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第三章 魔人編

第55話 勝てない

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 土竜アース、火竜バーン、水竜アクア、風竜ヴァンを連戦で撃破した総一朗はその勢いにのり銀髪の男に戦いを挑んだ。

「このっ! チョロチョロすんじゃねぇっ!」
「ははははっ、遅い遅い。もっと早く動いて、ほら」
「んがっ!? こ、この野郎っ!」

 竜相手には景気良く勝てていたが、銀髪の男にはまるで攻撃が通じない。剣術に黒天と白天の武器スキルを織り混ぜても全て読まれ一撃もかすらない。

「はぁっ、はぁっ! くっそ、どうなってやがる……。全然当たらねぇ……」
「そりゃあもう四か……いや、三回も見たからね」
《うへへへへ……うんまぁぁぁぁ~!》

 数に入れてもらえない水竜だった。

「……たった三回で俺の動きを見切ったと?」
「そうだよ。まあ、一回目で大体把握してたけどね。君の癖はすでに押さえてある」
「ちっ。ならその癖ってやつを言ってみな」
「そうだねぇ。まず、そうやって挑発するフリをして休んでる所かな。──フッ!」
「ちぃっ!!」

 二人は凄まじい速さで剣を打ち合う。そのあまりの速さに音が遅れて聞こえてくる。

《バーン、主はどれくらい力を出しているかわかるか?》
《二割……いや、三割だな。不老不死で長く生きているとはいえ主もだいぶ老いたからな。昔ほど力は出せんはずだ》
《それでもまだ三割だろう?》
《アホ》
《む?》

 火竜は土竜に呆れながら言った。

《あの人間は主相手に三割も力を出させているんだぞ。しかもまだ何も教えていない状態でだ》
《そうか! そう考えるとアイツはとんでもない原石かもしれんな》
《ああ。あの人間は魔法を使うが主なスタイルは剣術だ。だがあの人間は俺達相手にその剣術を主に見せ過ぎた。勝ち目はないだろう》
《そうだな。主の【神眼】で見られたら終わりだからな》

 そう話していると総一朗は地面に転がされ喉元に剣先を突き付けられていた。

「……参った」
「オーケー。じゃあ休憩だ」

 銀髪の男は疲れきって立てない総一朗に手を差し出した。総一朗はその手を掴み……。

「オラァッ! 飛び付き腕十字ぃぃぃっ!」 
「……フンッ!」
「んげっ!?」

 銀髪の男は総一朗をハンマーのように地面へと叩きつけ気絶させた。

「なんて諦めの悪い……」
《とんでもない奴だな》
《こいつ平気で嘘つきやがった》
《さいて~……ひっく》
《水竜だけには言われたくないんじゃないかな》
《うっさいわね》

 それからしばらくし、総一朗は顔に水をかけられ叩き起こされた。

「くさっ!! 生ぬるっ!? な、なにかけたっ!?」

「あん?」

 総一朗は三体の竜が指差した先を見る。

《……キラキラキラキラ》
「う……うぉぉぉぉぉぉぉぉぉいっ!? マジかよっ! きたねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
《汚いとは何よっ! 私の聖なるキラキラで起きられたんだから感謝しな──キラキラキラキラ……》
「さ、最悪だ……」
「はい、たらいと水、それとタオル」
「……顔洗ってくるわ」

 総一朗は上着を脱ぎたらいに入った水で入念に顔を洗った。

「へぇ~。綺麗な身体だね。傷が一つしかない」
「……まぁな。この傷は弟の総にやられた時のもんだ。それ以外の傷はねぇ」
「強いんだな」
「お前が言うな。ったく、このバケモンが」

 総一朗は今の自分では到底敵う相手ではないと悟った。

「しかし……あの目の前で突然消えるあれはなんだ。速く移動してるってレベルじゃねぇぞ」
「あれは【短距離転移】だよ。君も転移は使えるよね? 短距離転移は長い距離。飛ばない分、近くなら好きな場所に一瞬で移動できるんだよ」
「ちっ、スキルか。どうせ他にも便利なスキル持ってんだろ?」
「そうだね。知らないスキルはないかな」
「……やっぱりバケモンだ。んなバケモンに勝てるかよ」

 再び着物を着直し近くにあった椅子に腰掛けた。

「そうだね。今の君じゃ何回やっても俺には勝てないだろう」
「だろうな。引き出しの数が違いすぎるし、そもそも俺はもう丸裸だ」
「そこで、次からは俺が君がギリギリ倒せるくらいの魔物を召喚して戦わせる。そして一ヶ月後にもう一度俺と戦ってもらう。そして、最終的に俺の力を七割まで引き出せたら修行は終了だ」
「ちなみにさっきは?」
「三割かな」
「ちっ」

 銀髪の男は椅子に座りながらこう告げた。

「早く強くならないとダンジョンから出た時君だけオッサンになってるだろうからなるべく早く強くなろうね」
「ふ、ふざけんなっ!? そこは何とかしろよ!」
「無理だ。頑張ってくれ」
「や、野郎っ! なら早く魔物出せや! 一年いないにお前をぶっ飛ばしてやらぁっ!」
「楽しみにしてるよ。おいで、【ベビーモス改】」
《ガォォォォォォォォッ!》

 それから総一朗の試行錯誤の日々が始まった。既存の剣技では到底敵わない。ならば自分の自分だけの技を編み出す他ない。例え他流派の技を使った所であの銀髪の男にはすぐに対処されてしまう。

「そう簡単に開祖になれたら誰も苦労なんかしねぇんだよっ! くたばれデカブツがっ!」
《グガァァァァァァァァァッ!?》

 総一朗の成長に合わせ魔物もどんどん強くなっていく。そしてどの魔物も毎回総一朗が長時間戦いギリギリ倒せるレベルで出てくる。

《あれ、主が操作してるな》
《ロー……あいつも中身はお爺ちゃんだから……あいたぁっ!?》
「アクア、黙ってろ。酒禁止にするよ?」
《ご、ごめんなさぁぁぁぁぁいっ!》
「ほら、総一朗! 切り刻まれるよっ!」
「ぬあぁぁぁぁぁっ! なんだこの巨大カマキリはっ! 気持ちわりぃぃぃぃぃぃっ!?」

 総一朗は戦いながらレベルを上げつつ、自分の技を磨いていくのだった。
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