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第7章 東の大陸編
04 十魔将アスラ
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ローグ達は姿を消したままアスラを尾行していた。アスラは顔の良い冒険者を見つけては巧み相手を誘いだしつまみ食いを繰り返していた。もちろん一通り満足したら命を刈り取っている。しかもその方法は恐ろしく残忍だった。冒険者にとってはまさに天国から地獄。おそらくあれで得られる負の感情は通常よりかなり多いはずだ。そしてアスラの琴線に触れない醜い冒険者や、自分より美しい女冒険者達にはありとあらゆる嫌がらせをした後、その生を終わらせていた。
「……エグいな。これが冒険者ギルドを裏切った冒険者達の末路か」
「いやぁ~……、根性悪いわぁ~……。さすが魔族ね」
ローグ達に観察されているとは思いもせず、アスラは次の標的を見つけ食いついていった。今度は苦戦中の冒険者にそれとなく力を貸し、恩を売り付けている。戦闘終了後、アスラはパーティーのリーダーらしき男に身体を擦り寄せて迫っていた。だが、冒険者の男はアスラの誘いを断り、仲間の女冒険者を抱き寄せて二人の仲を説明していた。それを受けアスラは冗談だと告げ、表面上は笑いながらその場を立ち去ろうとしていた。だが、アスラがこちら側を振り向いた瞬間の顔をローグ達は見てしまった。
「あ~……。ありゃ悪鬼だな。腸煮えくり返ってるんじゃ……。あ~あ、あんな顔真っ赤にして……」
「ぷぷぷ~っ! マジウケる~っ!」
笑う水竜を制止しつつ、ローグはアスラの行動を注意深く観察していた。
「アクア、笑ってる場合じゃないぞ。あのパーティーってか、二人以外は多分魔族だぞ。二人は多分殺されるだろう。ほら、アスラが離れるフリをして、魔族に指示を出したぞ」
「セコッ! 自分でやらないのね。あ、どうやらパーティーはさらに奥へと向かうみたいよ。どうする?」
ローグは水竜に指示を出す。
「アクアはあのパーティーの方を頼む。怪しい行動を確認したら後は好きに暴れていいぞ。俺はアスラを追う」
「大丈夫~? 相手は女よ~?」
水竜はニヤニヤしながらローグに言った。
「あの怒った鬼のような顔見ただろ? あれは女じゃない。女を武器にしているだけの単なる敵だ。じゃあここからは二手にわかれよう」
ローグはアスラの方へ、水竜は冒険者の方へと向かって行った。そしてアスラを追うローグは今、アスラに警戒されないよう、どう自然に接触しようかと考えた。
「……気が進まないがここは一つ演じるか」
ローグはアスラをいったん追い抜き少し服を汚した後、まるで曲がり角の向こうから慌てて逃げてきているかのような演技をしつつアスラの前へと飛び出した。
「はぁっ、はぁっ! よ、良かった! 人が……人がいたっ! た、助かった!」
アスラは突然前方に倒れるようにして現れたローグを一瞬警戒したが、ローグが顔を上げると目を見開き、極上の獲物が現れたと警戒を解除した。その時のアスラはつい先程フラれた事をなど頭から消えていた。
アスラはローグを警戒させないようにしつつ、その目をハートにしてふらふらとローグに近付いていった。そして、上擦った声でこうローグに声を掛けた。
「ど、どうしたの? こんな階層まで一人で来るなんて……。仲間は? あなた一人なの?」
ローグは心の中で釣れたと確信し、そこから情けない冒険者の姿を演じる。
「か、回復役の人と荷物持ちの人が俺を庇ってモンスターに!」
「えっ? それ、本当!? アナタ、怪我は?」
「あ、あぁ……。俺は二人のおかげでかすり傷程度だ」
ローグはアスラにもっともらしい理由を告げる。
「実はこの先に隠し通路があって……。宝があると思った俺はよく確認もせずにそこへと入ってしまった! そこに宝なんてなくて……! 罠と大量の魔物で溢れていたんだっ! 俺はなんとか二人の仲間に逃がしてもらえたけど、あの二人は今頃っ………!」
そう話し、ローグは悲しそうな振りをして下を向いた。アスラはそんなローグを自分の胸に抱き寄せ、こう言った。
「そう……、よく無事に逃げ出せたわね。でも気にしなくても良いのよ。私達が貸し出している回復薬役と荷物持ちはこういった事も業務に入っているのよ」
「け、けどっ!」
「大丈夫だって。ちゃんと脱出方法は教えてあるもの。二人はあなたが逃げ出す時間を稼いだだけ。さ、ここは危ないわ。一人じゃ帰れないでしょう? 私が地上まで送ってあげるわ」
言ってる事は真面目だが、表情の端々に怪しさが滲み出ている。もう少し上手く演技できないのだろうか。
ローグはそんなアスラの提案に対して首を横に振った。
「帰りたい……。帰りたいけどっ! 俺は……、俺にはどうしても金が必要なんだ! 親が病気でさ……俺はその治療費を稼がないといけないんだ」
ローグは情に訴えてみた。魔族に情が通じるかどうかは不明だが、アスラには間違いなく通じると確信している。何故なら目の前にいる魔族は良い男に目がないからだ。ローグは一気に畳みかける。
「ここで初めて会ったあなたに頼むのも悪いと思うけど……。どうか俺に力を貸して欲しい! お願いだっ!」
ローグは壁にアスラを押し付け、壁に手のひらをついた。そしてアスラの足の間に自分の足を滑り込ませ、目を見ながら懇願した。アスラは顔を真っ赤にし、されるがままになっていた。これまでの行動からサドだとばかり思っていたが、どうやらマゾだったらしい。
「なぁ、頼むよ……。この階層に一人でいるって事は強いんだろう?」
美形のローグが向ける子犬のような眼差しはアスラの胸中をひどくかき乱した。
「わ、わわわわかったからっ! 力を貸してあげるから! それ以上そんな目で私を見ないでぇぇっ!」
「ほ、本当かっ! 助かるよっ!」
ローグは壁についていた手をアスラの身体に回し、そのまま抱き締めた。
(や、ややややヤバい! この人間格好良すぎるっ! わ、私とした事が……。こ、こんな……な、何この胸の高鳴りはっ!? すぅ~……はぁ~……良い香り……。あ、も……だめ。私堕ちるかも……)
顔を真っ赤にして震えるアスラを見たローグはゆっくりと身体を離した。
「あ……、す、すまない。希望が見えて少し舞い上がってしまっていたようだ」
「あ……」
もっとローグに触れていたいと思ってしまったアスラはもう敵意などみじんも持ち合わせてはいなかった。それどころか、どうにかローグと一緒にいられないかと考えてしまっている。そんなアスラはロデオの事など頭から綺麗さっぱりと消し去り、ローグにこう告げた。
「ねぇ、アナタ……。私のモノにならない? 私、アナタが気に入っちゃったの」
その言葉にローグはもう良いだろうと冷静にこう返した。
「……ふぅ。それは無理な相談だな。俺は魔族の仲間なんてごめんだね」
「っ!? あ、アナタっ!?」
ローグの言葉にアスラは驚き、慌ててその場を離れようとするが背後の壁とローグに挟まれ、身動きが取れない状態に気付く。アスラは盛り上がっていた気分をいったんリセットし、なるべく冷静に言葉を選びローグに問い掛ける。
「いつ……バレたのかしら?」
「最初から全部知っていたさ。お前たち自由への翼が魔族の組織だって事もね。あぁ、ちなみに俺はゴッドランク冒険者だから。本当はこんなダンジョン何の問題もないんだよ。【クリーン】」
ローグはわざと汚した格好を魔法で綺麗にした。そしてアスラは額から汗を垂らす。自由への翼を立ち上げる際、この港町周辺には強力な冒険者はいないとロデオが調査済みだったのだ。ロデオは危機管理を徹底していた。そのロデオをもってして、もしゴッドランク冒険者と遭遇しても決して関わるなときつく言われていたのである。つまり、一対一で戦っても勝ち目はないとアスラはわかっていた。
そんなアスラはなんとか助かる道はないかと思考を巡らせローグに問い掛けた。
「何が目的なの? も、もしかして、この私の美しい身体!?」
ローグはアスラの頭に手刀を落とした。
「あいたぁぁぁっ!」
こいつからは水竜に似たベクトルを感じる。ローグはそう一瞬でアスラを理解してしまった。
「お前はバカか? 何で俺がお前の身体目当てにこんなダンジョンまでわざわざ来なきゃならないんだ!?」
「だ、だってそれ以外に思いつかないし……」
「はぁぁ……。目的はお前たち魔族から冒険者を救うために決まってるだろ。これまで散々貢がせといて、必要らなくなったら殺すとか、悪魔か、お前らは」
「え、魔族ですが? あいたぁっ!?」
ローグは再びアスラの頭に手刀を落とした。この手の相手は精神的に疲れる。ローグは精神的に疲労感を覚えていた。
「バカにしてんの?」
「す、すみませんでしたっ!」
ローグは身体を九十度に折り畳み謝罪するアスラに最後通告を出す。
「もう良い。アスラ、もしお前が今ここで改心し、今後一切人間に手を出さないと誓うなら助けてやろう。だが、もしこのままロデオと組んで暗躍を続けるつもりなら俺はお前をここで倒す」
「え? 改心したら見逃してもらえるの?」
「ああ、命は助けてやる。ジュカやワルプルギスも俺の仲間になっているからな。別に魔族を生かすのはお前が初めてってわけじゃないよ」
「ジ、ジュカ!? あの空間使いの!? アナタ……とんでもないわね。ジュカは十魔将の中でもトップスリーに入る程強いのよ?」
「知っているさ。ジュカとは本気で戦ったからな」
ジュカと戦って生きている。それだけでアスラの生き方を変える十分な理由になったようだ。
「……誓うわ。もう人間に悪さするのは止める。元々私は暇だったからロデオと組んでただけだし。正直魔王なんてどうでも良いのよ」
「お前もか。どうやら魔王に心底心酔していたのはリューネだけのようだな」
「リューネ? あなたリューネも仲間にしたの!?」
ローグは首を横に振った。
「いや、あいつはやりすぎた。さすがに万単位で人を殺したし、到底従うとも思えなかったからね。俺が倒した」
「……そう。リューネは逝ったのね」
アスラは少し悲し気な表情を浮かべていた。だがすぐに真面目な表情に戻る。
「ねぇ、私も結構な数の冒険者を殺してるんだけど……」
ローグはアスラを見てこう告げた。
「最初は倒す気満々だったんだけどね。まぁ、理由はどうあれ助けを求めた俺に親切にしただろ? あの男に袖にされた時はかなり怒っていた様子だったが、その場ですぐには殺さなかったし、お前……根はそんなに悪い奴じゃないんじゃないか?」
「そ、そんなことは! だって私は魔族だし! 優しいとか……ありえないわよ」
アスラは顔を赤くして照れていた。
「ありえないかどうかは今後のお前を見て知っていくよ」
「……もう! ねぇ、名前……教えてよ」
「ローグだ」
ローグはアスラと握手を交わし、彼女を新たな仲間に加える事にした。
「さてと、目的も果たしたしそろそろ行こう。仲間とも合流しないと」
「わかったわ、主さま」
こうして、ローグは仲間に加えたアスラを連れ水竜の所へと向かうのだった。
「……エグいな。これが冒険者ギルドを裏切った冒険者達の末路か」
「いやぁ~……、根性悪いわぁ~……。さすが魔族ね」
ローグ達に観察されているとは思いもせず、アスラは次の標的を見つけ食いついていった。今度は苦戦中の冒険者にそれとなく力を貸し、恩を売り付けている。戦闘終了後、アスラはパーティーのリーダーらしき男に身体を擦り寄せて迫っていた。だが、冒険者の男はアスラの誘いを断り、仲間の女冒険者を抱き寄せて二人の仲を説明していた。それを受けアスラは冗談だと告げ、表面上は笑いながらその場を立ち去ろうとしていた。だが、アスラがこちら側を振り向いた瞬間の顔をローグ達は見てしまった。
「あ~……。ありゃ悪鬼だな。腸煮えくり返ってるんじゃ……。あ~あ、あんな顔真っ赤にして……」
「ぷぷぷ~っ! マジウケる~っ!」
笑う水竜を制止しつつ、ローグはアスラの行動を注意深く観察していた。
「アクア、笑ってる場合じゃないぞ。あのパーティーってか、二人以外は多分魔族だぞ。二人は多分殺されるだろう。ほら、アスラが離れるフリをして、魔族に指示を出したぞ」
「セコッ! 自分でやらないのね。あ、どうやらパーティーはさらに奥へと向かうみたいよ。どうする?」
ローグは水竜に指示を出す。
「アクアはあのパーティーの方を頼む。怪しい行動を確認したら後は好きに暴れていいぞ。俺はアスラを追う」
「大丈夫~? 相手は女よ~?」
水竜はニヤニヤしながらローグに言った。
「あの怒った鬼のような顔見ただろ? あれは女じゃない。女を武器にしているだけの単なる敵だ。じゃあここからは二手にわかれよう」
ローグはアスラの方へ、水竜は冒険者の方へと向かって行った。そしてアスラを追うローグは今、アスラに警戒されないよう、どう自然に接触しようかと考えた。
「……気が進まないがここは一つ演じるか」
ローグはアスラをいったん追い抜き少し服を汚した後、まるで曲がり角の向こうから慌てて逃げてきているかのような演技をしつつアスラの前へと飛び出した。
「はぁっ、はぁっ! よ、良かった! 人が……人がいたっ! た、助かった!」
アスラは突然前方に倒れるようにして現れたローグを一瞬警戒したが、ローグが顔を上げると目を見開き、極上の獲物が現れたと警戒を解除した。その時のアスラはつい先程フラれた事をなど頭から消えていた。
アスラはローグを警戒させないようにしつつ、その目をハートにしてふらふらとローグに近付いていった。そして、上擦った声でこうローグに声を掛けた。
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「えっ? それ、本当!? アナタ、怪我は?」
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そう話し、ローグは悲しそうな振りをして下を向いた。アスラはそんなローグを自分の胸に抱き寄せ、こう言った。
「そう……、よく無事に逃げ出せたわね。でも気にしなくても良いのよ。私達が貸し出している回復薬役と荷物持ちはこういった事も業務に入っているのよ」
「け、けどっ!」
「大丈夫だって。ちゃんと脱出方法は教えてあるもの。二人はあなたが逃げ出す時間を稼いだだけ。さ、ここは危ないわ。一人じゃ帰れないでしょう? 私が地上まで送ってあげるわ」
言ってる事は真面目だが、表情の端々に怪しさが滲み出ている。もう少し上手く演技できないのだろうか。
ローグはそんなアスラの提案に対して首を横に振った。
「帰りたい……。帰りたいけどっ! 俺は……、俺にはどうしても金が必要なんだ! 親が病気でさ……俺はその治療費を稼がないといけないんだ」
ローグは情に訴えてみた。魔族に情が通じるかどうかは不明だが、アスラには間違いなく通じると確信している。何故なら目の前にいる魔族は良い男に目がないからだ。ローグは一気に畳みかける。
「ここで初めて会ったあなたに頼むのも悪いと思うけど……。どうか俺に力を貸して欲しい! お願いだっ!」
ローグは壁にアスラを押し付け、壁に手のひらをついた。そしてアスラの足の間に自分の足を滑り込ませ、目を見ながら懇願した。アスラは顔を真っ赤にし、されるがままになっていた。これまでの行動からサドだとばかり思っていたが、どうやらマゾだったらしい。
「なぁ、頼むよ……。この階層に一人でいるって事は強いんだろう?」
美形のローグが向ける子犬のような眼差しはアスラの胸中をひどくかき乱した。
「わ、わわわわかったからっ! 力を貸してあげるから! それ以上そんな目で私を見ないでぇぇっ!」
「ほ、本当かっ! 助かるよっ!」
ローグは壁についていた手をアスラの身体に回し、そのまま抱き締めた。
(や、ややややヤバい! この人間格好良すぎるっ! わ、私とした事が……。こ、こんな……な、何この胸の高鳴りはっ!? すぅ~……はぁ~……良い香り……。あ、も……だめ。私堕ちるかも……)
顔を真っ赤にして震えるアスラを見たローグはゆっくりと身体を離した。
「あ……、す、すまない。希望が見えて少し舞い上がってしまっていたようだ」
「あ……」
もっとローグに触れていたいと思ってしまったアスラはもう敵意などみじんも持ち合わせてはいなかった。それどころか、どうにかローグと一緒にいられないかと考えてしまっている。そんなアスラはロデオの事など頭から綺麗さっぱりと消し去り、ローグにこう告げた。
「ねぇ、アナタ……。私のモノにならない? 私、アナタが気に入っちゃったの」
その言葉にローグはもう良いだろうと冷静にこう返した。
「……ふぅ。それは無理な相談だな。俺は魔族の仲間なんてごめんだね」
「っ!? あ、アナタっ!?」
ローグの言葉にアスラは驚き、慌ててその場を離れようとするが背後の壁とローグに挟まれ、身動きが取れない状態に気付く。アスラは盛り上がっていた気分をいったんリセットし、なるべく冷静に言葉を選びローグに問い掛ける。
「いつ……バレたのかしら?」
「最初から全部知っていたさ。お前たち自由への翼が魔族の組織だって事もね。あぁ、ちなみに俺はゴッドランク冒険者だから。本当はこんなダンジョン何の問題もないんだよ。【クリーン】」
ローグはわざと汚した格好を魔法で綺麗にした。そしてアスラは額から汗を垂らす。自由への翼を立ち上げる際、この港町周辺には強力な冒険者はいないとロデオが調査済みだったのだ。ロデオは危機管理を徹底していた。そのロデオをもってして、もしゴッドランク冒険者と遭遇しても決して関わるなときつく言われていたのである。つまり、一対一で戦っても勝ち目はないとアスラはわかっていた。
そんなアスラはなんとか助かる道はないかと思考を巡らせローグに問い掛けた。
「何が目的なの? も、もしかして、この私の美しい身体!?」
ローグはアスラの頭に手刀を落とした。
「あいたぁぁぁっ!」
こいつからは水竜に似たベクトルを感じる。ローグはそう一瞬でアスラを理解してしまった。
「お前はバカか? 何で俺がお前の身体目当てにこんなダンジョンまでわざわざ来なきゃならないんだ!?」
「だ、だってそれ以外に思いつかないし……」
「はぁぁ……。目的はお前たち魔族から冒険者を救うために決まってるだろ。これまで散々貢がせといて、必要らなくなったら殺すとか、悪魔か、お前らは」
「え、魔族ですが? あいたぁっ!?」
ローグは再びアスラの頭に手刀を落とした。この手の相手は精神的に疲れる。ローグは精神的に疲労感を覚えていた。
「バカにしてんの?」
「す、すみませんでしたっ!」
ローグは身体を九十度に折り畳み謝罪するアスラに最後通告を出す。
「もう良い。アスラ、もしお前が今ここで改心し、今後一切人間に手を出さないと誓うなら助けてやろう。だが、もしこのままロデオと組んで暗躍を続けるつもりなら俺はお前をここで倒す」
「え? 改心したら見逃してもらえるの?」
「ああ、命は助けてやる。ジュカやワルプルギスも俺の仲間になっているからな。別に魔族を生かすのはお前が初めてってわけじゃないよ」
「ジ、ジュカ!? あの空間使いの!? アナタ……とんでもないわね。ジュカは十魔将の中でもトップスリーに入る程強いのよ?」
「知っているさ。ジュカとは本気で戦ったからな」
ジュカと戦って生きている。それだけでアスラの生き方を変える十分な理由になったようだ。
「……誓うわ。もう人間に悪さするのは止める。元々私は暇だったからロデオと組んでただけだし。正直魔王なんてどうでも良いのよ」
「お前もか。どうやら魔王に心底心酔していたのはリューネだけのようだな」
「リューネ? あなたリューネも仲間にしたの!?」
ローグは首を横に振った。
「いや、あいつはやりすぎた。さすがに万単位で人を殺したし、到底従うとも思えなかったからね。俺が倒した」
「……そう。リューネは逝ったのね」
アスラは少し悲し気な表情を浮かべていた。だがすぐに真面目な表情に戻る。
「ねぇ、私も結構な数の冒険者を殺してるんだけど……」
ローグはアスラを見てこう告げた。
「最初は倒す気満々だったんだけどね。まぁ、理由はどうあれ助けを求めた俺に親切にしただろ? あの男に袖にされた時はかなり怒っていた様子だったが、その場ですぐには殺さなかったし、お前……根はそんなに悪い奴じゃないんじゃないか?」
「そ、そんなことは! だって私は魔族だし! 優しいとか……ありえないわよ」
アスラは顔を赤くして照れていた。
「ありえないかどうかは今後のお前を見て知っていくよ」
「……もう! ねぇ、名前……教えてよ」
「ローグだ」
ローグはアスラと握手を交わし、彼女を新たな仲間に加える事にした。
「さてと、目的も果たしたしそろそろ行こう。仲間とも合流しないと」
「わかったわ、主さま」
こうして、ローグは仲間に加えたアスラを連れ水竜の所へと向かうのだった。
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