上 下
61 / 63
第5章 ゴッデス大陸

第59話 夜の部、酒の力

しおりを挟む
 昼の部が終わり、いよいよ町コン本番となる夜の部が始まる。アースは秘書達に昼の部よりも警戒を怠らないようにと伝え、自らも町に出ると宣言した。

「なにもアース様が出ずとも……」
「いや、それは酒の力を甘く見すぎだよ」
「そうでしょうか?」

 アースは前世での経験を思い出す。

 世界的発明家である御堂大地は様々なパーティーに呼ばれる事もあり、若かりし頃はいくつか酒で失敗した。

「酒ってのは適量なら問題ないんだけどさ。中には自分の限界を超えて飲む人もいる。酒は普段かけているリミッターを簡単に外してしまうんだ。ましてやまだ獣人と人間の間には溝がある。荒事が起きないとも限らないからね」
「なるほど。わかりました、では昼よりも警戒しておきますね」
「うん。何かあったらすぐに俺を呼んで」
「「はっ!」」

 そうしてアースも警備に加わり、いよいよ夜の部がスタートした。

「お兄さんお兄さんっ、どこか店決まってますか? 今なら時間銀貨四枚で飲み放題! 今に限り半額なのでなんと銀貨二枚! どっすか!?」
「銀貨二枚かぁ~。可愛い娘いる?」
「もちろんもちろん。今ならマンツーいけますよ?」
「う~ん……まぁ銀貨二枚ならいいか」
「あざぁぁぁぁす! 二名様御案内~」

 人間の男二人が獣人の経営する店に入っていく。そして二時間後。

「「ありがとうございました~」」
「……やべぇ。俺これから通うかも」
「奇遇だな、俺もだ。まさか獣人の女の子がこんな素晴らしいなんて……! 明日から真剣に稼ぐわ俺」

 人間の男二人は一時間延長し、満足した様子で店をあとにしていった。アースは何事もなく済んだこの様子を見て満足げに頷く。

「うんうん、なかなか良い感じじゃないか。これなら問題なんて起きないかな」

 だが時間が経つにつれ酒に呑まれた客が増えていき、店内ではなく路上で客同士による言い争いが目立つようになってきた。

「ってーな! ぶつかってきてんじゃねーよ!」
「あぁん? そっちからぶつかってきたんじゃねーか!」
「あぁっ!? やんのかオラァッ!」
「やったるわカスがっ!!」
「やめろやめろ! 出禁にするぞっ!」
「「うっせーな! テメェからボゴんぞ!」」
「アースさぁぁぁん!」
「ほいほい」

 こういった輩は説得してきかなかった場合、アースが捕縛し一晩冷たい床、つまり檻の中に強制宿泊してもらう。そして翌朝酒が抜けて反省したら許し、反省のない場合は今後この町への出入りを禁止とする。

「出せやコラァァァッ!」
「そこで頭冷やしなよ。酒は飲んでも呑まれるなってね。大人なんだし酒の飲み方くらい勉強してから来いよな、全く」

 他にも飲み過ぎて路上をベッドにする者や、町を吐瀉物で汚した者もおり、いくつか改善しなければならない点が見つかった。

「う~ん……まだ改善の余地ありだな。宿泊所に公衆トイレも追加しよう」
「アースさん、そろそろ店も閉まり始めましたし、お開きにしましょう」
「そうだね。最後に町を一通り回って問題がなかったら解散にしよっか」
「はい」

 そうして全ての店が終わり、客が帰路についたところで第一回町コンが終了した。

 アースは店舗側の住民を労い、秘書と共に屋敷へと戻った。そしてそのまま反省会に移る。

「多少問題点はあったけど概ね成功じゃないかな。どう思う?」
「はい。第一回は成功と言えるのではないかと。私達は明日、店側の意見を聞き取り調査します」
「うん。ああ、それに加えて半額サービスした分の確認もね。あとで俺から店に補填するから」
「はい。ではお疲れ様でした、アースさん」
「お疲れ様~」

 このあとアースは部屋に戻り、ようやく町全体が静寂に包まれた。そして翌日から町コンについての調査が始まり、問題点の解決に走った。

「まずは簡易宿泊所だよなぁ。酔っぱらって帰れない人達のために泊まる場所を作らないと。宿屋だけじゃ全然足りなかったし。素泊まりできるタワーを作るか」

 アースは空き地にビルを建て、地下に大浴場を作る。部屋はシングルとツインの二種類。室内はタンスとベッドに簡易照明のみで、入り口の扉脇にある料金ボックスに使用料を入れると鍵となるカードキーが手に入り、そのキーで扉が開く仕組みにした。このカードキーは最後に部屋を出る際に内側から料金ボックスに差し込む事で返却となる。

「これで宿泊所はオッケーかな。とりあえず三千人収容できる規模で良いでしょ」

 もっと大きくする事はできた。だがあまり大きくし過ぎると今度は宿屋に客が入らなくなる恐れもある。そこはサービス次第で何とかなると思うのだが、今はまだ試行錯誤の段階のため、追及はしないでおく。

 そして数日後。

「アース様、聞き取り調査が終わりました。こちらが意見書と男性客を受け入れた数になります」
「ありがとう」

 アースはまず支払いを済ませ、意見書に目を通した。

「なになに……同種族の男も半額にして欲しかった。……こいつは町コンの意義を理解してないな。出店契約を解除してやろう」

 この町に店を出したい者は沢山いる。なので町の士気を下げるような経営者は必要ないのだ。

「まだまだわかり合うには遠いかなぁ。まぁ、千里の道も一歩から。地道に改善していくとするか」

 こうしてアースは反省点を生かし、さらに町を楽園へと近付けるために動くのだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

café R ~料理とワインと、ちょっぴり恋愛~

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:142pt お気に入り:138

恋が死に愛が生まれた日

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:37

異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:1,249

公爵家の次男は北の辺境に帰りたい

BL / 連載中 24h.ポイント:56pt お気に入り:2,167

戦士と腕輪

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:48

彩雲華胥

BL / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:66

チート能力でステータスの差を埋めました。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:1,765

激レア種族に転生してみた(笑)

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,540pt お気に入り:881

処理中です...