幕末の剣士、異世界に往く~最強の剣士は異世界でも最強でした~

夜夢

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第一章 最初の国エルローズにて

第03話 初めての町

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 三人は全速力で街道を北上している。だが総一朗にとってはまるで散歩のような速度だった。

「なぁ、急いでんじゃねぇの?」
「はぁっはぁっ、だからっ全速力で走ってるじゃないですかっ、はぁっはぁっ」
「……そうかい」

 これが三人の全速力だと知り総一朗は驚いていた。

(体力なさすぎだろ。飛脚にすら負けるぞお前ら) 

 移動手段が徒歩か馬だった侍にとってこの程度の長駆は朝飯前だ。

「はぁっはぁっ、よ、余裕そうねっ」
「ん? ああ。レディアはキツそうだな?」
「キツいに決まってるじゃないっ! もう二時間も走り続けてるんだからっ! 魔法使いは体力ないのよっ」
「大変だねぇ」

 レディアはそろそろ限界が近そうだった。それに対しターレスはまだ余裕がありそうだ。

「ターレスはまだ余裕そうだな?」
「はい。僧侶はいち早く傷付いた仲間の所に駆け付けられませんからね」
「ほ~。魔法使いとは違うなぁ」
「な、なんか言った!? はぁっはぁっ!」
「な~んにも」

 そこからさらに一時間走り続けるとレディアが限界を迎えたため休憩する事になった。かくいうアークも装備のせいか若干辛そうにしていた。

「はぁはぁ……オキタさんはすごい体力してますね」
「俺は重そうな鎧を着てないしな」
「それですよ。オキタさんは前衛ですよね? 敵の攻撃が当たったらどうするんですか?」
「は? はははっ、んなもん全部躱わしゃ良いんだよ」
「か、躱わす? 全部!?」
「おう。戦いってな真正面からぶつかり合うだけじゃねぇだろ。相手がどんな攻撃手段に出るか読み、得物の軌道を読み、最善の反撃をお見舞いする。これが後の先をとる戦い方だ」
「それは……俺にはできそうにない戦い方ですよ」
「慣れだよ慣れ。確かに鎧は身を守ってくれるかも知れんが、敵の攻撃を受けて無事でいられる保証なんてねぇだろ。なら最初から動くのに邪魔な鎧なんかいらねぇんだよ」

 これまでに聞いた事もない戦い方を耳にしたアークは目から鱗が落ちた思いになっていた。するとようやく復活したレディアが口を挟んできた。

「凄いわね~。でも……そんな戦い方じゃ命がいくつあっても足りないわ」
「あん? バカか」
「はぁ!?」

 総一朗の目がギラリと光る。

「戦いってのは命のやり取りだろうが。自分の命を惜しんで戦えるかよ。お互いに命をかけ相手の命を奪い合う。それが戦いってもんだろうが」
「バカはあなたよ。なんで魔物相手に命をかけなきゃならないのよ。魔物ってのは何も言わずに考えずに人間に害をもたらす害獣なのよ」
「はぁぁぁ……」

 総一朗は盛大に溜め息を吐いた。

「なによ」
「お前な、あのゴブリンとやらが何も考えてねぇって何でわかるんだよ」
「はぁ?」

 総一朗は実際に戦ってみたゴブリン達の事を自らの視点で語る。

「あいつらは決してバカじゃねぇ。徒党を組むのは定石だ。さらに陣形を組んだり波状攻撃までしてきやがった。と言う事はだ、奴らにはちゃんと考える頭があるって事になる。目的は人間を害する事だと? いつから人間が一番になったんだよ? あいつらにしたら人間が害獣なんじゃねぇか?」
「は、はぁっ!? 私達が害獣ですって!?」
「そうだ。生きる者全員獣だ。獣の世界ではな、弱い奴は死に、強い奴が生きるのさ。それが自然の摂理だ。人間だってだけでふんぞり返って胡座をかいてる様じゃゴブリンにも劣るぜ。そんな心構えだから負けるんだよ」
「あ、あなただって逃げて来た癖に!」
「逃げちゃいねぇよ。俺は別に奴らに恨みなんてねぇからな。深追いしなかっただけだ」
「~~~っ!! ふんっ!」

 アークとターレスは顔を見合せ呟いた。

「相性悪そうですね……」
「レディアは気が強いですから……。しかし……彼の言っている事もあながち間違いとは言えません」
「え?」
「私達の視点から見たら魔物は命を脅かす敵ですが、魔物にしても人間は命を刈り取りにくる敵でしかないでしょう。彼の言葉に矛盾はありません。私達は……魔物の命を狩り糧を得ています。これからはもっと真剣に生きるべきなのでしょう」
「……難しいなぁ。魔物にしたら俺達が敵……か」

 そうして回復した所で四人は再び駆けた。それから二時間後、ようやく門が見えてきた。

「はぁ~……、バカでけぇ壁だな」
「あの壁で魔物が町に侵入するのを防いでいるんですよ。ヤマトには外壁はないんですか?」
「城にはあるが……町にはなかったな。そもそも……あ、いや。良いわ」
「??」

 総一朗は魔物がいないと言いかけ止めた。

(魔物がいないとか言ったら怪しまれそうだ。だがこれでわかった。やはりここは俺がいた世界じゃねぇ。魔法なんて知らんし傷を癒す術なんて聞いた事もねぇ。さて……これからどうするか……。そもそもなんで俺はこんな世界にいる。何もかもがわからない事だらけだぜ……)

 するとアークが門の前に立つ男に近付く。

「緊急です!」
「どうした?」
「南の森にゴブリンが巣を作っている可能性があります!」
「な、なんだとっ!?」

 そこに総一朗達も合流する。

「それは本当か?」
「はいっ! 俺達は森の外でゴブリンと戦っていましたが森から次々とゴブリンが現れて……。死にかけていた所をこのオキタさんに助けてもらったんです」
「ん? 見慣れない格好だな」
「ヤマトから来たみたいです」
「ヤマト? あの極東にある島国か? なんでヤマト人がこんな西の果てまで……」

 そこで総一朗が口を開く。

「武者修行だ。強くなるためのな」
「修行? なるほど。しかし……今の話は本当なのか?」
「ああ。俺と戦って勝ち目がないと思ったゴブリンは森に入っていった。増援も森から現れた所から考えるに……森の中に拠点があるのは間違いないだろうな」
「……わかった。なら早くギルドに報告しに行ってくれ」
「わかりました! では緊急なので通りますね!」

 そう言い三人は首から下げたタグを男に見せた。

「ああ。通ってよし。ギルドでどうにもならないようなら国が動くしかなくなるからな。なんとかしてくれ」
「「「はいっ!」」」

 そうして三人が門を潜り町に向かう。それに総一朗も続こうとしたその時だった。

「あん?」

 総一朗の肩に男の手が置かれる。

「あんた身分証は?」
「は?」
「身分証がなければ町には入れられませんよ?」
「なん……だと……?」

 三人は余程慌てていたのか後ろを振り返らず真っ直ぐ走っていった。

「身分証がないなら検査と入場税が必要になるのだが」
「金なんて持ってねぇぞ……」
「では町には入れませんね」
「はぁぁ?」
「お引き取りを。次の方!」
「マジ……かよ……」

 総一朗は町の入り口で一人立ち尽くすのだった。
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