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第1章 はじまり

第14話 いざ次の国へ

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 アリアの連れてきた騎士達は改革派により不当解雇されていたため、新たな騎士団長にアインの父バランを据え、全員アインのスキルで全快された後に復帰する事となった。

 その他、魔国クリミナルの宣言をいいことに、横領や賄賂、密輸などに与していた貴族も漏れなく粛清され、国の上層部は大変風通しが良くなっていた。

 そして次なる国へと出発する前夜、アインは国王に呼ばれた。

「どうかしましたか?」
「いや、少し気になってな。アインよ、次はどの国に向かうのじゃ?」
「そうですね。行き先は大陸の真北にある港町なので真っ直ぐ北を目指して行こうと考えていましたが」
「北……か」

 北と聞いた国王は眉をひそめた。

「アインよ。少々時間は掛かるだろうが北は迂回した方が良いかもしれぬ」
「迂回? 北の国に何かあるのでしょうか?」
「うむ……」

 国王はテーブルに置いた地図を見ながら理由を語った。

「北には【ガーデン帝国】という大国があるのはわかるな?」
「はい。この大陸の三分の一を占めている国ですね」
「うむ。少し前に突然皇帝が交代してな。新しい皇帝は魔国クリミナルに傾倒しておる。そのせいかどうかは知らぬが、魔国に従わぬ国には容赦ない攻撃を仕掛けておるのだ」
「……なるほど。いや、ちょっと待って下さい。ならこの国が大々的に魔国に従わないと宣言したら不味いのでは?」
「いや、不味いのは確かだが大丈夫じゃ」

 国王には何か秘策があるらしい。

「我が国と帝国の間には深い渓谷があってな。橋を落としてしまえば何人も侵入できんのじゃ。例え迂回しようとも重装備や城塞破壊兵器を運び入れる事も不可能。こちらは橋の手前に兵士を配置し、帝国兵が来たら橋を落とすだけで良いのじゃよ」
「なるほど。天然の要塞ですか」
「うむ。今の帝国は何やら不穏な空気に満ちておる。できるなら迂回した方が得策じゃ」

 国王はアインの身を案じていた。だがアインが首を縦に振る事はない。

「そうですね、確かに迂回した方が賢いやり方でしょう。ですが、不安材料を残したまま先には進めません。帝国が本当に危険な国なのか調査も兼ね、俺はやはり北に向かいます」
「……ははははっ、そうか。お主は本当に真っ直ぐな人間じゃな。まぁ、一人ならば軍隊とは違い目立つ事もないじゃろう。それにアインのスキルはどんな場所だろうと侵入できてしまいそうじゃしな。わかった、行くなら気を付けるのじゃぞ、未来の息子よ」
「息子って……。何年かしたらユーリカ様の心も変わるかもしれませんよ?」
「はっはっは!」

 国王は豪快に笑い飛ばしながらアインの肩を叩いた。

「アレは変わりはせぬよ。幼いながらもお主に完璧に惚れておるわ。教会で育ったが故かは知らぬが、お主に加護を与えておる神がフレキシオス様と知ってからもうお主しか見えておらぬ。今の時代、苦しんでおる者らは誰もが勇者の誕生を望んでおるからのう。お主ならなれるのではないか? 二代目勇者アインにのう」
「どう呼ばれても俺の生き方は変わりませんよ。俺は弱きを救い、悪しきを挫く。これが俺の生き方ですから」
「勇者という呼称にはこだわらぬか。まあそれも良いじゃろう。アインよ、必ず生きて戻るのじゃぞ。王の座は空けて待つからの」
「約束はできませんが生きていたら戻ります。国王、父の事、よろしくお願いいたします」
「うむ。知った間柄じゃ、ワシに任せよ」

 こうして行き先を決めた翌日、アインは王都から北へと向かい旅立った。その際騎士や国王らが盛大な見送りを敢行したため、かなり足早になった事は内緒だ。

「あ、あんな恥ずかしい真似するなんて聞いてないぞ!? 全く、見送りなんてする暇があったら仕事して欲しいよ」

 それからいくつか町や村を通り、その度に熱烈な歓迎を受けたため、アインは違う意味で疲れ果てていた。

「みんな本心では魔国クリミナルに従いたくなかったんだろうな。国が正しく動き始めて喜んでるのかもしれないな。やはりクリミナルは早く叩かないと」

 そして出立から二週間後、アインの目の前には深い渓谷が広がっていた。

「えぇぇ……、こんな深い渓谷だったっけ? 昔より深くなってる気がするし、昔はなかった霧が出てるぞ……」

 渓谷の底には深い霧がかかっており、底が見えなくなっていた。以前は霧もかかっておらず、底には深い河が流れていたが、今それを確認する事はできない。

「これじゃ間違っても侵略しようなんて思わないだろうな。落ちた瞬間死ぬぞこれ」

 アインは足元を確認しながら吊り橋を渡り、ようやく次の国である【ガーデン帝国】に入った。

「さて、国王は不穏な空気が流れていると言っていたけど……」

 アインは空を見上げる。

「確かに何か普通の空気とは違う気がするな。ここは一つ警戒しながら先に進むとしよう」

 アインは進む先にどこか不快感を感じたため、いつでも戦えるように構えつつ、街道を進んでいった。

「おっと~、兄ちゃんよ。こっから先は通行止めだ。通りたけりゃ金目のモン置いてきな」
「「「へっへっへ」」」
「……はぁぁ」

 森を抜けるように作られた街道を歩いていたらこれだ。

「金目の物ね。じゃあくれてやるよっ、受け取れっ! 氷弾魔法【アイシクルバレット】!!」
「「「「ぎあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」
「ど、どこが金目の……モン……だっ」
「氷って高いだろ? この辺りは暑いからな。たっぷり冷えとけば?」
「くそ……が……っ。ぐは──」

 盗賊達は物言わぬ冷たい肉の塊になった。

「ガーデン帝国に入ってすぐこれか。国土が広いぶん悪党も多そうだなぁ……やれやれ」

 アインは動かなくなった盗賊を森の中へと放り投げ、再び街道を北上していくのだった。  
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