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第一章 最初の国エルローズにて

第13話 仲間

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「がははははっ! いやぁ~愉快愉快!」
「あの……、お客様、もう酒が……」

 どうやら店にある酒は弁慶が飲み干してしまったようだ。

「店主、まだ金は足りてるか?」
「あ、はい。お預かりした料金分にはまだまだですが」

 それを受け総一朗は弁慶に言った。

「弁慶、もう酒がないそうだ。どうする?」
「なに? うぅむ……仕方ない。ご主人、そろそろ帰りましょうか」
「あ、うん。ボクもお腹いっぱいだよ~」

 総一朗は帰ろうとする二人に問い掛ける。

「二人はこの町に住んでいるのか?」
「いや、特に決まった宿はない。町には悪人から金を巻き上げた時だけ立ち寄っている。その他は野宿だな」
「無法者か!? 本当に悪人だけだろうな?」
「当たり前だ。他に稼ぎ方を知らんのでな。悪人ならば襲っても喜ばれるだろう?」
「……そう言えばあんたは刀狩りしてたな」
「がははははっ! まぁご主人には負けたがな。それよりお主は決まった宿でもあるのか?」

 その問い掛けに総一朗は首を横に振った。

「いや、俺はまだここに来たばかりでな。まだ右も左もわからない状態だよ。でもまぁよくいる場所はデリル村と言う村だ。小さい村だがのどかで落ち着く良い村だよ」
「ふむ」

 弁慶は顎をさすりながら考えを巡らせる。

「ご主人、我らもその村で暮らしますか?」
「え? でもお金ないし」
「いや、多分金なら稼ぐ方法があるはずです。この者は来たばかりにも関わらず黒金貨を持っていました。この者と一緒に行けばもしかすると金持ちになれるやも……」

 義経は立ち上がり叫んだ。

「えっ!? もう野宿しなくて良いの!?」
「おそらくは」
「毎日魚食べれる!?」
「う~ん……そこはわかりませんな」
「でも宿には泊まれるんだよね……。弁慶」
「はっ」

 すると弁慶は総一朗に向き直り頭を下げた。

「いきなりですまぬが我らにお主の金の稼ぎ方を教えてはもらえぬだろうか。頼むっ!」
「あ、ああ。良いけどよ。あんたら魔物とは戦えるか?」
「うむ。この辺りの魔物ならば相手にもならんな。一番美味かったのは巨大な牙を持った猪だな、うん」

 どうやら弁慶は魔物を食料としか見ていないようだ。

「ふむ。ちょっと色々尋ねたい事があるから今夜は俺の宿に来て泊まってくれ」
「我は良いが、ご主人はどうします?」
「え? 良いよ」
「かしこまった。では総一朗、宿に行こうではないか」
「ああ、先に出て入り口で待っててくれ。知り合いに声掛けてからいくからさ」
「うむ」

 総一朗は店主から釣りをもらい四人の所へ向かう。飲食代は黒金貨一枚だった。

「お話は済みました?」
「ああ。それでだ、お前達とはここまでだ」
「はい。目的の魔剣も手に入りましたし、私達は王都に向かいますから。総一朗さんはまた村に戻るんですよね?」
「ああ。別に俺には目的なんてないしな。のんびり稼いでその内村に家でも買うさ」
「家ですか。では総一朗さんはこの近辺で活動するのですね」
「ま、そうなるな。デリル村とダンジョンで活動するわ。ああ、心得の件は冊子読むからいいわ」

 総一朗はリーダーの男に手を差し出した。

「頑張れよ」
「はい。総一朗さんも」

 そうして二人は固く握手を交わし別の道を歩む事になった。黒装束の女が肉~と呟いていたが、自分で狩れといい、総一朗は酒場を出た。

「悪い、待たせた」
「いや、大丈夫だ。あれは仲間か?」
「いや、知り合いっつーかちょっと助けてやった仲だな。俺もあいつらからだいぶ知識を得られたからまぁ五分って所だ」
「なるほど。しかしお主……適応力高過ぎんか? この世界の奴らは不思議な力を使う。いくら剣が強くても勝てぬ相手もいるではないか。怖くないのか?」
「……まぁそれも含めて宿に着いてから話すよ。行こうか」
「うむ。ご主人、行きましょう」
「うんっ」

 総一朗は二人を連れ宿へと向かう。

「……いやいや弁慶。あれだけ呑んで普通に歩いてるとか化け物か!?」
「ふっ、あんな量では全然足りぬな」
「底無しかよ。こりゃ義経も大変だな」

 すると義経は苦笑いを浮かべた。

「あはは。それでも弁慶はボクの家臣ですから。それもこの不思議な世界にまでついてきてくれた忠臣です。あちらでは苦労かけましたから……」
「ご主人っ! この弁慶、ご主人のいる所はどこだろうとついていきますとも!」
「ありがとう、弁慶」

 そこで総一朗はふと気になった。

「ところで……義経達はいつ頃この世界に?」
「あ、はい。およそ二年前ですね」
「二年前?」

 総一朗は頭の中で算盤を弾く。

(確か義経が死んだとされているのは1189年、俺が死んだのは1862年だ。およそ二年か……。差は673年か。となると……ここの一日があちらの一年?)

 総一朗は頭を振る。

(いやいやありえんな。そもそも義経と享年は三十一歳だ。目の前にいる義経はどう見ても俺と同じか下だ)

 それを踏まえ総一朗は義経に尋ねる。

「なぁ、その姿は死んだ姿のままか?」
「……いえ。若返ってますよ。ボクも弁慶もね」
「そうか。俺は死んだ姿のままなんだがなぁ……。どうなってんだいったい……」

 そこで弁慶が口を挟む。

「ふむ。考えた所でどうにもならんだろう。しかし……お主はその若さで死んだのか。何をした?」
「まぁ……生き方の違いって奴かな。別に悔いはねぇさ。俺達の勢力には俺と同じくらい強ぇ剣術を使う奴もいたしな」
「そうか。相変わらず戦乱の世だったか」
「その少し前までは天下泰平の世だったがな。ま、もう戻れねぇんだし考えてもしょうがねぇ。お、着いたぞ。ここが宿だ。ひとまず俺の部屋で話そうか」

 総一朗は二人を連れ宿に入るのだった。
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