幕末の剣士、異世界に往く~最強の剣士は異世界でも最強でした~

夜夢

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第一章 最初の国エルローズにて

第29話 常連

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 公爵との邂逅から一ヶ月、領主が交代した二つの領地も新しい領主を迎え問題なく回り始め、今のところ民から不満の声もあがっていない。

「総一朗! 酒じや酒! おかわりを頼む!」
「そりゃ良いけどよぉ。お前、金持ってんのかよ信長」
「がっかっか! 共に戦った仲ではないか。ケチケチせんで酒を出せいっ」
「お前一人しか殺ってねぇだろ!? むしろ俺が奢られる側だろうが!」

 領地に問題がなくなった信長はスラムで配下にした者を引き連れデリル村へと移住してきていた。

「しかもお前……移住にかかった費用と新居の費用はいつ返してくれるんだよ」
「はて? そんな金借りたかの?」
「借りてんだろうが。借用書に血判もある。奴隷屋に売るぞ」
「まぁまぁ。その内返すわ。ケツの穴の小さい男よな」
「こ、こいつ……!」

 信長は移住してきてから全く働かず、夜は酒場に皆勤賞、そして朝から夕方まで眠るという自堕落な生活を送っていた。時々本当にこいつが信長かと疑いたくなる。

「それなら俺が買おうか?」
「ああ、是非とも引き取ってくれ」

 そんな信長の隣にはフラム・フェルナンド公爵がいる。信長ほど毎日は来ないが毎週末は必ず来ていた。

「総一朗! ワシを売る気か貴様っ!」
「嫌なら働け。毎日毎日食っちゃ寝食っちゃ寝……お前は殿様か」
「殿様だが?」

 確かに前世では天下統一を果たした殿様だが、この世界ではただの無職だ。

「フラム、頼むわ。こいつに何か仕事斡旋してくんねえか?」
「仕事か。ふむ、ない事もない」
「お? なんだ?」

 公爵は突然真面目な表情になり口を開いた。

「ドーン・コルセット侯爵が裏で隣国のドミニオン帝国と繋がっていた話は知っているか?」
「ああ。噂話程度だがな」
「ふむ。なら話は早い。実を言うと侯爵はドミニオン帝国でも爵位を得ていたらしくてな、ドミニオン帝国は侯爵が我が国で死んだ事で賠償金を支払えと脅してきているのだ」
「あん? いくらだよ」
「虹金貨百枚だそうだ」
「……滅茶苦茶だな」

 虹金貨一枚が一千万なので、帝国は百億払えと脅迫してきている。

「あのクズにそんな値打ちがあるとは思えないがな」
「当然だ。帝国の狙いは金ではなく戦を起こす事だろう」
「戦ねぇ。戦力差は?」
「十倍以上だろうな」
「やってらんねぇな……」
「ああ。だが我が国は当然金を払う気はない。戦をしたら負けは確実。だがどうにかしたいと言うのが現状でな。使える者は誰でも欲しいと言うのが本音だ」

 この一ヶ月で公爵とはだいぶ親密になっていた。総一朗は信長に話をふってみた。

「どうだ、信長。どうせやる事なくて暇なんだろ? 力を貸してやったらどうだ?」
「……断る。ワシぁ戦は好かん。それにワシが勝った所で国がワシのモノになるわけでもないしな。なにより……今のワシには軍師がおらん。戦とは力のみで勝てるものではないのだ」

 信長の言い分はもっともだった。

「まぁ確かにな。フラム、例えば戦に負けたとしてだ、この国はどうなる?」
「ふむ。まず本国ではないこの国には重い税が課せられるだろうな。そして戦える男は無理矢理徴兵され、戦えない者は奴隷扱いされるだろう」
「何一つ希望がないな」
「まあ、生きられるだけマシだろう。俺のように王族の血が入っている者は反乱を予防するためにも全員処刑だろうな」
「処刑か。せっかく仲良くなれたのに残念だ」

 すると何を思ったのか信長が公爵に尋ねた。

「一つ聞いても良いか?」
「なんだ?」
「そのドミニオン帝国とやらはどんな国なのだ?」
「どんな国……か。一言ではなかなか言い表せないな。まずかの国は好戦的だ。今ある領土も小さな国々を飲み込んでできている。皇帝の野望は大陸統一と噂だな」
「大陸統一だと? そんなに力がある国なのか?」
「悔しいがある。帝国は勝つためにどんな手段でも平気で使う奴らだ。そして帝国人以外は人とも思わない奴らでもある。そこに情けなど一欠片もない」

 信長は話を聞いて自分の考えを口にした。

「自国の利益のみを求める国だな。そんな国がいつまでも続くとは思えぬ。小さい国ならいざ知らず、いずれ自国より大きな国に滅ぼされ終いだろう。民の事を鑑みない国とは得てしてそうなるものだ」
「……残念ながら……この大陸で一番大きな国がドミニオン帝国なのですよ」
「バカか。面積の話ではない。ドミニオン帝国然り、小さな国がいくつもまとまれば倒せぬ相手ではないだろう。同じくドミニオン帝国を煩わしく思う国々で四方から同時攻撃でもすれば良い。いくら国が大きかろうが四方全てを相手になどできまい。これなら帝国の戦力は均等に分けて二割五分、勝てぬ戦ではないだろう」
「……っ! な、なるほど! 帝国を脅威に思っている国は我が国だけではない。同盟を組み倒せという事だな?」

 信長はグラスを傾け中身を胃に流し込んだ。

「そういう事だ。一人でだめなら二人、二人でも足りぬなら三人。正面からぶつかり合うだけが戦ではない。ん」
「はい?」

 信長は手を出した。それに対し公爵は首を傾げる。

「未来が開けたのだろう? いくらか気持ちをわけてくれても良いのだぞ?」
「は……ははっ、わかりました。では総一朗さん、彼女のツケを俺に回して下さい。戦が終わったら支払いにきますので」
「おう。だが早くした方が良いぜ? こいつ阿呆みたいに飲みやがるからな」
「ははははっ、わかりました。では俺は急ぎますのでこれで」

 そう言い、公爵は店を出て行った。

「お前な、あんな助言でツケ払わせるなよ。相手は公爵だぞ?」
「まさかワシも全額払ってくれるとは思わなんだ。悪い事をしたのう」
「そう思うなら戦場で暴れて来いよ。お前最近少し肥えたんじゃねぇの?」
「レディに肥えたとは失礼だぞ貴様!」
「うっせぇ。中身はオッサンだろうが。しかも今は無職だ。死んだ部下が聞いたら嘆き悲しむぞ」
「うっ……わ、わかっておるわ! この第六天魔王信長に敵はなしっ! 過剰な借りは作らんっ! しばらく戻らんからな!」
「おう、その間に新しい酒と食材仕入れておくわ」
「うむ。できれば米が良いのう」
「俺だって食いてぇよ。だがこれがなかなか落ちなくてな。あるかどうかもわからん」
「極東に侍がいるのだろう? ならば必ずある。死ぬ気で探して参れ!」
「ちゃっかり命令してんじゃねぇっ!」

 こうしてエルローズ王国は戦の準備を始め、信長も陰ながらその戦に参加を決めるのだった。
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