仲間に裏切られた勇者、事実を知り奮い立つ! ~世界を救う勇者アインの物語~

夜夢

文字の大きさ
上 下
30 / 33
第1章 はじまり

第31話 仲間

しおりを挟む
 アインは地下七十階層に入ってからというもの、群れで現れる強敵のせいでかなり攻略速度を落としていた。

「くぅぅぅっ、硬いっ! こんなところに伝説の魔獣アスピドケロンがいるだなんてっ!」

 強敵の群れを突破したかと思いきや、地下七十五階層からはこれまでのフロアボスを余裕で凌ぐ個体が出現し始めていた。

「剣が聞かないなら魔法でっ! くらえっ! 【アースグレイブ】!!」
《ギャオォォォォォォォォォォッ!!》

 アインはアスピドケロンの腹を地面から生やした土の槍で貫く。 

「はぁはぁ……、レベルアップか……。なんなんだこのダンジョンは……。欲望のダンジョンより敵が強いっ! おかげで前世のレベルは超えたが」

 強敵の群れや伝説の魔獣を幾度となく倒したおかげでアインのレベルは勇者時代のレベルを超え、さらにその上に向かっている。

「さ、さすがにこれ以上は一人じゃ無理だ……。いや、現実改変を使えばいけるが……それじゃ修行にならないし……」

 アインはソロでの限界を感じ始めていた。

「前は聖女マーリンがいたから魔法で強化されていたもんな……。戦いの最中もバイタルアップで疲れ知らず。やはり仲間は必要か……」

 仲間の大切さを痛感したアインはついに召喚を使う事にした。

「別に召喚した時点からレベルが上がらないわけじゃないし……いや、知らんが。もし上がらなければその時また考えよう。よし……」

 アインは敵が近くにいない事を確認し、フロアの中心に向け手をかざした。

「いくぞ! スキル【召喚】!! ぐっ!」

 スキル【召喚】をした途端、アインの体力と魔力が同時に半減した。アインはその反動から脱力し、地面に膝をついた。

「眩しい……っ、いったい何が現れ……うぁっ!」

 最後に一際眩しく光が輝きアインの視界を奪った。

「あら? ここは……? どこかしら?」
「……女?」

 視界が正常に戻りフロアを見ると腰まである赤い髪に白いローブをまとった人型の女が見えた。女はキョロキョロと辺りを見回している。

「あら、人がいましたのね。失礼、私は【マリアベル】と申します。確か私は天界にいたと思うのですが……ここはどこでしょうか?」
「マリア……ベル? マリアベル!? う、嘘だろ!? いや、赤い髪に白いローブ……お伽噺に出てきた初代聖女マリアベル・フォン・エリーゼ!?」

 アインは我が目を疑った。初代聖女マリアベル・フォン・エリーゼは千年前に実在し、勇者、聖戦士、大賢者と共に魔王を討った伝説の存在だ。その偉業はいくつもの逸話とともに詩になっている。

「わ、私のフルネーム!? あ、ああああなた……私のストーカーですか!?」
「違うわっ!? あ、いや。ち、違います。あなたの事を知らない人はこの世界にはいませんよ。魔王を討伐した勇者パーティーの聖女様」

 アインはマリアベルに向かい深々と頭を下げていた。

「懐かしいわ……。あの、魔王が討伐されてから何年たったのかしら?」
「千年です」
「千年!? もうそんなに経ってるの!?」
「んん?」

 アインは首を傾げていた。どうにもマリアベルの態度がコロコロ変わっている。大人びた態度の時もあれば、見た目相応の態度に変わる時もある。見た目はアインと同じ十八前後だ。

「あ……こほん。それで……ここはどこかしら?」
「あ、はい。ここは地上世界にあるローレン大陸近郊です。そして、今いる場所は海底にあるダンジョンですね」
「ローレン大陸近郊の海底ダンジョン……ですか? へぇ~……そんなダンジョンがあったなんて知らなかっ──し、知りませんでしたわっ」

 マリアベルはどうにもやりにくそうだった。

「あの、もし話し辛いようなら素の話し方で構いませんよ?」
「な、ななな何を!?」
「いや、もうバレバレですよ?」
「……」

 マリアベルはジト目でアインを見た後、溜め息を吐いた。

「はぁ~、はいはい。この喋り方は威厳が失せるから止めろって言われてたから変えてたんだけどね。じゃあ改めて、私は聖女マリアベルよ。あなたは?」
「俺は勇者だったアインです」
「勇者……だった?」
「はい。神フレキシオス様の力で転生しております」
「あぁ~、フレちゃん!」
「フ、フレちゃん!?」
「うん。天界で一緒だった友達」

 アインは呆然としていた。

「で、質問なんだけど」
「は、はい」
「私なんで下界にいるの?」

 アインは仲間欲しさにスキル【召喚】を使った事を話した。

「へぇ~……、スキル【召喚】かぁ。そのスキルで私は下界に喚ばれたのね」
「はい」
「で、私を仲間にするの? それとも……」
「わっ!?」

 マリアベルは一瞬で距離を詰め身体を押し付けてきた。

「私を玩具にでもする?」
「お、玩具?」
「私は私の意思で還れないんでしょ? あなたの望みは何?」
「な、仲間が欲しくてですね……」
「そんなもの……その辺から探せば良いじゃない。私を喚んだのは……私がスタイル抜群! 超絶可愛いって有名だったからなんでしょ?」
「……はい?」

 アインは一瞬で冷静になった。スタイル抜群とは何を指しているのだろうか。

「ほら、私って顔が良いでしょ?」
「あ、はい」
「スタイルも抜群だし?」
「……ど、どの辺りですかね?」
「胸とか」
「……」

 主張する部分は丘どころか壁だった。

「読めたわっ! あなたの本当の目的は歴史上有名だった美女を侍らせてハーレム! 召喚された者は召喚主に逆らえないっ! きっとあんな事やこんな事されちゃうのねっ!」
「す──するかバカがっ!」
「あいたぁっ!?」
「あ」

 アインはあまりのバカさ加減にマリアベルの頭をはたいてしまった。

「な、なにすんのよぉぉぉっ! 私の綺麗な顔に傷がついたらどうしてくれるのっ! 【エクストラヒール】!」

 軽く叩いただけだがマリアベルは涙目になり最上級回復魔法を使った。

「はっ! あ、あなた……もしかして女の子をいたぶりながら興奮を覚えるタイプ?」
「違うわっ! お、俺の中のイメージが……」

 アインはお伽噺とはまるでイメージの違うマリアベルを見て愕然とするのだった。 
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

金眼のサクセサー[完結]

秋雨薫
ファンタジー
魔物の森に住む不死の青年とお城脱走が趣味のお転婆王女さまの出会いから始まる物語。 遥か昔、マカニシア大陸を混沌に陥れた魔獣リィスクレウムはとある英雄によって討伐された。 ――しかし、五百年後。 魔物の森で発見された人間の赤ん坊の右目は魔獣と同じ色だった―― 最悪の魔獣リィスクレウムの右目を持ち、不死の力を持ってしまい、村人から忌み子と呼ばれながら生きる青年リィと、好奇心旺盛のお転婆王女アメルシアことアメリーの出会いから、マカニシア大陸を大きく揺るがす事態が起きるーー!! リィは何故500年前に討伐されたはずのリィスクレウムの瞳を持っているのか。 マカニシア大陸に潜む500年前の秘密が明らかにーー ※流血や残酷なシーンがあります※

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

異世界に召喚されたぼっちはフェードアウトして農村に住み着く〜農耕神の手は救世主だった件〜

ルーシャオ
ファンタジー
林間学校の最中突然異世界に召喚された中学生の少年少女三十二人。沼間カツキもその一人だが、自分に与えられた祝福がまるで非戦闘職だと分かるとすみやかにフェードアウトした。『農耕神の手』でどうやって魔王を倒せと言うのか、クラスメイトの士気を挫く前に兵士の手引きで抜け出し、農村に匿われることに。 ところが、異世界について知っていくうちに、カツキは『農耕神の手』の力で目に見えない危機を発見して、対処せざるを得ないことに。一方でクラスメイトたちは意気揚々と魔王討伐に向かっていた。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家
ファンタジー
 科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。  実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。  無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。  辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...