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第7章 東の大陸編

03 自由への翼の正体

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 ローグはゴートから自由への翼が拠点としている建物がある場所を聞き、闇夜に紛れつつロデオの事をスキル【遠視】で見張っていた。ちなみに水竜は邪魔にしかならないだろうから宿に放置してきた。そんな事とは知らずに、ロデオは自由への翼のアジトで荒れ狂っていた。

「クソッ! なんだあの小僧は! 今日こそあのギルドを潰してやろうと思っていたのにっ! クソがっ!」
「あぁぁぁぁっ!」

 ロデオはアジトで部下を相手にストレスを発散していた。

「クソッ! クソォォォッ! ゴートめ……まさかギルド本部に応援を頼んだか? いや、正体がバレるような真似はしてはいない。確たる証拠がなければギルド本部といえどそう簡単には動けないはず……。なら偶然か?」
「あぁ……お、俺の……腕が……」

 ロデオは怒りに任せ部下にレイピアを何度も突き刺していた。

「……五月蝿ですね。考えの邪魔なので消えなさい」

 ロデオは部下から離れ高級そうな椅子に腰かけた。

「そ、そんな!? せめて治療を……!」
「次は殺しますよ? まだ命がある内に私の前からさっさと消えなさい!」
「ひっ! ひぃぃぃっ!!」

 部下は血の流れる腕を押さえながら慌てて部屋を出ていった。部屋に一人となったロデオは柱に向かって声を掛ける。

「全く……。【アスラ】、ダンジョンの方はどうなっているのですか?」

 そう声を掛けるとアスラと呼ばれた女が柱の影からすうっと姿を現した。女は日焼けした肌にどこか挑発的な瞳を持ち、服装はミニスカートに下着一枚、上はブラのような胸当てにマント一枚と、かなり目のやり処に困る服装だった。

「問題ないわよ。元冒険者は嬉々としてダンジョンで毎日稼いでるよ。自分たちが駒になっているとも気付かずにねぇ」
「ふふっ、よろしい。処分の時期は貴方に任せます。何やらおかしな連中が現れましてねぇ。近い内に必ず全て処分して下さいね?」
「食い終わるまで待ってなよ。もう少ししたら、良い男を食い終わるからさ」

 ロデオは呆れながら言った。

「程々にしておきなさいよ? 間違っても足がつかないようにね?」
「大丈夫さ。私の食べるの意味、付き合いの長いあんたならわかるだろう?」
「貴女ときたら……。まぁ、仕事に支障をきたさないようにして下さいよ」
「へ~いへい。じゃあ、冒険者と遊びに行ってくるわ。じゃあね~」

 アスラはロデオに向かって手をひらひらと振り部屋から姿を消した。ロデオはアスラの気配が消えた虚空を見て呟く。

「全く……。あの人には自分が魔族だという自覚があるのですかねぇ。まぁ良いでしょう。私の計画が成功した暁にはこの町は我が手中に……くくくっ……。しかも邪魔になりそうな冒険者達もまとめて廃棄できる、まさに一石二鳥。あぁ、人々が苦しむ顔……早く見たいですねぇぇぇっ! はぁっはっはっは!」

 ロデオは部屋でグラスに真っ赤な酒を注ぎ高笑いをするのだった。

 全てを知ったローグは遠視を切り頭を抱えた。

「まさか魔族だったとはな……。全く、どこにでも現れるな奴らは。しかし……どうやら俺が思った通りの外道だったな。さて、どうしてくれようか」

 ローグはこの二人の魔族をどうしようか考えつつ宿へと戻った。扉を開けると水竜はなにかを背に隠した。

「……何をしている、アクア」
「へ? な、何も?」
「そうか。ってバレないとでも思っているのか!? 何だこの部屋に充満した酒の臭いは!」
「飲んでない! 飲んでないわよ! ただ匂いを楽しんでただけで……」

 明らかに息が酒臭いが今はそんな事はどうでも良い。
 
「聞け。あいつら自由への翼の正体がわかったぞ」
「へ? 正体?」
「ああ。ロデオ、奴は魔族だ。それとアジトにはもう一人女の魔族がいたんだ。そいつの名はアスラ。このロデオとアスラ、こいつらは早急に対処する必要がある。このままだとダンジョンに行ってる冒険者は皆殺しにされてしまうんだ」
「へぇ~……って! 不味いじゃない!?」
「ああ不味い。とりあえずロデオはダンジョンには来ないようだから、まずダンジョンに向かおう。そして冒険者を処分しようとしているアスラを先に何とかする。恐らく回復役と荷物持ちも魔族だ。そっちをお前に頼みたい。良いか?」
「オッケー」
「よし、じゃあ今からゴートの所に行ってこの事を報告してからダンジョンに向かうぞ」

 時刻は深夜だが事は一刻を争う。二人はギルドに向かいゴートを叩き起こした。

「な、なんだこんな真夜中によぉ……」
「緊急事態だ」

 ローグは眠そうなゴートに全て話した。話を全て聞き終えたゴートは眠気などとうに覚めきっていた。

「ま、魔族!? ロデオが? ほ、本当なのか!」
「ああ、ロデオとアスラは恐らく十魔将と呼ばれている魔族だ」
「十魔将?」
「ああ。魔王復活のために人間界に潜伏しているやつらだ」
「ま、魔王復活!?」
「そうだ。あと他にも多分回復役と荷物持ちが魔族兵だろう。どうやったかは知らないけどさ」

 ゴートは見た目筋肉達磨の癖に子供のように怯え慌てふためいている。

「ど、どうする!? どうすればいいっ!? 相手は魔族だなんて……!」
「落ち着け。ロデオはしばらくここには来ないはずだ。アスラが冒険者を処分し終えるまではな。だが、もし万が一ここに来たら、その時は俺が戻るまで何とか時間を稼いでくれ。俺達は先にダンジョンに向かいアスラを倒し、冒険者達を助けてくる」

 ゴートは息を吐いて少し落ち着いてから言った。

「ふぅ…………わかった。全てお前の指揮に従う。俺はここで時間稼ぎをすれば良いんだな?」
「ああ、だが、危なくなったら迷わず逃げてくれ。それと相手が魔族なのを知らないフリをして、なるべく今まで通りにやるんだ。いいか?」
「わ、わかった。何とかやってみる」
「よし。じゃあアクア、俺たちはダンジョンに行くぞ」
「魔族退治ね、りょ~かい!」

 アクアはかなり上機嫌だった。

(やはり飲んでいたなこいつ……)

 ローグはイムトスを出て人気のない場所に着くと竜化した。

「アクア乗れ。乗ったら不可視の魔法で姿を消して一気に飛んで行くぞ」
「私も竜に戻れば飛べるんだけど?」
「アクアは姿を消せないだろ? 深夜とはいえ誰かに見つかるかもしれないだろ。もし見つかったらいらない騒ぎになるからな。ほら、乗れよ。それと、落ちるなよ?」
「はいはい、とうっ!」

 水竜は、ローグの背に跨がった。

「じゃあ……三十秒ほど頑張ってな」
「へ? んみゃあぁぁぁぁぁ…………………………」

 ローグは深夜の上空を音速に近い速度で飛んで行く。そのあまりのスピードにアクアは呼吸すらままならない状態だった。そして三十秒後。

「着いたぞ。ここが目的地のダンジョンだ」

 水竜は口を大きく開き必死に酸素を身体に取り込んでいた。

「はぁっ! はぁっ! し、死ぬかと思った!」
「あ、すまん。防御幕張るの忘れてた。落とさない事しか考えてなかったわ。すまんすまん」
「あ、アンタねぇっ!? 私じゃなかったら死んでるわよ!?」
「はいはい、っと。どうやら丁度アスラがダンジョンに入るようだ。俺達もこのまま姿を消して入るぞ。俺から離れるなよ?」

 アクアはボッと赤くなった。

「~っ! もうっ! もうっ!! ズルいんだからっ!」
「何がだ? ほら、行くぞ。見失ってしまう」
「う~っ。今行くわよっ!」

 二人はアスラを追い、ダンジョンへと突入するのであった。
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