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第3章 打倒、聖フランチェスカ教国編
03 旅
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魔王国バハートスから東へと旅立ち一ヶ月、徒歩で移動していた二人は久しぶりに大きな町にたどり着いた。
「ここが【ベネフィット王国】の王都【ギラン】か」
「ここまで大きな町は久しぶりね~」
入り口で入場税を払い町に入った二人は目の前に広がる光景に驚いていた。それもそのはず、今世界は争いに満ち溢れ、どこも瓦礫の山になっている。だがこの町はそんな争いとは無縁で、神殿は破壊さているものの、人々は活気に満ち、どこかゆったりとした空気が流れていた。
「アーレスちゃん、私お腹空いたわ~」
「そうだな。ちょうど俺も腹減ってるしどこか店に入ろうか」
「やった! じゃあ私町の人にオススメの店聞いてくるわね!」
ヘラは歩いていた女性に声を掛けに向かい、何やら話をして戻ってきた。
「ただいまっ、オススメのお店わかったわよ」
「そうか。じゃあ最初だしそこに行こうか」
「は~いっ。あっちの裏路地にあるらしいわ!」
まるで恋人のように腕に抱きつくヘラの案内で町の住人オススメの店に向かう。
「……ここか?」
「た、多分? 看板は合ってるし」
たどり着いた先には一軒の酷く傷んだ外観の店があった。扉は片方外れ、窓は全てガラスが割られている。
「これ、営業してんのか? ヘラ、お前住人に嘘教えられたんじゃ……」
「嘘だったの!? あんな丁寧に対応してくれてたのに!?」
「嘘じゃないよ?」
「ん?」
入ろうか帰ろうか悩むアーレスの背後から女性の声が掛かる。振り向くと先ほどヘラに店を紹介した女性がそこにいた。
「外観はボロいけどちゃんと営業してるし、味は保証するわよ?」
「お店の方だったのね」
「そ。ここが私のお店【ファミーユ】よ。どうぞ中へ」
「わかったから押さないでくれ」
「ひ、一人で歩けますからぁ~っ!」
女性は強引に二人の背を押し、店の中に向かわせる。店の中は傷んだテーブル席が二つとカウンター席が四つ。埃は溜まっていない事から掃除はされているらしい。
「カウンターで良いわよね? 注文は?」
「あんた一人でやってるのか?」
「まぁね。前は父がやってたんだけどもう引退しちゃってて」
「怪我……ですか?」
「違うよ。職業で【賭博師】を得てから毎日賭博場通いしてて……」
それで二人は確信した。
「「クズだな(ですね)」」
「ええ。毎日借金取りがやってきててね」
「父親は?」
「知らない。もうずっと姿を見てないわ」
「た、大変なのですね……」
「それより! 注文は? オススメは肉野菜炒めと芋のスープなんだけど」
「じゃあそれで」
しばらく女性の調理を観察する。なかなか手際が良いが、どこにでもいそうな調理人のようだ。
「普通……だな」
「普通……ですね」
「し、仕方ないでしょ! 私の職業調理師じゃないし!」
カウンターに置かれた料理はいたって普通の料理で、味もまた普通。不味くないだけマシな程度だった。二度目も来るかと尋ねられたら遠慮したいと答えるだろう。
「これじゃ潰れるのも時間の問題だな」
「これで毎日借金取りも来るのでしょう? 私が町の人間なら絶対通わないわ」
「わ、わかってるわよ! けど……」
女性は涙目になりながら店を継続したい理由を口にした。
「ここは……大好きだったお祖母ちゃんが開いた店だもの! 店の名前だって家庭って意味からとったっていつも言ってたし! お祖母ちゃんはこの町にはなかった料理を次々と生み出してた!」
感情の爆発はまだ続くようだ。
「お父さんの代になってからもリピーターはいたけど……真新しい料理が出なくなって徐々に客足が遠退いていったわ……。それでお父さんは自信を失ってギャンブルに逃げた。でも私はどうしてもこの店を潰したくないのっ! だから強引な客引きもする! い、一応人は選ぶけど……」
アーレスは店がオンボロでも続けていきたい理由を知ったが、関わる気はなかった。
「まあ……続けたいと思うなら続けていけば良いさ。だがそんな話を聞かされた所で俺が何かする事はない。代金はここに置いてくぜ。ヘラ、宿探しに行こうか」
「あ、はいっ」
「ま、またのお越し──ッ!」
代金をカウンターに置き席を立とうとした時だった。突如入り口を見ていた女性の表情が強張る。
「おうおう。借金取りに来たでぇぇ……」
「アニキ、生意気に客なんか入ってますよ!」
「ち、ちょっと! 今は止めて下さいっ!」
「アァン? アニキに文句あんのかオラァッ!!」
「ひっ!」
白いスーツを着た男と取り巻きが一人。取り巻きは兄貴分に意見された事が気に食わなかったのだろうか、残っていた半分の扉を蹴り壊した。
「やめぇ。関係あらんお客はんがびびっとるやないかぁ」
「す、すんませんアニキ!」
白いスーツの男がサングラスを外し胸ポケットに挿す。
「ワシらかてのぉ、金さえはろてもろたらそれでええんじゃ。借りたモンはキッチリ返す。当たり前の話や思いまへんか? のう、お客はん?」
「はぁ? 俺に言ってんのか?」
「なに、ワシは常識を確認したまでや。あんさんもそう思うやろ、なあ?」
どうやら白いスーツの男はアーレスを話に引き込み女性を頷かせようとしているようだ。ここで気の弱い客ならさっさと頷いて逃げを打つのだろうが、アーレスは違った。
「俺はそうは思わないな」
「は?」
「借りたのはあいつの親父だろ。取り立てなら借りた奴にするのが常識じゃないのか?」
「……はっはー! あんさんは何もわかっとらんなぁ。そいつの親父はのう、連帯保証人に娘の名前書いとるんや。ほれ、証文もこの通りや」
そう言い、白いスーツの男は内ポケットから紙を取り出し見せつけた。
「何もわかってないのはお前だろ」
「……なんやて?」
「その名前を書いたのは親父だろ。娘は一切同意してないんじゃないか?」
アーレスが女性を見ると凄まじい速さで首を縦に振っていた。
「連帯保証人は同意がなきゃ無効。支払い義務はない。むしろ建物を破壊したあんたらが弁償金を払わなきゃならないんだよ」
「て、てめぇ! アニキになんて口を──!」
「待てや! お前はすっこんでろ!!」
「へ、へい……」
白いスーツの男は取り巻きを引き下がらせ、アーレスの前に移動して睨み付けてきた。
「あんさんなぁ……そら表の金貸しの話や」
「はぁ?」
「ワシらぁの、裏の金貸しや。連帯保証人が無効? そんなん知った事やない。貸した金を回収するためなら鬼からでも仏からでも回収したるでぇ。遊びやないんじゃ。関係ない奴は口出しせんとけぇ」
アーレスは涼しい顔で睨み付けてくる白いスーツの男に言った。
「ああ、なんだ。あんたら闇金か。それならもっと早く言ってくれたら良かったのに」
「あん? おお、わかってくれたか」
「は? 何バカ言ってんだ。闇金なら返済の必要もないって言ってんだよ」
「な、なんやとゴラッ!」
「どうせ悪どい利息とってんだろ。国の許可なく貸金業はできない事になってるだろうが」
「おどれぇぇぇぇっ!!」
白いスーツの男がアーレスの胸ぐらを掴む。
「クソガキゴラッ! ワシら裏の人間舐めとったら沈めんど!! それでも借りたのはあいつの親父じゃボケ!!」
「なんだこの手は」
「あぁん!? うぉぉぉぉぉっ!?」
「ア、アニキィィィィィッ!?」
アーレスは胸ぐらを掴む腕を外し、逆に胸ぐらを掴み白いスーツの頭で床板を貫いた。
「お、おぉぉ……!」
「ア、アーレスちゃん?」
女性は目を輝かせ、ヘラはおろついていた。
「先に手を出したのはこいつだ。まだ生きてるだろうから持っていけよおらッ!」
「んごぉぉぉぉっ!?」
アーレスは取り巻きに向かい白いスーツの男を蹴り飛ばしてやった。そして下敷きになった取り巻きに向かいこう告げた。
「今回だけは見逃してやるよ」
「ひっ!?」
「次またこの店で見掛けたら殺す。証文出せ」
「は、はいぃぃぃぃっ!」
アーレスは証文を剥ぎ取り、細切れに引き裂いた。
「これで貸し借りなしだ。貸した証拠も借りた証拠もない。それでも取り立てしたいってんならあいつの親父を探して取り立てな。その白スーツにも言っておけ。消えな」
「ち、ちくしょぉぉぉぉっ! 覚えてろよゴラッ!!」
取り巻きの男は白いスーツの男を肩に担ぎ、捨て台詞を吐きながら去るのだった。
「ここが【ベネフィット王国】の王都【ギラン】か」
「ここまで大きな町は久しぶりね~」
入り口で入場税を払い町に入った二人は目の前に広がる光景に驚いていた。それもそのはず、今世界は争いに満ち溢れ、どこも瓦礫の山になっている。だがこの町はそんな争いとは無縁で、神殿は破壊さているものの、人々は活気に満ち、どこかゆったりとした空気が流れていた。
「アーレスちゃん、私お腹空いたわ~」
「そうだな。ちょうど俺も腹減ってるしどこか店に入ろうか」
「やった! じゃあ私町の人にオススメの店聞いてくるわね!」
ヘラは歩いていた女性に声を掛けに向かい、何やら話をして戻ってきた。
「ただいまっ、オススメのお店わかったわよ」
「そうか。じゃあ最初だしそこに行こうか」
「は~いっ。あっちの裏路地にあるらしいわ!」
まるで恋人のように腕に抱きつくヘラの案内で町の住人オススメの店に向かう。
「……ここか?」
「た、多分? 看板は合ってるし」
たどり着いた先には一軒の酷く傷んだ外観の店があった。扉は片方外れ、窓は全てガラスが割られている。
「これ、営業してんのか? ヘラ、お前住人に嘘教えられたんじゃ……」
「嘘だったの!? あんな丁寧に対応してくれてたのに!?」
「嘘じゃないよ?」
「ん?」
入ろうか帰ろうか悩むアーレスの背後から女性の声が掛かる。振り向くと先ほどヘラに店を紹介した女性がそこにいた。
「外観はボロいけどちゃんと営業してるし、味は保証するわよ?」
「お店の方だったのね」
「そ。ここが私のお店【ファミーユ】よ。どうぞ中へ」
「わかったから押さないでくれ」
「ひ、一人で歩けますからぁ~っ!」
女性は強引に二人の背を押し、店の中に向かわせる。店の中は傷んだテーブル席が二つとカウンター席が四つ。埃は溜まっていない事から掃除はされているらしい。
「カウンターで良いわよね? 注文は?」
「あんた一人でやってるのか?」
「まぁね。前は父がやってたんだけどもう引退しちゃってて」
「怪我……ですか?」
「違うよ。職業で【賭博師】を得てから毎日賭博場通いしてて……」
それで二人は確信した。
「「クズだな(ですね)」」
「ええ。毎日借金取りがやってきててね」
「父親は?」
「知らない。もうずっと姿を見てないわ」
「た、大変なのですね……」
「それより! 注文は? オススメは肉野菜炒めと芋のスープなんだけど」
「じゃあそれで」
しばらく女性の調理を観察する。なかなか手際が良いが、どこにでもいそうな調理人のようだ。
「普通……だな」
「普通……ですね」
「し、仕方ないでしょ! 私の職業調理師じゃないし!」
カウンターに置かれた料理はいたって普通の料理で、味もまた普通。不味くないだけマシな程度だった。二度目も来るかと尋ねられたら遠慮したいと答えるだろう。
「これじゃ潰れるのも時間の問題だな」
「これで毎日借金取りも来るのでしょう? 私が町の人間なら絶対通わないわ」
「わ、わかってるわよ! けど……」
女性は涙目になりながら店を継続したい理由を口にした。
「ここは……大好きだったお祖母ちゃんが開いた店だもの! 店の名前だって家庭って意味からとったっていつも言ってたし! お祖母ちゃんはこの町にはなかった料理を次々と生み出してた!」
感情の爆発はまだ続くようだ。
「お父さんの代になってからもリピーターはいたけど……真新しい料理が出なくなって徐々に客足が遠退いていったわ……。それでお父さんは自信を失ってギャンブルに逃げた。でも私はどうしてもこの店を潰したくないのっ! だから強引な客引きもする! い、一応人は選ぶけど……」
アーレスは店がオンボロでも続けていきたい理由を知ったが、関わる気はなかった。
「まあ……続けたいと思うなら続けていけば良いさ。だがそんな話を聞かされた所で俺が何かする事はない。代金はここに置いてくぜ。ヘラ、宿探しに行こうか」
「あ、はいっ」
「ま、またのお越し──ッ!」
代金をカウンターに置き席を立とうとした時だった。突如入り口を見ていた女性の表情が強張る。
「おうおう。借金取りに来たでぇぇ……」
「アニキ、生意気に客なんか入ってますよ!」
「ち、ちょっと! 今は止めて下さいっ!」
「アァン? アニキに文句あんのかオラァッ!!」
「ひっ!」
白いスーツを着た男と取り巻きが一人。取り巻きは兄貴分に意見された事が気に食わなかったのだろうか、残っていた半分の扉を蹴り壊した。
「やめぇ。関係あらんお客はんがびびっとるやないかぁ」
「す、すんませんアニキ!」
白いスーツの男がサングラスを外し胸ポケットに挿す。
「ワシらかてのぉ、金さえはろてもろたらそれでええんじゃ。借りたモンはキッチリ返す。当たり前の話や思いまへんか? のう、お客はん?」
「はぁ? 俺に言ってんのか?」
「なに、ワシは常識を確認したまでや。あんさんもそう思うやろ、なあ?」
どうやら白いスーツの男はアーレスを話に引き込み女性を頷かせようとしているようだ。ここで気の弱い客ならさっさと頷いて逃げを打つのだろうが、アーレスは違った。
「俺はそうは思わないな」
「は?」
「借りたのはあいつの親父だろ。取り立てなら借りた奴にするのが常識じゃないのか?」
「……はっはー! あんさんは何もわかっとらんなぁ。そいつの親父はのう、連帯保証人に娘の名前書いとるんや。ほれ、証文もこの通りや」
そう言い、白いスーツの男は内ポケットから紙を取り出し見せつけた。
「何もわかってないのはお前だろ」
「……なんやて?」
「その名前を書いたのは親父だろ。娘は一切同意してないんじゃないか?」
アーレスが女性を見ると凄まじい速さで首を縦に振っていた。
「連帯保証人は同意がなきゃ無効。支払い義務はない。むしろ建物を破壊したあんたらが弁償金を払わなきゃならないんだよ」
「て、てめぇ! アニキになんて口を──!」
「待てや! お前はすっこんでろ!!」
「へ、へい……」
白いスーツの男は取り巻きを引き下がらせ、アーレスの前に移動して睨み付けてきた。
「あんさんなぁ……そら表の金貸しの話や」
「はぁ?」
「ワシらぁの、裏の金貸しや。連帯保証人が無効? そんなん知った事やない。貸した金を回収するためなら鬼からでも仏からでも回収したるでぇ。遊びやないんじゃ。関係ない奴は口出しせんとけぇ」
アーレスは涼しい顔で睨み付けてくる白いスーツの男に言った。
「ああ、なんだ。あんたら闇金か。それならもっと早く言ってくれたら良かったのに」
「あん? おお、わかってくれたか」
「は? 何バカ言ってんだ。闇金なら返済の必要もないって言ってんだよ」
「な、なんやとゴラッ!」
「どうせ悪どい利息とってんだろ。国の許可なく貸金業はできない事になってるだろうが」
「おどれぇぇぇぇっ!!」
白いスーツの男がアーレスの胸ぐらを掴む。
「クソガキゴラッ! ワシら裏の人間舐めとったら沈めんど!! それでも借りたのはあいつの親父じゃボケ!!」
「なんだこの手は」
「あぁん!? うぉぉぉぉぉっ!?」
「ア、アニキィィィィィッ!?」
アーレスは胸ぐらを掴む腕を外し、逆に胸ぐらを掴み白いスーツの頭で床板を貫いた。
「お、おぉぉ……!」
「ア、アーレスちゃん?」
女性は目を輝かせ、ヘラはおろついていた。
「先に手を出したのはこいつだ。まだ生きてるだろうから持っていけよおらッ!」
「んごぉぉぉぉっ!?」
アーレスは取り巻きに向かい白いスーツの男を蹴り飛ばしてやった。そして下敷きになった取り巻きに向かいこう告げた。
「今回だけは見逃してやるよ」
「ひっ!?」
「次またこの店で見掛けたら殺す。証文出せ」
「は、はいぃぃぃぃっ!」
アーレスは証文を剥ぎ取り、細切れに引き裂いた。
「これで貸し借りなしだ。貸した証拠も借りた証拠もない。それでも取り立てしたいってんならあいつの親父を探して取り立てな。その白スーツにも言っておけ。消えな」
「ち、ちくしょぉぉぉぉっ! 覚えてろよゴラッ!!」
取り巻きの男は白いスーツの男を肩に担ぎ、捨て台詞を吐きながら去るのだった。
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