幕末の剣士、異世界に往く~最強の剣士は異世界でも最強でした~

夜夢

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第三章 魔人編

第58話 取引

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 厳しい修行を終えた総一朗は転移で魔族の領域へと戻り魔王と会っていた。

「お前……なんだその力は……! 修行前は俺より少し劣るくらいだったはずが……。この短期間で何をしたらその様なとてつもない力を身に付けられるのだ?」
「色々あったんだよ。それがな……」

 総一朗はダンジョンの最下層で何があったか魔王に語った。

「神? なぜダンジョンの地下に神が……」
「さあな。だが、その神いわく、俺に修行をつけた銀髪の男は先代大宇宙神だとか言ってたな」
「先代……大宇宙神? なんだそれは?」
「俺も知らん。だが滅茶苦茶強いのは確かだ。俺もだいぶ強くなったつもりだがまるで勝てる気がしねぇ」
「……敵じゃなくて良かったな」
「それな」

 ひとまず何があったか知った魔王は改めて問い掛けた。

「では融合は手に入らなかったのだな?」
「ああ。そいつが言うにはよ、魔人程度なら魔法剣で十分おつりがくるそうだ」
「魔人? 今魔人と言ったか!?」
「ああ。そいつらがもうすぐ世界を支配しようと動き始めるらしい」
「ば、バカな! 魔人は封印されているはず! まさか……封印が解けかかっているのか!?」
「さあな。だが神いわく、魔人は確実に現れるようだ」

 魔王も魔人の存在は知っていた。だが同じ魔を冠していても魔族と魔人はまるで別物だ。魔人は魔族よりはるかに残忍で狡猾。それ故に古い時代、神々により封印され、世界からその姿を消していた。

「そうか。それでその様な馬鹿げた力を身に付けてきたのか。して、その魔法剣とは?」
「魔法剣な。じゃあ見せるから中庭に行こうぜ」

 二人は中庭へと移動した。そしてジェイドは白天を抜き、その白天に光の魔力を付与して見せた。

「そ、それは光魔法っ!? お、お前は勇者だったのか!?」
「いや、違う。これは銀髪の男がこの星の神に言って俺に付与させたんだ。それと、聖魔法もついでにもらってきた」
「聖魔法……か。一人で勇者と聖女の力を有するなど長い人生でも聞いた事がないぞ……」

 魔王は総一朗の力を目の当たりにし、呆然としていた。   

「だがこれでいつ魔人が来ても余裕で倒せる。で、魔王さんはどうやって魔人と戦うつもりだ?」
「俺か? 俺はこいつで戦う」
「……ほう」

 魔王は宙空に空間を開き、その空間から大剣を取り出し無形の位に構えた。

「魔剣アンダリスだ。これは斬った相手を破壊する力を持つ。それが魔人だろうが関係なく全てを破壊する」
「中々良い剣を持ってるじゃねぇか」
「……古くから魔族に伝わる剣だ。先代は今お前が持っている刀を好んで使ったが、本来魔王はこの大剣を振るう。だが、正直に言うと俺は争いが嫌いだ。なので今までこれは一度も振るった事がない」
「お、おいおい。そんなんで大丈夫か?」
「大丈夫だ。戦わなければならない時は戦う」
「そうか。なら背中は任せるぜ」
「うむ」

 戦いの段取りは決まった。これから現れるだろう魔人十人に対し、戦うのは総一朗と魔王ヘルズの二人だ。他は戦場に出たとしても足手まといか無駄に死ぬだけだ。

「じゃあ魔王。この戦いが終わった後について話そうか」
「戦いが終わった後?」
「ああ。お前んとこにヤマトを乗っ取りに来た奴がいるだろ?」
「ああ。それは申し訳なかったと思っているし、本人も深く反省している」
「あん? それはもう終わった事だからどうでも良い」
「どうでも良いとは……。変わった人間だな」
「うっせ」

 魔王は総一朗の人柄に触れ、人間に対する認識を改めていた。

「魔族がヤマトに来たのは豊かな土地を求めたからだろ?」
「……ああ。見たらわかるように、この大地は荒れ果て作物もろくに育たない」
「わかるわ。でだ、今回魔王のあんたはこの世界を守るために立ち上がる。守る対象には当然人間も含まれているわけだ」
「……何が言いたい」

 総一朗は魔王を真っ直ぐ見て言った。

「ヘルズ。もし今回無事にこの戦いを乗りきれたらエルローズ王国に口をきいてやるよ」
「なに?」
「そこの公爵には貸しがあるからな。俺から魔王は良い奴でその配下達は作物もろくに育たない土地で苦しんでいると伝えてやる。あいつなら未開の土地がある場所もわかるはずだ。そこに魔族を移住させる許可をもらおう」
「……本気か? 人間がそんな取引に応じるだろうか」
「応じるかじゃねぇ。応じさせるんだよ。お前だってタダ働きは御免だろ? だから……勝手に死ぬんじゃねぇぞ?」

 そう問うと魔王は盛大に笑った。

「ふふっ……ふはははははっ! やはりお前は面白い人間だ。魔人の存在を利用し、魔族に未来を与えるとはな。戦わずに引きこもり悩んでいた俺がバカみたいどはないか」
「バカだよ。何もしなきゃ何も始まりはしねぇんだ。何かをすれば意見が対立し争いになる事もある。だが何もしなければ虐げられるだけだ。今が踏ん張り時だぜ?」
「ああ、そうだな。これは何がなんでも勝たなければ──ん?」
「あん?」

 魔王が何かに気付き空を見上げた。それに釣られ総一朗も空を見上げる。 

「げっ!? あ、あいつら!?」
「り、竜が四体も……!」

 魔王は慌てて剣を構えた。

《お~い、総一朗~!》
《やっと追い付いたぞ、人間!》
《やだ~……なにこの腐った土地……。辛気臭~……》
《これでは肉も獲れなさそうだな》

 四体の竜が総一朗の前に降り立った。

「お前ら、何しに? 帰ったんじゃねぇの?」
「そ、総一朗! 下がれっ! 竜だぞっ!」
「あ、あ~……。こいつらはアレだ。ダンジョンで餌付けした奴らなんだわ」
「え、餌付け?」

 すると水竜が小さくなり手を出してきた。

《最高速で飛んできたから喉渇いたわね~?》
「いや、頼んでねぇし。帰れや」
《はぁっ!? せっかく助けてあげようと飛んできた相手にそんな口きく!?》
「きゃんきゎんうるせぇぇぇぇっ! どうせ酒と肉と甘味目当てだろうが!」

《当たり前でしょ?》
《苺大福が食べたいな~》

 総一朗は開いた口が塞がらなかった。

「だいたいお前らはあの銀髪の配下じゃねぇの? 勝手にこんな真似して良いのかよ」
《許可ならもらってきた。まぁ、主も大概勝手だからな。強くは言えん》
《そもそもお前は我に勝っておるのだぞ? そこらの有象無象に負けられでもしたら沽券に関わる》
《そうよそうよ! ほら、わかったら出しなさいよ、ほらほら》
《僕達も少しだけ手伝ってあげるから甘いお菓子ちょうだいっ、総一朗!》

 そのやり取りを見た魔王はただただ呆然としていた。

「な、なんだこの光景は……。夢か? 幻か?」 
「現実だよ、ヘルズ……。竜なんて言ってもこいつらはこんなもんだ」
「は、はは……。こんな簡単に戦力が増えるとは……。逆に魔人共が憐れだな……」
「まぁ、確かにな」

 こうして対魔人に対する戦力が整ったのだった。
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