仲間に裏切られた勇者、事実を知り奮い立つ! ~世界を救う勇者アインの物語~

夜夢

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第1章 はじまり

第31話 仲間

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 アインは地下七十階層に入ってからというもの、群れで現れる強敵のせいでかなり攻略速度を落としていた。

「くぅぅぅっ、硬いっ! こんなところに伝説の魔獣アスピドケロンがいるだなんてっ!」

 強敵の群れを突破したかと思いきや、地下七十五階層からはこれまでのフロアボスを余裕で凌ぐ個体が出現し始めていた。

「剣が聞かないなら魔法でっ! くらえっ! 【アースグレイブ】!!」
《ギャオォォォォォォォォォォッ!!》

 アインはアスピドケロンの腹を地面から生やした土の槍で貫く。 

「はぁはぁ……、レベルアップか……。なんなんだこのダンジョンは……。欲望のダンジョンより敵が強いっ! おかげで前世のレベルは超えたが」

 強敵の群れや伝説の魔獣を幾度となく倒したおかげでアインのレベルは勇者時代のレベルを超え、さらにその上に向かっている。

「さ、さすがにこれ以上は一人じゃ無理だ……。いや、現実改変を使えばいけるが……それじゃ修行にならないし……」

 アインはソロでの限界を感じ始めていた。

「前は聖女マーリンがいたから魔法で強化されていたもんな……。戦いの最中もバイタルアップで疲れ知らず。やはり仲間は必要か……」

 仲間の大切さを痛感したアインはついに召喚を使う事にした。

「別に召喚した時点からレベルが上がらないわけじゃないし……いや、知らんが。もし上がらなければその時また考えよう。よし……」

 アインは敵が近くにいない事を確認し、フロアの中心に向け手をかざした。

「いくぞ! スキル【召喚】!! ぐっ!」

 スキル【召喚】をした途端、アインの体力と魔力が同時に半減した。アインはその反動から脱力し、地面に膝をついた。

「眩しい……っ、いったい何が現れ……うぁっ!」

 最後に一際眩しく光が輝きアインの視界を奪った。

「あら? ここは……? どこかしら?」
「……女?」

 視界が正常に戻りフロアを見ると腰まである赤い髪に白いローブをまとった人型の女が見えた。女はキョロキョロと辺りを見回している。

「あら、人がいましたのね。失礼、私は【マリアベル】と申します。確か私は天界にいたと思うのですが……ここはどこでしょうか?」
「マリア……ベル? マリアベル!? う、嘘だろ!? いや、赤い髪に白いローブ……お伽噺に出てきた初代聖女マリアベル・フォン・エリーゼ!?」

 アインは我が目を疑った。初代聖女マリアベル・フォン・エリーゼは千年前に実在し、勇者、聖戦士、大賢者と共に魔王を討った伝説の存在だ。その偉業はいくつもの逸話とともに詩になっている。

「わ、私のフルネーム!? あ、ああああなた……私のストーカーですか!?」
「違うわっ!? あ、いや。ち、違います。あなたの事を知らない人はこの世界にはいませんよ。魔王を討伐した勇者パーティーの聖女様」

 アインはマリアベルに向かい深々と頭を下げていた。

「懐かしいわ……。あの、魔王が討伐されてから何年たったのかしら?」
「千年です」
「千年!? もうそんなに経ってるの!?」
「んん?」

 アインは首を傾げていた。どうにもマリアベルの態度がコロコロ変わっている。大人びた態度の時もあれば、見た目相応の態度に変わる時もある。見た目はアインと同じ十八前後だ。

「あ……こほん。それで……ここはどこかしら?」
「あ、はい。ここは地上世界にあるローレン大陸近郊です。そして、今いる場所は海底にあるダンジョンですね」
「ローレン大陸近郊の海底ダンジョン……ですか? へぇ~……そんなダンジョンがあったなんて知らなかっ──し、知りませんでしたわっ」

 マリアベルはどうにもやりにくそうだった。

「あの、もし話し辛いようなら素の話し方で構いませんよ?」
「な、ななな何を!?」
「いや、もうバレバレですよ?」
「……」

 マリアベルはジト目でアインを見た後、溜め息を吐いた。

「はぁ~、はいはい。この喋り方は威厳が失せるから止めろって言われてたから変えてたんだけどね。じゃあ改めて、私は聖女マリアベルよ。あなたは?」
「俺は勇者だったアインです」
「勇者……だった?」
「はい。神フレキシオス様の力で転生しております」
「あぁ~、フレちゃん!」
「フ、フレちゃん!?」
「うん。天界で一緒だった友達」

 アインは呆然としていた。

「で、質問なんだけど」
「は、はい」
「私なんで下界にいるの?」

 アインは仲間欲しさにスキル【召喚】を使った事を話した。

「へぇ~……、スキル【召喚】かぁ。そのスキルで私は下界に喚ばれたのね」
「はい」
「で、私を仲間にするの? それとも……」
「わっ!?」

 マリアベルは一瞬で距離を詰め身体を押し付けてきた。

「私を玩具にでもする?」
「お、玩具?」
「私は私の意思で還れないんでしょ? あなたの望みは何?」
「な、仲間が欲しくてですね……」
「そんなもの……その辺から探せば良いじゃない。私を喚んだのは……私がスタイル抜群! 超絶可愛いって有名だったからなんでしょ?」
「……はい?」

 アインは一瞬で冷静になった。スタイル抜群とは何を指しているのだろうか。

「ほら、私って顔が良いでしょ?」
「あ、はい」
「スタイルも抜群だし?」
「……ど、どの辺りですかね?」
「胸とか」
「……」

 主張する部分は丘どころか壁だった。

「読めたわっ! あなたの本当の目的は歴史上有名だった美女を侍らせてハーレム! 召喚された者は召喚主に逆らえないっ! きっとあんな事やこんな事されちゃうのねっ!」
「す──するかバカがっ!」
「あいたぁっ!?」
「あ」

 アインはあまりのバカさ加減にマリアベルの頭をはたいてしまった。

「な、なにすんのよぉぉぉっ! 私の綺麗な顔に傷がついたらどうしてくれるのっ! 【エクストラヒール】!」

 軽く叩いただけだがマリアベルは涙目になり最上級回復魔法を使った。

「はっ! あ、あなた……もしかして女の子をいたぶりながら興奮を覚えるタイプ?」
「違うわっ! お、俺の中のイメージが……」

 アインはお伽噺とはまるでイメージの違うマリアベルを見て愕然とするのだった。 
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