幕末の剣士、異世界に往く~最強の剣士は異世界でも最強でした~

夜夢

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第一章 最初の国エルローズにて

第40話 給仕する信長

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 裏賭博場から戻った翌日、総一朗はフラム公爵に信長に着させるための給仕服を依頼した。その数日後。

「こ、ここここ……こんな服でワシに一ヶ月も働けと言うのかっ!?」
「くくくっ、はははははっ! 似合ってるぜぇ~信長さんよ~」
「お、おのれぇ……っ、総一朗っ!」
「あ、あの信長がフリフリドレス──ぷっ、くくくくっ」
「お主も笑うな総司ぃぃぃぃぃぃっ!」

 信長を知らない弁慶と義経は総一朗達がなぜ笑っているのかわかっていなかった。

「主、あの二人はなぜ信長を笑っているのですかね? この世界ではありきたりな格好だと思うのだが」
「さぁ~。ボクにもわかんないなぁ。それにしても……信長ちゃん可愛い~! ボクもあの服着てみたいなぁ~」

 そんな義経に総一朗は信長と同じ給仕服を手渡した。

「わわっ!? そ、総一朗さんっ……これ……!」
「やるよ。フラムに作らせておいたんだよ。お前も女の子だしな。可愛い服着てみたいだろ?」
「う、うんっ! ありがとう総一朗さんっ! ボク着替えてくるねっ!」
「ああ」

 義経は嬉しそうに給仕服を抱え奥の部屋に向かった。すると弁慶が総一朗に尋ねてきた。

「総一朗、お前……主の採寸などいつした」
「は? んなもん見たらわかるだろ。な、総?」
「そうだね。むしろなぜわからないか不思議だよ。わからなかったら急所を突けないじゃない」
「こ、この化け物兄弟め……」

 するとターニャが総一朗の袖を引っ張った。

「あの……私は……」
「もちろんターニャの分もあるぞ」
「ほんとっ!?」
「ああ。昼の給仕はいつもターニャがしてるもんな。仲間外れになんてするわけがないだろ?」

 そう言い、ターニャにも給仕服を手渡した。

「うわぁ~! この生地凄く良い生地使ってる~! 肌触り最高だよ~」
「ふふふ、良かったわねターニャ」
「うんっ! 私も着替えてくるっ!」

 メーネは新しい服を抱えていくターニャを見て微笑んでいた。

「悪い、メーネは調理担当だからあの服は着させられないんだ」
「ふふっ、わかってますよ。あの服じゃ調理できませんものね」
「ああ。だからメーネには仕事以外で着る服を用意したんだ」
「え?」

 総一朗はフラムに言って王都の民の間で今流行っている少し高めな良い生地の服を数着プレゼントした。

「わ、わざわざ私にまで?」
「もちろんだよ。今度の休みにでもそれを着て町に出掛けないか?」
「ふふふっ。はいっ、喜んで」
「よっし!」

 そして昼、本日の営業が始まった。

「いらっしゃいませ~! 空いてるお席にどうぞっ」
「お、おぉぉ!? 今日はずいぶん可愛いドレス着てるじゃないか。似合ってるよターニャちゃん」
「ありがと~おじさんっ」

 ターニャは新しい給仕服に身を包み元気に働いていた。そして義経もまた同じくらい元気に働いている。

「い、いいいいらっしゃい、ませ~」
「ひっ!? なんで睨まれてんの俺っ!?」

 信長は顔をひきつらせながら客に声を掛けていた。

「ほらほら、笑顔だ笑顔。信長さんは約束も守れないのかね~?」
「ぐっ……ぐぬぬぬぬっ! なんでワシがこんな目にぃぃぃぃぃぃぃっ!」
「そりゃ賭けに負けたからだろ。これに懲りたらギャンブルなんぞ足を洗うこった。はははははっ」
「お、おのれぇぇぇ……!」
「あん? 言葉遣いはどうした言葉遣いは」
「しくしくしく……」

 あの残虐非道、極悪無比な信長が店で慣れない女言葉を遣いながら給仕として働いている。その光景を見るだけで飯が美味い。

「いやぁ~兄さん相変わらず鬼畜だねぇ~ぷくくくっ」
「お前だって笑ってんじゃねぇか総」
「そりゃ笑うよ。あのヒラヒラドレスを着た子の中身が悪鬼羅刹の信長だよ? あはははははっ」
「それで笑ってる総もたいがい鬼畜だわ」

 相変わらず仲の良い兄弟だった。 

 それから一週間、信長は嫌がりながらもなんとか働き続けてきた。言葉遣いもだいぶ馴染んだのか、初日のように客を威嚇する事もない。

「いらっしゃいませ~、空いてるお席にどうぞ~」
「お、今日も可愛いねぇ信長ちゃん」
「ありがとうございます~。いっぱいお金落としてって下さいね~」
「ははははっ、なら食事の他にエールももらおうか」
「ありがとうございます~」

 総一朗は信長があまりに馴染みすぎており、そろそろ飽きてきていた。もはや見るのもやめ、店の隅で弁慶と総司を集め酒をあおりながら自作した花札で遊んでいた。

「ほい俺の勝ち~」
「ぐぬぬぬ……、もう一回だ!」
「兄さん、イカサマしてないよね?」
「俺がバレるようなイカサマなんてするわけないだろ? はっはっは」
「「……やってんなこいつ」」

 普段の信長なら自分も混ぜろと仕事を放り出し駆け寄ってくるシチュエーションだ。だが信長は最近になり働く楽しさに目覚めたようで、三人には混ざらず義経と共に仕事に勤しんでいた。

「これが労働か……。悪くないのう」
「信長さん最近元気だよね?」
「まぁのう。酒も止めたし疲れているからか夜更かしもしておらんしなぁ~。今までは起きたい時に起き、ただだらだら過ごしていたからのう……。今思えばなんと無駄な時間を過ごしていたのやら……」

 そんな信長の手を取り義経が言った。

「ボク達はまだ若いから大丈夫だよっ。あのダメな三人は放っておいてメーネさんやターニャちゃん、そしてボクと一緒にこの店を盛り上げていこうよっ」
「それも悪くない……ん?」

 そんな時だった。時刻は夜。そろそろ店も終わりに差し掛かる時刻。

「おいおい~、こんなクソ田舎に酒場があるばかりか可愛いネーチャンまでいるじゃねぇの」
「ひははははっ、こりゃ楽しめそうだぜぇ~」

 いかにも悪党といった見た目の男達が複数人店に入ってきた。だが信長は怯みもせずそんな男達に声を掛ける。

「申し訳ありませんがそろそろ閉店の時刻なので」
「あ~ん? そりゃねぇだろ。わざわざヴェロームの町から来たってのによぉ~? 田舎の酒場じゃ客に酒の一杯も出さねぇのか? ああん!?」
「の、信長さん……」

 すると店内にいた他の客達が一斉に立ち上がりテーブルに金を置いて立ち去る。

「ま、また来るから」
「ありがとうございました~」
「き、気をつけてな」
「ありがとうございます~」

 男達はそれをニヤニヤと嗤いながら黙って見ていた。

「……あいつらは」
「知ってるの兄さん」
「ああ。裏賭博場にいた奴らだ。なるほど、大金巻き上げられた腹いせにでもやってきたか」
「あはははは、この店に? バカな奴らだね」
「主を怯えさすなど許せんな。どれ、土に埋めてやろうか」

 不穏な空気を感じ三人は立ち上がるのだった。
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