40 / 63
第4章 侵略
第38話 本腰
しおりを挟む
最初の調査船が出発してから二ヶ月、皇帝は一向に戻らぬ調査船に痺れを切らしていた。
「えぇぇいっ! 何故戻らんのだっ!! もうとうに戻っても良い頃ではないかっ!!」
「陛下、北にはクラーケンが出る海域がありますゆえ、もしや……」
「……やられたと申すか」
「おそらくは……。陛下、ここは一つ北は諦めて他の大陸を……」
「ならぬ! 獣人は必ず根絶やしにせねばならんっ! それが死んだ弟への手向けだ」
皇帝の思いは頑なだった。
「一隻でダメなら十隻出せ。魔導師も乗船させて行け。次の失敗は認めぬ。わかったら早く用意せよ」
「畏まりました……」
皇帝にこう命じられては断れるはずもなく、その翌日、多くの魔導師を積んだ調査船乗隻がゴッデス大陸を出立した。
「全く……、陛下にも困ったものだ」
「そんなに獣人が憎いのでしょうか」
「陛下は弟君を寵愛していたからな。弟君は残忍、狡猾、卑怯と悪の生き写しのような男だったが陛下にはたった一人残った血の繋がった唯一の家族だったのだ。仕方あるまい……」
「これで俺たちまで死んだらやってられないですよ」
「今回は十隻も集まったのだ。大丈夫だろう」
そして出立から一ヶ月後、十隻の船はデモン大陸を単眼鏡で視認出来る位置まで到達した。
「クラーケンは出ないな」
「そうです……あ、危ないっ!!【プロテクションウォール】!!」
「なっ!? うぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
突如水平線から光が降り注ぎ、周囲の船三隻が轟沈させられた。かろうじて防御魔法が間に合ったのは七隻。
「な、なんだいまの光はっ!!」
「だ、第二射来ますっ!! 衝撃に備えてっ!!」
「くぅぅぅぅぅぅっ!! 後退っ! 後退っ!! 手の空いている魔導師っ! 帆に逆風をっ!!」
「「「【ウィンド】!!」」」
その間に光は二本、三本と集中し船を沈めていく。後退の間に合った船は四隻、その内三隻にさらなる不幸が舞い降りる。それに気づいたリーダーは三隻を囮にし、さらに後退を続ける。
「もっと速くっ!! 死にたくなければ魔力の続く限り魔法を使い続けろっ!!」
そして一隻が逃げ延びた頃、残る三隻には火竜、水竜、風竜がそれぞれ襲いかかっていた。
まず火竜が上空から狙いをつける。
「グラディス帝国かっ! こんなボロ船……俺の炎で焼き尽くしてやるっ!【フレアストォォォォォム】!!」
「「「「ぎあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」
続いて水竜が空を泳ぎながら水を操る。
「あらあら、グラディス帝国のおバカさんがこんな僻地まで来るなんて……。本当にバカ。【メイルシュトローム】」
「「「「ぎあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」
最後に風竜が木造の帆船に強烈な風を叩き込んだ。
「あれから僕たちもかなり強くなったからね~。人間の使う防御魔法なんて紙だよ紙。【スラッシュトルネード】!!」
「「「「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」
一隻は炭と化し、一隻は海底にのまれ、一隻は乗組員ごとバラバラになり沈んだ。その様子を遥か後方へと退避した船がしっかりと目撃していた。
「り、竜だ……! 三体の悪魔だ! あれがいると言う事は……獣王も生きている……? い、急ぎ戻って陛下に報告だっ!!」
「はっ!」
「決して風を止めるなっ!! 奴らが追ってくるぞっ!!」
「ひぃぃぃぃっ!!」
リーダーの乗る船は脇目もふらず最高速でゴッデス大陸へと引き返していった。
それを獣王ガラオンがアースの作った魔道スコープで捉えていた。
「……これで良い。わざわざ一隻逃がしてやったのだ。もっと連れて来いっ! 我が地を取り戻さんためにもグラディス帝国の全てを叩き潰してやるわっ!」
最高速で走り続けること二週間、命からがら逃げ帰った男はその足で皇帝の下へと急いだ。
「な、なにぃぃぃっ! 十隻の内九隻が沈められただとっ!」
「はっ! その内三隻は例の三体の悪魔に……! あの竜たち……以前よりはるかに強力になっておりました!」
皇帝は玉座から立ち上がったまま怒りに震えていた。
「やはり生きていたかっ!! ならば我が国の全ての力を使い今度こそ確実に息の根を止めてやるわっ!! ありったけの船を出せっ!! 私自ら指揮をとるっ!!」
「な、なりませんっ!! あの地はなにかがおかしいっ! 六隻は大陸から放たれた光の砲撃で沈められたのですよっ!?」
「だからなんだと言うのだっ!! 竜がいると言う事は弟の仇、獣王もそこにいると言う事っ! これを討たずして何が王だっ!! 全ての船に出港の準備を急がせよっ! 目指すはデモン大陸! 獣王と竜の首だっ!」
皇帝は竜の存在を知り益々怒りに震えていた。そこには国を率いる王たる気概などなく、ただただ私怨に狂った男の姿しかなかった。
謁見の間を出た男は肩を落として港へと向かっている。
「……あんなのに勝てるわけがない。前回は少しずつ陸地を制圧し物量で圧したからこそ勝てたのだ……。だが今回は空を飛ぶ竜に加え……謎の砲撃まで……。しかもまだかくし球がある気がする……。私は行かん。どうにかして回避しなければ……! あんな復讐に狂った男になどついていけるかっ!! 逃げよう……、グラディス帝国はもう終わりだっ! だが何処へ……」
男は密かに船を奪い、ゴッデス大陸から逃亡を図るのであった。
「えぇぇいっ! 何故戻らんのだっ!! もうとうに戻っても良い頃ではないかっ!!」
「陛下、北にはクラーケンが出る海域がありますゆえ、もしや……」
「……やられたと申すか」
「おそらくは……。陛下、ここは一つ北は諦めて他の大陸を……」
「ならぬ! 獣人は必ず根絶やしにせねばならんっ! それが死んだ弟への手向けだ」
皇帝の思いは頑なだった。
「一隻でダメなら十隻出せ。魔導師も乗船させて行け。次の失敗は認めぬ。わかったら早く用意せよ」
「畏まりました……」
皇帝にこう命じられては断れるはずもなく、その翌日、多くの魔導師を積んだ調査船乗隻がゴッデス大陸を出立した。
「全く……、陛下にも困ったものだ」
「そんなに獣人が憎いのでしょうか」
「陛下は弟君を寵愛していたからな。弟君は残忍、狡猾、卑怯と悪の生き写しのような男だったが陛下にはたった一人残った血の繋がった唯一の家族だったのだ。仕方あるまい……」
「これで俺たちまで死んだらやってられないですよ」
「今回は十隻も集まったのだ。大丈夫だろう」
そして出立から一ヶ月後、十隻の船はデモン大陸を単眼鏡で視認出来る位置まで到達した。
「クラーケンは出ないな」
「そうです……あ、危ないっ!!【プロテクションウォール】!!」
「なっ!? うぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
突如水平線から光が降り注ぎ、周囲の船三隻が轟沈させられた。かろうじて防御魔法が間に合ったのは七隻。
「な、なんだいまの光はっ!!」
「だ、第二射来ますっ!! 衝撃に備えてっ!!」
「くぅぅぅぅぅぅっ!! 後退っ! 後退っ!! 手の空いている魔導師っ! 帆に逆風をっ!!」
「「「【ウィンド】!!」」」
その間に光は二本、三本と集中し船を沈めていく。後退の間に合った船は四隻、その内三隻にさらなる不幸が舞い降りる。それに気づいたリーダーは三隻を囮にし、さらに後退を続ける。
「もっと速くっ!! 死にたくなければ魔力の続く限り魔法を使い続けろっ!!」
そして一隻が逃げ延びた頃、残る三隻には火竜、水竜、風竜がそれぞれ襲いかかっていた。
まず火竜が上空から狙いをつける。
「グラディス帝国かっ! こんなボロ船……俺の炎で焼き尽くしてやるっ!【フレアストォォォォォム】!!」
「「「「ぎあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」
続いて水竜が空を泳ぎながら水を操る。
「あらあら、グラディス帝国のおバカさんがこんな僻地まで来るなんて……。本当にバカ。【メイルシュトローム】」
「「「「ぎあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」
最後に風竜が木造の帆船に強烈な風を叩き込んだ。
「あれから僕たちもかなり強くなったからね~。人間の使う防御魔法なんて紙だよ紙。【スラッシュトルネード】!!」
「「「「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」
一隻は炭と化し、一隻は海底にのまれ、一隻は乗組員ごとバラバラになり沈んだ。その様子を遥か後方へと退避した船がしっかりと目撃していた。
「り、竜だ……! 三体の悪魔だ! あれがいると言う事は……獣王も生きている……? い、急ぎ戻って陛下に報告だっ!!」
「はっ!」
「決して風を止めるなっ!! 奴らが追ってくるぞっ!!」
「ひぃぃぃぃっ!!」
リーダーの乗る船は脇目もふらず最高速でゴッデス大陸へと引き返していった。
それを獣王ガラオンがアースの作った魔道スコープで捉えていた。
「……これで良い。わざわざ一隻逃がしてやったのだ。もっと連れて来いっ! 我が地を取り戻さんためにもグラディス帝国の全てを叩き潰してやるわっ!」
最高速で走り続けること二週間、命からがら逃げ帰った男はその足で皇帝の下へと急いだ。
「な、なにぃぃぃっ! 十隻の内九隻が沈められただとっ!」
「はっ! その内三隻は例の三体の悪魔に……! あの竜たち……以前よりはるかに強力になっておりました!」
皇帝は玉座から立ち上がったまま怒りに震えていた。
「やはり生きていたかっ!! ならば我が国の全ての力を使い今度こそ確実に息の根を止めてやるわっ!! ありったけの船を出せっ!! 私自ら指揮をとるっ!!」
「な、なりませんっ!! あの地はなにかがおかしいっ! 六隻は大陸から放たれた光の砲撃で沈められたのですよっ!?」
「だからなんだと言うのだっ!! 竜がいると言う事は弟の仇、獣王もそこにいると言う事っ! これを討たずして何が王だっ!! 全ての船に出港の準備を急がせよっ! 目指すはデモン大陸! 獣王と竜の首だっ!」
皇帝は竜の存在を知り益々怒りに震えていた。そこには国を率いる王たる気概などなく、ただただ私怨に狂った男の姿しかなかった。
謁見の間を出た男は肩を落として港へと向かっている。
「……あんなのに勝てるわけがない。前回は少しずつ陸地を制圧し物量で圧したからこそ勝てたのだ……。だが今回は空を飛ぶ竜に加え……謎の砲撃まで……。しかもまだかくし球がある気がする……。私は行かん。どうにかして回避しなければ……! あんな復讐に狂った男になどついていけるかっ!! 逃げよう……、グラディス帝国はもう終わりだっ! だが何処へ……」
男は密かに船を奪い、ゴッデス大陸から逃亡を図るのであった。
2
お気に入りに追加
1,201
あなたにおすすめの小説
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。
みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・
異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました
ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが……
なろう、カクヨムでも投稿しています。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…
小桃
ファンタジー
商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。
1.最強になれる種族
2.無限収納
3.変幻自在
4.並列思考
5.スキルコピー
5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる