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第一章 最初の国エルローズにて

第14話 再会?

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 宿に入ると見知った顔と遭遇した。

「オキタさん!?」
「あん?」

 声を掛けてきたのはアーク達だった。

「良かった! 急にいなくなって心配──」
「いなくなった? お前らが先に町に入っちまったから金のない俺は町に入れなかったんじゃねぇか!」
「え?」
「俺はあの時冒険者じゃなかったんだよ! 身分証もなけりゃ金もねぇ。そんな俺が町に入れるわけねぇだろうが!」
「あ……、す、すみませんでしたっ! ゴブリンの事で頭がいっぱいで!」

 アーク達は総一朗に平謝りをしていた。

「もう良い。じゃあな」
「あ……、オキタさん……」

 総一朗は義経達を連れ部屋に入った。

「総一朗、あの者らは?」
「ああ、俺を町の入り口に置き去りにした奴らだ。助けてやったにも関わらずにな」
「そいつは許せんな」
「ま、良いさ。あんな小物はどうでも良い。それより話をしよう」

 三人は室内にあったテーブル席に座り話を始めた。どうやら義経達も不思議な力については知っていたがそれが何なのかよくわかっていない状態のようだ。

「二年近くなにしてたんだ……」
「わからんものは仕方ないだろう」
「それでそれで!?」

 義経は話に興味津々のようだ。総一朗はそんな義経に不思議な力の事を詳しく話した。

「魔法にスキル……、それってボク達も使えるの?」
「ああ。ダンジョンと呼ばれる迷宮でこう言った書物が手に入るんだ。それを使えば俺達でも使えるようになる」

 そう言い、総一朗はテーブルに実物を置いて二人に見せた。

「へ~……」
「あ、こらっ!」 

 すると義経が書物を手に取りパラパラとめくる。

「わっわっ!? 光った!?」
「ご主人っ!?」
「あ~あ……」

 光った書物は消えてしまった。

「い、今のなに?」
「やってくれたな。そいつはめくるだけで何か一つスキルが手に入るんだよ」
「え? 今ので使えるようになったの!?」
「そうだよ。頭の中に声が流れたろ?」
「う、うん。なんかスキル【回復魔法:レベル1】って……」
「回復魔法か。それは傷を癒せる魔法だな。くそ、俺が欲しかった魔法じゃねぇか……」
「ご、ごごごごごめんなさぁぁぁい!」
「す、すまん総一朗!」

 二人は慌てて総一朗に頭を下げる。だが総一朗は怒ってはいない。むしろ狙い通りといった所だ。

「そいつはめったに手に入らないんだがなぁ」
「ごめんなさいぃぃっ! なんでもするから許して!」
「なんでも……?」
「ご、ご主人! なんでもは言い過ぎですぞ! もし総一朗が身体を要求してきたら如何するおつもりか!」

 総一朗は肩を落とした。

「アホか! 誰が男の身体を要求するか! 俺は男色じゃない!」
「え? ボク女だよ?」
「……は? はぁぁぁぁぁぁっ!?」

 総一朗は驚きのあまり席を立った。

「嘘だろ!? だって歴史書には義経は男と……」
「ああ、それは嘘ですよ。女だと色々都合が悪かったので男だという事に」
「ま、マジかよ……。義経って女だったのか……」
「はい。これを知るのは弁慶と師匠だけです」
「はぁぁ……」

 総一朗は義経を見る。確かに女と言われれば納得できなくもない。

「……ま、良いや。じゃあ書物を使われてしまった義経にはどんな事をしてもらおうか」
「うっ……。で、できたら許してもらえません?」
「無理だ。そうだなぁ~……うん、二人には俺の仲間になってもらおう」
「「仲間?」」
「ああ。どうせ二人にも特にやる事はないだろ?」
「ああ。我らは根無し草だからな」
「んじゃ一緒に行動しようぜ。俺としても二人がいてくれると心強いからな。それで書物の件はチャラにしてやるよ」

 二人はしばし話し合い総一朗の方を向く。

「わかりました。よろしくお願いします!」
「ああ。じゃあとりあえずこの三人でパーティーの結成だな」
「はいっ!」
「うむ」

 こうして三人はパーティーを組む事になった。

「二人はもう冒険者登録を済ませてあるのか?」 
「ああ、旅をするためにはあった方が良かったからな。だが依頼は受けていない。たまに悪党を捕らえて金にしてたくらいだ」
「そ、そうか。まぁ俺も別に依頼を受ける気はない。ダンジョンに入れば稼げるし強くなれるしな」

 その強くなれるという言葉に弁慶が興味を示した。

「聞くが……総一朗はどのくらい強いのだ?」
「さぁな。だがこの世界に来てから負けた事はねぇよ」
「……ほう。なら我と仕合ってみるか? 我も負けた事はないのだがな」
「あの武蔵坊弁慶と仕合か。良いねぇ……。明日やるか?」
「望むところよ」

 その後は雑談し身体を休めた。そして翌早朝、まだ霧が立ち込める時間、三人は町の外に出た。

「この辺りなら大丈夫だろう」
「そうだな」
「頑張って二人とも!」

 総一朗は菊一文字を構え、弁慶は巨大な薙刀を構える。

「得物は薙刀か。リーチやべぇな」
「臆したか?」
「いや、滾ってるぜ。あの武蔵坊弁慶と立ち合えるなんざ嬉しくてたまらねぇ」
「がはははははっ! 来い、後の時代の侍の力を見せてみよ!」
「いくぜっ!!」
「応っ!!」

 一合、二合と打ち合う。そのあまりに激しい衝突で二人の周囲だけ霧が吹き飛ぶ。静かな朝に刀がぶつかり合う轟音が鳴り響いていた。

「っかぁぁぁっ! 隙がねえなっ!」
「がははははっ! なかなかやりおるっ!」
「頑張れ弁慶~! 総一朗~!」

 二人は汗だくになりながら幾度となく刃を交えた。その力は完全に拮抗していた。

「ふぅぅぅっ、やるな弁慶」
「お主もな。我とここまで打ち合えるとは……。我のいた時代でもここまでの猛者はなかなかおらんかったぞ」
「嬉しいねぇ。なら次で最後にしよう。そろそろ陽が昇るからな」
「良いだろ……む?」

 総一朗は刀を鞘に納め抜刀術の構えに入る。弁慶もその構えから油断ならない一撃がくると予想し、気を入れ直した。

「畏いのぅ……。殺気が満ちておる」
「わかるか弁慶」

 二人の間に緊張が走る。

「疾っ!!」
「むっ!!」

 一瞬総一朗の身体がブレた。

「消えっ!? ぐうぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」
「弁慶!?」

 総一朗は弁慶の腹を打ち後方へと駆け抜けていた。

「峰打ちにしといたぜ、弁慶」
「ぐっ、くぅぅぅぅっ! い、今のは……」
「秘剣【陽炎】だ。凄まじい速さでいくつも陽動をかけできた隙から敵を打つ技だ」
「お主の姿が何人にも見えたのは真だったか……」
「凄まじい速さで動くと残像が残るからな。何人にも見えたのはそのせいだ」
「む、無念……!」

 弁慶は地に膝をついた。

「弁慶!」
「ご主人、申し訳ない。負けてしまいました」
「だ、大丈夫だよ! これは殺し合いじゃないから!」
「義経、昨日覚えた回復魔法を使ってやりなよ。それで治るはずだ。使い方はわかるだろ?」
「え? あ、【ヒール】!」
「む……?」

 義経の手が弁慶の腹に触れ光る。

「痛みが……消えた?」
「それが回復魔法だよ。便利な世界だよな」
「い、今のが魔法か……。ご主人、かたじけない」
「ううん、大丈夫だよ。それより……総一朗は大丈夫なの?」
「俺? はははは、俺は一撃ももらっちゃいねぇよ。なぁ、弁慶?」

 弁慶は立ち上がり悔しそうにした。

「うむ。速すぎて捉えきれんかった。強いなお主」
「ははは、ダンジョンで魔物を倒していくと良い鍛練になるみたいでな。今の俺はあっちにいた頃とは身体の強さが格段に上がっているようだ」
「ふむ。我も悪党を斬った時に同じ感覚を覚えたが気のせいではなかったか」
「ああ。どうやらこの世界では殺ったら殺った分強くなれるらしいぜ。ダンジョンは修行に最適な場所だ」
「ふっ……、ふはははは! ならば我もそこで修行するぞ! 次は負けん!」
「ああ、いつでもやろうぜ。それじゃあ……このままデリル村に行こうか。ダンジョンはその村の近くにあるからな」
「うむ!」

 こうして仲間を増やした総一朗は拠点とするデリル村に戻るのだった。
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