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セシリア・クリアベルルート

04 奇抜な友人

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 セシリアを嫉妬させず、尚且つパーティーなどで心を許せる相手を紹介する。これがまた思いのほかハードルが高い。そもそもの話、貴族の令嬢たちは俺の婚約者であるセシリアを快く思っていないのが現状だ。

 そんな中でも王妃という地位に拘りを持たず、己が進むみたい道へと邁進している令嬢たちもいた。今回俺がセシリアに紹介する令嬢は三人。俺は週末のパーティーに向けさっそく動いた。

 一人目は男爵家令嬢【レオナ・アーノルド】だ。俺は彼女を誘うため修練場へと向かった。

「はぁっ! せいっ!! おぉぉぉあぁぁぁっ!!」
「……」

 レオナは三つ編みにした金髪を振り回し身の丈より巨大なハルバートで旋風を巻き起こしていた。とても危なくて近づけたものじゃない。俺はひとまず修練が終わるまで待ち声を掛けた。

「レオナ」
「ん? ああ、リヒト王子か。どうしたのだ?」

 ベンチに腰掛け汗を拭うレオナにパーティーがある事を伝えた。

「正気か? 私はパーティーが苦手で今まで一度も参加したことがないのだぞ? あんなものに参加するよりトレーニングに時間を使いたいのだが」
「まあまあ、話は最後まで聞いてくれ。今回の参加者は俺を合わせて五人だ。堅苦しいしきたりはなし。そして……」

 俺はレオナが食いつきそうなネタを放り込む。

「筋肉に良いとされてる食事を用意する」
「なっ! なにっ!? 筋肉に良い食事だとっ!? そんなものがあるのか!?」

 この世界では食事による高効率トレーニングなど浸透していない。これがレオナを誘う俺の切り札その一だ。

「ああ。もし参加してくれるなら無駄な筋肉ではなく実用的な筋肉の作り方も教えよう」
「くっ! 知りたいっ! 知りたいがパーティーは……」
「パーティーとは名ばかりだ。目的は交流を深める事にある。将来騎士団長を目指すならコミュニケーション能力を鍛え、今の内に人脈を広げておいた方が良いだろう?」

 レオナは何やら考え込み、ゆっくりと口を開いた。

「本当に格式ばったものではないのだな?」
「ああ、約束しよう」
「……わかった。開催日は?」
「今週末、学園の敷地内にある俺の屋敷で」
「覚えておこう。筋肉に良い食事とやらを忘れるなよ?」
「もちろんだ。ありがとう」

 どうにか一人目の候補と約束を取り付け次に向かう。

「レオナ・アーノルドは将来の騎士団長だ。あんな脳みそまで筋肉なレオナが騎士団長なんてこの国大丈夫なのかね……」

 修練場の次に向かった場所は大図書館だ。そこに二人目の候補である【ライア・ミッドナイト】がいる。

 ライアは魔法の申し子といわれる稀少種であるエルフの天才魔法使いだ。世界一賢くあらゆる魔法を手にするためこの国を訪れて以降、日々研究に余念がない。

 これだけ聞けばまともだと思うだろうが実態はこれだ。

「ライア。ライア!」
「ん~……誰?」
「リヒトだよリヒト」
「あぁ……誰?」

 これがライアだ。大図書館にあるライアだけの私室に山積みになった魔導書。その本に埋もれた下着姿の青髪ボブ幼女が本当のライアだ。ちなみに私室をでる時は世間体を保つため賢人を装っている。

「この国の王子でお前の研究費を出してるスポンサーだっての」
「ああ~。どしたの?」
「実はライアに頼みがあってな」

 俺はライアにパーティーに出席してくれないかと頼んだ。

「パーティー? いや」
「そこを何とか!」
「それ無駄な時間。私の時間は有限」
「そこを何とか! 秘蔵の魔導書やるから!」
「秘蔵の魔導書? 内容は?」
「お前がまだ知らない魔法だ。王族だけに受け継がれている魔法だよ。パーティーに来てくれたらこっそり貸す」
「ん。いつ?」
「今週末だ。俺の屋敷で開催するから必ず来てくれ」
「ん」

 ライアは将来この国の魔法師団長となる。

「魔法以外全くズボラなライアが魔法師団長なんて……。この国、もしかしてかなりヤバい国なんじゃないかな」

 二人目の候補を物で釣り、いよいよ最後の候補者の所へと向かう。

「あそこだけはあまり近寄りたくないんだけどなぁ」

 三人目の候補者は錬金術師の【アイシャ・バイエルン】だ。アイシャはとにかく変人だ。このアイシャに比べたらレオナもライアもまともな部類に入る。

 俺は意を決してアイシャのラボに向かった。

「ああ、着いてしまった……」
《合言葉をどうぞ》

 ラボの扉から音声が流れる。この扉を開くためには合言葉が必要なのだが、この合言葉はアイシャと俺しか知らない。

「錬金術は何より尊い。ただしリヒトに限りアイシャの方が尊い」
《合言葉を検知。ようこそリヒト様》
「来たくなかったよ……」

 排気音と共に開いた扉から中に入る。リビングから二階に進む階段を上り、書斎に続く扉を開く。

「アイシャ、久しぶりだな」
「キヒッ、リヒトじゃないか~。珍しいね」
「ああ」

 書斎にあるデスクでレポートをまとめている白衣をきて目の下にクマがあるボサボサ髪の不健康そうな彼女が稀代の錬金術マスターだ。

「キヒッ、また何か新しい物の情報でも持って来たのかい?」
「いや、別件だ。今週末俺の屋敷でパーティーを開く。それに参加してもらいたくてな」
「パーティー? 私がかい? リヒト~、私がそんなものに興味ないの知ってるよな?」

 立ち上がると立派な胸部が揺れる。

「パーティーと言っても親しい奴らの集まりだ」
「関係ないね~。そんな時間があるなら新しい物作りたいし」
「行き詰まってるんだろ? パーティーに参加してくれたらアイディアを提供しよう」
「どんな?」
「そうだな、アイシャが今悩んでる魔導具の問題点の解決方法とか」
「なっ!? 本当か!」
「俺は嘘をつかん。知ってるだろ?」
「うむむむむ……しかし……」

 悩んだ末アイシャは折れた。

「試行錯誤より答えを聞き出した方が早いか。いつだ」
「今週末、俺の屋敷で」
「キヒッ、わかった。参加してやろうじゃないか。それと、帰る前にいつものヤツ提供してもらえるかい?」
「……わかったよ。提供してるから絶対参加してくれ」
「キヒヒッ、久しぶりだから緊張するねぇ~」

 二時間後、俺は疲れた身体を引きずりながら屋敷に戻った。

「この国で優秀なのは変人ばかりかよ! これエンディング後絶対国潰れてるわっ!」

 どうにか約束を取り付けたものの、相手は脳筋に魔法バカに研究マニア。だが表裏がない人物はこの三人しか知らない。

「こ、この三人とセシリアを友人にする。流石にセシリアも友人ができたら俺の評価も見直してくれるだろう。全てはセシリアとエンディングを迎えるため! もうやるしかないんだっ!」

 こうして候補者を集め、いよいよ週末を迎えるのだった。
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