幕末の剣士、異世界に往く~最強の剣士は異世界でも最強でした~

夜夢

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第一章 最初の国エルローズにて

第45話 強制転送された先は

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 ブルーノのスキルで強制転送された総一朗は今我が目を疑っていた。

「おいおいおい……まじかこりゃあ……」

 目の前に広がるは大自然。川には綺麗な水が流れ、見える田園では着物を着た村人らしき者達が稲を植えていた。

「まさか……ここが極東の国……か?」

 ひとまず総一朗は丘を下り村人達の所へと向かった。

「あの~……」
「はい? あ、失礼しました御武家様とは知らず!」   

 村人は総一朗の腰に下がった刀を見るなり頭を下げ平伏した。

「ちょっ、頭を上げてくれ。俺は御武家様とかじゃねぇから!」
「はい? しかし……腰に立派な刀を下げていらっしゃるではありませんか。ヤマトでは侍以外の者は帯刀を禁じられております故……」

 総一朗は頬を掻きながら村人に言った。

「あ~……実は俺エルローズ王国って国から強制転移させられてきたんだよ」
「エルローズ……王国? どこですかそれ?」
「はぁ? も、もしかしてそれも知らない……とか?」
「はい。ヤマトは外国との交流を禁じております故」
「な、なんて時代錯誤な……。鎖国してんのかよ」

 刀狩りに鎖国。ヤマトは現在総一朗の記憶にある旧時代の日本と同じ道を辿っているようだ。

 すると少し体格の良い農民が総一朗に尋ねた。

「しっかしなぁ~、着物は着てるし、刀も持ってる。髷は結ってないみたいだが上から下までヤマトの人間ではないか」
「まぁそうなんだがな。本当に俺はヤマトの人間じゃないんだ」
「そうかい。だが……その強制転移とやらは初めて聞くな。妖術の類いかい?」
「よ、妖術?」

 総一朗は初めてこの世界に来た時の事を思い出す。そしてスキルや魔法の事を知らずにいた自分の事を村人に重ねた。

「あ、ああ。そうなんだよ。俺はその妖術でここからずっと西にある国から飛ばされたんだ」
「そうかい。そりゃあ難儀だったなぁ~。しっかし……それならお前さん、どこか行くあてはあるかい?」
「いやぁ~……あても何も。まずここはどこなんだ?」
「ここか? ここは大江戸の端だ」
「お、大江戸!? まさか幕府があんのか!?」
「ああ、よく知ってるな。今は徳川様がヤマトを治めておられる」

 総一朗の額に汗が浮かぶ。

(……徳川だと……。まさかこの世界に来てまでその名を聞く事になるとは……。しかも江戸じゃなく大江戸。馬鹿げてやがる)
「どうしたんだい?」 
「あ、いや。とりあえずその大江戸って所に行ってみるよ。色々ありがとな」
「ああ、道中妖が出るから気ぃつけてな」

 妖。おそらく魔物の事だろう。

「いやいや! そんなの出るのに武器さえ持たせてもらえないのか!?」
「……ああ。ワシらの命なんぞ軽いものよ。こうして米を作り御武家様に渡すだけの人生さ。ヤマトはな、武家以外は家畜同然の扱いをされておる。そして……逆らえば待っているの死だ。武家に殺られるか、妖に殺られるかしかないのだよ」
「……そうか」

 総一朗の腸は煮えくり返っていた。だがそれを表には出さず村人から聞いた大江戸への道へと向かい歩く。

「……やはり幕府はクソだな。人の命をなんだと思ってやがる。……潰すか」

 総一朗はデリル村へと戻る前にヤマトの現状を実際に自分の目で見て確かめる事にした。

 そして妖(魔物)を倒しつつ歩く事数時間、総一朗は大江戸の町へと辿り着いた。そこでは腰に刀を下げたハゲが幅をきかせ、刀を持たない者を虐げていた。

「俺は侍だぞ? 逆らったらどうなるかわかってるよなぁ?」
「か、堪忍して下さいっ! 娘はまだ十になったばかり! 連れてかんで下さいっ!」
「お父っ! 助けてお父っ!」
「ははは、飽きたら返してやるよ。へへへ、来いよおら」
「やだぁぁぁぁぁぁっ!」
「いでぇっ!? こいつ! 噛みやがったな!!」

 無理矢理連れて行かれそうになっていた少女は最後の抵抗を見せ男の腕に噛みついた。男は少女を振り払い腰の刀を抜く。

「無礼討ちだ! 黙っておれば命だけは助かったものの! 侍に傷を与えた罪……その身であがなえいっ!」
「い──いやぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 少女は頭を抱え丸くなった。そしてそれを庇おうと少女に駆け寄る父親。だがそれより早く総一朗は刀を上段に構えた男との距離を詰め、その両腕を斬り落としてやった。

「ぎ、ぎぃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ! お、おおおお俺の腕ぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
「「え?」」

 父親は少女に駆け寄りながら、少女は男の叫び声を耳にし顔をあげる。そこには漆黒の着物をまとい、漆黒の刀を地に向ける大きな背中があった。

「き、きききき貴様っ! 同じ侍の癖に俺の腕をっ!」
「同じ?」

 総一朗のこめかみに血管が浮かび上がる。

「同じだと? 俺を貴様ら下衆な侍もどきと同列に語ってんじゃねぇっ!!」
「ひっ!? あ、あわわ……」

 総一朗の殺気と威圧を受けた男は地に尻餅をつき股を濡らす。

「お、同じじゃねぇか! か、刀持ってんだからよ!」
「……刀を持ってりゃ侍か? 違うだろっ!」
「ひぃぃぃぃっ!」

 総一朗は男の首に切っ先を向け、己の信念を口にした。

「侍ってのはなぁ……弱きを助け悪しきを挫く! 困っている者がいたら手を差し伸べ、虐げる者がいたら懲らしめるっ! それが侍ってもんだろうがっ!! 刀を持っていたら侍だぁ? 寝惚けた事言ってんじゃねぇぞゴラァァァァァァッ!!」
「あっ──ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 総一朗の切っ先が男の喉に突き刺さっていく。

「かひゅっ──! お、俺は──徳川お抱えの──」
「うるせぇよ。それがなんだ!」
「ひぎ──」

 突き刺さった切っ先が男の首を切り裂いた。首からは大量の鮮血が噴き出し、男は事切れた。

「「「「お──おぉぉぉぉぉぉぉっ!」」」」
「あん?」

 総一朗を町の住民達が取り囲む。

「な、なんだ?」
「よく言った! よく殺った! あんたこそ真の侍だ!」
「は、はぁ?」
「ありがとうございます! ありがとうございますっ!」
「お侍さんっ、助けてくれてありがとうっ! 格好いいっ!」
「お、おお?」

 町の住民達はよほど侍に不満を抱えていたのか、男を殺った総一朗を誉め称える。そして男の死体はいつの間にかどこかへと運ばれていた。

「いや、俺は別に……」
「いえっ! あなたがいなければ娘は死んでいました! そうだ、お腹空いてませんか!? よろしければ私の店でぜひっ! お酒も付けますよ!」
「ち、ちょ……俺は行く所が……」

 すると少女が着物の裾をつかみ瞳を潤ませる。 

「お兄ちゃん、どこか行っちゃうの? まだお礼してないのに……ぐすっ」
「わ、わかったよ。飯だけだ、飯だけだからな?」
「うんっ!」

 こうして総一朗は極東の国ヤマトで新たな問題へと巻き込まれていくのだった。
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