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第01章 転生編

10 殲滅者

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 しばらく待機していると国境が騒がしくなり始めた。どうやらヴェスチナ王国兵が到着したらしい。蓮太は気配を殺しながら様子を窺う。

《見張りご苦労》
《はっ公爵様! 異常ありませんでした!》
《うむ》

 買収された兵士が一際醜いオークに媚びへつらっていた。

《くくくっ、まさか国境の警備が機能していないとは思うまい。我らはこのまま無傷で国境を通過し、最初の町を占拠する。そうしたらその町は貴様らにくれてやるわ》
《い、良いのですか!?》
《構わんよ。ワシらが目指すは王都よ。小さい町や村などいらぬわ》
《あ、ありがとうございますっ!》

 進軍中に町や村を手に入れながら進む事などできない。仮に町を落としたとしても、その町から反乱が起きるからである。全て奪い殺すか、抵抗できなくなるまでなぶるかするしかない。今回の進軍は時間との勝負だ。最初の町が攻撃されればさすがにノイシュタット軍も動く。ただし出撃まである程度時間を稼げるため、最初の町を要塞に変える事は可能だ。

《よし、ではこのまま国境を通──》

 その時だった。一瞬目映い光に目が眩んだかと思った次の瞬間、爆炎がヴェスチナ王国軍を包んだ。

「な、何事だっ! くっ、ワシの軍が……」
「軍がなんだって?」
「むっ! こ、子ども……だと? も、もしや貴様がやったのか!!」

 蓮太はニヤリと嗤った。

「俺以外にいないじゃん。頭までオーク並み?」
「なぁっ!? こ、このガキィィィィッ!!」

 生きているのはこのオークのみだ。買収された兵士もヴェスチナ王国軍も最初の爆炎に巻かれ蒸発し消えていた。ではなぜこのオークだけが生きているのか。それは蓮太があえてオークにガードを施したからにすぎない。蓮太はそのガードを解除した。

「経験値ごっつぁんでした~。一気にレベル五十になっちまったよ。もっと連れてきてくれても良かったんだぜ? ははははっ」
「くっ、な、何をした……」
「何されたかもわかんなかったか。まぁいきなりだったしな。特別に教えてやるよ。俺が使ったのは大規模殲滅爆炎魔法【エクスプロージョン】だ」
「エ……エクスプロージョンだとっ!? それは魔法師団が束になってようやく放てる魔法ではないかっ! それを一人でだとっ!? バカを言うなぁっ!」
「本当なんだけどな」

 以前エレンには魔力が足りなければ強い魔法は放てないと説明を受けたがそれはこの世界の人間に限定される。蓮太に限ってはそのルールは適用されない。足りない魔力はスキル【前借り】でマイナス表記できる。現に今蓮太の魔力はマイナスだが、それも時間とともに回復している。蓮太に抜かりはなく、スキル【魔力高速回復】を作っていた。話をしていたのはこの回復時間を稼ぐためだ。

「ば、化け物めっ! ここは一旦退かせてもらうが……次に会ったら必ず殺してやるからなっ!」
「次? ははははっ、お前に次なんかねぇよ」
「なっ!」

 蓮太は【アイテムボックス】から剣を取り出しオークに向かって構えた。

「なぁ、なんでアンタだけ生かしたかわかる?」
「な、なんだと?」

 蓮太は後退りするオークにゆっくりと近づいていく。

「アンタの首をヴェスチナ王国に送ってやるよ。そしたら本格的な戦になるか、停戦を申し込んでくるか。ま、俺はどっちでも良いんだけどさ。来たら来たでまた同じようにこの崖に挟まれた細い道で殲滅するだけだしな」
「あ、あああ……悪魔の子めっ! 来るなっ、来るなぁぁぁぁぁっ!」

 オークは無様にも尻餅をつき、股を濡らしながら子どものように剣を振り回していた。

「まったく、余計な仕事させるなよ。俺はのんびり穏やかに暮らしたいだけなんだがな」

 だがやっている事は真逆だった。

「ひぃぃぃぃっ!」
「さあ、終わりだ。アンタん所の王様はどう出るかな? じゃあ……サヨウナラ」
「あ──」

 見えないほどの速い剣がオークの構えた剣ごと首を落とした。胴体からは噴水のように血が吹き出し、地面を赤く染めていく。

「よっと」

 蓮太は転がった頭を拾い凍結魔法で凍らせた。そして胴体は火魔法で焼却処分する。

「ちっ、たいした経験値持ってねぇな。今回はレベル五十止まりか。ま、良しとしておくか」

 それから蓮太はエレンが戻るまでに国境の門を補修し、近くの木にハンモックを設置し到着を待った。

「暇だな。もうちょい遊べば良かったか?」

 しばらく待っているとエレンが百人ほどの兵を引き連れ戻ってきた。いったい百人ぽっちで何をする気だったのだろうか。敵は一万近くいたというのに。

「レンタァァァァァッ! 無事かっ! どこにいるっ!」
「ここだここ」
「レンタ!」

 蓮太はハンモックから降りエレンの所に向かう。

「お、お前何をしているんだ? 買収された兵士達は? ヴェスチナ王国軍は?」
「もう終わってるよ。ほら」
「うっ! そ、それは……」

 蓮太はエレンに凍らせたオークの首を見せた。

「あ、あれはヴェスチナ王国の公爵じゃないか?」
「あ、ああ。あの醜さは間違いなく国王の弟だな」

 ざわつく兵士達の前でエレンが蓮太に問い掛ける。

「や、殺ったのか? 買収されたやつらは?」
「全員消し飛ばしてやった。もう仕事は終わり」
「ひ、一人で解決したのかっ!? 敵はそんなに少なかったのか?」
「いや、一万はいたな」
「は、はは……。はははははっ! さすがレンタだっ! まさか私が駆け付ける前に全て終わらせるとはなっ!」
「さっさと帰ろうぜ。あと、国境は信頼できる兵士に守らせた方が良いぞ」
「ああっ、もちろんだ。今度はちゃん給料も個人に手渡しする。お前たち、ここを頼むぞっ!」
「「「「ははっ!」」」」

 エレンは引き連れてきた兵士達をそのまま国境の警備に回した。

「さあ、凱旋だ。戻って父上に報告しなければな。レンタ、よくやってくれた」
「ああ。もう疲れたよ。帰って寝たいわ」
「はははっ、じゃあ帰ろうか。私の馬に乗ってくれ」
「ああ」

 こうして蓮太はノイシュタット王国の危機を救い、翌日報告を受けた王が蓮太を呼び出した。

「騎士レンタよ、この度の功績は多大なものである。よって爵位を準男爵とし、引き続きエレンの護衛に付ける。異論ないか?」
「ははっ、ありがたく賜ります」
「うむ。よくやってくれた。今後ともよろしく頼むぞ」
「はっ」

 蓮太はエレンをチラリと見る。すると一人クスクスと笑っていた。

「ふふっ、一つ爵位が上がったな、レンタ」
「そうですね」
「この後部屋に来い。褒美を与えよう」

 そう言ったエレンの顔は実に艶のある顔だった。
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