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最終章 天界編

03 主神ネクロディア

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 白一色だった景色がだんだんと色を帯びていく。光の柱に乗り到着した先は天界。それも沢山の神々がいる中層ではなく、主神とその許可を得た者のみが入る事を許される最上層だ。そこには建物一つなく、池が一つだけあり、その隣にテーブルセットがあった。

《やあアーレス君》
「──っ!?」

 テーブルセットに目を奪われていると突然背後から声が掛かった。アーレスは慌てて飛び退き剣の柄に手を伸ばした。

《おっとごめんごめん。驚かせたかな?》
「なっ!?」

 再び背後から声が響く。振り向くと白いローブを纏った金髪の少年が優雅に茶を嗜んでいた。

「いつの間に……」
《なにがだい? ボクは最初からここに居たじゃないか》
「そんなわけ……」

 相手は神の中の神だ。多少認識をずらす事など造作もない。

《そんな所に立ってないでこっち来て座りなよ。お茶くらいは出してあげるよ?》
「……その前に一つ。なぜ俺を呼んだ。その理由が知りたいんだがな」

 ネクロディアはテーブルに茶を出しながらアーレスに言った。

《理由ね。特にはないかな》
「は?」
《大した理由なんてないって事さ。君を呼んだ理由はボクの気紛れ。君から結構な量の力が送られてきたから気になっただけさ》
「それだけか。俺に何かさせるつもりではないのか?」

 ネクロディアは空になったカップに新しい茶を出し口に運ぶ。

《別に~? その気になればボク一人でな~んでもできちゃうし。そうだなぁ~、どうしても何かしたいっていうならさ、ボクの話し相手にでもなってみるかい?》
「話し相手……だと?」

 アーレスはネクロディアの正面に座り、茶を飲み干した。

《そ。なんかボクって色んな神から嫌われててさ。会話といったら罰を口にする事だけだったんだよ。最後に誰かとまともに会話をした事なんてもう覚えてない過去の事なのさ》
「嫌われる理由があるんじゃないのか?」
《嫌われる理由? ははっ、しいて言うならボクが強すぎるって事かな。皆はボクの力に嫉妬でもしてるんじゃない? ははははっ》

 そう無邪気に笑うネクロディアを見てアーレスはまるで子どものようだと思っていた。そこに悪意などない。ただ子どもが悪戯をするように、遊びに飽きたら壊し、再び新しい玩具を見つけたら飽きるまで遊ぶ。アーレスはネクロディアの本質をそう考えた。

「嫉妬か。強すぎる力というのも難儀なものだな」
《そう? 別にボクは何一つ困っちゃいないよ? ボクに逆らう奴らは玩具でしかない。お陰で暇も潰れるからね~。あ、一応仕事はしてるよ? ただ……》

 ネクロディアの雰囲気が冷たいものに変わる。

《ギガアースはもう良いかな。アレはもう飽きちゃった。そろそろ破壊して一から創り治そうかな~》
「──っ! ネクロディア!!」
《おっと》

 アーレスは必中の一撃を放った。それこそ頭と胴体を躊躇なく切り離すつもりで本気の一撃を見舞った。だが一瞬ネクロディアの姿が消え、再び元いた場所に現れた。

《くくくくっ、ダメだなぁ~アーレス君。ボクを騙すつもりならもっと上手くやらなきゃ》
「くっ!」

 ネクロディアから緩い雰囲気が消える。

「いつから気付いていた」
《いつから? 最初からに決まってるでしょ》

 そう言い、ネクロディアは額の瞳を開いた。

《ボクのこの【見透す神の眼】は全てを見通す。君からはボクに従うような色は見えなかった。さて、問おうか。君の目的はなんだい? ボクの信者のフリをして力をよこしてまでボクに会いにきた理由は?》

 アーレスは怯える事なく、一人になってまで天界に来た理由を口にする。

「理由? そんなの一つしかないだろう。俺は……俺から大事なモノを奪う奴を許さない。神だろうと悪魔だろうと等しく俺の敵だ!」
《ふ~ん。それならルシファー達と一緒に来れば良かったんじゃないの? なんでまた一人で?》
「あの時の俺じゃお前に勝てなかったからな。ルシファーを一目見てわかった。あいつは弱りきっていてお前には勝てないだろうとな」

 ネクロディアの顔に笑みが浮かぶ。

《あはっ、ルシファーを捨て駒にして時間を稼いだんだ~。君はなかなかに悪い奴だね~》
「あいつは別に仲間ってわけじゃない。あいつだって俺を利用しに来たんだろ。だから逆に利用してやった。俺が強くなるまでの時間を稼ぐためになっ!」
《ん? へぇ~……凄い凄い》

 アーレスの身体から炎が立ち昇る。

《それは……最上位精霊フェニックスの炎だね》
「ああ。だかそれだけじゃないぜ」
《んん?》

 アーレスは左腕にリヴァイアサンを、右腕に神竜バハムートを。そして背中に不死鳥フェニックスを顕現させた。

《アーレス~、やっと僕の出番?》
《待ちくたびれたぞアーレス。アレが主の敵か》
《やだ~、ガキが相手なの~? つまんないからさっさと燃やしちゃおうか?》
「いいや、まだだ。ネクロディア! これが俺の全てだ! 出でよオーディン!! 出でよシルフ! 出でよ──」

 アーレスは呼び出せる上位精霊全てを呼び出した。

《へぇ~。で? まさか精霊の力だけでボクを倒せるとか思ってないよね? もし倒せると──え?》

 アーレスは全ての精霊の中心に立ち詠唱を始めた。

「……全ての精霊よ。我が身を依り代とし、全ての力を一つに交わらせ、全ての敵を滅ぼす力を我に授けよ! 例えこの身が朽ちようとも我が敵を討ち破る力をっ!! 【合成召喚】!!」
《うっ──眩し──っ!!》

 アーレスの身体が目映く輝く。それと共に主神であるネクロディアですらこれまで感じた事のない力がアーレスを包み込んでいった。

 何者をも畏れぬ神ネクロディアの額から冷たい汗が垂れ落ちる。

《な、なんだよその力っ! ありえないっ!》
「ああ。ありえないだろうな。これは命を燃やす光。精霊一体で俺の能力は十倍、二体で百倍……さて、何体の精霊が俺に力を貸してくれたか覚えているか? ネクロディア」

 ネクロディアは初めて恐怖という感情を覚えた。それは瞬く間に己を支配していき、己の意思で身体を動かせなくなっている。

《や、やめろ! 来るなよぉっ! ボクは何も悪い事してないじゃないか! き、君だってボクの考えに賛同してたじゃないかっ!》
「賛同? ははははっ。全てを見透す神の眼で視て知っているだろう? 全て嘘だってな!」
《ぐぅぅぅぅっ!》

 アーレスの威圧によりネクロディアは地面を無様に転がった。

「賛同するのは職業のない世界。そこまでだ。飽きたから世界をリセットだ? そんな事させるわけないだろうが!!」
《ひっ! あぁぁ……く、くるなぁぁぁっ!》
「お前のワガママでこれ以上大事なモノを失いたくないんでな。悪いが存在そのものを消させてもらうぞ」
《い、いやだぁっ! ボクは神なんだっ! 神なんだぞっ!》

 アーレスは右手を銃の形にし、人差し指をネクロディアに向ける。

「知ってるかネクロディア。全ての属性を合成させたら全てを消し去る力が生まれるそうだ。その身で確かめてみろ。【ゼロ】」
《ア──アァァァァァァァァァァァァッ! イヤだァァァァァァァァァァァァァッ!!》

 アーレスの人差し指から不可視の攻撃が放たれ、ネクロディアのコアを貫いた。

《ぐふっ──! ボ、ボクの障壁をこんな──バカ……な……ッ》
「どんどん力が抜けていってるな。ネクロディア、最後に何か言い残す事はあるか?」

 ネクロディアは口から血を吐き地に伏せている。そして最後に右手を前に伸ばし、アーレスにむけ中指を立てた。

《くた……ばれ……バァ……カ……。ガッ──ハッ……》

 そうしてネクロディアは動かなくなり、やがてその身体は薄れ、完全に消滅していった。

「……ぐふっ! か、解除っ!」

 アーレスの身体が元に戻り地面に落ちる。

「く……そっ。消えるまでなげぇんだよっ! はぁ……はぁ……っ! あぁ……これはダメ……だな……」

 そうしてネクロディアを滅したアーレスだったが、その強すぎる力を使用した自身もその反動により地面に伏すのだった。 
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