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第7章 東の大陸編

08 判決

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 今日で約束の一週間となる。ロデオは幾度となく瀕死に陥りながらもなんとか耐え抜いてきた。ここまで耐える事が出来たのは奇跡といえる。

「昨日はさほど石を投げられなかった。あの糞冒険者達がまた来て酷く汚されたくらいだ。……まだ耐えられる。今日の昼だ、昼まで耐えたら俺は解放されるんだ。後一時間……! 一時間だけ耐えきればっ……!」

 今日はいよいよロデオが解放される日だ。今まで散々投石していた住民達はいつしか石を投げるのをやめ、近づく事すらなくなっていた。流石に可哀想だと思ったのか、あの少女が優しさを見せた事で自分の行いを恥じたのかはわからないが。

 だが、中には遠慮なく痛めつけにくる者もいる。そう、こいつらだ。

「よぉ? 今日で磔の刑も終わりらしいじゃないか? いつもよりち~っと早いけどよ、祝いに来てやったぜ?」

 いつも夕方前に来る冒険者達がいた。

「今日で最後なんだよな?だからよ、今日は特別なプレゼントを用意して来たんだ。まぁ……受け取れや」

 冒険者は笑いながらそう口にし、中で何かが蠢いている袋を鞄から取り出した。それをロデオの前に突き出す。 

「こん中にはよぉ、ムカデやら何やら気持ち悪~い蟲がいっぱい詰まっててよ? 集める時、ち~ぃっとばかり気持ち悪かったが、お前の為に頑張ったんだぜ? この俺がよ?」

 ロデオは下卑た笑いを浮かべる冒険者を見下ろしながらこう言い放った。

「……糞が」
「ひゅう、今日はやたら元気じゃねぇの? 怪我も少ねぇみてぇだしよ?」

 取り巻きの男が頭の男に告げる。

「アニキ、街の奴ら皆飽きたみたいでさぁ。最近は誰も近付いてませんぜ」
「んーだよ。じゃあ俺が皆の代わりにやってやんなきゃなぁ~? おい。誰か奴の足元に火を起こせ。今から奴の身体に蟲を投げるからよ。奴らは自然と火から逃げる為にアイツの身体ん中に入ろうと……」

 だがその企みは陽が真上に昇った瞬間潰える事となる。男の背後から声が掛かった。

「お前が食らえよ。この人間のクズが。【次元転送】」

 突如男の背後に現れたローグは蟲入りの袋を持った男をジュカからもらったスキル【次元転送】でとある場所へと送った。

 そして残った取り巻き二人に一緒に来ていたゴートが言い放つ。

「時間だよ。これより先、こいつに手を出したらただの犯罪者だ。お前ら、冒険者登録抹消されたいのか?」

 それを聞いた取り巻き達は叫びながら蜘蛛の子を散らすようにその場から消えて行った。

「「す、すいませんでしたぁぁぁぁぁっ!!」」

 それを見届けたローグはロデオを地面に降ろし、傷を回復させ全身を綺麗に洗浄してやった。久しぶりに自由になったロデオは全身の凝りを解していく。

「よく耐えたねロデオ。ま、ギリギリで助かるように監視をつけてたんだけどね。もし本当にヤバそうだったら助けるつもりだったんだけど」
「……なぜだ。私は魔族だぞ? また人間を苦しめるとは思わなかったのか?」
「魔族にも色々いるのはわかってるよ。アスラも改心したし、俺の仲間にはジュカやワルプルギスもいるし」

 ロデオはその名を聞いて青ざめた。

「ジ、ジジジジジュカっ!? あ、あの空間使いの!? アイツが人間の仲間に!? あ、ありえん!」
「嘘じゃないよ。会わせてあげようか?」
「い、いいいいいや、今はいいっ! それより……私はこれからどうなるのだ?」

    その問い掛けにゴートが答える。

「とりあえずだ、お前の罪は精算された。だが、この街に置いておく事は出来ん。街からは追放、今後一切の立ち入りを禁止とする」
「そ、それだけ……か? 自分で言うのも何だが、私はお前達をかなり苦しめたはずだ。それが磔の刑に耐えただけで精算だと? バ、バカか!?」

 困惑しているロデオにローグがこう告げる。

「俺が引き取る事で罪を軽くしたんだよ。お前にはこれから俺の国に来てもらう。ジュカの下で人間について一から学べ。あの少女の優しさに触れてわかっただろ? 人間には色んな奴がいるってさ。良い奴、悪い奴、無関心な奴、人間には様々な者がいる。俺だって悪い奴は殺す事もある。だがそれは正しい事だと自分で納得してやっているんだよ。そこに後悔なんて微塵もない。お前はどう考えた?」

    そう問い掛けるローグにロデオが答える。

「わかっているさ。あれから散々考えた。私を助けるように願った人間がいた、私を毎日いたぶりに来た人間もいた。だから私はこう考えたのだ。これからは私を害する人間だけを苦しめてやろうとな」
「まぁ……、そうなるよね。なら良い人間に対してはどうだ? 助けになりたいとか、恩を返したいとか思わない?」
「それは……思うさ。だが、俺にはお前みたいな特別な力はない。助けてやりたくても無理だ」
「そんな事はないさ。力はなくともお前には頭があるだろう? その頭脳を使って悪人だけを懲らしめたらいい。俺は北の大陸を同盟で結んだが、それでも悪い奴らってのはどこにでもいる。正直手が足りないんだ。もし、お前が良い人間の助けになりたいと願うなら、俺がお前を拾ってやるよ。どうだ? 一緒に来てその頭脳を貸してくれないか?」

 この誘いにロデオは悩んだ。仮に断ったとして野垂れ死ぬのは目に見えている。それなら悪人を苦しめる為に力を貸すのも悪くないのではと。

(何だかんだと目の前のこいつは私を何度も助けてくれたし、あの糞冒険者も追い払ってくれたんだよな……)

 考えをまとめたロデオはローグを真っ直ぐ捉え、こう言葉を口にした。

「わかった、もう無闇に人を苦しめる事はしない。これからはしっかり対象を見極める事にする。そして、貴方の力になると約束しよう」
「そうか、アスラ! こっちへ」
「はいは~い」

 建物の屋根からアスラが降りてきた。監視に回していたのはこのアスラだった。

「終わったの?」
「ああ。それで、お前達二人をこれから俺の国に連れていく。そこで少し教育を受けてもらおうと思う。行くよ、俺に掴まれってくれ」
「「はい」」

 ローグはロデオとアスラが手にしっかりと掴まった事を確認し、ジュカのいる場所へと転移した。

「ジュカ」
「あら? ローグ様……と、あなた達は……アスラとロデオ?」

 ジュカに名前を呼ばれたロデオはビクッと青くなり、下を向いていた。平気なのはアスラだけだったようだ。

「久しぶり~ジュカ。ねぇねぇジュカさ~、ローグとバトった?」
「もしかしてあなたも戦ったの?」
「まさか。戦う前に魔族だってバレてたし、それに……勝ち目なさそうだったからやめた」
「あなたは昔からそう言うとこあったわねぇ」
「あ、でも水竜の呑んだくれには勝ったよ」
「水竜に? 凄いわね」

 ローグは自分と同じ勝ち方をしたアスラに何も言えなかった。

「ところでローグ様、確か東の大陸に行っていたのでは?」
「あ、あぁ。実はジュカにこのロデオとアスラをつけて人間界について教育させようって思ってさ」
「私に……ですか。それは無理ですね」
「なぜ?」

 するとジュカがローグに抱き着いてきた。

「私も旅がしてみたいのです! 二人の教育なら私より人間に頼んだ方がよろしいと思いますわ。そうですね……、ワルプルギスがなついているゾルグさん辺りなら面倒を見てくれるかと」
「ゾルグか、なるほどね。確かに魔族は一括りにしておりいた方が良いかな。ジュカ、ゾルグ達を呼んできてもらえるかな?」
「かしこまりました」

 数分後、ジュカがゾルグとワルプルギスを連れて戻ってきた。

「ローグ、俺に話があるんだって?」
「ああ」

 するとロデオの姿を見たワルプルギスがはしゃぎ出した。

「お~、ロデオじゃないか! 久しぶりだな、まだ弱いままか?」
「ワルプルギス……。あなたこそまだ頭の悪い辻斬りなんて真似してないでしょうね?」

 そう言い合いながらも二人は握手を交わしていた。どうやら仲は良いらしい。

「ゾルグ、新しく仲間が増えた。あの二人は魔族だが悪い奴らじゃないからさ」
「また魔族か。ローグ、お前魔族に優しすぎじゃないか?」
「別に優しくしてるつもりはないんだけどね。リューネみたいに暴れて反省しないならともかく、こいつらはちゃんと反省して勝手に暴れないって誓わせてるからね。そうじゃなかったら倒してるよ」
「まったく……。で、俺に話とは?」
「うん。ワルプルギスもなついてるようだし、ゾルグにはあの二人の面倒も見てもらえないかなと」
「はぁぁ……。これまた面倒な。ワルプルギスだけでも修行の邪魔だと言うのに」
「そう言わないでさ、頼むよゾルグ。ゾルグにしか頼めないんだよ~」

 ローグに懇願され満更でもないゾルグは仕方なくロデオ達を引き受ける事にした。

「わかったわかった。俺が面倒見てやる」
「さすがゾルグだ。頼りになる!」

 そしてローグはロデオに言った。

「じゃあロデオにアスラ。これから君たちはこのゾルグについて人間について学んでくれ」
「ああ、わかった。ローグ殿、微力ながらこのロデオ、人間について学び、貴方の国のために尽力しましょう」
「よろしく頼むよ。じゃあジュカ、アクアをあっちに待たせてあるからもう行こうか?」
「はいっ! うふふ……ローグ様との旅、楽しみですわっ」

 こうして魔族二人を新たに仲間に迎え、ローグはジュカを連れてイムトスへと戻るのであった。

──一方その頃、ローグに飛ばされた冒険者の男はというと──

「ど、何処だよここ……暗くて何も見えねぇ……。それにさっきから何かカサカサと気味の悪い音が……」

 男は暗闇の中足を一歩踏み出した。

──ブチュッ──

「ひっ!? い、今何か踏んだ!?」

 男は思い出したかのように慌てて鞄を探り、そこから松明を取り出し火を灯す。その次の瞬間。

「ぎ、ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! はっ、し、しまっ……!」

 そこは一面蟲だらけの部屋だった。地面や壁は蟲が絡まりあって蠢き、空中も見たことが無い気持ち悪い蝶が飛び回っていた。その蟲達は、彼が叫んだ瞬間、彼を敵と認識し、排除する為に一斉に襲い掛かってきた。

「くっ、来るなぁぁぁぁっ! あ、あっちいけっ!!」

 男は錯乱しながら松明を振り回しながらなんとか蟲を追い払おうとしたが、蟲は四方から次々と襲い掛かり、男の全身は一瞬で蟲だらけになった。最初に噛んだ蟲が男の身体を麻痺させ、肉食の蟲達が全身を次々と噛み千切っていく。男は生きたまま全身を蟲に食われ、ショック死した。やがて、全てを食べ尽くした蟲達は彼から離れ、辺りはまた静寂を取り戻した。男は何の因果か、自分でしようとした行動が自身の身に振りかかって死んだのであった。
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