幕末の剣士、異世界に往く~最強の剣士は異世界でも最強でした~

夜夢

文字の大きさ
上 下
19 / 63
第一章 最初の国エルローズにて

第19話 食事処『源』

しおりを挟む
 メーネと親密になるための第一歩を踏み出した総一朗は二日後、次の段階へと向け準備をしていた。

「よし、こんなもんだろ」

 総一朗は一階に木のテーブルと椅子をセットし、カウンターにも椅子を並べた。そして今木の板に店の名を記していた。

「な、なんだこれは?」
「うわ、すごい! もしかしてお店開くの!?」
「おう、戻ったか弁慶、義経」

 ちょうど看板に命を吹き込んだ所に二人が帰ってきた。

「お主、これはどうしたのだ?」
「ダンジョンで拾ったんだよ。二階にお前達の部屋もあるぜ」
「拾った? 我らはそんな物拾っておらんぞ?」
「あん? 何階まで下りたんだよ?」
「うむ。何とか地下四十階のボスは倒してきた」
「ああ、これは地下五十階のボスから先じゃないと落ちないからな。拾えなかったのも当然だな」

 すると義経が看板を覗き込んで叫んだ。

「食事処……源? えぇぇぇぇぇっ! 総一朗これ!」
「ああ、お前の冠をもらった。ここに源氏を広めてやろうぜ」
「そ、総一朗~!」
「うぉっ!?」

 義経はいきなり総一朗に抱きついた。

「何よりも嬉しいよ、総一朗! 源はボクの全てだから! ありがとう、ありがとうっ!」
「だぁぁっ、暑苦しい! 喜ぶのはまだ早ぇっつーの! まだ何にも始まってすらないんだからよ」

 義経はニコニコ顔で総一朗から離れた。

「それでもだよ。源をお店の名前にしてくれてありがとっ」
「……おう。弁慶、それ入り口にかけてきてくんない?」
「うむ! お主もなかなか見所があるな。自らご主人の配下になるとはなぁ」
「はいはい。それかけたら話し合いな」
「うむ」

 弁慶に看板を預け総一朗は義経とテーブルにつく。そして看板を掲げてきた弁慶を交え話し合いをもった。

「さて、まずはメニューについてだ。この中で料理ができる奴は?」
「ボクは無理!」
「我は精進料理くらいだな。野草や山菜を使った坊主が食するものなら作れるぞ」
「……役立たずめ」
「「なにおうっ!?」」 

 どうやら二人は使い物にならないようだ。

「そういうお主は作れるのか?」
「当たり前だ。俺は倒幕活動をしながら全国を回っていたからな。色々な地方の料理も知ってるし、作り方もわかる」
「むぅ……。悔しいが有能だな」

 総一朗は頭を抱えた。これでは一人で切り盛りするのと変わらない。

「……とりあえず義経は給仕だな。弁慶は……ダンジョンで食材集めをしてこい」
「お主……ご主人を働かせる気か! しかも給仕だと!? ご主人は源氏の棟梁ぞ!」
「働かなきゃ食えねぇだろうが。給仕が嫌なら客の呼び込みだ。好きな方を選べ」

 すると義経は手を挙げ言った。

「ボク給仕やりたい! 覚えるのは得意だし!」
「じゃあ決まりな。で、次はメニューだが……」

 総一朗は何を出せば売れるかわからなかった。そこで二年先輩の二人に問い掛けた。

「お前ら旅して来たんだろ? この世界の料理も色々食ったんじゃないか?」
「……ほとんど食べてないよ?」
「は?」
「そんな金あるわけないだろう。我らは主に山菜や魔物の肉を鍋にして食っていたのだ」

 総一朗は開いた口が塞がらなかった。

「……ちょっと出てくるわ。その間に二階の部屋確認しといてくれ。扉に名前を書いてるからな」
「うむ。ご主人、部屋に参りましょうか」
「うんっ!」

 総一朗は役立たず二人を見切り、隣家に向かった。 

「総一朗さん? どうしたの?」
「ターニャ、助けてくれ」
「え? え?」
「あらあら、どうしたの?」
「メーネさぁぁぁぁん!」
「きゃっ!?」

 総一朗はどさくさに紛れメーネに抱きついた。

「ど、どうしたのっ?」
「助けて下さいっ! 俺の仲間が役立たずなんですっ!」
「えぇぇぇ?」

 メーネは嫌がる素振りもみせない。

(いけるか? いや、焦りは禁物だ。慎重に慎重に……)

 総一朗はゆっくりと離れ二人に事情を説明した。

「総一朗さんお店開くの!?」
「ああ。だが肝心のメニューがな……。俺も仲間もこの辺りの料理を全く知らなくて。何を出せば喜んでもらえるかわからないんだよ」
「そっか~。ならお母さんの出番じゃない?」
「え?」

 総一朗はメーネを見る。相変わらず可憐だ。そして何より元気に見える。

「お母さんの料理すっごく美味しいんだよ!」
「ターニャ、何言ってるの。私の料理なんて家庭料理よ」
「あの……俺、その家庭料理すら知らないんで……」
「そうなの? じゃあ……今から何か作るから食べていきます?」
「はい! 喜んで!!」

 総一朗は涙した。

(ああ……、こんな幸せがあっていいのか! 生きてて良かった!)
「じ、じゃあ材料を買いに行かないと…… 」
「あ、材料なら俺が持ってます。何が必要か言ってくれたら出しますよ?」
「あら、じゃあ……」

 それから総一朗はメーネとキッチンに入り調理過程を見た。

「はい、完成よ」
「これはなんていう料理ですか?」
「野菜とボア肉のミルクスープよ。この辺だと大体の家庭でこれを食べてるの。安いし栄養価も高いからね」
「なるほど。勉強になります」
「ふふっ、じゃあ運んで食べましょう」
「はいっ!」

 それから三人で食卓を囲んだ。

「美味いですね~。毎日でも食べたいくらいですよ」
「ま、毎日って。総一朗さん、それは言い過ぎ──」
「いえいえ。あ、そう言えば体の具合は……」

 そう尋ねるとメーネは首を傾げてこう答えた。

「それがね……? なんだかあのベッドで寝るようになってから凄く元気になって。もう万全って感じなの」
「そうですか。それは良かった。なら……お願い聞いてもらえます?」
「お願い?」
「はい。二人にお願いがあります」

 総一朗は二人に向かい頭を下げた。 

「俺の店で働いて下さい! ちゃんと給料も払います! 二人の力を貸して下さいっ!」
「そ、そんな! 頭を上げて下さい!」
「わわ、お仕事させてもらえるの!?」

 総一朗はゆっくりと頭を上げた。

「もちろん手伝わせていただきます。総一朗さんにはたくさんいただいてますから。私で良ければ喜んで」
「メーネさん……、ありがとうございます!」
「私も手伝うよっ! 給仕くらいしかできないけど」
「ターニャ。いや、ありがたい。給仕も一人しかいないからさ。凄く助かるよ」
「へへへっ」

 すると突然メーネが総一朗の手をとった。

「メ、メーネさん?」
「ありがとう、総一朗さん……。私……元気になったら町に出稼ぎに行かなきゃと考えていたの」
「えっ!?」
「でも……この村で働けるならそれが一番だわ。ターニャとも一緒にいられますし。それでその……こんな話は急で言いにくいのだけど……」
「は、はははははい!」

 総一朗の心臓は爆発寸前だ。まさかの逆告白かと思いきや、メーネの口から出た言葉は現実的なものだった。

「お給金はいくらかしら?」
「……はい?」
「実は家……死んだ夫の借金がありまして……」
「は、はぁ……」
「それと……税金も滞納している状態で……」
「ま、マジっすか……」
「ええ。だからね……? 誠心誠意働きますから末永く良いお給金で雇って下さいっ」

 総一朗はそう望むメーネを見てなかなかに強かだなと思うのだった。
しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

スキルは見るだけ簡単入手! ~ローグの冒険譚~

夜夢
ファンタジー
剣と魔法の世界に生まれた主人公は、子供の頃から何の取り柄もない平凡な村人だった。 盗賊が村を襲うまでは…。 成長したある日、狩りに出掛けた森で不思議な子供と出会った。助けてあげると、不思議な子供からこれまた不思議な力を貰った。 不思議な力を貰った主人公は、両親と親友を救う旅に出ることにした。 王道ファンタジー物語。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

処理中です...