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第3章 打倒、聖フランチェスカ教国編

01 変わる世界

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 魔族が反旗を翻し、人間の領域に建国してから一年が過ぎた。魔王国バハートスの近隣諸国は神殿から職業を授かるために必須な神の涙といわれている精霊結晶を魔王国に献上し、失った精霊結晶を隣国の神殿から奪っていった。その折、隣国の兵士達は神官や神殿には何一つ神の恩恵を与える力がなく、精霊結晶一つあれば職業を得られると吹聴して回った。これにより、これまで教国を崇拝し、多額の寄付を送っていた貴族は激怒した。

「おのれ教国めっ!! 全てまやかしかっ!! 断じて許すわけにはいかんっ!! 今こそ立ち上がる時!! 全ての国が目を覚ます時がきたのだっ!! 聖フランチェスカ教国……滅ぶべしっ!!」
「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」 

 この流れは大陸の端から中央、そして隣の大陸へと伝播していき、アーレスが精霊結晶を奪ってから一年後になると世界にある全ての国々が打倒聖フランチェスカ教国の旗を掲げ立ち上がった。

 だが、立ち上がったは良いものの、世界にいる誰もが聖フランチェスカ教国はおろか、国のある中央大陸にすら渡れずにいた。

  その光景をメイギス・フラジャイル教皇が神殿最上階のバルコニーからワイングラス片手に嘲笑っていた。

「ふははははっ、今日も羽虫が島に渡ろうと足掻いておるわ! だが……無駄無駄無駄無駄ぁぁぁぁっ! 結界を破らん限り島には侵入できんわっ! ふははははははぁっ!」

 教皇はいつか職業を授ける儀式がブラフであると見抜かれるだろうと推測し、島の四方に塔を建設させていた。塔は【朱雀の塔】【白虎の塔】【玄武の塔】【青龍の塔】と名付けられ、これに大陸中央の神殿を合わせ五つのポイントで侵入不可の結界を張る準備をしていた。

「聞こえるか、白虎」
《……はっ》

 教皇は通信魔法で白虎の塔にいる白虎に声を掛けた。

「そこから羽虫が見えるな?」
《ええ、やりますか?》
「当然だ。全て沈めてしまえ」
《はっ!》

 通信を終えた白虎は巨大な体躯を揺らし、塔の最上階にある制御室へと向かう。

「おや、白虎様。いかがなされましたか?」
「教皇からの指令だ。見える船全て沈めてしまえ」
「ははっ! 魔力充填開始!」

 すると塔の最上部にある屋根が開き、魔力の塊が生成されていく。

「充填率七、八……いけます!」

 発射準備が整ったところで白虎が腕組をしながら鋭い牙を覗かせ笑った。

「やれ」
「はっ! 白虎砲……発射!!」

 一方、島に渡れずにいる各国の兵士はというと。

「お、おいっ!! 塔の上が開いたぞっ!?」
「み、見ろっ! 何か撃とうとしてないか!?」
「た、退避ぃぃぃっ! 退避だぁぁぁぁっ!!」

 発射準備が始まると同時に島に侵入しようと試みていた船団は合わせてながら反転し、島を離れていく。

「無駄だ。がははははっ、消え去れいっ!!」

 塔の最上部から白い光が拡散し、全ての船を貫き一瞬で海の藻屑へと消し去った。

「がははははっ! 爽快っ! 爽快だなぁ? あちらから攻撃される事なく、こちらからは攻撃し放題とはな! まったく、教皇もずいぶん酷い結界を張ったものだな」
「ええ。この結界は四方にある全ての塔を破壊しない限り解除できません。しかも四方の塔を破壊してしまうと、中央にある大神殿が宙に浮かび上がる仕掛け……。もはやこの世界に教皇を倒せる者などいませんよ」
「ふん、教皇の下にたどり着ける者などおらんわ。我ら四聖獣がいる限りな。がはははははっ!!」

 世界中の国々が教国を打倒しようと立ち上がるも、誰一人として中央大陸に上陸すらできなかった。

 いくら打倒しようと足掻いても大陸に上陸すらできない。船で近付くも全ての塔から無慈悲な魔砲が飛来する。これを受け、いつしか人間は中央大陸に近付く事をやめた。

 そこから月日が経つにつれ、二十歳を過ぎても職業を得られない者が現れ出した。小さな国は他国から精霊結晶を奪われ儀式を受けられなくなった。職業を持つ者と持たない者には圧倒的なまでの差が出る。それがさらに貧富の差へと拡大していき、世界は持つ者と持たざる者に二分化されていった。

 そんな中、魔王国バハートスは順調に国としての体制を整えていた。国は大量の魔族が闊歩し、子どもの魔族が元気に町を駆け回っている。バハートスは人間の国々に比べ平和の維持を続けていたのである。

 その町をアーレスとアリア、そしてミリアムの三人が並び視察して回っていた。

「妾らの国は平和そのものじゃの~」
「そうですね~。ここまで平和だと子作りも捗りますね~」
「最近やたら子どもが産まれてるよな。それだけ豊かで今の生活不満がないって事だよな」

 人間の減少に反比例し、魔族の数は右肩上がりに増加していた。当初不可侵の条約を結んでいた四国も今はもう存在しない。全ての精霊結晶と領土を魔王国に献上し、庇護下に入っていた。現在魔王国は大陸の四分の一を占めており、残る人間の国は貧困に喘いでいる。

「アーレス様だ~! 格好いいっ!」
「アリア様~! 可愛いぃぃぃぃっ!」
「ミリアム様~! サキュバスの店増やしてくださぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!」

 アーレス達三人は魔族達から絶大な支持を得ている。当初国の運営に関わる気など全くなかったアーレスだが、いつまで経ってもインフラが整わない現状を嘆き、苦しんでいた魔族を救うために仕方なく運営に関わった。すると瞬く間に生活環境が向上し、今や魔王国バハートスは世界一裕福な国へと変貌を遂げていた。

「やはりアーレスを王にしておいて正解じゃったな。今やバハートスは世界一の国じゃ」
「アーレスさんを見つけたのは私なんですからね!」
「お前らは相変わらずだなぁ。それよりだ」

 アーレスは真面目な顔で二人に言った。

「ここまで成長したんだ、もう俺がいなくても大丈夫だろう」
「「え?」」

 アーレスの言葉に二人が驚きの声を上げた。

「な、なにを言っておるのじゃアーレス!」
「そ、そうですよ! そんないなくなるような……」
「……俺さ、旅に出ようと思っててな」
「「た、旅!?」」
「ああ。今世界は光を失っている。そして何より聖フランチェスカ教国が中央大陸を支配し、打倒しようとしている人間を安全な場所から嘲笑い虐殺を続けている」

 二人は黙ったままアーレスの話に耳を傾ける。

「魔族が差別される時代は終わり、今や人間の世界でも権利を得た。もう誰も魔族を悪とのたまう愚か者もいない。だからこそ今なんだ。今魔族が聖フランチェスカ教国を堕とせば魔族が全ての頂点に立つ事ができる。俺は人間だが魔族には返しきれない恩がある。アリア、ミリアム。これが最後のわがままだ。旅立つ許可をくれ」

 そう言い、アーレスは二人に向かい頭を下げた。するとミリアムは呆れたように笑い、アーレスに声を掛けた。

「アーレスならいつか行くと思ってた。ヘラってあなたのお母さんなんでしょ? そのお母さんを散々苦しめてきた教国を許しておくわけがないと思ってたし」
「ミリアム……」

 ミリアムの言葉にアリアも続く。

「そう……じゃな。アーレスならいつか言い出すと思っておったが……。よく無断で旅立たなかったのう」
「そんな事するわけないだろ。みんなにもちゃんと挨拶してから旅立つつもりだった」
「そうか。……うむ、行ってこいアーレス!」
「アリア……」
「旅立ちは許す! じゃが……絶対に生きて帰ってくるのじゃ! もし死んだらウルスラにネクロマンスさせてゾンビにしてやる!」
「ははっ、それは嫌だなぁ。嫌だからちゃんと生きて帰ってくるよ。だから待っててくれ」
「うむ!」

 アーレスはその日の内に幹部全員に旅立つ事を告げ、翌日の朝、仲間達に見送られながら魔王国を旅立ち、東へと向かったのだった。
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