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第03章 バハロス帝国編

02 魔族

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 ミリアリアを休ませた翌朝、蓮太は起きたミリアリアから詳しい話を聞く事にした。

「じゃあまずはいつ魔族が現れたか聞こうか」
「はい。あれは……」

 ミリアリアは俯きながら過去を語り始めた。

「あの魔族が姿を見せたのは父が兵を率い国境へと向かった数日後の夜でした。あの魔族はたった一体で突如何もない空に現れ、帝国全土に眠りの呪法をかけたのです」
「眠りの呪法?」
「はい。魔族は魔法と呪法を操ります。その辺りは教会関係者の方がより詳しく知っているはずです」

 蓮太はひとまず呪法について尋ねた。

「魔法ってのは魔力を使い発動させるだろ? なら呪法は何を?」
「生気です。魔族は人間の持つ生きる力を吸い取り、力を増します。また、吸い取った生気は魔族の心臓と言われている核に蓄積されます。そして蓄積された生気を使い、さらに強大な魔族に進化していくのだそうです」
「なるほど。つまり、奴ら魔族の目的は人間から生気を吸い取り、自らを進化させる事なのだな?」
「はい。そう歴史書に書かれていました」

 ここで蓮太は一つ気になりミリアリアに尋ねた。

「ミリアリアが眠っていないのはなんでだ?」
「はい。私の頭にあるティアラには不眠の効果が付与されていましたので」
「へぇ~」
「皆さんの前で居眠りしてしまったら恥ずかしいじゃないですか」
「だからって……。まあ、良いか」

 ここまででわかった事は、魔族はこれまでにも何度か人間の社会に害を及ぼしていたという事。そして詳しい事は教会の関係者が知っている事だ。

「しかし……たった一体の魔族で国が一つ滅びるとは……。昨日の奴はランクでいったらどの辺りかわかるか?」
「恐らく最下級魔族です」
「は? あれで最下級?」
「はい。胸に星が一つしかありませんでしたので」
「星?」

 蓮太は魔族の姿をよく思い返してみる。見た目は人間に近く、肌の色は紫だった。そして鋭い伸縮する爪を持ち、背中にはコウモリのような羽が生えていた。それから確かに胸に黒い星型の刺青が彫られていた。

 その後のミリアリアによる説明で魔族のランクについて知る。

「魔族は星一が一般兵、星二が騎士級、星三で男爵級、星四で子爵級、星五で伯爵級、星六で侯爵級、星七で公爵級、星八で魔王級、星九以上は天災級となっています。この星最古の歴史によると、神々と天災級の激しい戦が数百年単位で続き、双方共に甚大な被害を被ったあげく、辛くも神々が勝ったそうです」
「おいおいおい……。ちょっと相手が悪すぎるな。まぁ確かに昨日のアレは雑魚も良いところだったが……神と喧嘩するような奴らに知られちまった事になるな」
「それはどうでしょうか……。ここ数百年一度も魔族が人間界で目撃された事はありませんでしたし……」
「人間界?」
「え? まさか知らない……とか?」
「すまんな、俺は貧しい場所で生まれてな。歴史関係や生まれた町以外の事は何も知らないに等しいんだ」
「も、申し訳ありませんっ。で、では私が詳しく教えていきますねっ」

 ミリアリアの話によると、まず蓮太達が暮らしているこの世界が人間界。そして次元の壁を隔て、上層に神々の棲む天界があり、また次元を隔て、人間の下層に魔族の棲む魔界が存在しているのだとか。

「次元の壁があるって事は簡単に往来出来ないよな?」
「はい。ですが一つだけ簡単ではありませんが、往来する方法はあります」
「ほう」
「この人間界にはバベルの塔といわれる巨大なダンジョンがあり、下に進むと魔界、上に進むと天界に行けるそうなのです」
「確かじゃないのか?」
「はい。人間は未踏破なので」
「なるほどなぁ……」

 つまり、魔族はそのバベルの塔を通り人間に来た事になる。人間が未踏破と言う事は、この世界の人間はあの雑魚魔族一体にすら勝てないと言う事だ。

「これ……人間詰んでないか?」
「いえ、人間にも魔族と戦える者達がおります」
「へぇ」
「それは教会が抱えている勇者といわれる存在です」
「勇者?」
「はい。この世界には様々な聖なる武器があり、それを教会が管理しています。その武器と呼応した者が勇者といわれ、魔族と戦えるようなるまで訓練施設で訓練を受ける事になります」

 ここでも教会が出てくる。蓮太は教会を成人の儀を執り行うだけの施設だと思っていたが、どうやら違うようだ。ミリアリアの話によると、成人の儀の際、あるスキルを持った人物を秘密裏に教会本部へと連れていき、そこで聖なる武器と対面させるのだそうだ。

「そうか! 成人の儀ってのは勇者を選別するための儀式って事か!」
「はい。本来スキルは生まれ持った力の他、様々な方法で身につける事ができます。成人の儀はその生まれ持った力を調べるために行われています」
「そういう事か……。だんだん世界の仕組みが見えてきたな」

 こうして仕組みを知った上で、蓮太はどう関わらないで生きていこうか必死に脳をフル回転させていた。魔族なんぞに関わった所で良い事など一つもない。魔族を倒せる勇者という存在があるのならばそれが対処すれば良いのだと本気で考えていた。

「魔族の天敵が勇者で、その勇者を育てているのが教会なんだな。すると……もしやバベルの塔は教会本部のある国にあるんじゃ……」
「はい。バベルの塔は教会が治めている国、【神聖国ナーザリー】にあります」
「権力の塊みたいな場所だな」
「そうですね。教会の力はなによりも大きいです。全ての国は教会に寄付を送り、国内に司祭を派遣してもらっています。司祭は魔族が現れた際、本国に報告しなければなりません」

 そこでふと思った。

「待て、バハロス帝国の司祭は?」
「魔族に殺されましたね」
「つまり……教会はまだ魔族が現れ討伐された事は知らないんだな?」
「そう……なりますね。なので唯一生き残った私が報告しなければならないのですが……きゃっ!?」

 蓮太はミリアリアの肩を抱いて真剣な表情でこう告げた。

「よし、ならもう魔族はいないんだから黙っておこうか!」
「えっ!? な、何故ですか?」
「考えてもみてくれ。魔族は聖なる武器を扱える勇者にしか倒せない。そんな魔族を俺はあっさり倒してしまった。つまりだ、俺の存在が教会にバレるとミリアリアと一緒にいてやる事ができなくなるかもしれないんだぞ」
「はっ! そ、それは困りますっ!」
「だろう? 幸いにも、甚大な被害は被ったが危機は去った。そして魔族の存在を知るのは俺とミリアリアだけだ。つまり、ミリアリアが黙っていてくれさえいれば俺達は争いに巻き込まれる事なく、平和に暮らせるんだ。わかるだろう?」
「は、はいっ! 今私が頼れる相手はレンタ様だけですっ!」
「そうだろうそうだろう。じゃあ今回の事は誰にも秘密だ。帝国の民は戦を怖れて各自隣近所の国に逃げた事にしてしまおう」
「わかりましたっ! そうすれば平和に暮らせるのですね!?」
「ああ。この土地はノイシュタットのモノになるが、お前はこれから俺の国に来てもらう」
「はい? レンタ様の国……?」

 蓮太はミリアリアの肩から手を離し、こう言った。

「エンドーサの森にエルフと獣人が集まった国がある。そこは聖王国エルフィリアといい、一応俺が王という事になってるんだ」
「エルフに獣人!? エンドーサにそんな場所が!?」
「……ああ、帝国は人間至上主義だったか。悪いがここ以外にお前の行く場所はないんだけど」
「大丈夫です。私は父と違い全ての種族は平等だと考えています。ですが……私の国は獣人から国を奪ってしまった国……。果たして受け入れてもらえるか……」
「そこは呑ませる。王は俺だからな。だから安心して良い」
「……わかりました。私の身はレンタ様に委ねます。どうかよろしくお願いいたしますっ」
「はいよ。じゃあ……ひとまずエルフィリアに行くか」

 こうして蓮太は魔族の件を公にせず、皇女を上手くだまくらかし、安全地帯であるエルフィリアに連れて行くのだった。
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