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セシリア・クリアベルルート

07 セシリアとアイシャ

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 セシリアと三人が友人になり数日が経過した。

「アイシャさん、何か私にできる事はありますでしょうか?」
「いや~、特にないかな?」
「リヒト様、設計図の方は……」
「セシリア」
「はい、何でしょうか?」

 放課後、セシリアの要望に応じアイシャのラボに向かっている。ここ最近毎日だ。

「あのな、俺はこう見えて忙しいんだ。こう毎日ここに来させられても困る」
「しかしリヒト様。もう数日で夏季休暇に入りますわ。例の馬車はいつ完成するのでしょうか? 私の領地は少々離れておりますので馬車が欲しいのです!」
「いやいや、そう簡単完成などするわけがないだろう。アイシャだって今研究中の品があるだろうし」
「残念ですわ……。リヒト様ならば私のお願いを聞いて頂けると期待しておりましたのに」

 俺は落ち込むセシリアに言った。

「俺が叶えてやれる願い事なら叶えられるがな。馬車はアイシャの力が絶対に必要になるし、作るなら工房じゃなきゃ無理なんだ。学園に工房はない」
「あぅ……」

 さらに落ち込んだセシリアを哀れに思ったのか、珍しくアイシャが気を回した。

「キヒッ。リヒト~、工房くらい屋敷の庭に建ててやれよ~。婚約者が可哀想じゃないか~」
「あのなアイシャ。屋敷は許可をもらい建てているんだ。工房はさすがに許可が降りん。なぜなら学業にまったく関係がないものだからだ」
「それなら私の名前を使えば良いだろ~? 錬金術の能力向上のために必要だとか言ってさ~」

 俺は珍しく乗り気なアイシャを勘繰る。

「何が目的だ」
「キヒッ、別に~? 友達が困っていたら助けるものだろ~?」
「ああ、アイシャさんっ! リヒト様……」

 アイシャは限りなく怪しいがこれほどまでにセシリアが懇願してくるのも珍しい事だ。アイシャの思惑が何かはわからないが、これでセシリアとの仲が深まるならば応じてやりたい。

「わかった。明日学園長に願い出るとする。許可が降りなければ諦めてくれ」
「は、はいっ!」
「キヒッ、良かったなぁ~セシリア」
「はいっ!」

 翌日、学園長に工房増築の許可を取りに向かうと思いの外簡単に許可が降りた。

「もちろん構いませんよ。あの土地は学園の土地ですがリヒト様に貸し出された土地であります。それに、目的があのアイシャ・バイエルン氏の研究のためなのでしょう? こう見えて私は氏の研究した品のファンでしてな。工房ができる事で新たな品が完成するのであれば許可しないわけにはいきませんっ」
「そ、そうか。では許可証を」
「ははっ!」

 まさか学園長がアイシャの研究を応援しているとは思わなかった。実の所、アイシャの産み出した魔導具にはかなりの隠れファンが存在している。ラボの入り口に設置されている手紙受けには感謝の手紙やら要望書が溢れ出さんばかりに詰まっている。

 ひとまず許可を得た俺は許可証を懐にラボに向かった。ラボ入るとアイシャが何やら唸っていた。

「う~ん……」
「アイシャ」
「ん? ああ、リヒトかい。どうかした?」

 デスクに向かい悩みの種を見る。

「なんだこれ?」
「工房の設計図だよ。許可は降りたんだろう?」
「ああ。ってこれが設計図? 本気か!?」

 紙には子どもが書くようなイラストが記されていた。

「お前、錬金術以外はからきしダメだよな」
「キヒッ、言うねぇ。あ~、やっぱ無理だわ。要望出すから設計図書いてよ」
「今からか? 授業あるだろ」
「なら放課後で。セシリアも連れてきなよ」
「はいはい」

 とりあえず許可証をアイシャに渡し教室に戻る。

「セシリア」
「あ、リヒト様。許可の方は……」
「ああ、問題なく降りたよ。それで放課後ラボに来て欲しいとアイシャが言ってたぞ」
「一歩前進ですね! 放課後が待ち遠しいですわっ」

 よほど嬉しかったのかセシリアは満面の笑みを見せてくれた。理由がアイシャなので手放しでは喜べないがセシリアとの距離が縮まってきている事は確かだ。

「ではまた放課後に」
「え? 今から授業では」
「放課後のために時間を作る必要がある。今日の授業は歴史と数学に体術だろう。その範囲ならば幼い頃に履修済みだから免除されているのだよ。だから今日は日中の時間を所用を片付ける時間に使わせてもらう」
「わかりました。では放課後ラボでお待ちしております」

 そうして日中は雑務を片付ける事に費やし、放課後ラボに向かった。

「リヒト様、お待ちしておりました」
「ああ。少し遅れた」
「いえ、大丈夫ですわ。それよりこの落書きを」

 セシリアが手にしているのは今朝見た工房の完成予想図だ。

「それ、設計図らしいぞ」
「こ、これが設計図!? 柱など歪んでいますし、これでは建物の外観しかわかりませんわ!?」
「そうなんだ。だから今からアイシャの話を聞きつつ設計図を完成させる」
「な、なるほど」

 そこにコーヒーを片手に眠そうなアイシャが顔を出した。

「キヒッ、来たか。じゃあ設計図を完成させようか」
「ああ。とりあえず要望を言ってくれ。まとめたら製図に入るから」
「キヒヒッ。ほら、これが要望書だ」
「どれ……」

 俺はアイシャからの要望書に目を通していく。

「地下一階、地上二階建てだと? ちょっと待て。工房にしては大き過ぎないか?」
「キヒッ、この機会にラボごと移動しようかと思ってね。地下は素材の保管庫、一階が工房で二階がラボの予定だよ」
「はあ? お前、俺の敷地に居座る気か」
「キヒッ、このラボと工房は遠すぎる。往復が死ぬほど面倒だし、リヒトの屋敷がある敷地内なら他の生徒は立ち入れないだろう? 研究の邪魔をされずに済むのは大きい」

 するとセシリアが手を上げた。

「あの、まさかこれはリヒト様の屋敷と繋がっているのでしょうか?」
「キヒッ、そうさ。二階のラボとリヒトの屋敷を廊下で繋げている。そしてセシリアには助手を勤めてもらいたいんだよ。ラボに住み込みでね」
「なにっ!?」
「わ、私が助手を!?」

 アイシャはデスクにカップを置きセシリアに言った。

「君は馬車が欲しいのだろう? それなのに一切手伝わないなんて言わないよね」
「あう……」
「なあに、簡単な仕事さ。私が作成中に指示を出す。その指示をリヒトに伝えてくれるだけで良い。欲しいものがあるなら協力するのは当たり前だろう?」
「わ、わかりました。では工房ができ次第引っ越しいたしますわ」
「うん。さ、リヒト? 設計図を書いてもらえるかい?」

 建物は違うが俺の屋敷の隣でセシリアが暮らす事になる。一気に距離が縮むかもしれないと期待し、俺はアイシャの要望を全て取り入れた最高の設計図を一瞬で産み出した。

「これでどうだ!」
「……キヒッ、良いね。後は私に任せな。最高の工房を作ってやろうじゃないか」
「頼む!」

 そして翌日朝からアイシャの作業が始まるのだった。
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