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第03章 バハロス帝国編
09 二人目の勇者
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真なる勇者。そんなものになってしまえばこの先のんびり平和になど暮らせるはずもない。幸いまだこの事実を知る者は目の前にいる元勇者だけだ。
「ちょっと頭貸せ」
「頭っす? はい!」
蓮太はスキル【強制睡眠】で眠らせた上、【記憶操作】で元勇者の記憶を書き換えた。これで元勇者の中では今日蓮太とは会っておらず、いつも通り地下牢で寝ていた事になっている。そして地下牢を後にし、蓮太はノルン辺境伯に声を掛けた。
「辺境伯、下にいる勇者もう釈放しても良いよ」
「えっ? 大丈夫ですか?」
「ああ。あいつはもう無害だ。城くらい追い出してやってくれ。じゃあ俺行くとこあるから。【転移】」
「レンタ様!?」
蓮太は辺境伯に勇者を任せ、エルフィリアへと転移した。
「ん? レンタか。戻ってきたのか?」
「よ、リージュ」
エルフィリアにある自室に転移し、部屋を出た所でリージュと遭遇した。
「何か変わりはあった?」
「特にないな。平和そのものだ」
「それは良かった。ところで一つ聞きたいんだけど……」
蓮太はリージュにドワーフをどう思うか尋ねてみた。
「ドワーフ? ああ、あのチビで鍛冶と酒にしか興味がない種族か。特に何とも思わないが」
「恋愛対象としてみられる?」
「お前、まさか私をドワーフに売る気か!」
「違う違う。実はな……」
蓮太は今回の件を詳しく説明した。
「合コン……?」
「ああ。連れて行くのは若いエルフ達だ。ちょっと酒飲んで話をするだけ。それだけで良い」
「ふむ、それをすればレンタはここに戻ってこられるんだな?」
「多分な」
「わかった。エルフは私が集めよう。レンタはミリアリアの様子でも見に行ったらどうだ?」
「……あ」
そう言えば皇女の存在をすっかり忘れていた。蓮太は勇者から聞いた話を告げるためにミリアリアの所へと向かった。
「あ、レンタ様っ!」
「あら、いつお戻りに?」
シルファの部屋に入ると蓮太の姿を見たミリアリアがとてとてと駆け寄り抱きついてきた。
「レンタ様、お帰りなさい!」
「ただいまミリアリア。シルファも」
「はい」
蓮太はちょうど良いと考え、シルファも交えて二人に勇者から聞いた話を告げた。
「そんな……! それは本当なのですか!?」
「ああ。ナーザリーは大量に現れた魔族の攻撃を受け滅んだかもしれん。そして勇者は聖なる武器とともに世界中に転送されたそうだ」
「あぁぁ……、世界の希望であった国が魔族に……」
ミリアリアは落ち込み、神に祈る仕草を見せる。そしてシルファはその話を聞いた瞬間から木々を通して情報を集め、状況を知った。
「確かに……。山から見た所、ナーザリーは魔族の拠点に変わっていますね」
「魔族の拠点に?」
「はい。神殿は破壊され、そこに今禍々しい城が建設されております。──っ、これ以上はバレてしまいますね」
シルファは不穏な気配を感じ取り意識を切断した。
「そうか。魔族はナーザリーを拠点にしているのか。シルファ、世界中に散ったと思われる勇者の行方はわかるか?」
「どれが勇者かわかりませんので探しようがありませんわ」
「……確かに。聖なる武器を見せてもらわなきゃ一般人と変わらないもんなぁ」
するとミリアリアが顔を上げ蓮太にこう言った。
「レンタ様、レンタ様の御力でどうにかなりませんか……」
「ミリアリア! あなたレンタ様に一人で魔族と戦えと言うのですか!」
「シルファ」
「っ、申し訳ありません」
蓮太は真っ直ぐミリアリアを見てこう告げる。
「できるかできないかで言えば……できる」
「で、では!」
「だがやる気はない」
「……え?」
「魔族と戦わなければならないのは勇者だ。ナーザリーの時はとんでもない数の魔族に襲われ逃げるしかなかっただろうが、希望となる勇者は今世界中で反撃の機会を窺っているだろう。魔族と一対一なら勇者にも分がある。俺が手を出さずとも勇者がナーザリーを奪還しに行くはずだ。そこで俺はナーザリー以外に現れた魔族を消して回る。勇者共が反撃だけに集中できるようにな」
「あ……。さ、さすがレンタ様です!」
どれだけ勇者がいるか、またその強さも知らない蓮太に言える事はこれだけだ。あの元勇者の話によると、わずかではあるが聖なる武器を複数扱える勇者もいるらしいため、わざわざ出張る事もないだろうと考えていた。
「恐らく勇者共は未だ適合者のいない聖なる武器の使い手を探しながらナーザリーに向かうはずだ。シルファ、世界の監視を怠るなよ? 何かあったら俺に報せてくれ」
「は、はいっ!」
それから一週間、蓮太はエルフィリアで休息をとりつつシルファからの報せを待った。
「レンタ様」
「シルファか。どうした?」
「はい。バハロス帝国の南、【ユーリシア王国】に勇者が現れました」
「近いな。どんな奴だ?」
「……女です。どこか冷たい目をし、感情が読み取れません。今魔物を斬り捨てながら北上しております。目的地は恐らくエンドーサの港かと」
「なるほど。エンドーサから海を渡るつもりか。ナーザリーは別大陸だからな。行くには空を飛ぶか船を使うしかない。わかった、ありがとうシルファ」
「ははっ!」
今度の勇者は女勇者らしい。それが今単独で魔物と戦いながらエンドーサに向け北上してきている。蓮太はバハロスとエンドーサの国境へ転移し、女勇者の到着を待った。
そして数時間後。魔物の返り血を浴び、全身を血塗れにした真っ赤な髪を靡かせ進む女が一人歩いている所に出くわした。
「……誰?」
「勇者だな」
「そうだけど。敵?」
「いや、違うよ」
「……なら興味はない。どいて」
「そうもいかないんだな」
蓮太は脇を通り過ぎようとした女勇者の腕を掴んだ。
「なに?」
「転移」
「えっ? なっ!?」
蓮太は女勇者の手を掴んだままエンドーサの港へと転移した。
「ここは……」
「エンドーサの港だ。ここに来たかったんだろ? 送り届けてやったぜ」
「まさか……。今のは転移? あなた何者?」
「ただの世話焼きだ。ほら、早くナーザリーに向かいな。俺はもう行く。じゃあな」
「ま、待って!」
「あん?」
エルフィリアに戻ろうとした蓮太を女勇者が引き留めた。
「まだお礼してない」
「礼ならいらんよ。世界から魔族を消してくれたらそれが礼になるからな」
「そうもいかない。受けた恩は返さなきゃならない。そうしないと勇者の名に傷がつく」
「本当に礼なんて必要ないんだがなぁ」
女勇者は会話をしつつも常に無表情でセリフに抑揚もないためか、全く感情が読み取れない。ただ、わかるのは恩を感じている、それだけだった。
「今の私に渡せる物はこれしかない。手を」
「あん?」
蓮太が手を差し出すと女勇者が手を握ってきた。
《マスター資格を確認。千葉 蓮太を適合者と認め所有権を与えます》
「なっ!?」
女勇者が手を握った瞬間、頭の中で例のアナウンスが流れた。
「確かに渡した。これであなたも勇者」
「な、なにしてくれてんだっ!」
「それはお礼。私達ナーザリーで育った勇者はナーザリーを取り戻すために魔族と戦う。そして……新たな適合者となった勇者は世界各地に現れる魔族と戦う。これが勇者の使命」
「こんなもん要るかっ! 返すっ!」
「無理。その聖なる手裏剣はあなたを適合者と認めた。もう離れる事はない」
「あ、おいっ!」
それだけ勝手に告げ、女勇者は船に向かっていった。だが船員と何やら揉め、そして蓮太の所に引き返してきた。
「……お金下さい。後お風呂」
「アホかぁぁぁぁぁぁっ!?」
どうやらこの女勇者は一文無しらしい。そして戦闘以外の常識に乏しいようだ。
「金がないと乗せられないって言われた。あと、汚いからあっち行けって」
「当たり前だ。まさかそんな事も知らないのか」
「知らない。私の使命は魔族を倒す事。捨て子だった私を拾って育ててくれた大神官様に恩を返さなきゃならない。そのために強くなった」
「……はぁ。お前な、力だけじゃ何も救えねぇよ。まずは常識を身に付けろ常識を」
「わからない。私はずっと一人で訓練所と部屋にしかいなかったから」
「ボッチかよ……。なんなんだこいつは……」
「私? 私は勇者。勇者【ターニア】」
「微妙にズレてんな……」
どうにも離れなくなってしまったターニアを連れ、蓮太は一度エルフィリアへと引き返すのだった。
「ちょっと頭貸せ」
「頭っす? はい!」
蓮太はスキル【強制睡眠】で眠らせた上、【記憶操作】で元勇者の記憶を書き換えた。これで元勇者の中では今日蓮太とは会っておらず、いつも通り地下牢で寝ていた事になっている。そして地下牢を後にし、蓮太はノルン辺境伯に声を掛けた。
「辺境伯、下にいる勇者もう釈放しても良いよ」
「えっ? 大丈夫ですか?」
「ああ。あいつはもう無害だ。城くらい追い出してやってくれ。じゃあ俺行くとこあるから。【転移】」
「レンタ様!?」
蓮太は辺境伯に勇者を任せ、エルフィリアへと転移した。
「ん? レンタか。戻ってきたのか?」
「よ、リージュ」
エルフィリアにある自室に転移し、部屋を出た所でリージュと遭遇した。
「何か変わりはあった?」
「特にないな。平和そのものだ」
「それは良かった。ところで一つ聞きたいんだけど……」
蓮太はリージュにドワーフをどう思うか尋ねてみた。
「ドワーフ? ああ、あのチビで鍛冶と酒にしか興味がない種族か。特に何とも思わないが」
「恋愛対象としてみられる?」
「お前、まさか私をドワーフに売る気か!」
「違う違う。実はな……」
蓮太は今回の件を詳しく説明した。
「合コン……?」
「ああ。連れて行くのは若いエルフ達だ。ちょっと酒飲んで話をするだけ。それだけで良い」
「ふむ、それをすればレンタはここに戻ってこられるんだな?」
「多分な」
「わかった。エルフは私が集めよう。レンタはミリアリアの様子でも見に行ったらどうだ?」
「……あ」
そう言えば皇女の存在をすっかり忘れていた。蓮太は勇者から聞いた話を告げるためにミリアリアの所へと向かった。
「あ、レンタ様っ!」
「あら、いつお戻りに?」
シルファの部屋に入ると蓮太の姿を見たミリアリアがとてとてと駆け寄り抱きついてきた。
「レンタ様、お帰りなさい!」
「ただいまミリアリア。シルファも」
「はい」
蓮太はちょうど良いと考え、シルファも交えて二人に勇者から聞いた話を告げた。
「そんな……! それは本当なのですか!?」
「ああ。ナーザリーは大量に現れた魔族の攻撃を受け滅んだかもしれん。そして勇者は聖なる武器とともに世界中に転送されたそうだ」
「あぁぁ……、世界の希望であった国が魔族に……」
ミリアリアは落ち込み、神に祈る仕草を見せる。そしてシルファはその話を聞いた瞬間から木々を通して情報を集め、状況を知った。
「確かに……。山から見た所、ナーザリーは魔族の拠点に変わっていますね」
「魔族の拠点に?」
「はい。神殿は破壊され、そこに今禍々しい城が建設されております。──っ、これ以上はバレてしまいますね」
シルファは不穏な気配を感じ取り意識を切断した。
「そうか。魔族はナーザリーを拠点にしているのか。シルファ、世界中に散ったと思われる勇者の行方はわかるか?」
「どれが勇者かわかりませんので探しようがありませんわ」
「……確かに。聖なる武器を見せてもらわなきゃ一般人と変わらないもんなぁ」
するとミリアリアが顔を上げ蓮太にこう言った。
「レンタ様、レンタ様の御力でどうにかなりませんか……」
「ミリアリア! あなたレンタ様に一人で魔族と戦えと言うのですか!」
「シルファ」
「っ、申し訳ありません」
蓮太は真っ直ぐミリアリアを見てこう告げる。
「できるかできないかで言えば……できる」
「で、では!」
「だがやる気はない」
「……え?」
「魔族と戦わなければならないのは勇者だ。ナーザリーの時はとんでもない数の魔族に襲われ逃げるしかなかっただろうが、希望となる勇者は今世界中で反撃の機会を窺っているだろう。魔族と一対一なら勇者にも分がある。俺が手を出さずとも勇者がナーザリーを奪還しに行くはずだ。そこで俺はナーザリー以外に現れた魔族を消して回る。勇者共が反撃だけに集中できるようにな」
「あ……。さ、さすがレンタ様です!」
どれだけ勇者がいるか、またその強さも知らない蓮太に言える事はこれだけだ。あの元勇者の話によると、わずかではあるが聖なる武器を複数扱える勇者もいるらしいため、わざわざ出張る事もないだろうと考えていた。
「恐らく勇者共は未だ適合者のいない聖なる武器の使い手を探しながらナーザリーに向かうはずだ。シルファ、世界の監視を怠るなよ? 何かあったら俺に報せてくれ」
「は、はいっ!」
それから一週間、蓮太はエルフィリアで休息をとりつつシルファからの報せを待った。
「レンタ様」
「シルファか。どうした?」
「はい。バハロス帝国の南、【ユーリシア王国】に勇者が現れました」
「近いな。どんな奴だ?」
「……女です。どこか冷たい目をし、感情が読み取れません。今魔物を斬り捨てながら北上しております。目的地は恐らくエンドーサの港かと」
「なるほど。エンドーサから海を渡るつもりか。ナーザリーは別大陸だからな。行くには空を飛ぶか船を使うしかない。わかった、ありがとうシルファ」
「ははっ!」
今度の勇者は女勇者らしい。それが今単独で魔物と戦いながらエンドーサに向け北上してきている。蓮太はバハロスとエンドーサの国境へ転移し、女勇者の到着を待った。
そして数時間後。魔物の返り血を浴び、全身を血塗れにした真っ赤な髪を靡かせ進む女が一人歩いている所に出くわした。
「……誰?」
「勇者だな」
「そうだけど。敵?」
「いや、違うよ」
「……なら興味はない。どいて」
「そうもいかないんだな」
蓮太は脇を通り過ぎようとした女勇者の腕を掴んだ。
「なに?」
「転移」
「えっ? なっ!?」
蓮太は女勇者の手を掴んだままエンドーサの港へと転移した。
「ここは……」
「エンドーサの港だ。ここに来たかったんだろ? 送り届けてやったぜ」
「まさか……。今のは転移? あなた何者?」
「ただの世話焼きだ。ほら、早くナーザリーに向かいな。俺はもう行く。じゃあな」
「ま、待って!」
「あん?」
エルフィリアに戻ろうとした蓮太を女勇者が引き留めた。
「まだお礼してない」
「礼ならいらんよ。世界から魔族を消してくれたらそれが礼になるからな」
「そうもいかない。受けた恩は返さなきゃならない。そうしないと勇者の名に傷がつく」
「本当に礼なんて必要ないんだがなぁ」
女勇者は会話をしつつも常に無表情でセリフに抑揚もないためか、全く感情が読み取れない。ただ、わかるのは恩を感じている、それだけだった。
「今の私に渡せる物はこれしかない。手を」
「あん?」
蓮太が手を差し出すと女勇者が手を握ってきた。
《マスター資格を確認。千葉 蓮太を適合者と認め所有権を与えます》
「なっ!?」
女勇者が手を握った瞬間、頭の中で例のアナウンスが流れた。
「確かに渡した。これであなたも勇者」
「な、なにしてくれてんだっ!」
「それはお礼。私達ナーザリーで育った勇者はナーザリーを取り戻すために魔族と戦う。そして……新たな適合者となった勇者は世界各地に現れる魔族と戦う。これが勇者の使命」
「こんなもん要るかっ! 返すっ!」
「無理。その聖なる手裏剣はあなたを適合者と認めた。もう離れる事はない」
「あ、おいっ!」
それだけ勝手に告げ、女勇者は船に向かっていった。だが船員と何やら揉め、そして蓮太の所に引き返してきた。
「……お金下さい。後お風呂」
「アホかぁぁぁぁぁぁっ!?」
どうやらこの女勇者は一文無しらしい。そして戦闘以外の常識に乏しいようだ。
「金がないと乗せられないって言われた。あと、汚いからあっち行けって」
「当たり前だ。まさかそんな事も知らないのか」
「知らない。私の使命は魔族を倒す事。捨て子だった私を拾って育ててくれた大神官様に恩を返さなきゃならない。そのために強くなった」
「……はぁ。お前な、力だけじゃ何も救えねぇよ。まずは常識を身に付けろ常識を」
「わからない。私はずっと一人で訓練所と部屋にしかいなかったから」
「ボッチかよ……。なんなんだこいつは……」
「私? 私は勇者。勇者【ターニア】」
「微妙にズレてんな……」
どうにも離れなくなってしまったターニアを連れ、蓮太は一度エルフィリアへと引き返すのだった。
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