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第三章 魔人編

第53話 喚ばれた理由

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 全員で食卓を囲み腹もふくれた後、茶をすすりながらネロの話を聞く。

「それで、俺達は何故この世界に喚ばれた」
「にゃ。そうにゃね、では喚んだ理由を話すにゃ」

 ネロは魚の骨を舐めながら話し始めた。

「まず、この世界に喚んだ地球人は全部で十人にゃ」
「十人? ちょっと待て」

 今集まっているのは、総一朗、総司、弁慶、義経、そして信長の五人だ。

「俺達は五人しかいないぞ。後の五人は?」
「……すまないにゃ。もう殺られてしまったにゃ」
「は? いや、ちょっと待てよ。俺達は侍だぞ。戦う事に関しちゃこの世界の奴らにも負けない自信はある。そんな侍五人が殺られた? 冗談だろ」
「本当にゃ。喚んだのは総一朗がこの世界にくるより前にゃ。その五人は弁慶達と出会う前に五人でパーティーを組み、世界を牛耳ろうとしている魔人【ガイアス】に挑み殺られてしまったにゃ。それが理由で総一朗達には喚んだ理由を告げなかったにゃ」
「なるほど。理由を知らなきゃその五人と同じ道は辿らないと」
「そうにゃ」

 銀髪の男はずっと総一朗を観察していた。

「……君、かなり頭の回転が早いね。何より雰囲気がある。良いね、嫌いじゃない」
「そいつぁどうも。ってかさ、こいつ何とかなんない?」
「……すまない」
「きゃはははははっ! ここの酒うっまぁぁぁぁぁぁぁっ! こら~侍っ! もっとあるだろぉ~! 出しなさいよっ!」

 総一朗にぐるぐるとまとわりつき酒を所望しているのは水竜ことアクアだった。先ほど清酒を一瓶渡したばかりにも関わらず、すでに空にしてしまい次を要求してきていた。

「ほらとってこ~い!」
「私のお酒ぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 アクアは空を飛んでいく酒瓶に追い付き、空中で蓋を開け中身を平らげていった。

「……で、なんだっけ。魔人だったか。そいつが五人を殺ったんだな?」
「そうにゃ。魔人はガイアス以外にも九人いるにゃ」
「……まいったな、残った五人でそいつら十人倒さなきゃならねぇのか」
「それも違うにゃ」
「は?」
「魔人十人は組織の頭で、その下には無数の魔物がいるにゃ。しかも、この世界にいる魔物とは全くの別物にゃ。全てが黒く、禍々しいオーラをまとっているにゃよ」
「マジかよ」

 総一朗は今さらだが聞かなきゃ良かったと後悔し始めていた。

「でもまさか総一朗が魔王と仲良くなってるとは思わなかったにゃ!」
「は? いや、別に仲良くは……」
「魔王ヘルズに総一朗の灰塵があれば二人でも魔人達の組織をぶっ潰せるにゃ!」
「いや、まだ融合手に入れてないし」

 すると銀髪の男が懐から虹色に輝く書物を取り出して見せた。

「これが神話級スキルの書だよ。欲しい?」
「そりゃ欲……いや、いらん」
「何故?」

 総一朗はスッと席を立った。

「それを受け取ったら魔人なんたらと戦わなきゃならなくなっちまうだろうが。そんな面倒はごめんだ」
「なるほど、戦いたくはないと」
「ああ、ごめんだね。そもそも俺達は別の世界の人間だ。この世界の問題はこの世界の人間が何とかするべきだ。俺はまだこの世界に愛着なんてねぇしな」
「ふむ。なら君の恋人、メーネさんはどうなっても良いと」
「あ?」

 総一朗の眉間にしわが寄る。

「魔人はこの世界の民を全て殺し、自分達の世界を築く事が目的だ。いや、もしかしたら女性はもっと酷い目に合うかもしれない」
「んな事させるかよ。見つけたら叩っ斬る」
「融合もないのに? その二振りの刀は強いが魔人には効かない。一つにしなきゃね」
「……くそが。どうしても俺にやらせたいって事かよ」
「別に君じゃなくても構わない。例えば……弟の総司くんだっけ。彼にも君に勝るとも劣らない素質がある」
「あいつは関係ねぇっ! あいつはな、病で逝ったが一度人生を終えてんだ。今さら過酷な戦いに巻き込めるかよ」

 銀髪の男は笑った。  

「優しいね。けどその優しさは身内のためでしかない。この世界は君にとって本当にどうでも良い世界かな? 仲良くなった人間は? その人間達が苦しむ姿を黙って見ていられるかい?」
「……きたねぇな。どうでも良いわけあるか。良い人間がいて優しい世界だってのはわかってんだよ。だがそれら全てを背負えるほど俺はまだこの世界の事を知らないし、力もない」
「なら知れば良い。力が足りないなら修行を積めば良い。斜に構えて諦める態度は感心しないよ」
「ちっ。なんなんだよ、全部見透かしたような目で見やがって」
「俺の目は神の眼だからね。全部お見通しさ」
「ちっ」

 総一朗は悩んだ。確かにこの世界に来てまだ一年も経っていない。しかも知っているのはエルローズ王国とヤマトの二つのみ。知り合いもそれほど多くはない。だが知り合った者は小気味良く、失いたくはない者と思ってしまっている。だが、神や運命と言う言葉を嫌う総一朗は素直になれずにいた。

 すると肉塊を平らげた二体の竜が総一朗に声を掛けてきた。

「何を悩む。守りたい者がいるなら抗え」
「うむ。力が足りないなら己を磨け」
「……腹膨らました子竜に言われてもなぁ……」

 さらに空の酒瓶を抱えた水竜が。

「ムカつくならぶっ飛ばしちゃえば良いのよ!」
「酔っぱらいの言葉は最も信用ならん」
「ぶっ飛ばすわよ!?」

 そして最後に口の周りを生クリームだらけにした風竜が言った。

「僕達の主だって元は人間なんだよ。主の辿った道は君なんかじゃ想像もつかないほど過酷な道のりだった。様々な星や宇宙を救い、ようやく後進に道を譲れた。世界一つくらいどうにかしてみなよ。男だろ!」
「ガキが生意気言うじゃねぇか」
「子供扱いすんなっ!」

 四体の竜の言葉を胸に刻み、総一朗は銀髪の男を見た。

「施されるのは俺の主義じゃねぇ。時間をどうにかしてくれ。あんたを抜くにはかなり修行を積まなきゃ無理そうだ」
「それならもうやってるよ。ここは外界とは時間の流れが違うからね。ここの一年はダンジョンの中での一秒。安心した?」
「それを早く言えっつーの。ならまずは四体の竜から倒す。そして最後にあんただ」
「ははっ、良いよ。まずはアース達を倒してみせてくれ」

 こうして、世界を手中に収めんとする魔人に抗うため、総一朗は竜達と修行に向かうのだった。
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