幕末の剣士、異世界に往く~最強の剣士は異世界でも最強でした~

夜夢

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第一章 最初の国エルローズにて

第23話 帰還

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 侯爵を始末し、全てを片付けた総一朗は店に戻った。

「戻ったぞ~」
「うむ。早かったな」
「総一朗さん! 侯爵は? 女の人達は!?」

 弁慶はさも当たり前のように受け入れ、義経は侯爵と拐われた女性達の事を気にしていた。

「侯爵はあの世だ。俺の女に手を出したんだ、生かしておくわけがねぇ。で、女達の件は公爵に丸投げした。奴隷の事とかはよくわからねぇがな。そもそも違法だろうから公爵が上手くやってくれんだろ」
「そ、そっかぁ~。じゃあ皆助かったんだね!」
「まぁ……心と身体に傷を負っただろうがな。全部が元通りとまではいかないだろうよ」
「うん……。でも助かって良かったよ。お疲れ様、総一朗」
「あん? バカ、俺ぁ自分のためにやっただけだ」
「がははははっ、こやつ照れておるわ」
「あぁん!?」
「総一朗さんっ!」
「ん? あ、メーネさん!」

 弁慶に腹蹴りをお見舞いしてやった所にメーネがやってきた。

「よく無事で……っ! 話はターニャから聞きました。私のために侯爵様の私兵と戦い……そのまま侯爵様の屋敷に乗り込んだとか……。なんて無茶を……!」
「無茶なんかじゃないっすよ。メーネさんを奪われるなんて考えたくもなかった。だから二度と手を出せないように徹底的に潰してやりましたよ。ははははっ」
「私のために……そこまで……。ありがとうございます、総一朗さんっ」
「いえいえ。これからも俺は何があっても守りますよ」
「総一朗さん……。わかりました、でもあまり無茶しないで下さいね?」
「ははは、はい」

 こうして侯爵の件も片付き、総一朗達は日常に戻った。そんな総一朗に義経が話し掛ける。

「ねぇ総一朗。フランツ領の方は解決してあげないの?」
「はぁ? お前なあ、俺は別に正義の味方ってわけじゃねぇんだぞ? 国の問題は国が解決する。それが当たり前の話だろ」
「でも……」
「でももしかしもない。侯爵の件は俺に絡んできたから殺ったまでだ」
「フランツ領の人達が可哀想だよ……」

 そんな中、酒場で飲んでいた冒険者風の男達の話が耳に入ってきた。

「なぁ知ってるか?」
「んあ? なにを?」
「侯爵が抱え込んでた冒険者達の話だよ」
「ああ、賞金首になった奴らな。それが?」
「いやよ、何でもその賞金首達がよ、フランツ領に入ったらしい」
「はぁ? なんであんな所に?」
「あの土地にはスラムがあるからな。身を隠すには最適だ。そんでスラムの連中は仲間意識が高い。余所者を拒絶しやがるからよ。国も冒険者ギルドも賞金首を狩れねぇって悩んでるらしいぜ」
「スラムなぁ……。頭なんて言ったっけか」
「ああ、えっと確か……【織田 信長】って名前だったような……」
「ぶふぅぅぅぅぅぅっ! ゲホッゲホッ!」
「む? どうした総一朗。酒が強かったか?」

 総一朗は男達の話を聞いてむせた。弁慶達はわからなくて当然だが、総一朗の時代の人間は誰もが知っている名だ。

「い、いや……」

 総一朗は口元を拭きながら再び男達の話に耳を傾ける。

「その頭がよ、これまたアホみてぇに強いらしいんだわ」
「ほ~。そうなったらもう賞金首は狩れないか」
「領主もスラムだけには関わらないようにしてるって話だし、賞金首の奴らは安堵してるんじゃねーかな」

 そして閉店後、総一朗は二人を部屋に呼び出した。

「ひじょうに不味い」
「何がだ?」
「スラムにいる織田 信長だ」
「ふむ。そやつがどうかしたのか?」

 総一朗は咳払いをし、二人に織田信長の事を話した。

「天下人だと?」
「そうだ。尾張国の織田は天下をとっている有名人だ。本能寺で死んだはずだが……まさかこの世界にいたとはな……」

 義経が眠そうな顔で問い掛ける。

「その織田さんがどう不味いの?」
「信長はなぁ、冷酷非道、残虐無比、唯我独尊……まさに血も涙もない冷血漢なのよ」
「へぇ~」
「へぇ~じゃない。いつからスラムにいるかわからないが……信長はここで大人しくしてるような奴じゃない。戦力を整えたら戦に討ってでる可能性がある」
「そ、そんな危ない人なの!?」
「ああ。信長はかなり頭の回転が早い。先を見通す力もある。そして逆らう者は皆殺しだ」

 それに弁慶がこう返してきた。

「……それはお主の事ではないか?」
「アホか! 俺なんて信長に比べたら可愛いもんだ! 奴はな、苛烈な戦国時代を勝ち抜いて天下をとった猛者だぞ」
「ふむ。ならば会ってみれば良いでないか」
「あ?」
「どれも聞いた話で真に見た話ではないだろう。会ってみたら案外良い奴かもしれんではないか。何より同郷の者だ。無下にはすまい」
「むぅ……、しかしなぁ……」

 総一朗は珍しく尻込みしていた。

「それになぁ、賞金首となった冒険者が侯爵を殺した主の事を悪いように告げるやもしれん。攻められる前に話だけでも通した方が良いのではないか?」
「それはあるな。って言うか弁慶、お前もしかしてただのバカじゃないのか?」
「誰がバカだ! 我は僧侶ぞ! 知識くらいあるわ!」
「……ああ、そうだったな」

 確かに弁慶の言った事は危惧しなければならない。悪いのは冒険者達の方だが、信長が奴らの言い分を信じないとも限らない。

「……明日行ってみるか」
「うむ。酒場は我らに任せておけ。仮にお主が死んだらメーネ嬢は我がもらってやろう」
「ふざけんなボケ。お前から先に殺るぞ」
「はっはっは! 殺れるものなら殺ってみぃ。我とていつまでも昔のままではないぞ」
「ちっ、まぁ良い。メーネさんに手を出したら義経をどうにかしてやるからな!」
「え? ボ、ボク何されちゃうの!?」
「き、貴様っ! ご主人には指一本ふれさせんからなっ!!」
「ほ~う? 俺に勝てんのか?」
「やったるわぁぁぁぁぁっ!」
「ふ、二人ともやめなよぉぉぉっ! 近所迷惑だよっ!」

 こうして夜は更けていくのだった。
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