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第5章 ゴッデス大陸

第61話 圧倒的力量差

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「おいっ、急いで他の奴ら全員呼んでこいっ!」
「ぎあぁぁぁぁぁぁっ!?」
「くそがっ!! 降りてきやがれっ!!」

 アースは空に浮かび上がり土魔法を使い銀狼族を圧倒していた。

《ほいほい、【アースグレイブ】、【アースグレイブ】》
「どわぁぁっ、あぶねぇぇぇっ!?」
「があぁぁっ、腕がぁぁぁ……っ!」

 銀狼族は空のアースを警戒しながらも、足元からくる魔法攻撃に全く対応できず、一方的に蹂躙されていた。

「くそっ、下に集中すれば上からブレス! 上に集中すりゃ下から鋭い岩! しかも攻撃が届かねぇっ! この卑怯者がぁぁぁぁっ!」
「応援呼んできたぞ! 弓で撃ち落とせ!」
「「「「任せろっ!!」」」」

 空に浮かぶアースに向かい無数の弓矢が襲い掛かる。

《【アースブレス】》
「「「「うぉぉぉぉぉぉっ!?」」」」

 しかしただの弓矢などアースに当たるはずもなく、ブレスで弓を吹き飛ばし、逆に仲間達が石つぶてと弓矢に襲われた。

《弱すぎる。獣王より強いんじゃなかったのか~? 俺はまだノーダメージだぞ~》
「な、舐めやがって! 降りてきやがれっ!」
《自分から優位を崩すわけないだろ。早く降参した方が良いんじゃないの?》
「我らは退かぬ! 媚びぬっ! 銀狼の誇りを舐めるなっ!」

 そう叫ぶ銀狼にアースは厳しい言葉を投げ掛けた。

《誇り? 誇りで飯が食えるのか?》
「な、なんだと!」
《お前らさ、東側から流れてきただろ。俺はここにくる前にその場所を空から見てきた》
「……だから何だ」
《お前らは自分達が食べるために自然を破壊している。このままその生活を続けていけばゴッデス大陸もまた詩の大地へと変わるだろう。そうなったらどうするつもりだ?》

 その問い掛けに銀狼はこう答えた。

「そうなったら別の大陸に移るだけだ。次は人間の大陸を食い尽くす」
《バカか。俺一人にすら勝てない癖に人間の大陸に攻め込むだと? 無謀にもほどがあるな》
「別に無謀でもなんでもねぇよ。陸じゃ俺ら銀狼族が最強だ。俺らはこれからも好き勝手生きてやるぜ!」

 どうにも話が通じない奴らだった。  

《やれやれ……。ならお前らのフィールドである陸で戦ってやろうか》
「やっと降りてくる気になったかよ」
《だがその前に一つ賭けをしようか》
「賭けだ?」
《ああ。俺は今からお前達全員と一人ひとり戦う。全員が俺に負けたら俺に従え》
「一人ひとりだ? こっちは百人からいるんだぜ?」
《雑魚がいくらいようが雑魚は雑魚だ。受けるか?》
「やってやんよっ!」
「待ちな」
「え? あ、長様っ!」

 集落の中から片眼に眼帯をした一際大きな銀狼が歩いてくる。

「何も全員が戦う必要はねぇ。中にはメスもいるからな。俺が出て負けたら誰も勝てないだろう。ここは俺が殺る」
「し、しかし長様!」
「これは長である俺の決定だ。文句があるなら俺を倒せよ」
「……は、はい」

 話がまとまった所で長が空に浮かぶアースに向かい名乗りをあげた。

「俺は銀狼族の長【ベスパ】だっ! 貴様に一対一の戦いを望む! 俺を倒せたら銀狼族は貴様に従うが……非道な真似には断固として抗うっ! それでも良いから降りてきて俺と戦えっ!!」
《ほ~。なんか少しは話が通じそうだな》

 そこでアースは人の姿に戻り、ベスパの前に降り立った。

「じゃあ決着後の確認だ。俺が負けたら俺の全てを銀狼族に与える」
「ああ」
「お前が負けたら銀狼族は俺に従うが、扱い次第では命令を拒む。これで構わないか?」
「ああ」
「わかった。じゃあ一対一で戦おうか」

 構えるアースに対し、ベスパは手のひらを出し待ったをかける。

「なんだ?」
「戦う前に俺からも確認だ。お前はなぜ俺らと戦う」
「さっき言っただろ。環境保全のためだ。豊かな自然が失われていくのを黙って見ていられない。そして今ゴッデス大陸はようやく人間と獣人の戦いが終わり平和になったんだ。争いの芽があるなら早目に摘んでおかないとな」
「……なるほど。理由はわかった。だが、俺ら銀狼族はこの生き方しか知らんし、生き方を変える気もない。変えたいなら力を示せ。俺らは力が全てだ。俺に勝ったら族長の座を明け渡そう」

 そう言い、ベスパは拳を構えた。

「別に族長になりたいわけじゃないが……、それがお前達の生き方なら受けてやろう」

 そしてアースも拳を構える。二人はジリジリと距離を詰め、お互いの間合いを読み合う。

「やっちまえ族長!」
「くそ生意気な竜の鼻を折ってやってくれっ!」
「っ! 始まった!!」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 まずベスパが体躯を生かし、アースの頭に上から振り下ろす強烈な一発を放つ。

「──シッ!!」
「ぐっ!」
「「「族長っ!?」」」

 頭上に迫る拳より速く、アースはベスパの右脹ら脛に向け強烈なカーフキックをおみまいした。ベスパはその一撃で地に膝をついてしまった。

「あ、足がっ!」
「立てよ。まさかこれで終わりじゃないだろ?」
「ぐっ! 負けるかぁっ!!」

 ベスパは何とか立ち上がるが、もはや片足が死んだ状態でとても戦える状態にない。だがそれでもベスパは残った左足で地を蹴り、アースに飛び掛かった。

「俺は負けんっ! 俺は銀狼族の長だぁぁぁぁっ!」
「その気概や良し。だが、気合いだけじゃ俺には勝てないよ。フッ!!」
「ぐぼっ!? ぐっ……くぅっ!!」

 アースは真っ直ぐ飛び掛かってきたベスパを半身になり躱わし、無防備な腹を三割くらいの力で打ち抜いた。それでもベスパはこれまでに食らった事のない強烈な一撃に地面を転がり、腹を抱えたまま動かなくなった。

「ぞ、族長が……ま、負けた?」
「嘘だろっ!? あの族長がたった二発で!?」
「い、イカサマだ! 何かしたんだろお前っ!」
「や、止めろっ!」
「「「族長っ!」」」

 ベスパが仰向けになり仲間を止めた。

「そいつはイカサマなんかしちゃいねぇ……。武器も魔法も使えるのに敢えて拳だけで俺に挑み……力で勝ったんだ……」
「族長っ!」

 ベスパは上体を起こし、アースに言った。

「まさかこんな簡単に負けるとはな……。約束だ、銀狼族はお前に従う。ただし気に入らない真似をしたら俺らは抗うぞ」
「ああ。気に入られるように励むよ。さしあたってはまず食事だな。戦いが終わったらもう仲間だ。これから宴会でもしようか」

 ベスパは打ち抜かれた腹を押さえながら苦笑いを浮かべる。

「今はとても食えそうにないのだがな……」
「後で回復してやるよ。酒もあるから」
「「「「酒だと!?」」」」

 酒と聞いた銀狼族の尻尾は千切れんばかりに振り回されるのだった。
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みんなの感想(40件)

神威
2022.03.12 神威

最初から酒で釣ってたら酒の為に~ってなって従順になってそう(・∀・)

夜夢
2022.03.12 夜夢

ちょっとバトルしたかったんだよぅ(笑)

解除
季節
2022.03.07 季節

他者を理解し想い合う
暴力ではなく対話
これこそが平和であり共存共栄への道
口で言うのは簡単だか実現するには膨大な時間がいりますからね〜それも1度は「敵」だったのだから尚更やで。

夜夢
2022.03.08 夜夢

今の御時世的もなんとかなって欲しいものですねぇ……

解除
楓
2022.03.03

第9話ジュースをしれなかった
        知らなかった 

夜夢
2022.03.03 夜夢

あざまっす(*´ω`*)

解除
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