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3巻

3-2

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 †


 ローグが城に戻ってから二週間後。
 ギルオネス帝国での後始末を終えたゾルグが、アースガルドに帰還した。ローグは、帰ってきたゾルグから貴族達がどうなったのかを聞く。

「まずベルド伯爵は反逆罪、違法奴隷売買、殺人未遂罪で死刑だ。また彼の一族も犯罪奴隷落ち、爵位と領地は没収となった。次いでロンド男爵だが、彼は違法奴隷売買、殺人未遂罪、それと調べたら横領おうりょうが発覚したので横領罪と脱税、諸々含めて死刑だ。彼の一族もまた犯罪奴隷に落とされた。さらに爵位と領地は没収だ。最後にミゲル男爵、彼は素直に罪を認めて抵抗しなかった事から、違法奴隷売買の罪だけとなった。罰は爵位と領地の没収、本人のみ犯罪奴隷落ちとした。以上だ」

 ローグはゾルグの報告を黙って聞いていた。聞き終わると、ゾルグにこう告げる。

「ずいぶん早く終わったんだね? 正直もっと掛かると思ってたんだけど」
「ああ。実のところ、すでに内偵ないていは済んでいたのでな。闇ギルドのアジトに購入者リストもあった事から、奴らも言い逃れが出来なかったんだよ」
「そっか。じゃあ全て片付いたんだね?」
「いや、それがな……空位くういとなった爵位と領主を選定せねばならぬから、俺はしばらくギルオネス帝国に滞在する事になった。すまないが、バロワ聖国には俺抜きで行ってもらえるだろうか? 俺は事が片付いてから、アースガルドへ戻ろうと思う」
「わかった。理由がそれじゃ仕方ないね。俺はゾルグとの旅を楽しみにしていたんだけどなぁ。ま、事情が事情だし……また今度誘うよ」

 ゾルグは本当に残念そうにしながら頭を下げる。

「すまんっ! 本当は行きたいのだが、まだ弟だけに任せるには、奴は力不足でな……申し訳ないっ!」
「ははっ、あまり気にするなって。機会はいくらでもあるだろうからさ」
「あ、あぁ! 次こそ必ず……!」


 その翌朝、ローグはフローラに別れを告げ、ゾルグをギルオネス帝国へ【転移】で送り届けた。そしてジュリア、コロンと共にバロワ聖国行きの馬車に乗り、東へ向かう。
 ジュリアが不意に言う。

「移動っててっきり歩きかと思ってたら、馬車があるんだったね。すっかり忘れてたよ」
「ジュリアはいつも路銀ろぎんがないから、最初から馬車が選択肢に入ってなかっただけでしょ?」
「うっ……まぁ、はい。節約したかったのよぉっ」

 コロンとジュリアが楽しそうに談笑している。ジュリアはローグに向かって言う。

「それより……馬車ってお尻が痛いわねぇ。ね、ローグは平気なの?」
「ふふっ、俺をよ~く見るといい」

 そう言われて、ジュリアはローグを観察する。
 しかし、ローグに特に変わった様子はなかった。
 その時、再び段差の衝撃がジュリアの尻に響く。だが、ローグはまるで何事もなかったかのように、涼しい顔をしていた。
 ジュリアはローグが座っている場所を横から見た。

「あっ! あぁぁぁぁっ!! う、浮いてるっ! なにそれ!? ズルいぃぃぃっ!!」
「やっと気付いたか。観察が足りないな、ジュリア。黙って座っていても退屈だろ? 時間があるなら修業しないとね。俺は今スキルではなく、風魔法の【フライ】でわずかに座席から浮かんでいるんだよ。魔力制御の鍛練たんれんのつもりでジュリアもやってみたら?」

 言われた通りジュリアもやってみるが、難しくて上手くいかない。
 ただ浮くだけならまだしも、馬車のスピードに合わせて横移動もしないといけないのだ。ローグはこれを平然とやってのけていた。

「む、難しいっ……!」
「これが出来るようになると、魔法を行使する際の魔力操作がスムーズになるんだ。結果、無駄な魔力消費をはぶき、行使までの時間もかなり短縮出来るんだよ」
「無理よこんなの~っ! いきなりなんて出来るわけないよぉっ!」

 駄々だだをこねるジュリアに、ローグは溜め息を吐く。

「はぁ、仕方ないなぁ。じゃあ俺に掴まって浮く訓練だけやればいいよ。それだけでも長時間魔力を使う事になるし。良い訓練になると思うよ」
「ううっ……意外とスパルタね……」
「修業はジュリアのためにもなるでしょ? せっかく良いモノを持っているんだし頑張れ」
「うぅっ、はい……」

 それからバロワ聖国に到着するまで、ジュリアは魔法の訓練を行った。一方、コロンは開始早々に諦め、段差と格闘するのだった。


 その後、御者が「もう半刻はんこくほどで着く」と言ったあたりで、ジュリアは自在に【フライ】を操る事が出来るようになった。

「自由に浮くってこういう事なのね!」
「ああ。飛べるだけで回避出来るわなや魔法なんかもあるからね。常時浮ければ良いんだけどさ。どうやらジュリアはまだ魔力が足りないみたいだ。使うなら迷宮探索の時が良いだろうね」

 迷宮には、踏んだだけで作動するトラップが山のようにある。ローグの言う通り、常に浮かんでいられれば、【罠察知】スキルのないジュリアでも罠を回避出来るだろう。
 そこへ、コロンが焦ったように口にする。

「わ、私は【罠察知】も【罠解除】もあるから浮かなくても平気だし!」

 ローグは、コロンにはいつか厳しい修業を積ませないと、と考えるのだった。

「さて、やっと街が見えてきたな。修業はここまでにしよう。もう道も悪くないし【フライ】を解除しようか」

 ローグはそう言うと、ふわりと腰を下ろす。ジュリアも魔法を解除して隣に座った。ジュリアがローグに話し掛けようとすると、そこで御者から声が掛かる。

「お客さん、着きましたぜ! あれがバロワ聖国の首都、ベラドーナでさぁ」

 ローグ達が見上げると、目の前には高くそびえる外壁と分厚い鉄製の門があった。馬車が入場の列の最後尾で止まる。
 ローグは馬車を降り、御者にお金を渡しながら言う。

「ありがとう、世話になった。これ代金ね。気を付けて帰ってくれ」
「へいっ、毎度っ! ダンナ方もお気を付けて! ……最近バロワには変なうわさがありやすから」

 ローグは少し気になった。

「なんです? その変な噂ってのは?」
「へぇ。まぁ、眉唾まゆつばなんですがね。なんでも男が夜に一人で街を歩いていると、いきなり暗闇くらやみから声を掛けられるそうでして……『ねぇ、あなたは私を満足させられるかしら?』とねぇ。夜の誘いかと思うでしょうが、そうじゃねぇようで、声を掛けられた奴はそのまま人気ひとけのない場所に連れていかれ……戻ってこなくなったそうでさぁ」
「そうか。一応、気に掛けとくよ。興味深い話をありがとう。これはチップだ。受け取ってくれ」

 そう言い、ローグは御者に追加で何枚か金貨を握らせた。

「っ!? こ、こんなにもらえませんって!?」
「いや、もらってくれ。今の話は聞いておいて良かった。これは一大事かもしれないからね。まぁ、気のせいなら良いんだけど……」
「おや? まさか何か心当たりが?」
「まぁ……ね。多分深く関わらない方が良いよ? 命がしいならさ」
「へ、へぇ。じゃあ、あっしはギルオネスに戻りやすんで、近くにいらした時はぜひまた使ってくだせぇ! ではまたっ!」

 御者は元気よく言って離れると、西に向かうという客をすぐに捕まえ、ギルオネス方面へ帰っていった。
 ジュリアがローグに問い掛ける。

「ねぇローグ? 今の話……信じるの?」
「半々かな。とりあえず、お前達は夜出歩かない方が良いだろう。俺のかんが当たっていれば……相手はおそらく魔族だ」
「ま、魔族!? この街にも!? それって大変じゃないっ!」

 驚くジュリアに、ローグは首を横に振る。

「いや、まだ確証がない。勘が当たっていない事を祈るしかないよ。お、どうやら俺達の番らしい。行こうか」

 街へ入るために門につながる列に並んでいたローグ達だったが、いよいよ順番が来たので門へと近付く。

「身分証はありますか? なければ、一人小金貨三枚になりますが」
「これで良いかな?」

 そう告げ、ローグはギルドカードを門番に提示する。
 門番はカードを受け取り、腰を抜かした。

「ゴッ、ゴゴゴ……ゴッドランク冒険者っ!?」

 その門番の声で、途端に周囲がざわつく。ローグは慌てて門番に言う。

「しっ、早く立って。あまり騒ぎになりたくない」
「あっ、し、失礼いたしましたっ!」
「いいよ。で、中には入れるのかい?」
「はいっ! ようこそ、ベラドーナへ! 歓迎いたします!」
「ふふっ、大げさだなぁ。じゃあ皆、行こうか」
「「お~っ!」」

 こうして、ローグ一行はバロワ聖国首都ベラドーナの街へ入るのだった。


 †


 ベラドーナの街に入ったローグ達は、まず拠点とする宿を確保した。
 当初は、冒険者ギルド本部でギルド設立申請をするだけだったので、数日だけ滞在するつもりだった。だが、先ほど御者から聞いた情報が気になったローグは、宿に一月分の滞在料金を支払っておいた。
 ローグは二人に向かって言う。

「ジュリア、コロン。俺はこれから冒険者ギルドの本部へ行ってくる。少し時間が掛かるかもしれないから、二人はゆっくりと街の観光でもしててくれ。はいこれ、おこづかいね」

 ローグはそれぞれに黒金貨を一枚ずつ手渡す。

「さっすがローグ~! ジュリア、服見に行こっ、服!」
「賛成! ベラドーナって色んな国の人が集まってるから、世界中の品が手に入るみたいよ! 服も料理もね」
「そうなの? 楽しみっ! 早く行こっ!」

 ローグは色めき立つ二人に注意をうながす。

「お前達、夜になる前にちゃんと帰ってこいよ。不審者に襲われるかもしれないからな?」
「「はぁ~い」」

 二人はそう返事をすると、大金を握り締めて街へ走っていった。

「さて、俺は冒険者ギルド本部に行ってきますか」

 ローグは街の様子を軽く見物しながら、本部へ向かった。


 ベラドーナは水の都と言われている。他の国では滅多めったに見られないような綺麗きれいな街並みが有名で、活気があった。
 実に平和で良い雰囲気だと、ローグは感じていた。
 ローグがのんびりと本部に向かって歩いている途中、例の噂について話している三人の女冒険者達と遭遇する。

「あのパーティーのリーダー、まだ帰らないらしいわね」
「あぁ、あの依頼を受けた彼?」
「ええ。消えてからかれこれ一週間、なんの連絡もないみたいよ」
「怖くなって逃げたんじゃないの~?」
「「あはは、あり得る~」」

 ローグは噂話をしていた女冒険者達に声を掛ける。

「すまない、ちょっと話が聞こえてね。今の話は例の噂の話かな?」

 女冒険者達はローグを見て、黄色い声を上げる。

「「「イ、イケメン!! きゃあきゃあっ!」」」

 それから女達は、今話していた事を一からローグに伝えた。
 一週間前にこの街に来た男一人、女三人のパーティーが、冒険者ギルドで例の深夜の失踪しっそう事件の調査依頼を受けた。パーティーのランクはゴールドで、そこそこ強い。それにもかかわらず、パーティーのリーダーの男は消息しょうそくを絶った。その後、残された女三人のパーティーメンバーは、毎日街に出てリーダーを探している――
 そんな彼女ら三人が泊まっているのが琥珀亭こはくていで、偶然にもローグの宿泊している宿と同じだ。
 ローグは、後でその三人に詳しく話を聞こうと考え、教えてくれた女冒険者達に礼を言い、再び本部へ向かうのだった。


 本部には、フローラがギルド設立の申請を手紙で知らせておいてくれたので、手続きはサインをするだけで終わった。だがそれとは別件で、冒険者ギルド本部から直々じきじきに、ゴッドランクであるローグ指名で依頼が出された。
 ベラドーナの街で行方不明ゆくえふめいになった冒険者十名の捜索依頼だ。
 ローグは依頼がなくとも調査する気だったのでそう伝えると、冒険者ギルド本部からとても感謝された。
 その後、ローグはギルド本部職員から、行方のわからなくなった冒険者達の情報が書かれた依頼書を受け取り、ひとまず宿へ戻った。


 宿に隣接している食堂で、くだんのパーティーメンバーが見つかった。ローグは女達に声を掛ける。

「君達のリーダーがどうやって消えたか、知っていたら教えてほしい」

 ローグは虹色にじいろのギルドカードを見せた。

「ゴ、ゴッドランク冒険者っ!? は、はいっ! 私達が知っている事は全て話します!」

 詳しく話を聞いたところ、次のような事だった。
 その日の深夜、メンバーは酒場でクエスト達成の祝いをした。結構な量の酒を飲んでいたようだ。
 そして酒場も閉まる時刻となったので、酒場からこの宿に向かって歩く。
 帰り道、突然、メンバーの目の前の空間が裂けた。中から現れたのは、白い腕が二本。腕はそのままリーダーの男を裂け目へ引きずり込んでいった――
 パーティーメンバーの女が悲痛な表情で言う。

「彼が無事かどうかわかりませんが……お願いします! どうかこの事件の犯人を捕まえてくださいっ!」
「ああ、出来るかどうかはわからないが、俺なりに全力を尽くすと誓うよ」

 ローグは女達に向かって笑顔で言うのだった。


 その後、ローグは自室に戻った。
 そして消えた十人について考察を始める。

「行方のわからなくなった冒険者は十名。その全てが男。レベルは200から250。消えた時間は、夕方、深夜、早朝、真っ昼間とバラバラだ。ただし、人気ひとけのない場所で消えたというのは共通している。被害者は皆攻撃タイプで、前衛をメインにしている。そして……全員顔が良い男……か」

 これらの情報をもとに、ローグは結論づける。

「やはり犯人は魔族だな。魔族は人からを集めている。空間内へ引きずり込まれた男達は、そこで拷問ごうもんを受けたかもしれない。だが、今のところ死体は一つも見つかっていない。彼らの装備のたぐいもだ」

 だが、いくら考えたところで推測のいきを出なかった。

「これはもう実際に体験するしかないかな」

 ローグはその考えに至った。
 彼は宿の受付に「今夜は戻らないから、仲間が来たらこの手紙を渡してほしい」と言って手紙を預けると宿を出た。


 そして今、ローグは人気ひとけのない場所を時々通るようにして、街を見物していた。

「夕方でもまだまだ活気があるよなぁ~。色んなギルドの本部があるせいか、人の数が凄いし。冒険者も高レベルな者が結構いるみたいだ。もしかしたら近くに良い狩場かりばでもあるのかな? 今回は長くいないから仕方ないけど、もし機会があったら少し調べてみようかな」

 そんな事を考えながら歩いていると――
 突如目の前の空間が裂け、中から細く白い腕が二本伸び、ローグを引きずり込んだ。その時、ローグは心の中で笑っていた。

(よし、ビンゴだ。さて、相手はどんな奴かな?)

 ローグはかすかに笑い、空間の裂け目へ吸い込まれていくのだった。


 †


 ローグは周囲を冷静に見回していた。
 空間内は地面が見えない。
 だが、しっかりと足は地に着いているし、踏み込める。天井は高く、空間全体は果てしなく広く見えるが、おそらくどこかで行き止まりだろう。
 軽く見渡した感想としては、思っていたよりも広く、そして薄暗い。
 そんな不思議な空間を観察していると、突然背後から声を掛けられた。

「あら、あなた……今までの人間と違ってあまり驚かないのね? ちょっとつまらないわ」
「それはすまないね。俺はこうなる事を望んでいたから、驚いてないだけさ。知らずに吸い込まれていたら驚いていたかもね」

 そう言い、ローグは後ろを振り向いた。
 そこには、銀髪で赤い瞳を持つ美女が挑発的な衣装をまとって立っていた。ローグはその者に問い掛ける。

「さて、お前……正体は魔族だろ? 目的はなんだ?」

 女は一瞬呆気あっけに取られていたが、すぐにうっすらとわらい、自己紹介を始める。


「あら、魔族の事を知っているだなんて……なら、話は早いわね。私は十魔将じゅうましょうが一人、異空いくうのジュカ。目的は……そうね、良い男をコレクションする事かしら」

 そう言ったジュカは、自身の後ろに空間を開き、十名の男の姿をのぞかせた。
 ローグが依頼書で見た顔だった。人数も一致している。
 全員無事のようだが、微動だにしないところを見ると意識はなさそうだと、ローグは一瞬にして感じ取った。
 冒険者達は目をつむったまま、空間に手足を取られて空中に固定されている。

「うふふふふふっ……どうかしら? みぃ~んな、いい~男でしょう? 私は良い男を集めるのがだぁい好きなの。あなた、望んで来たと言ったわよね? もしかして……この人達を助けに来たのかしらぁ? ……でも、ざぁんねん。ここにいる男達は、すでに私のト・リ・コ。とらえてから散々さんざん快楽を与え続けたんですもの。今さら戻りたいなんて言う人はいないわ」

 そう嗤うジュカの雰囲気が、徐々に怪しさを増していく。

「そして、今からあなたも私のとりこにしてあげる……あなたは今までで一番良い男だから……優しくシテあげるわね? うふふふふふふっ」

 今にも飛び掛かろうとしているジュカに、ローグは質問する。

「ああ、お前に夢中になる前に一つだけ聞きたい。お前のその能力はなんだ? 魔法か?」

 ジュカはゆっくりとローグに近付き、その豊満な胸を擦り寄せながら、ローグの耳元で甘くささやく。

「教えてほしいの? そうねぇ……知りたいなら体験すれば良いわ。万が一、私に勝てたらここから出してあ・げ・る」

 そう口にしたジュカは一瞬でローグのそばから消え、元いた場所に戻った。


 スキル【空間移動】を入手しました。


「一つだけ教えてあげるわね。十魔将はそれぞれ固有のスキルを一つ持っているのよ。さぁ……そろそろうたげを始めましょうか……ふふふふふふっ」

 ジュカは戦闘態勢へ移行する。
 ジュカのスキルを見る事によって入手したローグも刀を構える。

「さぁ、楽しみましょう」

 ジュカは抑えていた魔力を全て解放した。周囲の空気が重くなる。ローグも相手の強さに合わせ魔力を解放していく。

「あら、あらあら? 強さは私と同じくらいかしらぁ? あなた、人間にしては中々ヤルじゃない。ますますコレクションに欲しくなったわぁ~」
「俺に勝ったら好きにすればいい。だが、お前が負けたら後ろにいる冒険者は全員解放してもらうよ」
「良いわよぉ~? 勝てるならね? じゃあ……始めるわよ」
「いつでも来いっ!」

 ジュカの腕のあたりにある空間が、かすかに揺らいだ。
 次の瞬間、ローグの背後からジュカの腕が現れ、ローグの背を攻撃する。だが、貫いたと思われたローグの姿がブレ、その場から消えた。

残像ざんぞうだ。くらえっ!」

 ローグはジュカを背後から斬ろうとした。だが、ジュカは割れた空間に入り、姿を消す。

「また【空間移動】か。これはやっかいな相手だな……」

 背後からジュカの声がした。

「あら、気付いたの? あなた、賢いのね? そう、私の能力は空間を操るこ・と。アイテムレジストリなんかとは違って、何もない場所に自在に空間を開き、その中で、捕まえた人間をこうして飼う事も出来る。広さも開け閉めも私の意思次第。この空間内で私に負けはないわ」
「……なるほど、持ち運び出来る国でも作るつもりか?」

 ローグの反応を受け、ジュカは声高らかに嗤う。

「うふっ、うふふふふっ! そう、私はここに私だけのハーレムを作るのっ! 素晴らしいでしょう? ここには誰も入ってこられず、ここでは誰も私には勝てない。私はここで女王となるのよぉっ!」

 そう宣言するジュカに、ローグが問い掛ける。

「魔王復活は良いのか? お前達の目的は魔王復活なんだろ?」

 その質問にジュカは僅かに反応し、逆にローグに質問を返した。

「あなた……それをどこで? まさか、すでに私以外の十魔将とでも戦ったのかしら?」
「まぁね。だからお前が魔族なのも、そしてその目的もわかっている。けど、どうやらお前は魔王のためではなく、自分のために動いているようだな?」

 ジュカはローグの背後から抱きつき、身体を押し当てる。

「魔王復活……? それなら戦ったのはリューネかしら? 相変わらずバカな女ねぇ……別に私達が動かなくても、魔王はいずれ勝手に復活するわよ?」
「な……にっ!?」

 ジュカはそのまま、驚くローグの正面へ移動し、ローグの顔に手を伸ばす。

「わからないかしら? 私達が直接手を下さなくても、この世の中には悪と呼ばれる者はたぁくさんいるわ。負の気? そんなもの、そこら中にあふれているわよ。ふふっ、人間は自分達のおこないでさらなるわざわいを喚び起こすのよ。自業自得じごうじとくってやつね」

 その言葉でローグは気付いた。


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