スキルは見るだけ簡単入手! ~ローグの冒険譚~

夜夢

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3巻

3-3

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「そうか! 何もわざわざ手を下さなくても、人間達が欲のまま好き勝手に暴れ、負の気をばらいていれば、魔王が復活してしまうのか! たった十人の魔族でどうするのかと思っていたら、そういう事だったのか!」
「理解したかしら? 私は、魔王が復活して蹂躙じゅうりんを始める前に、良い男をこの空間に囲って楽しむ事にしたの。ここにいれば、たとえ魔王でも手を出せない。あなたも私とここで暮らしましょう? 私にはわかるわ。あなた、本当の力を隠しているわよね?」

 ジュカはふわりと空中に浮かび、ローグから離れた。

「お前は人間を害さないと言うのか?」
「私は人間なんてどうでも良いの。ただし、良い男は例外ね。こうして眺めているだけでも幸せになれるもの」
「そうか。ちなみにだけど、この空間を作っているのはスキルだよな? 時間の流れは?」
「もちろん、スキルよ。【亜空創造あくうそうぞう】っていうの。便利よぉ~? 時間の流れは現実の一万分の一、ここでの一秒が外では一万秒。つまり、およそ二時間四十六分経っているってわけ。さて、あなたがここに来てから何秒経ったのかしら? うふふふっ」


 スキル【亜空創造】を入手しました。


「それは考えたくないなぁ。では、そろそろここから出るとしよう。【亜空創造】」
「え?」

 ローグがジュカのスキルを使用すると、亜空間に出口が現れ、捕まっていた男達も一緒に現実空間に戻った。

「バ、バカな! 私の空間がっ!?」
「ここまでだ、ジュカ」

 ローグは【空間移動】でジュカの背後を取り、首に手刀しゅとうを落とした。

「かはっ……! あ、あなた……!」
「残念だが、俺にはやらなければならない事があるし、帰りを待つ者がいる。ここで長々とお前に付き合ってやる暇はない。このまま魔界まかいに帰り、二度と人間を攫わないと誓うなら助けてやる。従わないなら、お前のコアを貫いて終わりだ。どうする、ジュカ?」

 ジュカはローグに恐怖した。本能が逆らってはいけないと警告している。ジュカは自慢の空間内で初めて敗れ、力の差をまざまざと見せつけられた。
 死にたくないジュカは、必死になって助けを乞う。

「わ、わかったわ……もう人間は攫わないし、あなたに従います! 従うから……助けてっ! お願いよっ!」
「ふうっ、じゃあジュカは今から俺のモノだ。絶対服従だよ? 俺の許可なく力を使ったら、酷い目に遭わせるからね?」
「は、はいっ!」

 ローグはジュカの手を取り抱き起こす。
 ジュカは空間内では最強のはずだったが、相手も空間系のスキルを使うとなると話は変わってくる。一方的に空間内を移動し、死角を突いて攻撃出来なければ、地力じりきがそんなに強くないジュカは十魔将でも下位となるのだ。

「ジュカ、一緒に来てくれ。君の事を仲間に説明しなきゃならないからな」
「わ、私より強くて格好いい男……素敵っ! ええ、どこまででもついて行きますともっ!」

 こうして、ローグはジュカを下し仲間にした。
 攫われていた男達は、空間内に入ってからの記憶をジュカが綺麗に消し去り、冒険者ギルドの前に放置した。


 スキル【記憶操作】を入手しました。


「お前、十魔将のスキルは一人一つって言わなかったっけ?」
「ああ、あれは最低一つって意味ですよ? 曖昧あいまいな言い方で申し訳ありませんでした」
「全く……もう隠しているスキルはないよな?」
「はい、ありません。ご主人様!」

 いきなりのご主人様呼びに、ローグはがくりと肩を落とした。

「な、なんだよ、ご主人様って!?」
「あなたはこれから私を使役しえきするのですから、そう呼びましたが、ダメでしたでしょうか?」
「はぁ……まぁ、いいや。ほら、行くよ?」
「はいっ! ご主人様ぁっ!」


 ローグはジュカを連れて宿へと戻った。宿の入り口に着くと、ローグの姿を確認したジュリアとコロンが駆け寄ってくる。

「ローグ! あなた一ヶ月もどこに行ってたの!?」
「そうよっ! めちゃくちゃ探したんだからねっ! それがまさか……この浮気者ぉぉぉぉっ!」

 ローグがジュカを連れているのを見たコロンが、右ストレートを放つ。だが、ローグは余裕でそれを受け止める。

「一ヶ月……そんなに経っていたのか。すまない、実は少し時間の流れが違う場所にいたんだよ。例の行方不明者が出る事件を解決してきたんだ。断じて浮気なんかじゃないよ。先に、この宿にいる冒険者達に、消えた仲間の事を伝えないといけないから、少し待っててくれるかな?」
「行方不明……あ、もしかして!」

 ジュリアはジュカを見て、あらかた気付いたようだ。
 それからローグはジュリア達を待たせ、仲間を攫われていたパーティーに声を掛け、仲間が無事救出された事、冒険者ギルドで待っている事を伝えた。
 すると彼女達はローグに礼を述べ、すぐさま冒険者ギルドへ走っていった。彼女達の背を見送りつつ、コロンがローグに向かって言う。

「さて、何があったのか事情聴取といきましょうか? ローグ?」
「あぁ。部屋に行こうか」


 ローグは二人を連れ、部屋に入った。そして事の顚末てんまつを一から説明していった。

「……この人が魔族でこれから仲間? 大丈夫なの? 危険はないの?」
「私は最早もはやご主人様のこま無闇むやみに力を使う事はありません。安心してくださいませ」

 コロンは一応納得した。ローグが仲間にすると言ったのだから、おそらく危険はないだろうと信用しての事だ。その一方で、ジュリアは警戒を続けていた。
 ジュカの事は時間が解決してくれるだろうと思ったローグは、三人にこれからの予定を告げる。

「さて、今回の件は一応本部からの依頼だったし、解決の報告に行かないとな。けど、ジュカの事は秘密にしておく。あまり騒ぎにしたくないからね。その辺はボカして説明してくるとしよう。で、その後はいよいよムーラン帝国に向かう。ジュリア、心の準備は良いかい?」
「うっ……またあのクソ皇子に会うかもしれないのね……でもローグがいるから大丈夫! きっとなんとかなる! さあ、行きましょう!」
「じゃあ、俺はギルドに報告してくるから、その間ジュカを頼むよ。ジュカ、もし二人に危険があった場合は、スキルの使用を許可する」
「かしこまりました。いってらっしゃいませ、ご主人様」


 †


 ローグは一人ギルド本部へ報告に向かった。
 ギルド本部には、調査した結果、犯人はサキュバスで、冒険者達は廃墟はいきょとらわれていたと伝えておいた。

「なるほど、犯人はサキュバスか。ならば、記憶が曖昧あいまいなのも納得だ。彼らも綺麗な女に声を掛けられてから、記憶がおぼろげだと言っていたしな」
「犯人は倒したから、もう二度とこの事件は起きないでしょう」
「そうか、助かった。それで、アースガルドにギルドを設置したいと言っていたが、誰かギルドマスターのあてはあるのか?」
「いえ、ありません。その、俺じゃダメなんですか?」

 本部のギルドマスターは眉根を寄せる。

「お前さんはこれから世界を回るのだろう? ギルドマスターは、即座に緊急事態に対応出来るように、ギルドに常駐してもらわねばならんのだ。一国の王であり、ゴッドランク冒険者でもあるお前さんには難しいだろう? 書類仕事とかもた~んまりとあるしな?」
「なっ!? それは困ったな……」
「そこでだ、一つ頼みがあるのだが」
「何か?」

 すると本部のマスターは、部屋に三人の女性を呼び込み、ローグに紹介する。

「次期本部の幹部候補達だ。彼女達を君の街に送りたい。セフィラ、挨拶を」

 セフィラと呼ばれた女が前に出て、ローグに頭を下げながら自己紹介する。

「初めまして、ローグ様。私はセフィラ・チャームと申します。冒険者の最終ランクはプラチナ。以降は、この本部にて次期幹部となるため、日々研鑽けんさんを積んでおりました。ギルド関連の事なら私にお任せください。何から何まで全て取り仕切ってみせます」

 セフィラの歳はまだ若いように見えた。眼鏡めがねを掛け、冒険者というよりは研究者といった感じだ。その後ろに並ぶ二人も、冒険者と呼ぶには線が細い。

「その若さでプラチナ……か。中々優秀みたいだね」
「いえいえ、私はもう二十五ですよ? ローグ様こそ、その若さでゴッドランクでしょう?」
「それもそっか。では、アースガルドに作るギルドは、セフィラ、君達に任せる。いつから来られる?」
「今すぐにでも行けますよ。こうなると予想しておりましたので、準備は済んでいます」

 そう言い、三人は魔法のかばんを掲げた。

「ははっ、全部わかってたって事か。まぁ確かに考えが足りなかったよ。ではマスター、彼女達をアースガルドで預からせていただきます」
「ああ。お前達、しっかり頼むぞ。次期ギルド本部は、アースガルドになるかもしれんのだからな。なまけずはげめよ?」
「「「はいっ!」」」
(ちょ、アースガルドに本部を置くとか聞いてないぞ)

 いきなりそう言われ、ローグは戸惑いながらマスターに問い掛ける。

「マスター。今の本部の話、初耳なんですけど?」
「はははっ! まぁ、いいじゃないか。ゴッドランクで所在がわかってるのはお前さんしかいないんだからな。何かあってもすぐに頼れるように……ってな?」
「上手いように使われる気しかしませんね……まぁ、平和のためならいいんですけど。では、仲間に話を通しに行きましょうか」

 ローグは宿へ戻り、セフィラ達をジュリアとコロンに紹介した。
 その後ローグは、先にセフィラ達をアースガルドへ送るため、ジュリア達をそのまま宿で待機させ、アースガルドへ転移していった。


 †


 アースガルドへやって来たローグとセフィラ達。

「はい、到着。ここが俺の国アースガルドだよ」
「「「うわぁ……綺麗な街……」」」

 セフィラ達はアースガルドの街並みを見て、感嘆の声を上げた。
 バロワ聖国は水の都と呼ばれる首都を持ち、美しさを売りにした国だったが、ここアースガルドはそれとはまた違う美しさできらめいていた。

「この地面何かしら……石畳いしだたみとは違うよね?」
「建物なんかも初めて見る作りだよぉ」
「綺麗な街ですね。嫌なにおいもしませんし、清潔さがうかがえます」
「俺の国の家具は全て魔導具だからね。トイレは全家屋水洗で、ゴミ箱はゴミを入れたらその物の価値によってお金になる仕組みなんだ。トイレは公園にも設置してあるから、野外で~なんて事は一切ないんだよ。後でゆっくり見て回ると良いよ。さ、行こうか」

 メインストリートを真っ直ぐ進むと、セフィラ達の前に、これまで一度も見た事もないような巨大な塔が現れた。

「はい、到着。一応建物は作ってあったんだ。冒険者ギルドはこのビルの二階部分でお願いしたいのだけれど、それで良いかな?」

 セフィラ達は目の前にある巨大な建造物を、揃って見上げていた。

「な、何これ……塔?」
「タワービルだよ。この一棟に、冒険者ギルドや商業ギルドなんかの全てのギルドを入れようと思ってね。その方が色々歩き回らなくても良いから楽でしょ? 中へどうぞ?」
「し、失礼します……」

 セフィラ達は中に入り、さらに驚いていた。

「広いし……明るい? 見た事のない綺麗な作りね」

 ビルの中は、ローグが異世界の知識から引っ張り出した蛍光灯がともっており、隅から隅まで明るかった。
 なお、この世界に電気はないため、代わりに『魔雷石まらいせき』を使っている。魔雷石は魔力を流すだけで電力を生み出せる。この魔雷石にドワーフ特製のリミッターを取り付け、電気の代わりにしてあるのだ。
 これは、若い女性や子供でも働ける場はないかと考えたうえで、用意したものだ。この世界に生きている者は誰も彼もが魔力を持っている。この魔力充填システムで、誰でもお金を稼げるようにしていた。
 続いてローグは、セフィラ達を冒険者ギルドを設置する予定のビルの二階へ案内した。ちなみに、一階部分はエントランス兼アースガルドの案内場にする予定だ。

「じゃあ、もし不足している物があったら、城に申請してくれ。そうすればドワーフが来るからさ。不足な物は、そのドワーフに依頼を出して、作ってもらってね。で、開業準備が整ったら、城にいるフローラ業務代行に伝えてくれ。いつでも開業してくれて構わないからね」
「はい! 冒険者達への依頼や交渉等は私達が行いますので、ローグ様はたまに様子を見に来ていただければと」
「わかった。時間が出来たら顔を出すよ。それじゃあ、よろしく頼んだよ? 【転移】!」

 ローグはセフィラ達にギルドの設営を任せ、再びバロワの宿屋へ戻った。
 彼は次のように考えていた。
 ギルドを深く知りもしない素人しろうとがあれこれ口を出すより、最初から全て玄人くろうとに任せた方がスムーズに事が運ぶ。決して自分が忙しいからと丸投げしたわけではないと。
 これだけは大事なので確認しておきたかった。



 第二章 ムーラン帝国



 ローグが宿に着くと、コロンが出迎えてくれた。

「おかえりローグ。ギルドはどうなったの?」
「あぁ。まだ準備の段階だよ。完成はもう少し先かな。それより、この国にはもう用事はないかな? ないなら、次の目的地であるムーラン帝国へ向かうけど?」
「ないない。あるわけないじゃない。私達はローグが消えてから一ヶ月近くもこの街でブラブラしてたのよ? もう見る場所なんてないわよ。ね、ジュリア?」
「うん。でも……あぁぁ、やっぱり行きたくないよぉぉっ」

 よほど嫌なのか、ジュリアは駄々をこね始めた。
 そんなジュリアを、コロンが説得する。

「大丈夫よ、ジュリア。私もいるんだし。もしムーランの第一皇子が何かしてきたら、私が盾になってあげるよ。なんたって私は、神国アースガルドの第一王妃だからねっ。そんな相手に迂闊うかつな真似はしないでしょ?」
「コ、コロン~! 絶対に私の側を離れないでね?」
「うんうん。さ、ローグ。そろそろ出発しましょ」
「そうだな。ま、何かあったら俺も動くからさ。大船に乗ったつもりで気楽に行こう」
「ローグ……う、うん!」

 そう意気込む中、ジュカは色々想像しているようだ。

「ふふふ、ムーラン帝国ですか。良い男いるかしら?」

 ジュカには人間に手を出さないように改めて注意しておくとしよう。ローグはそう思いつつ、宿を出て馬車の発着場へ向かって歩く。

「じゃあ、ムーラン帝国へ向かおうか。また馬車で良いよな?」

 地理に明るいジュリアが答える。

「そうね。街道に沿って行けばそのうち見えるから、着いたらまず私の実家に行きましょう」
「わかった。じゃあ、出発するか」
「「「お~!」」」


 ローグ達は、ムーラン行きの馬車に乗り、一路ムーラン帝国首都へ向かった。馬車での移動中、ジュリアがローグに問い掛ける。

「ねえ、ローグ? バロワ聖国は同盟に誘わなくても良いの?」
「バロワは少し特殊な国でね。世界中に支部を持つギルドの本部が置かれているせいで、全ての国に対して中立でなければいけないんだよ。仮に、このバロワ聖国がどこか一国に肩入れしたりすると、国際情勢のバランスが崩れて戦争になってしまうんだ。だから、誰もあの国に手を出してはならないという決まりになってるんだよ。ま、世界全てを敵に回してもいいなら構わないけどね?」
「へぇ~」

 今度は、ローグが彼女の出身国ムーラン帝国について質問する。

「それよりさ、ムーラン帝国ってのはどんな国なの? ジュリアからは皇子がとんでもない悪党って話しか聞いていないんだけど」

 ジュリアはムーラン帝国について話し始める。

「地理に関しては、バロワ聖国の南に位置してるわ。国の東側は大きな砂漠地帯になっているの。古代遺跡がどこかにあるらしいけど、今のところ誰も発見出来ていないわ。私の実家があるのは、西側にある首都ナイルよ。首都は緑豊かな所にもかかわらず、大きな塩湖えんこがあるの。主な産業は塩加工かな。南側は海に面しているから、漁業なんかも盛んに行われているわね」
「なるほど。塩の加工業に漁業ね。さらに隠れた遺跡があるかもしれないと。中々いい土地じゃないか。もし本当に遺跡があるなら、冒険者向きの土地だね」

 ローグはさらに質問する。

「モンスターは出たりする?」
「砂漠地帯はね。そのせいもあって、遺跡の発掘作業がいまいちはかどってないのよ」
「へぇ。じゃあ、討伐クエストなんかも沢山あるんだろうね。しかし遺跡かぁ。もしかして……竜、いるかな?」
「誰も発見してないから、なんとも言えないかな。もしかしたらいるかもね。砂の中なら、滅多な事じゃ外敵も侵入出来ないだろうし。もし詳しく知りたいなら、砂漠の民に尋ねると良いわ。砂漠の民は、昔から砂漠の中で暮らしているしね。遺跡の大体の掘削位置も、砂漠の民が教えてくれたのよ」

 そんな話をしていると、いつの間にかバロワ聖国とムーラン帝国の国境が見えてきた。馬車が国境で止まり、ムーラン帝国への入国の列に並ぶ。

「次の方、どうぞ」

 そう呼ばれ、馬車は国境を守る兵の所へ行く。

「身分証はあります……て、これはジュリア様っ!! し、失礼いたしましたっ!」

 兵士はジュリアの顔を見て、頭を下げた。
 ローグはその光景を見て、改めてジュリアを見る。

「お前……本当に偉かったんだなぁ……」
「本当にって何!? 見たらわかるでしょ! 見てよ、この気品溢れるオーラ!」

 その叫びに、ローグ、コロン、ジュカは三者三葉の答えを返した。

「気品? 溢れる?」
「あ……うん。大丈夫! 私には見えるから! あは、あははは……」
「失礼、私普段は目を閉じていますので……」
「な、何よっ! みんなしてっ!? ふんっ!」

 兵士が申し訳なさそうにジュリアに尋ねる。

「あ、あの~、ジュリア様? そちらの方々は?」
「新しい従者よ」
「おぉ、そうでしたか!」

 ジュリアの言葉にローグが突っ込む。

「誰が従者だよ!? ごほんっ! 俺はゴッドランク冒険者兼神国アースガルド王のローグ・セルシュ。はい、これ身分証ね」

 ローグは兵士にギルドカードを提示した。兵士はそれよりも、神国アースガルドの王という立場に驚いていた。

「し、ししし神国アースガルド!! あの神が自ら建てさせた国! な、何故そんな国の王がジュリア様と……!」
「あ、あはは……実は私ちょっとやらかしちゃってね。死にかけていたところを、このローグ王に救われたのよ。で、今は私の師匠ししょうになってもらってるの」

 兵士はローグの顔とジュリアの顔を見る。

「よくぞご無事でっ……! ローグ王、ジュリア様を救っていただき感謝いたします!」

 そう頭を下げた兵士は一呼吸置き、ジュリアに国の事情を語り始めた。

「ジュリア様、ムーラン帝国内は今後、大変な事になるかもしれません……」
「大変な事? なんで?」

 兵士は神妙な面持ちで、国内の情勢について語る。

「実はですね、ジュリア様が姿をお隠しになってから、あの豚……皇子は前にも増して色んな女性達に手を出し、その苦情が各地を治める貴族達のもとに届いております。すでに国内の貴族は皇族を見限っており、もしかしたら近いうちに、ムーラン帝国は内乱になるやもしれません……」

 それを聞き、ジュリアは呆れた様子を見せる。

「は、はぁ? あ、あの皇子……そこまでバカだったの!? 皇帝は? 皇帝は息子に何も言わないの!?」
「はっ。それが現在、皇帝陛下は病で床に伏しておりまして……それで、今は代行でトング第一皇子がまつりごとを取り仕切っているのです。まぁ、実際に動いているのは、大臣や補佐官達なのですが。皇子は最近は気が大きくなっており、何を仕出かすかわかりません。正直もうついて行けませんよ」

 ローグは、兵士とジュリアの会話を聞き、唖然あぜんとしていた。

(は、話には聞いていたが、兵に見切りを付けられるほど酷いとは……)

 ジュリアがローグに困った表情で尋ねる。

「ロ、ローグ……どうしよう? このままじゃムーランが内乱になっちゃうよ!」
「どうしようって俺に言われてもね……俺が関わったら他国への内政干渉となり、さらに争いの種をくだけだし……」

 コロンがローグに言う。

「ねぇ、皇帝の病は治らないの? 私のお母さんみたいにさ?」

 言われてローグは思い出した。今は元気になっているが、コロンの母バレンシアもかつて病に苦しんでいた。

「それだ! ねぇ、皇帝の病は何?」

 ローグが皇帝の病を尋ねると、兵士は言いづらそうにする。

「申し訳ありません。我々一般兵にはそこまで知らされておりませんので……なんとも。神官なら知っているかと思いますが」

 神官と聞き、ジュリアが何か思い浮かんだらしい。

「……ミルナなら何かわかるかも!」
「ミルナ? 誰だ?」
「私にアースガルド行きを勧めてくれた友達よ。首都ナイルにある神殿にいるわ。首都に着いたら、実家じゃなくてすぐに神殿の方に行きましょう!」
「わかった。あ、兵士さん達も色々と情報をありがとう。確約は出来ないけど……なんとか争いにならないようにしてみせるからさ。自棄やけにならないで、職務を続けてほしい」
「はっ! どうかジュリア様とこの国をお願いいたします!」
「ああ。ジュリア、少し急ごう」
「そうね。内乱になってからじゃ手遅れになるかもしれないし……急ぎましょう!」


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