この者の中に入った今だからわかる。この者と敵対するのは愚かな行為だ》
《龍神はどうすると思う?》
《……さあな。アレはどこかこの者に似ておるからな。ワシにもどうなるかわからん》
《見守るしかないか》

 風神と雷神は龍神の事を案じるのだった。
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