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第2章 ゴルドランド王国侵攻編

03 聖フランチェスカ教国の思惑

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 これはアーレスが追放された頃のお話。

 ここは世界の中央にある島に唯一ある国【聖フランチェスカ教国】。【第十代メイギス・フラジャイル教皇】を国主とし、世界中に神殿を設置し、裏から世界を牛耳っている。この国の教義は【精神教】といい、精霊神こそ唯一無二の神であるとし、他の神々は精霊神に連なる属神でしかないという教えが主である。

 この第十代教皇は腐りきった職業至上主義者だった。将来自らの地位を脅かすような職業を持つ者を排除し、新しく現れた職業所持者は排除するよう命じていた。

 そんな教皇の職業は【聖者】であり、代々聖者を持つ者が教皇の地位に就いている。この第十代教皇もそれ以前も血の繋がりなどなく、教皇の椅子は職業で決められていた。

「ふん、ワシの目が黒い内は厳しくいく」
「教皇! 俺は貴様を許さんからなっ! 俺が死んでも必ず次の魔導神が貴様を討つ!!」
「……ハハハハハッ! それは楽しみにしておるわ。魔導神なぞ魔法を封じられた時点でゴミカスよ。その程度で神を冠するなぞ片腹痛いわ。……殺せ」
「メイギス・フラジャイルゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 この日、人類最強の魔導神が天に召された。その他にも今世界各地で有能な職業を得た者が幽閉されたり処刑され続けている。

「処刑部隊長、報告はどうした」
「はっ! 報告致します! 先日ゴルドランド王国にて【精霊使い】なる職業を得た者が現れました!」
「精霊使い? なんだその職業は。初めて聞いたぞ」
「はっ。現場の神官も初めて聞いた職業との事でしたが、命令通り国王に突き出し、魔族領への追放処分となったようであります」
「魔族領か。……ふん、忌々しい魔族共め。魔族も獣人、亜人も地上世界には必要のない種族だ。精霊使いとやらがどんな力を持つか知らんが……共食いでもしてくれたらありがたいものだな」
「はい。報告は以上であります!」
「ふむ。下がるがよい」
「はっ!」

 黒い衣装に仮面を付けた男が魔導神の死体を担ぎ上げ部屋を出た。

「この地上に人間以外は不要だ。精霊神? そのようなおるかおらんかわからぬ者も不要。世界の全てを我が手に! ハハッ……ハハハハハハッ!!」

 メイギス・フラジャイル。世界を狂わせている全ての元凶だ。精霊神による神罰を恐れてか、誰もメイギスに逆らえず、誰も苦言すら言えない。世界の歯車は徐々に、確実に狂い出していた。

 そして話は現在に戻る。

 アーレスは弟であるヨハネスに向け手をかざしながら言った。

「さてヨハネス。タイマン張ろうか。俺が勝ったらお前は何してくれんだ?」
「うっ……。ぼ、僕は……」
「ハッキリしろ。俺に喧嘩売ってきたのはお前だ」

 ヨハネスは一切の躊躇なく神官を殺したアーレスを見て脅えていた。最初の威勢はどこえやら。構えた剣はガタガタと震えている。

「ぼ、僕は領主になるんだ! あ、あんたなんかには負けない!! だから負けた後の事なんて知るかっ! お──オォォォォォォォォッ!!」

 ヨハネスは脅えきったまま剣を振り上げアーレスに斬りかかる。

「そんな脅えきった剣で俺に勝つ気とはな。ヨハネス、せめて苦しまない様に殺してやる。【ダークパラライズ】」
「がっ!? ギギギッ……」

 アーレスはヨハネスに向け麻痺をかける。そしてウルスラに声を掛けた。

「ウルスラ。こいつを兵隊に変えて良いぞ」
「ん。わかった」
「な、なにを……があっ!?」

 アーレスは地面に伏せたヨハネスの背にダークソードを突き刺す。ヨハネスは背から心臓を貫かれ絶命した。

「良いぞウルスラ」
「ん。【ネクロマンス】」

 ウルスラが死体に変わったヨハネスの肩に触れスキルを使う。ウルスラの職業は【ネクロマンサー】だ。今使ったスキル【ネクロマンス】は死体を使い傀儡を作り上げるスキルである。ヨハネスはこのスキルにより不死の軍団に仲間入りを果たした。

「終わった。この人間は私の傀儡」
「……」
「ご苦労。そいつはウルスラにやるよ。好きに使い潰して──」

 その時だった。

「ヨハネス!!」
「ん?」

 息を切らし剣を魔族の血で濡らしたアーレスの父ガイアスが姿を見せた。

「これはこれは領主様。随分遅い到着でしたな」
「き、貴様アーレス!! なぜここにいる!!」
「なぜ? 理由などどうでも良いでしょう。俺と魔王が一緒にいる。それが理由だ」
「貴様……! 魔に身を堕としたかぁぁぁぁッ!! ヨハネス! 何をしている! 剣をとれ!! あの犯罪者を殺るのだ!」
「無駄ですよ、父さん。あれはもう生きる屍。あんたの声は届かない」
「なっ!! 殺したのか!! 血の繋がった弟を!!」
「血の繋がり? ふん、俺が追放される時あんたらは助けようとしたか? どうせ俺の存在なんてなかった事になってんだろ」
「くっ──!」

 図星をつかれたガイアスは剣を握る手に力を籠める。

「貴様、魔族を率いて何を企むか!」
「……復讐。俺のように職業や種族で差別された奴らを助け、教国を解体する」
「な、なんだと!? 貴様っ、世界を敵に戦う気か!」
「当然だ。先に葬った神官から全て聞いた。教国は狂っている。俺が……俺と魔王が世界をあるべき姿に戻す。逆らう者は全て敵だ。理想とする世界を手にするために俺は戦う。情けや慈悲はない。親だろうと弟だろうと敵対するなら殺す」
「そこまで堕ちたかっ!! やはりあの時処刑するべきだった!!」

 ガイアスは剣を構え名乗りをあげる。

「私はガイアス・エルトリング!! 剣豪の名にかけ貴様を討つ!! オォォォォォォォォォッ!!」

 数分後、アーレスはバラバラになったガイアスを感情の消えた瞳で見下ろしていた。

「アリア、先に進むぞ。目指すは王都だ」
「うむ。ところでアーレスよ。お主、後悔はないのか?」
「後悔? ハハハハッ、そんなもの……微塵もない。こいつらは俺を棄てた。俺の家族はお前達だよ、アリア」
「そうか。ん? 待て。アーレスよ、母親はおらぬのか?」
「……ああ。母さんは【聖女】という職業を授っていたからな。今の教皇に変わった時に教国に連行された。今生きているかどうかもわからない」
「そうであったか。もし……生きておったらどうする?」

 アーレスはアリアに言った。 

「別にどうもしないさ。全てを話して受け入れてもらえるなら仲間に迎えるし、逆らうならこの父同様地に伏すだけだ」
「であるか」

 魔王はアーレスの背中を叩き言った。

「では次なる領地を目指そうかの。道案内頼むぞ、アーレスよ」
「ああ、行こうか」

 それからアーレス率いる魔王軍は瞬く間にゴルドランド王国内を破壊し尽くし、最後の砦となるゴルドランド王国王都を取り囲んだ。 

「陛下! ど、どどどどどうしましょう! 我が国にはもう戦える者もおりませんぞ!」
「お、おのれ魔族めっ!! まさか我が国の兵や民を骸に変え兵力にするなど!!」

 ウルスラの力は絶大だった。ただ破壊するだけならば他の幹部でも事足りる。だが死者を生きる屍に変え、戦力に加えた事で進軍力は増大し、数日もしない内にゴルドランド王国は王都を残すのみとなった。

「陛下! 御決断を!」
「ぐぬぬぬ……。人間は魔族に屈せん!! ……籠城だ、恐らくウォルフガング王国にも異変は伝わっているはず! 応援がくるまで持ちこたえるのだ! 魔族を一匹足りとも城内に入れさせん! 我が結界師の矜持にかけてもなっ!!」

 国王は隣国ウォルフガング王国の助力をあてに、王都に結界を張るのだった。
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