上 下
54 / 85
第05章 浮遊大陸編

02 やっと訪れた平和

しおりを挟む
 蓮太はビルに向かい入り口の扉に【破壊不能】と【衝撃反射】を付与し、さらに世界一硬い希少金属オリハルコンを精製し、そのオリハルコンで扉を被った。

「よし、これで大丈夫だろ」
「何が大丈夫なのですか、主様?」

 強化を完了すると背後にターニアとラフィエルの二人がいた。蓮太は二人にこの大陸で何があったのか話した。

「え? で、ではここは私達魔族のご先祖様がいた地なのですか!?」
「ああ、どうやらそうみたいだな。しっかし……」

 蓮太は改めてラフィエルを見る。ラフィエルの姿は今は人間だがこれは蓮太が作り変えたからであり、元の姿は人間と呼ぶには難しい姿だった。

「魔族の祖先が人間とはとても思えないんだよなぁ……。明らかに化け物じゃん?」
「わ、私を見ながら言わないで下さいませっ。確かに私の姿はちょっとアレでしたが……」

 蓮太はラフィエルに尋ねてみた。

「ラフィエル、魔界にいる魔族の姿は魔王みたいな姿が一般的なのか?」
「いえ、様々な姿をしておりますよ。人間型もいれば魔獣型もおりますし」
「なるほど」
「あ、でも一番旧い魔族の姿は人間に似ていました」
「人間に?」
「はい。あまりに人間に似ていたため魔界では嫌われておりましたが」
「旧いほど人間に近い……か」

 蓮太はここである仮説を立てた。いつの時代から跳躍してきたか知らないが、地球人というのは大概頭がイカれている。もしかすると魔界に行った人間達は魔物と交配したのではなかろうかと。

「人間と魔物が交配して魔族になった。ありえない話じゃないかもな。そこからだんだんと人間の血が薄れていき、今の姿が主流になったのかもしれないな」
「レンタ、なんでレンタはここにある物がわかる? まるで昔から知ってるみたい」

 そう質問するターニアに蓮太はエルフ達にしか話していなかった秘密を打ち明けた。

「俺は……俺はこの世界の人間じゃないからだ」
「……え?」
「身体はこの世界の人間から産まれたが、魂は違う。俺の魂は地球という星で産まれたんだよ。そしてこちらの世界に生身で迷い込み、一度死んだ。そして生まれ変わったんだよ。ここにある品は俺がいた星にあった物と似ていてな。だからわかったんだよ」
「レンタは迷い人だったんだ」
「迷い人?」

 ターニアはこくりと頷き説明した。

「たまにこの世界に違う世界から迷い込んでくる人間がいる。その人間は私達が全く知らない知識をもってて、ありえないスキルを使う。初代勇者も違う世界からきた人間だった」
「なるほどねぇ~……」

 蓮太は空を見上げた。そして心の中で神に向かい叫んだ。

(ちゃんと仕事しろボケ! やらかしまくってんじゃねぇか!)

 すると今度はラフィエルが蓮太を見る。

「あの……ならば主様もそのありえないスキルをお持ちなのでしょうか?」
「……いや、言っただろ。俺は一度死んでこの世界で生まれ変わったって。生まれ変わった俺はこの世界の住人だ。そんなスキルなんて持ってねぇよ」
「怪しいですね……」
「あん?」
「い、いえっ! 申し訳ございませんっ!」

 蓮太はスキルの事を誤魔化した。スキルは力の全てだ。今さら疑ってはいないが、簡単に話すべきではないと、一応警戒している。

「ま、俺が調べてわかった事はこれで全部だな。一応竜がわんさかいる疑似ダンジョンの出入り口は封印した。間違っても開けるんじゃないぞ。世界が滅ぶかもしれないからな」
「はい」
「ん」

 ひとまずこれで当面の危険は去った。それから蓮太は二人にこれからどうしたいか尋ねてみた。

「私は主様に従うまでなので」
「ん、オセロ!」
「……役立たずどもめ」

 ターニアは遊戯に夢中でラフィエルは自分の意見をもっていない。そして二人には働く気など全くないようだ。蓮太は二人を放置し、中央ビルの前に移動した。

「三人で暮らすにはこの浮遊大陸は広すぎなんだよなぁ。試しに木を一本植えてみたけど……」

 蓮太は空を見上げる。

「あの外郭シールド中々優秀だな。出入りは自由だが中に入るまで雲の塊にしか見えないし、スキルで中の様子を知る事もできない仕組みになってんだもんなぁ」

 ではなぜ蓮太がこの浮遊大陸に気付けたのか。

「まさか本当に雲の中にあるなんてなぁ……。滅びの呪文で崩壊したりしないよな?」

 地球での知識が役に立ったようだ。

《……見つけた!》
「あん? な、なんだ!?」

 これからどうしようか迷っていた時だった。突然植えた木が光り始め、知っている声が聞こえた。やがて光りは少女の姿に変わる。

「あ、お前! ユグドラシルか!」
《ん。久しぶり、マスター》
「そうだった、お前は木があればどこにでも飛べるんだったな」

 木を植えた瞬間、これまでエルフ達を前にも姿を見せていなかったユグドラシルが現れた。

《マスターはなぜ空に?》
「決まってるだろ、戦いやら労働から逃げるためだ。お前、俺が生きてる事わかってたんだな」
《ん。私を召喚したのはマスター。私が消えていないからマスターは生きているとわかってた。そして世界中探してた》
「そこは諦めろよな」
《やだ》

 そう言い、ユグドラシルは蓮太に抱きついてきた。そこにターニア達がやってきた。

「レンタ! それ誰!」
「あん?」
《マスター、あれ誰?》
「……お前ら……何か似てない?」

 二人は背丈も話し方もそっくりだった。違いといえば髪の色だけだ。ターニアは赤、ユグドラシルは緑。

「ターニア、こいつは世界樹だ。ユグドラシル、あいつはターニア、俺の仲間だ。その隣はラフィエル、魔族で俺の奴隷だ」
《ん。私ユグドラシル、よろしく》
「私はターニアだ」
「ラフィエルです。まさか世界樹が地上にも存在していたなんて……」
「……は? ラフィエル、今なんて?」

 ラフィエルは蓮太の問い掛けにこう答えた。

「魔界にも古来から世界樹がありまして」
「はぁ? 魔界って地下だろ? なんで地下……あ、そうか。地下っていっても本当に地下にあるわけじゃないもんな。次元が違うだけで」
「はい。魔界にもちゃんと太陽がありますし、川も海もありますよ」

 そこで蓮太は思った。もしかすると世界樹は突然消えたのではなく、浮遊大陸にいた人物が持ち去ったのではないかと。ここにいるユグドラシルは本来別の世界にいたユグドラシルだ。

《魔界……マスター、私魔界にもいる?》
「さあなぁ……。ラフィエル、そこんとこどうなん?」
「世界樹はありますが……ただの大木でした」
「なるほどなぁ。なんで浮遊大陸人は世界樹を魔界に持っていったんだろうな。何考えてんのかサッパリだ」

 するとターニアがユグドラシルに向けスッと遊戯盤を向けた。それを見たユグドラシルは無言のまま蓮太から離れターニアと対峙した。

「私負けない」
《私強いよ?》

 結果、九手でユグドラシルが圧勝した。ターニアは真っ白に燃え尽きていた。

《修行が足りない》
「なぜ……勝てない……うっうっ……」
《これはただ多く駒をとるゲームだと思っていると負ける》
「容赦ねぇなぁ~……」

 さすがにターニアが可哀想になってきた。

「ユグドラシル、お前何しにきたんだよ?」
《ん。約束が違うから探しにきた》
「は?」

 ユグドラシルは再び勝負を挑んできたターニアを圧倒しながら蓮太に言った。

《世界はまだ変わってない。確かに平和になった。けど、まだ世界は苦しんでる》
「……俺何か約束したっけ?」
《人間、まだ生きてる。エルフをいじめた人間》
「は? いや、エルフは全員エルフィリアにいるだろ。もう解決したはずだ」
《全員じゃない。世界にはまだまだ自分じゃ逃げ出せないエルフがいっぱいいる》
「自分じゃ……あ、奴隷にされてるエルフか!」
《ん。勝ち》
「ぐぬぬぬぬぬ……!」

 真面目な話の途中なので、蓮太はターニアを抱え遊戯盤を片付けるのだった。
しおりを挟む
感想 76

あなたにおすすめの小説

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)

みなせ
ファンタジー
転生先は、ゲーム由来の異世界。 ヒロインの意地悪な姉役だったわ。 でも、私、お約束のチートを手に入れましたの。 ヒロインの邪魔をせず、 とっとと舞台から退場……の筈だったのに…… なかなか家から離れられないし、 せっかくのチートを使いたいのに、 使う暇も無い。 これどうしたらいいのかしら?

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

異世界をスキルブックと共に生きていく

大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

処理中です...