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第3章 打倒、聖フランチェスカ教国編

10 朱雀の塔

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 多少怨みを晴らしたヘラの案内で、二人は港から一番近い場所にある朱雀の塔に向かった。

「朱雀の塔って言うくらいだから守っているのは朱雀か?」
「はい。火鳥族で一番の強さを誇る朱雀が守護していると聞きます」

 アーレスは少し考え込む。

「それはおかしな話だな」
「なぜです?」
「そもそも人間以外の種族は聖フランチェスカ教国では異端扱いされているはずだろう。なぜ火鳥族が塔を守護しているのか不思議でな」
「それは……」

 ヘラは同じく地下牢にいた獣人から聞いた話を口にする。

「火鳥族、霊亀族、龍人族は今絶滅しかけているそうです」
「絶滅……」
「はい。そこで三種族は里から一番の強者と若い女数人を差し出す代わりに、魔族領ような深い森で生きる事を許されたらしいのです」
「人質のようなものか。ん? 待て、白虎は違うのか?」

 白虎の名を口にした途端ヘラの表情が険しいものに変わった。

「アレは快楽殺人者です」
「ふむ」
「アレは自ら自分の里を滅ぼし、その首を持参して教皇の軍門に下ったのです」
「最低な奴だな」
「はい。私も何度も汚され、爪で肉を裂かれました……っ! アレだけは私が殺します! ヘルの力は借りずに私がっ!」

 ヘラは拳を握り唇を噛んでいた。

「わかった。白虎は母さんに殺らせる。約束しよう」
「ありがとう、アーレスちゃん」

 そうして歩く事数時間、目の前に真紅に塗られた石造りの塔が現れた。

「あれか」
「はい。あれが朱雀の守護する塔です」
「見張りはいないな。入り口も開いてるし……あれは入れって事か?」
「誘っているのでしょう。どうします?」

 アーレスは考えるまでもなく塔に向かい足を踏み出す。

「どうもこうもないだろ。行かなきゃ大神殿には入れないんだ。行くしかない」
「ですよね。では気を付けて進みましょ」

 二人は入り口を開けて待つ真紅の塔に入る。中は蒸し暑く、数歩歩いただけで汗が噴き出していた。

「やたら暑いな……」
「この暑さはちょっとキツいですね……」

 塔の中に敵の姿はなく、壁に沿って螺旋状になった階段があるだけだ。外観もそれほど大きくなく、高さは十メートルほどだ。二人は暑さを我慢しつつ階段を昇り、最上階の部屋に着いた。

 最上階の部屋には燃える翼を持つ人の形をした獣人が一人いるだけだった。

「あんたが朱雀か?」
「ああ、そうさ。ボクがこの塔を守護する四神獣が一人、炎拳の朱雀さ」
「あんた……女か」

 見た目からはわからないが声は明らかに女のそれだった。

「だからなに? まさか女が相手だと戦えないとか言わないよね。もしそうなら今すぐ灰にしてあげるけど?」

 そう宣言した朱雀の拳が燃え盛り火柱があがる。

「まさか。俺は俺に逆らう奴は老若男女容赦しない事にしている。母さん、ここは俺がやるよ」
「わかったわ。私じゃちょっとキツい相手だしお願いね、アーレスちゃん」
「ボクの相手は男の方かい? 女より戦いやすいからありがたいね。男なら遠慮なく消し炭にできる……」

 早く戦いたい朱雀は拳を合わせてニヤリと笑う。

「できるかどうかやってみな。母さん、ちょっと激しくなりそうだから階下が避難しててくれ。終わったら呼びにいく」
「か、火事には気を付けてね!」

 今から破壊しようというのに火事に気を付けろといらぬ心配をしながらヘラはフロアから階段に戻った。

「お別れは済んだ? さあ、ボクと燃えるような戦いを楽しもうじゃないかッ!」
「こいよ、その燃えてる頭冷やしてやる」
「いくぞッ! まずは──」

 朱雀は正面に構え拳に火炎を纏わせる。

「はぁぁぁぁぁッ! 燃え盛れボクの拳ッ! 炎装格闘術【紅蓮双拳】ッ!!」

 両拳の火炎が勢いを増し、室内の温度がさらに上昇する。

「お前……やる気はあるの? 構えすらとらないなんてボクを舐めてる?」
「俺は格闘家じゃないからな。俺は精霊使いで、得意とする事は魔法だ。言っておくぞ、俺に触れたらお前は死ぬ。それでも良いならいつでもきな」
「精霊使い? ハハッ、精霊使いか! なら見えてるんじゃないかい? ボクに力を貸し与えている精霊の姿がさあっ! ハァッ!!」
「む?」

 朱雀は地面を蹴り一瞬で距離を縮め、近距離から右のジャブを二発、左のフックが飛んできた。だがアーレスは難なく見切り、スウェーで躱わす。

「躱わした!? やるなお前っ!」
「触れたら死ぬって忠告してやったのに構わず殴りにくるとはな」
「死ぬとしても当たれば相討ちになるだろ! ボクの炎は精霊から借りた本当の炎だ! 人間の使う炎とは威力が全く違う! 朱雀の力を舐めるなよっ!」

 そう叫ぶと朱雀の両足も拳同様燃え盛り、パンチに蹴り、果ては肘や膝まで混じった強烈な攻撃が次々と繰り出される。だがアーレスはこれも涼しい顔で全て躱わしきり、朱雀の背後を取った。

「なぜだっ! なぜボクの攻撃が当たらないっ! 当たれば勝てるのにッ!!」
「なぜ当たらないか……か。理由が知りたいか?」
「うっ──あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 アーレスは朱雀の背に生えていた翼を握り、片翼をもぎ取った。

「ぐぅぅぅっ、ボクの翼がっ! っ!? ま、待て! お前、なぜ燃えないっ! ボクの翼はマグマと同じ温度だぞ!」
「だから触れたら死ぬって言っただろ。知ってるか? 炎は空気がなければ燃えないんだぜ?」
「な、なに?」

 アーレスはチラリと部屋の隅を見る。そこには申し訳なさそうに頭を下げる燃え盛るトカゲ【サラマンダー】がいた。

「翼の炎が消えた……。ま、まさか本当にボクが触れたら死ぬのか!?」
「ああ。炎相手が一番戦いやすい。ましてや格闘術などでは一発も俺に当たらないぞ」
「舐めるなぁぁぁぁっ! ボクはッ……! ボクは火鳥族で一番の使い手なんだぁぁぁぁぁッ!! ボクの火が通じないなんてあり得ないッ! ボクは惑わされないからなぁッ!! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 朱雀は我を忘れて無茶苦茶な攻撃を繰り出していく。型も何もない、それはただ子供が暴れるだけのようだった。そんな攻撃がアーレスに通じるはずもなく、アーレスは朱雀の攻撃を躱わしながら、朱雀が全身にまとっていた炎を少しずつ削り取っていった。

「うっ、うぅぅっ! ボクの炎が消える……! 力が出ないッ!!」
「ずいぶん良い眺めになったじゃないか。残る炎は四ヶ所だ。さあ、いよいよ終わりの時だ。俺の真空魔法でお前の炎を全て削り取ってやろう」 
「く、くるなっ! ボクが死んだら里の皆が──」
「なあに、殺しはしないさ。ただちょっと抵抗できなくするだけだ。己の弱さを知れ」
「あ──あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 朱雀は最後の力を振り絞り、アーレスに抵抗するのだった。
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