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第一章 最初の国エルローズにて

第46話 助けた先で

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 総一朗は助けた少女に腕を引かれながら少女の父が経営している料理屋へと向かった。出された料理は質素な川魚を焼いた焼き魚定食だったが、どこか懐かしいような思いを感じ、総一朗はそれを完食した。

「いやぁ~、綺麗に食べるねぇ」
「綺麗に食べないと食材に悪いだろ?」
「……こんな物しか出せねぇで悪いね」
「いや。美味かったよ。それより……やはり民は苦しんでいるのか? ここに来る途中で寄った場所も痩せ細った農民が田植えをしていたが……」

 すると店主はお茶を出しながら総一朗に愚痴をこぼし始めた。

「ああ、そうさ。このヤマトはもうダメだ。侍ばかりが優遇され、それ以外の者は搾取されながら生きるしかない。外に逃げようにもヤマトの鎖国制度のせいで船すら出してもらえないんだよ。この近海は潮の流れが速くて小舟じゃ大陸まで渡れない。俺達は侍に飼い殺しにされる道しかないのさ」
「……そうか」

 総一朗は茶を啜りながら店内を見回す。仮にも江戸のいや、大江戸の町にある店が汚くはないがボロボロな現状を知り、どれだけ上が酷いか一瞬で理解した。

「大変だなぁ……」
「いや、もう諦めたよ。それより……兄さんここに来る途中妖に出会わなかったかい?」
「え? そりゃまぁ……何度も襲われたが全部倒したぞ?」

 それを聞いた店主は大きく口を開け呆然とした。

「や、殺っちまったのかい!?」
「そりゃあ襲われたら抗うし倒すだろ」
「いやっ、そりゃそうだが! 兄さん、生類憐れみの令を知らないのか!?」
「生類憐れみの令……ああ、生き物を殺しちゃならないってあれか」
「知ってて殺ったのかい……」

 生類憐れみの令。五代将軍、徳川綱吉が発した愚策中の愚策。生き物を尊び殺生を禁じるという悪法だ。これにより民は肉を一切食べられなくなっている。

「ん? 今魚食ったよな俺」
「ああ。本当は魚も出しちゃいけないんだ。けど兄さんは娘の恩人だからな。応えなきゃ親として情けないと思ったんだ」
「そうかい」

 話を聞いていく内にわかった。

「すると魔物……いや、妖が野放しになってるのも……」
「ああ。生類憐れみの令のせいだ。今の将軍は民に死ねと言ってるようなもんさ」
「まさか対象に魔物まで入っているとは……」

 総一朗は頭を抱えた。それと同時にいくつか可能性を思案する。

(国民を傷つける魔物まで保護するとはな……。そんな阿呆な将軍なのか綱吉は。何かあるな……。例えば知性ある魔物に操られ……。うん、ありえる。民が困窮しその数を減らす一方、魔物は増え好き放題。そして侍もどきはやりたい放題……か。終わってんな、この国)

 急に黙り何かを考えていそうな総一朗に店主が問い掛ける。

「兄さんはこれからどこに向かうんだい?」
「ん? ああ、特に決めていないが……しばらくはこの近くにいる予定かな」
「そ、そうか! ならたまにで良いからまた店に寄ってくれないか? まだ恩は返しきれてないし……」
「ああ、近くに寄ったら必ず」
「ああ、気兼ねなく寄ってくれっ」

 そうして食事を終えた総一朗は親子に見送られ店を出た。

「あ、ちょっと良いかな」
「はい?」

 総一朗は通り掛かった町人に声を掛けた。

「今の将軍って綱吉だよな?」
「え、ええ。それが何か?」
「いや、確認しただけだよ。全てを取り仕切っているのが綱吉?」
「……いえ。綱吉様は張り子です」
「は?」

 町人は誰にも聞こえないように周りを確認し、総一朗に耳打ちした。

「政を取り仕切っているのは綱吉様ではなく、その奥方様との噂があります。その姿を見た者はおらず、正体は一切合切全て秘匿されております」
「……ふむ」
「生類憐れみの令を言い出したのもその奥方だとか……」

 それだけ告げ、町人は総一朗から離れた。

「じ、じゃあ私はこれで」
「ありがとう」

 今の話で確信した。

「怪しいのはその奥方だな。さて……これは一人じゃ手に余るな。ひとまずデリル村に帰るか。ここは義経の力が必要になりそうだ」

 そうして総一朗は一度大江戸の町を後にし、誰にも見られない場所でデリル村へと帰った。

「ただいま」
「あ、兄さん!」

 店に入ると総司が出迎える。店内にはフラム以下作戦に参加した全員が揃っていた。

 総一朗の姿を見たフラムが席を立ち近づく。

「総司殿から話は聞いた。本当に転移を使えるようだな」
「ああ」
「して……総一朗殿は今までどこに?」
「あ~……極東の国ヤマトだ」
「「「ヤマト!?」」」

 驚く義経達に総一朗はヤマトの現状を語った。

「なんだその国は……。滅茶苦茶でないか」 
「酷い……」
「暗愚だな。ワシが天下統一してやろうか?」

 弁慶は呆れ、義経は民に同情する。そして信長は怒り奮い立つ。

「いや、俺の予想だと綱吉は何かに操られている」
「操られて?」
「ああ。綱吉の奥方って奴が黒幕な気がする。生類憐れみの令を出すように勧めたのもそいつだ。まあ、綱吉が黒幕って例もあるかもしれんが……、俺の勘じゃ違う」
「兄さんの勘は当たるからなぁ~」

 呑気なのは総司だけだった。そこでフラムが口を開く。

「長い間洗脳されると人格は崩壊する。仮にその綱吉という王が長い間洗脳されていたとしたら、もう助からないだろう」
「ああ。俺もそう思う。だからな、いっそ今の幕府を潰して義経を新しい頭にしてやろうかと思った」
「ボク!?」
「おぉぉぉ! 良い案ではないか! 主が棟梁か! ははははははっ!」

 義経は驚き弁慶は小躍りした。 

「なんでボク!? 信長さんでも良いじゃない!」
「ダメだ。今の信長には支えてくれた軍師も重臣もいない。それこそ三日で天下が終わる」
「ぶっ殺!」

 掴み掛かる信長の頭を押さえつけ、総一朗は義経に言った。

「新しい頭はお前だ、義経。お前には才がある。そして腹臣の弁慶もいる。狂った江戸幕府なんぞぶっ潰して鎌倉幕府を敷こうぜ」
「鎌倉幕府……。兄上の……」
「主! やりましょう! 今ヤマトでは多くの民が苦しんでおります! 今力を振るわんでいつ振るうのです!」
「……うん。やろう! 民が苦しんでいるのは見過ごせない!」

 総一朗は義経なら必ず立ち上がると確信していた。他領の民が苦しんでいるのも見過ごせない義経だ。国の民が丸ごと苦しんでいると知ったら必ず立ち上がると思っていた。

「総、お前も手を貸してくれるな?」
「うん、良いよ。僕はもうただの浪人だからね。今のヤマトにある幕府に仕えてるわけじゃないし。兄さんのやりたい事に付き合うよ」
「よし。んじゃ行くのは俺、義経、弁慶、総司、メーネにターニャ。ついでに信長だな」
「ついでとはなんだ! ワシの扱いが酷いぞ貴様!」

 するとメーネが問い掛けてきた。

「あの……私もですか?」
「ああ、今回は長くなりそうだからね。あまり長い間離れたくないんだよ。後……源のヤマト支店でも作ろうかなと」
「ふふふっ、わかりました。私の料理でヤマトの人達を救います」
「ターニャも頑張るっ!」
「ああ。じゃあこの七人で国盗りだ。行くぞっ!」
「「「「おぉぉぉぉぉぉぉっ!」」」」

 こうして総一朗は頼りになる仲間を引き連れ、再びヤマトへと戻るのだった。
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