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第一章 最初の国エルローズにて

第28話 公爵

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 暗部。彼らはフラム・フェルナンド公爵の指揮下にあり、国のためにどんな仕事でも請け負う部隊である。総数も拠点も全て秘密となっている。

 その暗部を率いているのが総一朗と会った女性、【クレア・コーネリアス】だ。彼女もまたエルローズ王国の貴族であり、代々暗殺者を輩出している名門の出だ。

 クレアは追加で呼び寄せた部下と共に伯爵の溜め込んでいた私財を均等に分配し、公爵に報告した。

「以上です」
「……そうか、わかった。次の領主は民想いな奴を推薦しておこう。それで……どんな奴だった?」
「はい」

 クレアは総一朗について自分の見解を口にした。

「彼の名は沖田 総一朗。ここフェルナンド領にあるデリル村を拠点にしているようです」
「ほう? そんな近くにいたのか」
「はい。調べさせた所、仲間と共に飲食店を経営しているようです」
「飲食店? 侯爵や伯爵を殺ったような奴がか」
「はい。カモフラージュかと思いましたが、侯爵を殺った件は彼が懇意にしているメーネという女性が拐われかけたからだという話を聞きました」
「……ははははっ! 女一人のために侯爵をか。とんでもない奴だな」

 それに続きクレアは信長についても語った。

「はい。それと、伯爵を殺ったのは彼ではなくフランツ領の首都にあるスラムを拠点としている織田 信長という人物です。彼は表で伯爵の私兵全てを相手にし、信長という女はその隙に伯爵邸に侵入、そして伯爵の首を狩りました」
「ふむ。それだと強さがわからんな」
「いえ、彼と信長はスラムで一度戦っております」
「結果は?」
「彼が勝ちました。ですがその差は僅かなものかと」
「ふむ……」

 公爵はクレアの話を聞き何やら考えこんだ。

「そのどちらか片方、抱え込めないか?」
「……無理でしょう。素行はあまり良いとはいえませんが、彼らは頑なな所が見受けられました。おそらく信念があるのでしょう。金や名誉を欲するタイプではありません」
「そうか。では聞くぞ。クレア、お前はそいつらより強いと言えるか?」

 その問い掛けにクレアは下唇を噛んだ。

「……いえ。戦闘技術では信長殿に負け、暗殺技術でも総一朗殿に負けています」
「片方は暗殺者か?」
「はい。凄腕の。あの動きは暗殺を生業にしていなければ身につきません」
「そうか。ますます欲しいな。俺が直接見に行ってみようか」

 その言葉にクレアは驚いた。

「公爵様自らですか!?」
「ああ。話を聞いていたら興味がわいた。デリル村ならばすぐそこだしな」
「で、ですが我らでは御身を守りきれません!」
「なに、俺に後ろ暗い部分は一切ない。そんな俺にいきなり刃は向けたりしないだろう」
「……わかりました」

 クレアは一礼し公爵の執務室を後にした。公爵は窓から外の景色を眺め口元をゆるめる。

「暗殺の名門であるコーネリアス家、しかも史上最強のクレアより強い奴らか。会うのが楽しみだ」

 その数日後の夜、酒場が閉まりそうな時間に男が一人店に入った。

「悪いね、お客さん。今日はもう店仕舞いだ」
「ふむ。すまないが俺は客ではない。ここの主である君に会いたくて訪ねてきた」
「俺に?」

 総一朗は男を見る。どこか落ち着き払っており、威厳が感じられる。そこから推測するに上の立場にある者と見る。総一朗はグラスを拭きながら男に尋ねた。

「伯爵の報復かい?」
「いや、それは感謝こそすれ咎める気はないよ。座っても良いかな?」
「ああ」

 男はカウンター席に座り総一朗と向かい合う。

「何か飲むか?」
「いただけるなら」
「あいよ」

 総一朗は棚から葡萄酒をとりグラスに注いで出した。

「ありがとう」
「いや。で、あんたはどこのどちら様で何の用だ?」
「ふむ」

 男はグラスを傾け半分ほど口に含み飲み込んだ。そしてグラスを置いて問いに答えた。

「俺はここフェルナンド領を治めている領主、フラム・フェルナンドだ」
「参ったな、公爵様かよ」
「ははっ、そう構えなくても良い。ここに来た目的は君に会うためだからな」
「俺に?」

 総一朗はグラスを置き自分も酒を煽った。

「まずはドーン・コルセット侯爵とゴーレン・フランツ伯爵の件の礼だ。この国の癌を取り除いていただき感謝する」
「さぁて、何の事かわからないな」
「誤魔化さなくても良い。伯爵邸で暗部の隊長と会っただろう? 彼女は俺直属の部下でね。全て裏はとってある」

 総一朗はグラスを空け二杯目を注いだ。

「はいはい。俺が殺りましたよ。で、わざわざ礼を言いに来ただけか?」
「いや、君に興味がわいてね。どうだ、俺の部下にならないか?」
「はっはっは、お断りだ。俺は俺の考えで動く。誰の命令も聞かねぇよ」
「ふむ。それは何か? 信念のようなものか?」
「信念っつーか……まぁ芯だな。俺達侍は自分の中に絶対譲れないものを抱えているもんなんだよ。それは誰に言われても変えられるものじゃねぇ」
「侍? ふむ、極東の出か?」
「まぁそんなもんだ。今はいないが弁慶と義経、あとスラムに信長ってのがいる。誘うなら信長にしたらどうだ? 俺より扱い辛ぇとは思うがね」
「その者も誘いには乗らんのだろう? 残念たが諦めるさ」

 そう言い、公爵はグラスを空けた。

「ならば部下ではなく依頼ならどうだ?」
「依頼?」
「ああ。そのタグ……君は侍だが冒険者なのだろう?」
「まぁ……身分証代わりだがな」
「ふっ、知ってるかい? 冒険者は貴族の指名依頼を断れないんだ」
「はぁ?」
「もし何かあった場合依頼させてもらうかもしれない。その時はよろしく頼むよ」
「できたら依頼は勘弁してもらいてぇなぁ。こう見えて店も忙しいしな」
「はっはっは。俺はわがままなんだ。酒、美味かった。今日は話ができて良かったよ。また来ても良いかな?」

 その問いかけに総一朗は笑顔でこう答えた。

「来るなら今くらいの時間にしな。公爵様がいたら客が怖がって逃げちまうからな」
「はっは! そうだな、ではまた寄らせてもらうよ。君とは良い付き合いをしていきたいからな」
「俺はあんまり関わりたくないんだがなぁ。面倒そうだし」
「なに、まだしばらくは何事も起こらんはずだ。おそらくな。ではまた」
「ちっ、気になる去り方しやがって……」

 公爵はどこか含みを持たせた笑みを浮かべ、店を出るのだった。
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