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第一章 最初の国エルローズにて

第32話 弟

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 総一朗は二人を見て驚く総司に調理をしながらこれまでの事や世界の事を説明してやった。

「へぇ~……。じゃあここはあの世じゃなくて別の世界って事かぁ~」
「ああ。だがなんで俺達がここにいるかはわからないがな」
「……わからなくても良いよ。僕も兄さんも死んだと思ったけど、こうしてまた生きて再会できたんだし」
「はは、違いない。っと、そろそろ良いかな」

 総一朗は土鍋の蓋を開ける。

「「「おぉ~!!」」」

 蓋を開けた鍋の中身はもちろん米だ。品種などは関係ない。とにかく、今ようやく待ち望んでいた米が炊けたのである。店内には米の良い匂いが漂い、鍋の中では米がキラキラと輝いていた。

「米だ……、米だよ弁慶っ!」
「ご主人っ、米ですぞ米! 麦ではなく白米ですぞ!」
「米かぁ~……。僕ずっと粥生活だったからなぁ……」

 三者三様で米に感動していた。

「何か良い匂いする!」
「こんにちわ~」

 そこにターニャとメーネもやってきた。今日は休みにしたにも関わらずわざわざ来てくれた。メーネは慣れた様子で総一朗の横に並び鍋を覗き込む。

「総一朗さん、これは?」
「これは米って言うんだよ。俺達侍の主食だよ」
「米……?」
「ああ。昼まだだろ? ご馳走するから食べていきなよ」
「ふふっ、ありがとうございます」

 その光景を見て総司がニヤニヤしていた。

「兄さん兄さん」
「なんだよ総」
「兄さんもなかなかやるねぇ~。奥さん?」
「「ななっ……!」」

 総司の言葉で二人が真っ赤になった。

「わ、わわわ私はそんなんじゃ……! それに……私総一朗さんより十は歳上ですし……って……。あの……あなたは?」

 総司はニヤニヤしたままメーネに挨拶した。

「僕は沖田総司。沖田総一朗の双子の弟だよ」
「ふ、双子? ですが……年離れてません?」

 メーネには事情を話していない。別の世界から来たとは言い辛かったためだ。

「ま、まぁ後で話すよ。それより昼飯にしよう。今日の昼飯は白米とオーク肉を使った肉野菜炒めだ。ついでに味噌汁もな」
「「み、味噌汁!?」」

 弁慶と義経がカウンターから身を乗り出す。

「味噌も見つけたのか!」
「ああ。苦労したぜ……。だが……苦労した甲斐はあるってもんよ。さあ、食ってみろ……!」

 総一朗は大テーブルに人数分の白米と味噌汁、そして大皿に盛ったオーク肉の肉野菜炒めを運び手を合わせる。

「いただきます!」
「「「「「いただきますっ!」」」」」

 弁慶と義経は白米を一口口に運ぶ。

「……う、美味い……! 美味いぞぉぉぉっ!」
「うっうっ……ご飯美味しいよぉ~」

 二人は久しぶりの白米に感動し、あっと言う間に茶碗を空にした。

「「おかわりっ!」」
「少しは遠慮しろや」

 総一朗は二人に米を盛りながらメーネ達を見る。

「これ、もちもちしてて美味しいですね~」
「オーク肉野菜炒めによく合いますっ!」

 二人にも米は好評のようだった。そして総司も久しぶりのしっかりとした食事に歓喜していた。

「兄さんって本当になんでもできるよね、凄いや」
「総は飯作れなかったからなぁ~。今もか?」
「うん。どうにも作るって苦手でさ。僕にはむかないよ、ははは」

 やがて大量に作った米も空になり、今は食後のティータイムだ。

「緑茶だ……我はもう死んでも良い……」
「はわぁぁぁ~……染みる~……」

 この世界にも茶はあった。紅茶があるなら緑茶もあるのではと思っていたら案の定緑茶の茶葉もダンジョンで手に入った。

「美味いな。しかし……ダンジョンってのは凄いよな。これじゃ農家なんて誰もやらなくなるぜ」

 それにメーネが答えた。

「そんな事はないですよ? 総一朗さんは強いからダンジョンでもこうして食材を集められますが……、普通の人は命をかけてダンジョンに潜るより、大変ですが安全に食材を作る方を選んでますよ?」
「なるほどなぁ。確かに浅い階層じゃ大した物は手に入らなかったしな」

 どの世界も弱肉強食かと思いつつ、総一朗は茶を啜る。

「……さて、メーネ」
「はい?」
「今から大事な話をする。今から話す事は全て真実だからちゃんと聞いて欲しい」
「……わかりました」
 
 総一朗はメーネとターニャに全て話した。

「い、一度死んでここに来た?」
「ああ。弁慶と義経は俺達より大分前に死んで二年前にこっちにきた。そして今はいないが信長もだ」

 信長という名に総司が反応する。

「の、信長? 信長ってあの天下人の織田信長?」
「ああ。今は戦に行ってる」
「……本当に戦バカなんだなぁ」
「ああ。後……なんでか知らんが女になってたわ」
「は、はぁ?」
「ま、その内来るだろうからまたその時にな」

 そして話を戻す。

「でだ、俺達は皆違う世界で一度死んでこっちに来たってわけだ。総司は双子の弟だったけど、最近まで生きてたから俺より年上になっちまってるってわけだ」
「そうでしたか……」

 メーネは話を聞いた上で笑みを浮かべる。

「違う世界の事は私にはわかりませんが、今こうして生きているなら良いじゃありませんか。人は人ですよ、総一朗さん」
「メーネさん……」
「それに……そんな事で嫌いにはなりませんから安心して下さい」
「あぁ……ありがとう!」
「いえいえ。では……これからもよろしくお願いいたしますねっ」
「は、はいっ!」

 そんな二人をターニャと総司が見てニヤニヤしていた。

「お母さん、総一朗さんの事好きみたい」
「兄さんも本気っぽいなぁ~」
「総司さんは何歳なんですか?」
「僕? 僕は二十七だよ」
「ほえ? お母さんと同じだ~。若く見えますね!」
「童顔だからね、僕も兄さんもさ。でもまぁ……これからは僕も世話になるからさ、よろしくね」
「はいっ」

 こうして店に総司を迎え、新たな生活が始まるのだった。
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