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第3章 打倒、聖フランチェスカ教国編
07 聖王
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町を巡回警備していた神殿騎士を難なく蹴散らしたアーレスはヘラと共に神殿へと向かう途中、ふと何かに気付いた。
「アーレスちゃんどうかした?」
「いや、さっきぶっ殺した神殿騎士らを見て一つ疑問が沸いてな」
「疑問? 思ってたより強かった……とか?」
アーレスは首を横に振る。
「いや、それは全くない。あの中に強者は一人もいなかった」
「じゃあ何が疑問なの?」
「うん……。あの中に女が一人もいなかった」
「へ?」
ヘラは瞬きをし、何を言い出すのかと、アーレスに呆れた視線を向けた。
「女って……。アーレスちゃん? もしかしてあんな戦闘中にも変な事を考えてたの? ダメよ?」
「違うわっ!? ただあれだけの数だ、中には一人くら女騎士やら女神官がいいても良いはずだろ? 職業に男女の差はないんだからさ。けど敵の中には一人として女がいなかった。これが何かを暗示している気がしてさ」
そう言われると疑問に思うが、ヘラは楽観的だった。
「ん~……考え過ぎじゃない? ただ聖王が男尊主義者なのかもしれないし」
「なら良いんだけどさ。どうにも嫌な予感がしてならないんだ」
「考え過ぎよ。あ、ほら! 門が見えたわ」
ヘラの指差した先に鉄柵と門が見えた。そして門を守る兵は女。アーレスは警戒しながら門に近付いた。
「さあ暴れるわ──むぐ」
「ちょっと待った。そこの二人から敵意を感じない」
「む、むぐぅぅぅぅっ!?」
アーレスがヘラを止めると門番二人が門を開いた。
「ヘラ様、アーレス様ですね? 聖王様がお待ちです。どうぞお通り下さい」
「なんだと? 聖王が俺達を?」
「はい。特に今口を塞がれて羽交い締めにされている御方、ヘル様をお待ちです」
ヘラの雰囲気が変わる。アーレスはそれを察知し、身体を離した。
「私に気付いた上で私を待っているですって? 私に聖王の知り合いなんていないわよ?」
「先日聖王様が崩御なされ、新しい聖王様に代替わりいたしました。新しい聖王様、名は【シュテン】様。ヘル様ならばお気付きになられるはずだどシュテン様は仰っておりました。さあ、どうぞ中へ」
「シュテン……シュテンね。なら確認のために入らせてもらおうかしら。アーレス、行くわよ」
「……ああ」
門番の案内に従い神殿内を歩く。
「女しかいないな」
「はい。シュテン様は弱い男性が嫌いでして。そのため、神殿には結界が張られており、シュテン様より弱い男性は神殿内に入れないのです」
「へぇ~。ならアーレスは?」
「入る事ができたという事はシュテン様より強いという事になります」
「だってさ、アーレス。良かったわね?」
「良いのかどうかまだ判断がつかないな」
そして門番は巨大な門扉の前で止まり後ろを振り向いた。
「こちらが聖王の間になります。どうぞ中へ」
扉が開かれる。中はごくありきたりな内装で、奥の一段高い場所に玉座がある。そこに足を組み膝に肘をつけ頬杖をついて座る聖王シュテンが両脇に美女を侍らせ座っていた。
「ようヘル、天界ぶりだな」
「ああ、それでシュテンね。あなたが聖王だったのね酒呑童子。地上にはいつ?」
「酒呑童子? それってあの……」
シュテンはアーレスの言葉を制し、ヘルの問い掛けに答える。
「つい最近だ。都合よく酒が大好きな良い男が死んでてな。俺様がその肉体を再利用してやったってわけよ」
シュテンは不敵に笑い玉座から立ち上がった。
「ヘル、そいつがお前のお気に入りか?」
「はぁ? それが何? あなたには関係のない話でしょ?」
どうにも二人の間に不穏な空気が立ち込める。
「関係ない……ねぇ。お前を落とした男が気になってな。俺様がどんだけ口説いても落ちなかったお前がまさか人間と一緒になるなんて誰が想像するよ」
「種族は関係ないわよ。アーレスは全てにおいてあなた以上。それだけよ」
それを受けシュテンはアーレスに視線を向ける。
「ふん。見た目は良いが強そうには見えないな」
「あ?」
「あぁん?」
二人の視線が交わりバチバチ睨み合う。
「はっ、ヘルを食ったくれぇでいい気になってんじゃねぇぞ。俺はこれまでももっと良い女をたらふく食ってきてるからよ?」
「量しか自慢できないのか? だからヘルをモノにできねぇんじゃねぇの? ヘル」
「へ? んむっ!? ん、んん~っ!?」
「なっ!?」
アーレスは見せつけるようにヘルを抱き寄せ口唇を重ねた。
「て、てめぇっ!」
「んはっ! もうアーレスったらぁ~。スイッチ入っちゃうじゃないのぉ~」
「ふん。良い男を自称するならヘルくらいの上玉を落としてみな」
「や、野郎……。ふっ──ふははははははっ!」
「あ?」
顔を赤くしアーレスに甘えるヘルを見てシュテンは豪快に笑いはじめた。そしてそのまま玉座に腰を下ろす。
「すまんすまん。試しただけだ、許せ」
「試した?」
「ああ。ヘルが気に入った人間ってのが気になってな。お前は合格だ。どうやらただ女を泣かせるだけの男じゃなさそうだ」
「……当たり前だ。女は泣かせるものじゃない。鳴かせるものだ」
「ははっ、ちげぇねぇ。お前、酒は?」
「それなりにいける」
「よし! なら今から宴だ! 付き合いな」
「ああ。ヘル、暑いからちょっと離れてくれ」
「そんなぁっ! この火照りはどうしたら!?」
「後で鎮めてやるから」
「やんっ、楽しみ~」
「はぁ、仲良いなお前ら。取り敢えず中庭に行こうぜ」
そして場所を中庭に移しバーベキュー宴会が始まった。
「なぜバーベキュー?」
「俺のいた国じゃ宴といったら野外でバーベキューなんだよ。室内でシャンパングラス片手にうふふおほほなんて柄じゃねぇしな。男なら野外で直火炭焼き肉を片手にキンキンに冷やしたエールだろうよ」
「まあ……その気持ちはわからんでもないな。しかし……上手いなこのエール……」
そう告げるとシュテンは満面の笑みを浮かべ食いついてきた。
「だろ!? これが俺の特殊能力の一つなんだわ」
「は?」
「俺のいる場で提供される酒は俺の特殊能力で数ランク上の酒に変わるんだわ。だからこんな安いエールだろうとちょっと高級品エールに変わるわけよ」
「そんなふざけた能力があるのか……」
「酒は命の水よ。酒がねぇ人生なんかつまらねぇ。天界は本当にクソみたいな世界だったわ」
アーレスはジョッキを傾けるシュテンに問い掛けた。
「シュテンはなぜ幽閉されたんだ?」
「あん? 俺は……どうしても酒が飲みたくてな。天界で酒を密造してたら精霊神にバレて捕まっちまったんだわ」
「要するに幽閉されたのは自業自得じゃないか!? お前……酒で人生狂ってるじゃないか」
「うるせ。酒がない人生なんぞ死にながら生きてるのと変わらん。お前んとこにいる堕天使達だって同じだ。奴らは造る方じゃなく堕天を選んだようだがな」
「ラフィエル達か。そういえばあいつも酒狂いだったな」
アーレスは空いたシュテンのジョッキにエールを注ぐ。
「お、悪いな」
「いや、構わんよ。それより……天界はそんなにつまらない世界なのか?」
「ああ。もう二度と戻りたくねぇ。こうして信仰も増えて力も戻りつつあるしな。その点はお前に感謝してんだぜ?」
「それ以外は?」
するとシュテンは空いたアーレスのグラスにエールを注ぎ、グラスを掲げた。
「まだわからねぇ。酒は人の本性を引き出すからよ。まだまだ付き合ってもらうぜ?」
「望むところだ。あんたの本性引きずり出してやろう」
「そりゃ俺のセリフだぜ」
「ちょっと、私も混ぜなさいよ!」
二人は早々に潰れたヘルを尻目に、延々酒を酌み交わしていくのだった。
「アーレスちゃんどうかした?」
「いや、さっきぶっ殺した神殿騎士らを見て一つ疑問が沸いてな」
「疑問? 思ってたより強かった……とか?」
アーレスは首を横に振る。
「いや、それは全くない。あの中に強者は一人もいなかった」
「じゃあ何が疑問なの?」
「うん……。あの中に女が一人もいなかった」
「へ?」
ヘラは瞬きをし、何を言い出すのかと、アーレスに呆れた視線を向けた。
「女って……。アーレスちゃん? もしかしてあんな戦闘中にも変な事を考えてたの? ダメよ?」
「違うわっ!? ただあれだけの数だ、中には一人くら女騎士やら女神官がいいても良いはずだろ? 職業に男女の差はないんだからさ。けど敵の中には一人として女がいなかった。これが何かを暗示している気がしてさ」
そう言われると疑問に思うが、ヘラは楽観的だった。
「ん~……考え過ぎじゃない? ただ聖王が男尊主義者なのかもしれないし」
「なら良いんだけどさ。どうにも嫌な予感がしてならないんだ」
「考え過ぎよ。あ、ほら! 門が見えたわ」
ヘラの指差した先に鉄柵と門が見えた。そして門を守る兵は女。アーレスは警戒しながら門に近付いた。
「さあ暴れるわ──むぐ」
「ちょっと待った。そこの二人から敵意を感じない」
「む、むぐぅぅぅぅっ!?」
アーレスがヘラを止めると門番二人が門を開いた。
「ヘラ様、アーレス様ですね? 聖王様がお待ちです。どうぞお通り下さい」
「なんだと? 聖王が俺達を?」
「はい。特に今口を塞がれて羽交い締めにされている御方、ヘル様をお待ちです」
ヘラの雰囲気が変わる。アーレスはそれを察知し、身体を離した。
「私に気付いた上で私を待っているですって? 私に聖王の知り合いなんていないわよ?」
「先日聖王様が崩御なされ、新しい聖王様に代替わりいたしました。新しい聖王様、名は【シュテン】様。ヘル様ならばお気付きになられるはずだどシュテン様は仰っておりました。さあ、どうぞ中へ」
「シュテン……シュテンね。なら確認のために入らせてもらおうかしら。アーレス、行くわよ」
「……ああ」
門番の案内に従い神殿内を歩く。
「女しかいないな」
「はい。シュテン様は弱い男性が嫌いでして。そのため、神殿には結界が張られており、シュテン様より弱い男性は神殿内に入れないのです」
「へぇ~。ならアーレスは?」
「入る事ができたという事はシュテン様より強いという事になります」
「だってさ、アーレス。良かったわね?」
「良いのかどうかまだ判断がつかないな」
そして門番は巨大な門扉の前で止まり後ろを振り向いた。
「こちらが聖王の間になります。どうぞ中へ」
扉が開かれる。中はごくありきたりな内装で、奥の一段高い場所に玉座がある。そこに足を組み膝に肘をつけ頬杖をついて座る聖王シュテンが両脇に美女を侍らせ座っていた。
「ようヘル、天界ぶりだな」
「ああ、それでシュテンね。あなたが聖王だったのね酒呑童子。地上にはいつ?」
「酒呑童子? それってあの……」
シュテンはアーレスの言葉を制し、ヘルの問い掛けに答える。
「つい最近だ。都合よく酒が大好きな良い男が死んでてな。俺様がその肉体を再利用してやったってわけよ」
シュテンは不敵に笑い玉座から立ち上がった。
「ヘル、そいつがお前のお気に入りか?」
「はぁ? それが何? あなたには関係のない話でしょ?」
どうにも二人の間に不穏な空気が立ち込める。
「関係ない……ねぇ。お前を落とした男が気になってな。俺様がどんだけ口説いても落ちなかったお前がまさか人間と一緒になるなんて誰が想像するよ」
「種族は関係ないわよ。アーレスは全てにおいてあなた以上。それだけよ」
それを受けシュテンはアーレスに視線を向ける。
「ふん。見た目は良いが強そうには見えないな」
「あ?」
「あぁん?」
二人の視線が交わりバチバチ睨み合う。
「はっ、ヘルを食ったくれぇでいい気になってんじゃねぇぞ。俺はこれまでももっと良い女をたらふく食ってきてるからよ?」
「量しか自慢できないのか? だからヘルをモノにできねぇんじゃねぇの? ヘル」
「へ? んむっ!? ん、んん~っ!?」
「なっ!?」
アーレスは見せつけるようにヘルを抱き寄せ口唇を重ねた。
「て、てめぇっ!」
「んはっ! もうアーレスったらぁ~。スイッチ入っちゃうじゃないのぉ~」
「ふん。良い男を自称するならヘルくらいの上玉を落としてみな」
「や、野郎……。ふっ──ふははははははっ!」
「あ?」
顔を赤くしアーレスに甘えるヘルを見てシュテンは豪快に笑いはじめた。そしてそのまま玉座に腰を下ろす。
「すまんすまん。試しただけだ、許せ」
「試した?」
「ああ。ヘルが気に入った人間ってのが気になってな。お前は合格だ。どうやらただ女を泣かせるだけの男じゃなさそうだ」
「……当たり前だ。女は泣かせるものじゃない。鳴かせるものだ」
「ははっ、ちげぇねぇ。お前、酒は?」
「それなりにいける」
「よし! なら今から宴だ! 付き合いな」
「ああ。ヘル、暑いからちょっと離れてくれ」
「そんなぁっ! この火照りはどうしたら!?」
「後で鎮めてやるから」
「やんっ、楽しみ~」
「はぁ、仲良いなお前ら。取り敢えず中庭に行こうぜ」
そして場所を中庭に移しバーベキュー宴会が始まった。
「なぜバーベキュー?」
「俺のいた国じゃ宴といったら野外でバーベキューなんだよ。室内でシャンパングラス片手にうふふおほほなんて柄じゃねぇしな。男なら野外で直火炭焼き肉を片手にキンキンに冷やしたエールだろうよ」
「まあ……その気持ちはわからんでもないな。しかし……上手いなこのエール……」
そう告げるとシュテンは満面の笑みを浮かべ食いついてきた。
「だろ!? これが俺の特殊能力の一つなんだわ」
「は?」
「俺のいる場で提供される酒は俺の特殊能力で数ランク上の酒に変わるんだわ。だからこんな安いエールだろうとちょっと高級品エールに変わるわけよ」
「そんなふざけた能力があるのか……」
「酒は命の水よ。酒がねぇ人生なんかつまらねぇ。天界は本当にクソみたいな世界だったわ」
アーレスはジョッキを傾けるシュテンに問い掛けた。
「シュテンはなぜ幽閉されたんだ?」
「あん? 俺は……どうしても酒が飲みたくてな。天界で酒を密造してたら精霊神にバレて捕まっちまったんだわ」
「要するに幽閉されたのは自業自得じゃないか!? お前……酒で人生狂ってるじゃないか」
「うるせ。酒がない人生なんぞ死にながら生きてるのと変わらん。お前んとこにいる堕天使達だって同じだ。奴らは造る方じゃなく堕天を選んだようだがな」
「ラフィエル達か。そういえばあいつも酒狂いだったな」
アーレスは空いたシュテンのジョッキにエールを注ぐ。
「お、悪いな」
「いや、構わんよ。それより……天界はそんなにつまらない世界なのか?」
「ああ。もう二度と戻りたくねぇ。こうして信仰も増えて力も戻りつつあるしな。その点はお前に感謝してんだぜ?」
「それ以外は?」
するとシュテンは空いたアーレスのグラスにエールを注ぎ、グラスを掲げた。
「まだわからねぇ。酒は人の本性を引き出すからよ。まだまだ付き合ってもらうぜ?」
「望むところだ。あんたの本性引きずり出してやろう」
「そりゃ俺のセリフだぜ」
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