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第一章 最初の国エルローズにて

第26話 同盟

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 再びスラムを訪れた総一朗は並ぶ首を見て笑った。

「さすが信長だな。協力感謝する」
「なに、勝負で負けたからな。それより主に話がある」
「話? なんだ」

 信長は手配書を手に持ち言った。

「こ奴らには賞金が掛かっているのだろう? ならばワシらが賞金をもらっても良いのでは?」
「ん? ああ、金はいらん。俺はそいつらを見逃したくなかっただけだからな。後はそちらで好きにしてくれて構わんよ」
「ふむ。金が目的ではなかったか」
「金なんて腐るほどあるからな。中途半端なゴミがうろつくのが我慢できなかっただけだ」

 信長は配下を呼び首を片付けさせた。 

「もう良いか?」
「いや、本題はここからだ。少し長くなる。中で話そう」
「またか」

 総一朗は信長と建物の中に入った。そしてまた総一朗は畳の上に座ると、信長は上座ではなく隣に座った。

「なあ、お主」
「なんだよ改まって」
「お主はこのスラムを見てどう思った?」
「あ?」

 信長は真剣な表情でこう言った。

「ワシがこの世界で生まれ変わった家は貧しい家だった。それから十年育てられ、ワシは親に捨てられた。理由は貧しくて飯も食えんかったからだ」

 総一朗は信長の話に黙ったまま耳を傾ける。

「親に捨てられたワシは村を出てここに流れ着いた。それから二年経ったある日、ワシに仏が力を授けたのだ」
「力?」
「うむ。その時得たスキルがこの【空間創造】だ」

 そう言うと、信長は虚空に手をかざし別空間の入り口を開いた。

「な、なんだこりゃ……」
「中に入るか?」
「だ、大丈夫なのか?」
「うむ。ワシも入るのでな。ほら、来い」
「あ、ああ」

 先に入った信長に続き総一朗も入る。

「どうなってんだこりゃ……」
「これでもだいぶ広がった方でな。最初は持って狭かった。だが使っていく内に空間も広がってな。今では三河国ぐらいはあるかもしれん」
「空気もあるし川も太陽も……しかも畑まで……」
「うむ。ワシはここで兵糧を備蓄しておるのだ」
「何のために?」
「……戻ろうか」
「あ、ああ」

 二人は元の空間に戻り再び畳に腰をおろした。

「ワシは近い内にこの領地を奪うつもりだ」
「な、なにっ!?」
「主も見ただろう。バカな頭のせいで下の民が苦しむ様を」
「ああ。酷い有り様だったな」
「この領地はもうダメだ。頭をどうにかせんといずれ民は死に絶えるだろう」
「まさかこの世界でも国盗りする気か?」
「いいや、そこまではせん。ただ、奪った後でこの国の奴らがどう動くかによってワシの行動は変わる」

 総一朗は信長を見る。信長の目は本気だった。本気でこの領地を奪おうとしている。それもこの領地に住む民のために。

「どうする気だ?」
「うむ。まずこの地を奪い悪政から解放する。次に国から送られてくるだろう代官──いや、領主か。その領主がまともな奴ならば領地を明け渡す。ただ、そうでない場合は徹底抗戦よ。ワシ対国でな」
「バカげてるぜ。個人で国を相手にできっかよ」
「個人ではない。すでにこのスラムの住人には鍛練を積ませ戦えるようにしてある。ワシを知っておるならワシの戦い方も知っておるだろう?」
「まぁ……な。だがそれだと多くの犠牲者が……」
「仕方ない。戦とはそんなものだ。戦って死ぬか、領主に搾取され続けて死ぬか……そのどちらかしかこの領地にはない」

 総一朗は尋ねた。

「その領主なんだが……なぜ鉦を集めているかわかるか?」
「うむ。調査済みだ。領主が金を集める理由はな、革命のためらしい」
「革命? まじかよ」
「うむ。奴はその革命のために貴族達に金品をばら蒔いているらしい。その他、毎週のように王都でパーティーを開いたりしているそうだ」
「なるほどねぇ……」

 そこで信長が姿勢を正し総一朗に向き直る。

「力を貸せ。共に悪党を成敗し、民を救わぬか?」
「断る。俺は正義の使者じゃねぇ」
「ほ~う? 昨日民に施しをした男がセリフとは思えんな」
「あん? どうやって知った」
「この町の事なら何でも知っておる」
「ちっ。だがやらん。そんな暇もねぇ。俺ぁ仲間を待たせて来てんだ」
「なぁに、ワシと主なら一日で終わる。手伝いは領主の首を狩るまでで良い。そこから先はワシがやる」

 総一朗は町の現状を思い出す。宿でもろくな飯は出ず、食料を売っているのは屋台のみ。しかも少ない。

「わかったよ。俺は何をすれば良い」
「ふっ、なぁに簡単だ。ワシと共に領主の館へと突入し、歯向かう者を皆殺しにするだけよ」
「簡単じゃねぇよ。知らんのか、この世界の奴らは不思議な力、まぁ魔法って奴を使うんだぞ?」
「知っておるわ。バカにするでない。魔法ならワシも使えるわ」
「はぁ? マジで?」
「うむ。スキル【空間創造】と共に【第六天魔法】を授かってな」
「な、なんだその物騒な魔法は……」

 信長がニヤリと笑みを浮かべた。

「空から六つの隕石が降り注ぐのよ」
「隕石だぁ? だったらそれで館吹き飛ばせば良いじゃねぇか」
「ダメだ。館には仕方なく働いている民もいるだろうし、なにより……今のワシでは第六天魔法を一発放っただけで気絶する」
「つ、使えねぇ~……」
「しかも小石くらいの隕石しか落とせんしな。気絶するからレベル上げも出来ん」

 総一朗は思った。

(仏さんよ、こいつにそんな危ないスキル渡したらダメだろ。この星壊滅するぞ)

 そう思っていると信長が手を差し出してきた。

「第六天魔法は使えん。今回は剣のみでやる。ワシとお主が組めば楽勝よ。一時だけの同盟を組もうではないか」
「俺に徳がねぇ。手を貸したら何をくれるんだ?」
「ふむ……。そうだな、もし次の領主がまともだった場合はワシは手を引く。その後はスラムの住人を連れ主の仲間になってやろう」
「……ほう? 俺の村に来ると?」
「うむ。どうだ?」

 総一朗は信長の提案を受け考える。

(信長が仲間にか。しかもスラムの連中までついてくるか。仮に酒場の仕事を任せたら俺は手すきになるな。その空いた時間でダンジョンにも行ける。……ふむ。この取引……悪くない)

 総一朗は差し出してあった信長の手をとった。

「その条件で良いだろう。手を貸す」
「ふっ、であるか」
「いつ殺る?」
「……今夜だ。今夜領主はパーティーを終え屋敷にいるはずだ。それを逃せばまた来週になる。殺るなら早い方が良い」
「わかった。今夜だな」
「うむ。夜までに館の見取り図を見ながら話し合うぞ、付き合え」
「わかった」

 どうやって見取り図を手に入れたかは聞かないでおいた。天井裏でわずかに人の気配を感じた事から忍びでもいるのだろう。

 二人は見取り図を見ながら自分の担当区域をジャンケンで決めていくのだった。
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