仲間に裏切られた勇者、事実を知り奮い立つ! ~世界を救う勇者アインの物語~

夜夢

文字の大きさ
上 下
23 / 33
第1章 はじまり

第24話 動く帝国

しおりを挟む
 アインが正体を明かし、ドワーフ達と親睦を深めている頃、ガーデン帝国皇帝に報告があった。

「うっ──」
「なんだ、何か用か?」

 皇帝は異様な臭いを放つ焼いた肉にかぶり付き恍惚な笑みを浮かべていた。グラスはワインかと思いきや、酒の匂いがしない。

「くふぅ……っ、美味い……っ! 肉は人間に限るな! そしてどんな酒にも勝るこの血! あぁ……最高だっ!」
「へ、陛下。ご報告が……」
「早く言え宰相。貴様も喰われたいか?」
「ひっ! じ、実は……」

 先代皇帝に仕えていた宰相は恐る恐る報告書を読み上げた。

「ふむ。帝国内に反抗勢力はなくなったか」
「はっ。各地を治めている領主は陛下に恭順の意を示しました。ですがいくつか問題がございまして」
「問題だと?」
「はっ。実は最後まで抵抗を続けていたハーチェット領に突如要塞が現れました」
「要塞だと? 誰が率いておる」
「それが……ハーチェット領主には隣国に出ていた娘がおりまして……。恐らくその娘が率いていると思われます」
「……はっ、小娘一人に何ができる。そうだな……ならば表向き従っているだろう奴らに向かうように言え。要塞を潰さねば貴様らの領地を潰すと脅すのも忘れるな」
「ははっ、かしこまりました! ではそのように……」

 宰相が部屋を出ると皇帝は再び分厚い肉にかぶりついた。

「くはぁぁぁ……っ、美味いっ! いくら食っても食い足りんっ! 人間の肉とはなぜこんなにも美味いのだ! くくくっ、この国は良いな。まだまだ肉がたんまりある……。最高の餌場だな。我をこの地に派遣してくれたディザーム様には感謝しかないなぁ。くくくくっかはははははははっ!」

 翌日、宰相は従ってはいるが未だ反抗的な領主に向け書簡を送った。

「ハーチェット領を潰さねば私の領地を潰すだと? あそこはもう何もないはずでは……」
「いえ、どうやらハーチェット領主の娘が要塞を作ったそうでして」
「要塞? まさか表立って皇帝に逆らう気か!」
「どうやらそのようです。私達はいかがいたしますか?」
「……すぐに出立する。領民共々だ。ただし行きたい者だけで良い。民には民の暮らしがあるだろうからな。死ぬとわかっていても育った地を捨てられぬ者もいるだろう」
「かしこまりました。では御触れを出し、移動は闇に紛れてという事で」
「ああ。あんな魔族になんぞ従えるか! 私はこの時を待っていたのだ!」

 他にも心の底から従う気のない領主達が行動に出た。

 そして宰相の報告から半月後、ハーチェット領には多くの移民が流れ着いていた。

「アインさん! すごい数の人がやってきました!」
「うむ。予想通りだな。迎えに行くぞリーリエ」
「はいっ!」

 アインはリーリエを連れ門の前に移動した。

「この集団の代表は誰だ?」
「私だ」

 アインとリーリエの前に重厚な鎧を纏った男が歩み出てきた。

「あ! あなたは確かスタット領主?」
「ああ。私はスタットの領主【エルム・スタット】だ。爵位はハーチェット殿と同じ伯爵だ。そなたはリーリエ嬢だったか」
「はい! あの……もしかして私達の味方に?」
「ああ。私はあの皇帝に従う気はない。私の力で良ければ使って欲しい。その代わり、我が民を受け入れてはくれまいか」

 するとアインがエルムにこう言った。

「エルム殿、助力感謝する。もちろん全員受け入れる用意はある。あの門から中に進んでくれ」
「貴殿は?」
「俺はアインだ。縁あってリーリエに力を貸している。怪しい者ではないよ」
「そうか。すまないが世話になる。協力して皇帝を倒そうではないか」
「そうだな」

 それから連日大勢の民が要塞に終結していった。閑散としていた要塞は今やちょっとした町より賑わっている。食糧はこれまで備蓄してきた物があり、さらに毎日新鮮な食糧が手に入る。集まった民は一万を超えたが、まだまだ余裕があった。

 そして人の流れが終わりを迎えた頃、アインは味方についた領主達を集め会議を開いた。

「エルム殿、移民はこれで終わりかな?」
「ああ。私の知る限りでは皇帝に従わない領主はこれで全員だ」
「わかった。では今後の事について話し合うとしよう」

 アインは集まった領主達に向け作戦と要塞の機能について伝えた。

「籠城作戦か。食糧は足りるだろうか」
「そこは問題ない。問題は皇帝自ら攻めてくるかどうかだ。エルム殿から見て皇帝は攻めてくると思うか?」
「……恐らく最後まで来ないだろう。あの魔族は人間の命など餌程度にしか思っていないからな。駒がなくなるまで城に引きこもっているだろう」
「なるほど。エルム殿は皇帝の姿を見たか?」
「ああ。醜く肥え太った豚野郎だ。オークの方がまだ整っているだろう」
「その魔族の名は?」
「【エンドリクセン】とか言っていたな」
「エンドリクセン!? 確かか!?」
「あ、ああ。どうした?」

 アインは眉間にしわを寄せた。

「エンドリクセンはリヒトーの弟だ」
「リヒトー?」
「魔王ディザームがまだ人間だった頃の話だ。エンドリクセンはシュバイン帝国の第二皇子だよ」
「な、なんだと!? いや、待て。なぜアイン殿はそれを知っている」

 アインは集まった領主達にも正体を明かした。

「ゆ、勇者アインの生まれ変わり!?」
「そうだ。だがこの話は内密に頼む。俺が生まれ変わっていると知ったら魔王ディザームは全軍を率いて侵攻してくるだろうからな」
「は……ははっ。そうか……勇者アイン! あの人類最強の勇者が味方に! これは勝てる! アイン殿、私達は貴方様に従いましょう!」

 アインは鼻息を荒くするエルム達に言った。

「俺はあくまでもリーリエの補佐だ。従うならリーリエにだ」
「あの魔族をどうにかできるなら誰にでも従おう。この国をこれ以上汚されたくはない」
「ああ。ではこれより籠城作戦を開始する」
「「「「おうっ!」」」」

 こうして帝国は二つに割れ、アインとリーリエを先頭に反皇帝派ができあがったのだった。 
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。  主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。  こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。  そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。  修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。    それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。  不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。  記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。     メサメサメサ   メサ      メサ メサ          メサ メサ          メサ   メサメサメサメサメサ  メ サ  メ  サ  サ  メ サ  メ  サ  サ  サ メ  サ  メ   サ  ササ  他サイトにも掲載しています。

転生してテイマーになった僕の異世界冒険譚

ノデミチ
ファンタジー
田中六朗、18歳。 原因不明の発熱が続き、ほぼ寝たきりの生活。結果死亡。 気が付けば異世界。10歳の少年に! 女神が現れ話を聞くと、六朗は本来、この異世界ルーセリアに生まれるはずが、間違えて地球に生まれてしまったとの事。莫大な魔力を持ったが為に、地球では使う事が出来ず魔力過多で燃え尽きてしまったらしい。 お詫びの転生ということで、病気にならないチートな身体と莫大な魔力を授かり、「この世界では思う存分人生を楽しんでください」と。 寝たきりだった六朗は、ライトノベルやゲームが大好き。今、自分がその世界にいる! 勇者? 王様? 何になる? ライトノベルで好きだった「魔物使い=モンスターテイマー」をやってみよう! 六朗=ロックと名乗り、チートな身体と莫大な魔力で異世界を自由に生きる! カクヨムでも公開しました。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

黒いモヤの見える【癒し手】

ロシキ
ファンタジー
平民のアリアは、いつからか黒いモヤモヤが見えるようになっていた。 その黒いモヤモヤは疲れていたり、怪我をしていたら出ているものだと理解していた。 しかし、黒いモヤモヤが初めて人以外から出ているのを見て、無意識に動いてしまったせいで、アリアは辺境伯家の長男であるエクスに魔法使いとして才能を見出された。 ※ 別視点(〜)=主人公以外の視点で進行 20話までは1日2話(13時50分と19時30分)投稿、21話以降は1日1話(19時30分)投稿

転生リンゴは破滅のフラグを退ける

古森真朝
ファンタジー
 ある日突然事故死してしまった高校生・千夏。しかし、たまたまその場面を見ていた超お人好しの女神・イズーナに『命の林檎』をもらい、半精霊ティナとして異世界で人生を再スタートさせることになった。  今度こそは平和に長生きして、自分の好きなこといっぱいするんだ! ――と、心に誓ってスローライフを満喫していたのだが。ツノの生えたウサギを見つけたのを皮切りに、それを追ってきたエルフ族、そのエルフと張り合うレンジャー、さらに北の王国で囁かれる妙なウワサと、身の回りではトラブルがひっきりなし。  何とか事態を軟着陸させ、平穏な暮らしを取り戻すべく――ティナの『フラグ粉砕作戦』がスタートする! ※ちょっとだけタイトルを変更しました(元:転生リンゴは破滅フラグを遠ざける) ※更新頑張り中ですが展開はゆっくり目です。のんびり見守っていただければ幸いです^^ ※ただいまファンタジー小説大賞エントリー中&だいたい毎日更新中です。ぜひとも応援してやってくださいませ!!

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...