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第4章 シーガロン大陸編

17 さらに貧しい国

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 ジェイドの魔導具でここウェスプール王国は冬でも快適な国に変わった。白虎族や黒狼族も順調に個体数を増やしている。それもジェイドの種でだ。このハーフ達はレベル上限値が五千前後となっており、この世界に最強の種族が生まれたと同義となっていた。

 そんなこんなでシーガロン大陸の半分は平和になった。そして残るはもう一つの国【イースプール王国】。俺は商人達にその国にも魔導具の情報を流すように言ったが、未だに買いには来ていない。

「隣の国の奴ら、買いにこねーのな」

 すると元王妃が俺に言った。

「もしかすると……買いたくても買えないくらい貧しくなってるんじゃないかしら……」
「あん? それはないだろ。邪神教に入れば実質無料だしよ」
「いえ、買ったらまた持って帰らなきゃならないじゃないですか? その運賃やら移動費が捻出できないのではないかと」
「……嘘だろ。そこまで貧しいのか?」
「はい。こちらも例年より早く雪が積もりギリギリでしたし……、港のないあちらはさらに切迫しているのかも……」

 ジェイドはどうしようか考える。

「そのイースプールの人口は?」
「約一万と言った所かしら……? あちらは岩場も多く、あまり人が住める環境ではないので」
「それじゃ畑も作れないか」
「はい。平地はほとんどが森。毎年薪を売りにこちらに来ますが、今年来ない所を見るに……あちらも薪作りに失敗したのではないかと」
「ふむ。なら今は去年の残りだけで生活してるってわけか」

 出荷できる物が薪しかないか。さぞ貧しいんだろうな。

「仕方ない、ちょっと俺から言ってくるわ」
「え? そんなぁ……。それじゃあしばらくできなく……」
「お前な……、よし。なら今から孕ませてやる」
「え?」
「孕んだらしばらく出来なくなるだろ。今から全員集めて妊娠パーティーだ!」

 この後全員漏れなく俺に孕まされた。俺はハーデスにこの国を任せ、スキル【飛行】で隣国へと飛ぶ。

「ふむ。町が一つしかないのか。あそこが唯一の平地なんだろうな。人口一万人とか国じゃなく町レベルじゃね?」

 町には城が一つ。そこを中心とし、円形に町が広がっている。そして海側の外壁が高い。冷たい海からの風を防ぐためだろうか。だがその壁も大分朽ちている。その内崩れるかもしれないな。

 そして多少暖かくなったはずだが人気が少ない。空から見た限り歩いている人影がほとんど見られない。

「薪の乾燥作業でもしてんのか?」

 俺はとりあえず町の入り口に降り立った。入り口には普通兵士が立っているのだが、そこにも人はいない。とりあえず俺は町に入り酒場に向かった。

「お、人がいるじゃん」

 酒場の中は人で溢れていた。

「寒いから酒飲んで暖まるしかないんだよなぁ……」
「全くだ。これからくる冬はどう乗りきればいいんだ……」
「隣の国じゃ薪のいらない暖房器具が販売されてぬくぬく暮らしてんだろうな。こっちは寒さで震えてんのはによぉ……」

 楽しい酒のはずなのにそこにいた客からは愚痴しか溢れていなかった。

「いらっしゃい、なんにする? っても酒しか出せないんだけどね」
「ツマミは?」
「火を使わない料理なら。薪も残り少ないんだよ。悪いね……」
「酒だけか。悪酔いしそうだな」
「ここの酒は度数高いからねぇ。ヴォッカって酒なんだけどさ、身体を暖めるために飲む酒なんだよ。あんた、旅人だろ?」
「旅人……いや、違うね」
「え?」

 俺は店主に言った。

「出張販売に来た商人だ。薪のいらない魔導具、欲しくない?」
「「「「なんだとっ!!」」」」
「え?」

 盗み聞きしていたのだろうか、店内にいた全ての客がガタガタッと椅子を鳴らしこちらに向かってきた。

「あ、あんた……! 魔導具売りに来たって……本当か!?」
「ええ。ウェスプール王国の方にはだいたい行き渡りましたからね。こちらのイースプール王国の方が来られないのでどうしたのかと様子を伺いに来たんですよ」
「う、売ってくれ! いくらだ!?」

 俺は群がる客ではなく、酒場の店主にまず交渉した。

「店主、まずはあなたに売りましょう」
「お、俺に?」
「ええ。まずはあなたに宣伝役になってもらいます。邪神教に入っていただければお代はいりません。それで薪のいらないキッチン、食糧を保存出来る冷蔵庫、夏でも冬でも快適に暮らせるエアコンをお譲りしますよ」
「入る! 今すぐ工事してくれ! 頼むっ!」
「わかりました。ではこちらの入団申請書にサインを。ああ、一度入団しましたら抜けられませんよ。よく読んでサインを……」
「これで良いか?」

 店主は読む事なくサインを完了させていた。こいつは詐欺に引っ掛かるタイプだな。

「ありがとうございます。では今から取り掛かりましょう」

 俺はまずその場でエアコンを創り壁に設置した。 

「「「おぉぉぉぉ!? 暖かい風が!?」」」
「「「い、今どうやったんだ!?」」」

 次は調理場に入り、元あった釜戸を異次元ボックスに収納、代わりに魔導システムキッチンをセットしてやった。

「な、なんだこれっ!?」
「魔導システムキッチン。店舗用の新商品です。コンロは鍋やフライパンを乗せ、ボタンを押せば熱が出ます。で、調理スペースとその隣に蛇口。排水口の出口は異次元に繋がってますから汚水はそこに流して下さい。では今から簡単に料理をしてみせますから見て覚えて下さい」
「お、おぉ……」

 俺はその場でオーク肉のステーキを焼いて見せた。店内に香ばしい良い匂いが漂う。

「……腹減ったな」
「あれ……食いてぇ……!」

 俺は肉を焼くと同時に隣のフライパンで赤ワインソースを作り、適当な皿に焼き加減レアのオーク肉ステーキの赤ワインソースがけを盛り付け店主に渡した。

「どうぞ、召し上がれ」
「……ごくり」

 店主はナイフとフォークで肉を切り分け口に運ぶ。

「うっ……うめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!? な、なんだこれっ!? 肉が口の中で溶けて消えたっ!? こんなの初めて食ったぞっ!?」

 俺は調理場に業務用の冷蔵庫を出して扉を開いた。

「中にオーク肉を入れておきました。サービスです。皆さんに振る舞って下さい」
「い、良いのか!?」
「はい。その代わり……店の一角を貸して下さい。皆さんにも邪神教に入団申請書類にサインしていただきたいので」
「いくらでも使ってくれ! よし、久しぶりに腕を振るうか!」

 それから酒場は押し掛けた人でごった返すのであった。 
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