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第一章 最初の国エルローズにて

第21話 情報収集

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 一ヶ月、総一朗は酒を提供しながら今いるこの国について様々な情報を集めた。そして店が休みの日、義経と弁慶を部屋に呼び話し合いの機会を設けた。

「いきなり集めてどうした?」
「まぁ聞け。この一ヶ月でだいぶ情報が集まったからな。それらをまとめてみたんだ」

 すると義経の表情が真面目なものへと変わった。

「……集めたって事は、もしかしてあまり良い国ではないと?」
「さすが義経だな。その通りだ。まず、この国は【エルローズ王国】って国なんだが……。正直この国の王は無能だ」

 総一朗の言葉に弁慶が返す。

「無能だと? 例えば?」
「そうだな、聞いた話だがこの国は六つの領地にわかれ、そこを各藩主……じゃなかった、領主が治めている。その六つが【フランツ領】、【コルセット領】、【バルドロア領】、【ミュンセット領】、【ガイアス領】、【フェルナンド領】だ。俺達のいる領がフェルナンド領、国王【グレン・エルローズ】の義弟、【フラム・フェルナンド公爵】が治めている」
「ふむ」
「この領地とバルドロア、ガイアス、ミュンセットは問題ない。問題があるのはまずフランツ領だ。この領地は税が高く、野盗が横行しているらしい。しかもその野盗を裏で操っているのがフランツ領領主【ゴーレン・フランツ伯爵】との噂だ」
「領主が自ら犯罪に加担しているだと? 救えんな」
「ひどい……」

 弁慶は呆れ、義経は民に同情している。

「次にコルセット領。ここの領主【ドーン・コルセット侯爵】はまさにクズだ。領内で美しい女を見つけると何かしら罪を捏造し、罰と称して自分のモノにしちまうんだと」
「なんだとっ!?」
「ゆ、許せないっ!」

 これには二人とも怒りを露にした。

「配置はこのフェルナンド領を中心に、南から左回りにガイアス、フランツ、ミュンセット、バルドロア、コルセットだ。フェルナンドには王都があり、そこに王城がある。王もそこに住んでいる。王もこの二つの領地に問題がある事は知っているが、なぜか動かない」
「その辺りの噂はないのか?」
「あるにはあるが……眉唾だな。フランツ伯爵は見逃してもらう代わりに金を渡し、コルセット侯爵は奴隷を渡しているとか……。そんなもので王が見逃すか? もしそれで見逃しているなら公爵が許さんだろ。公爵は人格者らしいからな」
「ふ~む……」

 するといきなり義経が立ち上がった。

「許せない! 特にコルセット侯爵! 女をなんだと思っているんだ! 弁慶、成敗に参るぞ!」
「はっ!」
「待て待て! 何する気だ」
「もちろん侯爵の首を──」
「阿保」
「あいたっ」

 総一朗は興奮する義経の頭に手刀を落とした。

「な、なにを!」
「良いか、仮にも相手はこの国の貴族様だぞ。もし手を出そうものなら国家反逆罪、お尋ね者だ。今後一生のんびり暮らすなんてできなくなっちまうぞ」
「でもっ!! なんの罪もない女性を食いものにするなんて許しておけないっ!」
「それに相手は国を守る貴族、屋敷の警備も厳重だろう。それをたった二人で相手にするだ? 無理に決まってんだろ」
「それは……でも悔しいっ! 悪人がいるのに裁けないなんて」

 そんな時だった。

「そ、総一朗さんっ! お、お母さんが! お母さんがぁぁぁぁぁっ!」
「ターニャ? ど、どうした?」

 突然ターニャが泣きながら店に飛び込んできた。

「ひぐっ、ぐすっ」
「ターニャ、泣いてちゃわからん。メーネさんがどうした」
「うぅぅぅっ、お母さん……コルセット侯爵の部下の人達に連れて行かれちゃったのっ」
「なっ!? なにぃぃぃぃっ!! 何時だ!!」
「い、今! さっき村を出て──え?」

 その場にはもう総一朗の姿はなかった。弁慶と義経は顔を見合せ笑った。

「さて、我らはどうしますか?」
「当然、侯爵の部下を皆殺しにした総一朗にバカな真似を~って言いに」
「はっはっは。それは良い。では参りますか」
「うんっ。ターニャはここで待っててね。お母さんは必ず連れて帰るから」
「う、うんっ。お願い……しますっ!」

 その頃、村を疾走する総一朗は村の出口の辺りで連行されていくメーネの姿を確認していた。

「テメェラァァァァァァァァッ!! 誰の女に触ってんだゴラァァァァァァァッ!!」
「あん? はれ……」
「総一朗さんっ!!」

 総一朗は疾走したままメーネを掴んでいた男の首と腕を斬り落とし、勢いそのままメーネを抱えて男達の中を駆け抜けた。そして振り向くと男の首が地面に転がり、胴体からは血が噴出していた。

「た、隊長っ!? き、きさまぁぁぁぁぁぁっ!!」
「五月蝿ぇよ。お前ら生きて帰れると思うなよ。皆殺しだ」
「あぁっ!? 俺達はコルセット侯爵の私兵だぞっ! 俺達に逆らったらどうなるか──」

 総一朗はメーネを抱えながら言った。

「ちょっと待っててくれ。終わったら一緒に帰ろうな」
「総一朗さん……ごめんなさいっ」
「大丈夫だ。怖いなら目を瞑ってな」
「は、はい……」

 総一朗は刀を構え男達に向き直った。

「死ね」
「あぁっ!? 良いのか! 反逆罪になるぞ!」
「知った事か。領主ごと殺ったらぁっ! いくぜ……【神速】」
「き、消え──ぎあぁぁぁぁぁぁっ!!」

 総一朗は一瞬で男の懐に入り銅を真っ二つにした。

「こいつっ! つえぇ──がはぁっ!?」
「ぎあぁぁぁぁっ!!」
「ぐぼっ!?」

 男達は何が起きたかわからないままその命を散らしていった。

「ひ、ひぃぃぃぃっ! ば、化け物……」
「あぁん!? てめぇで最後だ。くたばれや」
「ひっ、いぎあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 総一朗は地を這い逃げる男の首を刀で一突きし、絶命させた。そして男達の死体を山積みにし、魔法を使う。

「【プチファイア】」

 男達の死体は火に包まれ炭と化した。そこに笑顔の弁慶と義経がやってきた。

「こら、反逆罪だぞ総一朗」
「お尋ね者だぞ、総一朗」
「ふん、知るか。俺の女に手を出したこいつらが悪い。っと、メーネ」

 総一朗はメーネに駆け寄った。

「総一朗さん……、私のせいで……!」
「なぁに、大丈夫だ。メーネのためなら朝飯前よ。さ、帰ろうな。ターニャも待ってるぜ」
「あ……あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 総一朗は涙を流し安堵するメーネを抱え店に戻った。道すがら弁慶達に冷やかされたのは言うまでもない。

「ドーン・コルセットを処す。一族郎党皆殺しだ」
「相手は貴族だから手は出さないんじゃなかったのか?」
「関係ない。奴は俺を怒らせた」
「三人で行く?」
「いらん。俺一人で十分だ。お前らは店とメーネ達を守っててくれ」

 総一朗は眠るメーネの頬を一撫でし、入り口に向かった。

「なるべく早くな。酒がなくなる」
「おう、すぐ戻る。村を頼むぜ」
「任せてよ、いってらっしゃい!」

 総一朗はニヤリと笑い黒い着物をはためかせ村を出るのだった。
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