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第4章 侵略

第40話 終わり

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 皇帝との一騎討ち。場所を戦艦の甲板へと変え、人化したアースと皇帝の二人が対峙している。アースは素手。対し皇帝はフルプレートアーマーに大剣大盾と明らかに勝てるはずがない装備で立っている。

「一応聞くけど本当にその装備でやるの?」 
「無論!」

 アースはどうしようか迷う。こいつは獣人を皆殺しにしろと指示した極悪人。許す気など毛頭ない。

「じゃあ始めようか。好きに斬りかかってきなよ」
「っ! 舐めるなぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 人化したアースに激昂し、皇帝は大剣を振りかぶりながら真っ直ぐ突進し、アースの直前で回転、遠心力を上乗せした重い一撃を放つ。

「くらぇぇぇっ! 回転斬りぃぃぃぃっ!!」
「……ほい」

 アースは大剣を指二本で挟んで止めた。 

「な、なにぃぃぃぃっ! わ、私の渾身の一撃を指二本で止めるだとっ!? ぐっ……は、離せっ!!」
「……ほい」
「うぉっ!?」

 急に掴まれていた大剣から指を離された皇帝は勢い余って尻餅をついていた。

「あはは、転んでやんのー」
「き、きさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 バカにされた皇帝は恐らくヘルムの中で顔を真っ赤にしているだろう。目しか見えないこの状況ではわからないが。

「ほら、次来なよ」
「こ、殺してやるぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 アースと皇帝の戦いは丸で大人と赤子の戦いだった。皇帝の攻撃は一切アースに通じる事なく、体力だけを奪い続けていく。

「……弱い、弱すぎる。これじゃダンジョンの魔物の方が数倍強いよ、皇帝サン?」
「ぐっ……くそぉぉぉぉぉっ!!」

 今さらになって皇帝は大盾を捨てた。もう盾を構える力すらないのだろう。大剣を両手持ちにし、威力を上げようとする。だが今までの無茶な攻撃が体力を根刮ぎ奪っており、その威力は片手持ちであった時に比べても劣る程であった。

「だから言ったじゃん、その装備でやるのかってさ」
「はぁっはぁっ……! う、うるさいっ!! 貴様こそ全然攻撃してこないではないかっ!! さては防御だけだな? ならこちらは攻め続けるのみよっ! あぁぁぁぁぁぁっらぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「またそれか、もう飽きたよ」
「なっ!?」

 主人公は一瞬で距離を詰め、大剣を上段に構えたままの無防備な皇帝の腹を抜き手で文字通り貫いた。

「がっ……はぁっ……! き、きさ……まっ……! ぐふっ……!」

 皇帝の口から鮮血が飛び散る。アースはゆっくりと腕を引き抜いた。

「攻撃しちゃったら直ぐに終わっちゃうでしょ? 相手の実力すらわからないなんて……バカなの?」
「……ヒュー……ヒュー……」
「じゃあね、皇帝。あなたの最後は魚の餌だ。さようなら」

 アースは皇帝の鎧を粉砕し、海へと放り投げた。

「へ、陛下ぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「さて、君達はどうする? 俺と戦う?」

 白騎士団団長は武装を解除し手を挙げた。

「こ、降参します! だから命だけはっ!」
「あっそ。じゃあ君達の扱いは獣王に任せるとしよう。どうなるかは俺にもわからないし、その結果は君達が非道の限りを尽くしてきたからだ。精々自分の行いを恥ながら判決を待つが良いさ」

 やがて船は地下港へと帰港し、獣王に拘束された白騎士団の身柄が引き渡された。

「ガラオン、この人達の処遇は君に任せるよ。煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
「はっ! 我ら獣人のために動いていただきありがとうございます、アース殿!」
「何言ってるんだよ。仲間でしょ? 仲間を助けるのは当たり前の事じゃないか。これからも協力して行こう」
「アース殿っ! かたじけないっ!」

 こうしてグラディス帝国の戦力は失われた。そしてゴッデス大陸はと言うと、大陸に忍びこんでいたスパイの口からグラディス帝国に戦力は残っていないとの報せを受け、瞬く間に各国からの侵略を受け滅亡した。これも戦力の全てを復讐に使った皇帝の失策によるものだろう。

 グラディス帝国滅亡の報せは各国を再び争いへと駆り立てた。どの国も広大な土地を求め日々争い、人口が激減していく。

 しかし、これを良しと思わぬ国々がいくつか現れた。その国々は次々と争いを治め、自国へと戦力を取り込み、その勢力を拡大させていった。やがてその国々によりゴッデス大陸と中央大陸は統治される事となった。

「残るは南の大陸に東の大陸か。諸君、この残る大陸はどうすれば良いと思う?」

 そう問い掛けるのはこの戦いを先導した国の頭、【ミカエル王国】国王、【ライハ・ウル・ミカエル】だ。まだ若いが才気に溢れ、真に人間の幸せを願う善王である。

「南と東ですか。今は放置しておきましょう。仕掛けられたら潰せば良い。これ以上の争いは避けた方がよろしいかと」
「甘いで! 南の奴等は常にこっちを狙っとるんや。このままの勢いに乗って早々に潰したろうやないか!」
「しかし……こちらの戦力も大分減っている。今動くのは得策ではない」
「はっ、ビビりが」
「なんだとっ!」
「静まれ!! ミカエル王の前だぞっ!」
「「ちっ」」

 どうやらこの連合も一枚岩ではないらしい。それでも一つに纏まっているこの全てはミカエル王国国王の力によるものだった。

「確かに今は戦力が乏しい。南の大陸に資源が少ないのも確かだ。奴等は常に豊穣な大地を狙っている。なので、ここは一つ戦ではなく取り引きを持ちかけてみよう」
「あん? 取り引きやて?」
「そうだ。こちらが資源を渡す代わりに、あちらは戦を起こさない。そう取り引きしてみようと思う」
「……そらあかんで。こっちの資源かて無限ちゃう。いずれその取り引きはおじゃんや」
「そうならないためにも、人は戦ではなく農業に力を注がねばならない。同じ汗を流すなら生産しながらの汗の方が尊いだろ?」
「……ちっ。ワイは知らんで。絶対に裏切られるからの!」

 そこで男が会議室から出ていった。 

「やれやれ……。あいつは相変わらず血の気が多いな」
「ですな。では代表、取り引きの件、私に一任してもらえますかな? 必ず上手くまとめてみせます」
「ああ、最初から君に任せる気だったよ。なんとか南との争いは食い止めてくれ」
「はっ!」

 それと時を同じくし、南の大陸では。

「ほ~う、今ゴッデス大陸はそうなってんのか」
「は、はい。バカな皇帝にも困ったものでして……。私の予想通り、ゴッデス大陸は……いえ、グラディス帝国は滅亡してしまいました」

 この男は以前ゴッデス大陸から逃亡した男だ。男は強国を求め、南の大陸のほぼ全てを手中におさめる大国、【バーミリオン王国】へと流れ着いていた。

「ふん、まぁ良い。戦をするかどうかは例の連合国とやらの出方次第だ。これからお前にも働いてもらうからな。良いか?」
「はっ! この身はバーミリオン王国と共に!」

 こうして人間の戦いは一時中断されたのであった。 
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